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パーティー登録しちゃいました


「何をするっ! 離せっ!」


俺の手が乱暴に振り払われる。

まあそれもそうだろう。

いきなり名前も知らない男に手を握られるなんて嫌だろうな。

俺が逆の立場なら……この子にされたら許しちゃうなぁ。


「えっと、ごめんなさい」


謝罪する。

つい、やってしまったでは許されない。

セクハラとは相手が不快に思った瞬間発生するのだ。

彼女からしてみれば俺の行為は立派なセクハラだろう。


「謝ってすむ問題ではない。貴様、同意もなしにパーティー登録をするなど、常識を知らないのかっ!」


パーティー登録?

そんなのいつしたっけ?


「何を不思議そうな顔をしてるんだっ!」

「あ、し、しばしお待ちを」


俺は道具袋の中からギルド指南書を取り出してパラパラとめくる。

そしてパーティー登録に関する記述を見つけ読んでみた。



[パーティー登録]

より深く迷宮を潜ることにおいて重要なことは仲間を得ることです。

そのためにパーティー登録というものがあります。

これは迷宮内において探索者たちが手を握ることで発生し、最大五人までパーティーを登録することができます。

効果としては倒したモンスターの経験値の分配やパーティー登録した相手のHPとMPといったものが常に見ることができるようになります。

パーティー登録は迷宮内でしか行えず、またメンバー全員が迷宮から出ることでしか解除することができません。

ですから本当に信頼できる人としかパーティー登録はしないようにしてください。

仲間を増やして迷宮を攻略できるよう精進してください。



……なんてこった。

ちらりとダークエルフの子、正確にはその頭の上を見る。


HP 17/28

MP 18/34


うん、見える。

普段他の人のHPなどは見ることができない。

例外はマダムが教えてくれたように迷宮の外で指輪に触れさせることで、探索者ランクとレベルなどを見せることができるくらいだったが、もう一つ例外が存在した。

それがこのパーティー登録。

確かに深い階層に行けば必須の力と言えるだろう。

しかし……相手の了承もなしに勝手にやっちゃまずいよね?

俺は読んでいたギルド指南書を閉じて袋に戻すと地面に膝をつけて座る。俗にいう正座の体勢。


「誠に申し訳ありませんでした」


そして今一度の謝罪とともに土下座した。

これがダメなら土下寝に移行するほかあるまい。


「ダメだ。許さん」


いつだって現実というものは予想を上回る。

下げた頭になにかが乗る感触がする。

つーか頭を踏まれてます。

許されないのは仕方ないと思う。百パーセント俺が悪い。

でもこれはあんまりではないか?

いやいや俺が悪いんだ。……俺が悪いんだ。

そうだ、ここはポジティブに自分はどMだと考えるんだ。

俺はわりと受け身なタイプだから造作もない。

そうすれば今の状況はご褒美以外の何物でもない。


「なんとか言え」


彼女は踏んでいる俺の頭をグリグリ地面にこすりつける。

……人って考えただけでどMには変わらないもんだなぁ。こんなん苦痛でしかないです。


「ほんっとすいませんでした!」


とにかく今は謝るしかないよな。






「……というわけで、知らなかったんです。それに迷宮内で人に会えたことにテンション上がって調子に乗っちゃったっていうか……」


あれから約10分ほど踏まれながら謝るという時間を過ごし、ようやく解放されると俺は女性に対して釈明という名の言い訳をした。


「理由は理解した。だが人間族ごときとパーティーを組まれたこの私の怒りは収まらない」

「えっと……迷宮から出ればパーティーは解除されるんですよね? だったら一階層に戻って出ましょう」


そうすれば万事問題なし。

ここまで来ておいて、ちょっと勿体ない気もするが


「ふざけるなっ! 私は今回五階層まで行くために迷宮に潜ったのだ。お前ごときのせいでなぜ諦めねばならんのだ」


怒られちゃった。

なるほど、五階層まで行って銅の羽かざりを使うつもりなのか。

っていっても俺の提案が一番現実的だと思うのだが……いや、待てよ。


「んじゃ、一緒に五階層まで行きましょう」

「断る」


俺の言葉が言い終わるかどうかといったところで即答されてしまう。

そんなに嫌なの?

普通に悲しいんですけど……


「理由を聞いてもいいですか?」


これがフラれた男の女々しさというものだとわかっていても、聞かずにはいられない。


「なんでもなにも、知らなかったとはいえ、いきなりパーティー登録をしてくるような相手を信頼できるわけないだろう。とゆーか知らないこと自体が信頼できない要素だ。……あとは人間族だから(ボソッ)」


なんか最後は理不尽なことを呟いたように聞こえたが、概ね間違ってはいない。

知らないということは時として罪だ。

それが知ることが可能だったのにも関わらなかったら尚更のことである。

今さらながら行き当たりばったりな自分の性格が恨めしい。


「それじゃあ、貴女は五階層を目指してください。俺はこのまま一階層まで行って迷宮から出ます。それで貴女が迷宮から出るのを確認するまで迷宮には入りません」


これならどうだ。

メンバー全員が迷宮から出なければいけないということは、誰か一人でも迷宮内にいればパーティー登録が継続されるという鬼みたいな制度だ。

こんなん悪い奴からすれば利用し放題ではないだろうか。

だから、貴女が迷宮内にいるうちは俺も入りませんよと誓う必要があると感じた。これに関しては俺に関する信頼がゼロであろうと信じてもらうより仕方ない。


「却下だ」


しかしそれも素気なく断られる。

どないせっちゅうねん。


「……なぜですか? 俺の言葉が信用できないのはわかりますけど一緒に五階層も一階層にも行くのもダメならこれしかないですよ?」

「もうひとつあるだろ」


そう彼女は言うが

はて?

他にどんなのがあるだろうか。


「簡単だ。貴様も五階層を目指せ」

「…………」

「どうした?」

「……幻聴が聞こえたみたいなのですか?」


五階層行けって言われた気がした。


「それは大変だな。あとで神殿に行って診てもらえ……五階層に行って迷宮から出てからな。」


幻聴じゃなかった。

何言ってんのこの人?

さっきは一緒に行かないって言ったじゃん。

いや、それが覆っていないのならこうゆうことだ。


「それはつまり、各々五階層を目指せと?」

「そうだ」


予想が肯定される。


「心の準備とか諸々してないんで無理ですよ。それに五階層に行くんなら一緒に行きましょうよ」

「やだ」


まるで子供じゃねえか。

くそっ、美人じゃなきゃ加速を使用して走って逃げるのに……

それにしても五階層に行けだと?

そのうち行く予定ではあるけど急過ぎる。


「貴様だってそれを持ってるんだから階層ジャンプできるだろ。それならそっちのほうがお得だ」


そう言って彼女は俺の胸元にある銅の羽かざりを指差す。


「いや、とは言っても持ち物とか装備とか……」

「気合いで乗り切れ」


出たよ根性論。

嫌いじゃないけど、生死がかかる場ではあんまる聞きたくない。


「とにかく貴様も五階層に行け。そして先に着いたほうが結界内で待つ。それで勝手にパーティー登録をしたことは許してやる」

「うぅ……」


それを言われるとつらいな。

確かにパーティー登録解除されたから許しますなんて甘すぎる展開だ。

それを彼女から許してくれる条件が提示されたのだ。

俺の嘘を見破る能力の発動もしないことから本当に許してくれる気なのだろう。

普通なら飛びつくべきだろう。

でも、怖い。そしてやれるのか? という不安が大きい。


「えっと……やっぱり一階層から出ちゃダメですか?」


俺のことをヘタレと呼びたいならそう呼んでくれ。


「ダメだ。それだと不公平だ」

「不公平?」

「だって階層が下になればモンスターは強くなるし、倒した時の経験値も増える。でも、パーティー登録をしていれば経験値は分配されてしまう。私が倒したモンスターがお前の経験値にもなるんだから、私だけが強い方を倒すのは不公平だろ」


……確かにね。

美人さんが倒したモンスターの経験値だけ余分にもらうなんてヒモみたいだな。


「わかりました。俺も五階層に行きます」

「最初からそう言え」


わりと一大決心なのだが反応は冷たいものだ。

そして彼女は袋に手を入れたかと思うとなにかの紙みたいなものを取り出し、じっと眺めはじめる。

あまりに熱心に見ているので失礼かもと思ったが後ろから覗かせてもらった。

彼女が見ていたものは迷宮の地図。


本来なら迷宮に地図は存在しない。

と言うのも迷宮は気まぐれにその構造を変えるからだ。

昨日通れた道が今日は通れないなんていうのはよくあること。

これがこのオースティアの迷宮の最大の特徴である。

これは他のどの迷宮にもない特徴だ。

故に最難関。

だからこそ唯一この迷宮だけがクリアされていないのだ。

でも、何事にも例外は存在する。

それが初心者階層と言われる一階層から十階層までの間と五階層ごとにある結界がしかれている階層だ。

ここらは迷宮が安定していて構造が変わることはない。だからこそ地図が作れるし売ることができる。


ということを雑貨屋の主人に聞いた。

地図は欲しかったが初心者階層の地図でさえ一階層500Rなのだ。

とても買えない。


「今、どこですか?」

「……ここだ」


俺の問いに少し躊躇しながらも答えてくれた。

そして彼女の指先のある場所を見ると明らかに違う場所を指している。

一階層へと至る階段のすぐ隣なわけない。

……いじめ?

そこまで嫌か。


「いやだな、間違ってますよ。そこじゃあ一階層への階段が目の前にあることになりますからね。ダークエルフさんでも間違うんですね」


ちょっと嫌味が入っちゃったか?

でも、嫌味のひとつも言いたくなるのは仕方ないとか思わないか?


「…………じゃあここだ」


そう言って次に彼女が指差したのは明らかな袋小路。

無論こことは違う。


「俺のこと馬鹿にしてます?」


されてもしかたないようなことをしたのはこの際忘れる。


「じ、じゃあここだっ!」


そう言って彼女が指差したところはまたしても違った。

つーか様子がおかしくね?

明らかにテンパりはじめてる。

そこで彼女の顔を見てみる。

ずっと彼女を視界に納めていたはずなのだが、鼻は全く伸びて見えない。

え? もしかして……わざとじゃない?

だとすれば


「もしかして迷子ですか?」

「なっ……ち、違うもん。迷ってないもん」


といいながらも顔は真っ赤だ。

そして彼女の鼻が伸びて見える。

かわいい嘘だ。一旦彼女を視界から消し、また見ると鼻の長さは元通りに見える。

彼女の顔はまだ赤いままで俺と視線を合わせようとしない。

ヤバ……かーわいい。


「とりあえず三階層まで一緒に行きましょうか?」

「い、嫌よ」

「これ以上迷われると俺が先に五階層に着いたときに、いつまでも来なくて困りますから」

「う……」


すっごく気まずそうな顔をされるが二度断ってるんだから無理もない。


「お願いします」

「さ、三階層までだ」


ようやく了承を得ることができた。

これが俺の最初のパーティー。


「そういえば、名前を聞いてませんでした。なんて言うんですか? ちなみに俺は黒木相馬です」

「別に聞いていない。それに私は人間族ごときに名乗る必要はないと思っている」


にべもない。

だが諦めん。


「教えられないほどひどい名前なんですか?」

「安い挑発だな。そんなことで口を滑らせるとでも思ってるのか」


くっ、見え見えか……

致し方ない。


「じゃあ、ハレンチ迷子さんって呼びます」


露出度高いし。

ダークエルフさんだと捻りがないし、サドさんだと怒られそうだしね。


「……他の呼び方はないのか?」


おっ、この反応はあだ名が気に入らなかったようだな。


「嫌なら、あなたのお名前教えてくださいな」

「…………セレナだ」


ハレンチと迷子のどっちにひっかかったのかはわからないがとりあえず彼女の名前をゲットだぜ。



わかりにくかったらすみません……

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