出会い
というわけで神様からもらったよくわからない祝福を携えてギルドに来ました。
相変わらず無駄に列を作っているリカちゃんの受付を横目にまったくといって人の並んでいないマダムの受付に行く。
「祝福は受けて来たのかい?」
「まあ……」
ものすごく微妙で意味わからないものをだが。
「きっとあんたの助けになるから頑張んな」
あれが?
期待薄だなぁ……
「んで、迷宮探索をするってことでいいんだね?」
「はい」
「よし、あんたに迷宮探索の許可を出す」
マダムの言葉に反応するように指輪が光る。
なんでも、こうしないと迷宮には入れないらしい。
「うしっ、やってやるぜ」
「ちょい待ち」
気合いを入れたところでマダムが呼び止める。
「なんですか?」
「これを持って行きな」
そう言ってマダムはなんかカップ酒みたいなものを渡してくる。
「なんですかこれ?」
「ポーションって言う回復薬さ。HPが少なくなったら飲みな。あたしとリカからの差し入れだ」
「いや、悪いですって」
「人の好意はありがたく受け取りな」
「……ちなみにこれひとついくらですか?」
「大した額じゃない。たった200Rだ」
「うえっ……」
俺の昨日迷宮で稼いだ金のほとんどが消えてしまう。
それが五つも。
「その、やっぱり、これ……」
「死なれたら寝覚めが悪いからね」
断ろうと思ったところにマダムからの言葉がかかる。
そうだ。恩返しをするんだ。
だから簡単には死ねない。
そのためにとりあえず今は好意に甘えておこう。
ポーションを袋に入れる。
「よし、マダム。俺、今日は限界に挑むよ」
「だから、死なない程度にやりなって……」
こうして俺は二回目の迷宮へと挑む。
「つーわけで今日は二階層以上を目指そう。んであわよくばレベルアップをする」
迷宮一階層に降り立ち、目標を定める。
何事も目標がなければいかんともしがたい。
幸い、昨日で迷宮一階層は走破したといってもいい。
実は歩く途中で下に続く階段も見つけた。
まあ、ビビって知らないふりしたけど。
でもあれだけやっても230Rだ。
神殿からギルドまでの道中にあった雑貨屋を覗いてみたらろくなものが買えなかった。
しかし、そんな俺でも買った物がある。
「じゃーん。携帯食料〜」
某青狸(前の声優版)の声真似をしながら取り出したのはカロリーメ○トみたいな固形物の入った箱。
予定ではそこそこの時間潜ることになるからと、一応準備した。
四本入りでなんと200R。
おそらくだがRと円はほぼ同じと考えていいのかもしれない。
一応二本入りの物が100Rで売っていたのだが、数が多い方がいいだろうという思考で全財産のほとんどを使い切るという暴挙にでた。
なにを隠そう俺は衝動買いをするタイプの人間だ。
後で悔いるから後悔なのだ。
しかし今の俺はまだ、悔いてはいない。
どうせ大した物を買えないのだから、食料を優先して何が悪い。
「さて、頑張りますか」
あらかじめ道具袋にしまっておいた剣を取り出す。
そして記憶通りに二階層への階段に向けて歩き出した。
2時間ほどで無事に下へと続く階段についた。
だと言うのにもう白の魔石(小)は上限である10個集まり、道具袋に入りきらないくらいになってしまった。
しかし、なんというか……
「昨日よりエンカウント率が高い気がする」
そう、なぜかモンスター(兎型)とよく出会うのだ。
そこで俺はある疑いを持つ。
「まさかこの祝福、モンスターを呼び寄せるものなんじゃ……」
仮定の領域だ。
だが、以前やったことのあるゲームで匂いによって敵をおびき寄せるような特技とか技とかがあった気がする。
これが単なる推測で終わるならばいい。
でも、道の角に隠れてモンスターの様子を伺っているのに、いきなりこっちを向いて迫ってきたりなど昨日は見られなかった現象が相次いでいる。
疑わずにはおられまい。
「とりあえずオフにしとこ」
頭の中で祝福をオフにするように念じる。
脳裏にカチリと音がなったことから、多分オフになったのだと思う。自分の匂いって以外とわからないものだ。
ちなみにではあるが袋に入りきらなかった白の魔石(小)は泣く泣く諦めている。
というのも昨日のようにジャージのポケットにインしていれば邪魔になる恐れがあるからだ。
それにあれ、一個10Rだしね。
別に少額だからとバカにしているわけではないが、今は先に進むことを優先させたい。
そして俺は二階層目へと進むため階段を下りた。
二階層も一階層となんら変わらない造りだった。
とりあえずなんとなくこっちに進んだ方がいいんだろうなという勘に従って進んでいく。
すると前方に人影のようなものが見えた。
誰か他の探索者だろうか。
しめしめ、ここは共闘という形で一緒に先の階層へと進ませてもらおう。
「すいませーん」
人影へと走り寄る。
「うがっ?」
しかしはっきりとその姿を確認できたとき、俺は自分の迂闊さを呪った。
そこにいたのは確かに人型っぽいが身長1メートルほどの緑色の小鬼みたいなやつだ。
おそらくというかたぶんモンスターだ。
しかも二体……
初遭遇のモンスターでありながらいきなり複数。
というか複数相手にするのも初めてなんすけど。
逃げるか?
いや、男・黒木相馬。こんなところで逃げはしない。
ちらりと頭上を確認する。
HP 18/20
MP 20/20
余裕はまだ全然ある。
兎型のモンスターとの戦いは相手の攻撃の単調さに慣れたのかほぼ確実に回避できるようになっていた。
少しHPが減っているのはちょっとしたミスにより軽く攻撃が当たってしまったからだ。
小鬼たちが俺に向かって迫ってくる。
だいたい小学校低学年の平均的な子の全力疾走くらいだ。
兎型のモンスターよりも遅い。
十分に引き付けてから横にかわす。
兎型のモンスターはこれで回避できた。
だが、小鬼は俺の動きに対応しやがった。
「ぐふっ」
腹に小鬼の拳をもらってしまう。
ジャージを通して衝撃が伝わってくる。
まったく、なんつーもんを喰らわせやがるんだ。
俺が着ているジャージは神様の改造で下手な鎧くらいの強度がある……と思う。実際はよくわからない。でも、汚れなどが次の日には綺麗になっていたのは普通に嬉しかった。
腹を押さえながら小鬼たちから離れ、頭上を見る。
HP 10/20
MP 20/20
一発で8も減ってしまっている。
ということはあと二発喰らえばおしまいだ。
不意打ちでもないというのにこの威力。どうやらこいつは攻撃に重点を置いたモンスターなのだろう。
とりあえず離脱しよう。
そう思い背を向け走り出す。
とにかくとっさの判断で動いてしまったので今来た道とは逆。つまり上りの階段から遠ざかってしまっていた。
足はさっきの攻撃の影響で全力を出せないが、それでも小鬼よりも俺のほうが断然速い。
これなら逃げきれる。
しかし、最悪なことに走った先にもう一体小鬼がいた。
……挟まれてしまった。
後ろを見る。
二体の小鬼が十メートルほど後ろを追い掛けて来ていた。
前を向く。
一体の小鬼が向かって来ている。
……うん。出し渋ってる場合じゃないな。
目を閉じる。
【加速そーち】
心の中で唱えて目を開く。
小鬼たちの動きが遅くなる。
まずは前方の小鬼を全力で斬り付ける。
一撃で縦に真っ二つにできた。
攻撃力高い分、防御力は低いのだろうか?
兎型よりも楽に切り裂けた。
これで後ろのやつらは無視しても逃げることができるのだが、せっかくだから倒させてもらおう。
距離を詰める。
右側の小鬼に向かって右下段に構えた剣を振り上げ、斬る。
そして振り上がった剣を今度は左側の小鬼に振り下ろした。
倒せたと確信すると俺は加速状態を解く。
小鬼たちは何が起こったのか理解できないような顔で光になって消えていく。
「ぐあっ……」
加速状態を解いたことで一気に負担が身体にフィードバックしてくる。
今回のはわりと派手に動いたからか少しきつい。
頭上を見れば
HP 07/25
MP 15/25
さらにHPが減っていた。
とゆーか最大値増えてない?
「オープン」
レベルなどを出現させる言葉を唱える。
つーか面倒だな。なぜ常に表示されてないんだよ。
探索者ランク I
レベル2
HP 07/25
MP 15/25
世界神の祝福(レベル1)
神のいたずら:体臭がなんかいい匂いがする(オンオフ可)
レベル上がってる!
でも、出来ればなんかレベル上がったよ的な音とか流れて欲しかった。
ドラ○エみたいなのちょっと期待してたのに……
それはそうと回復しとこう。
道具袋に手を入れ、アイテム欄のようなものを視界に現す。
「ポーション」
取り出したいものの名称を告げる。
手に何か握った感触がする。
手を袋から出すとカップ酒みたいな瓶が手に握られている。
それの蓋をあけて中身を飲む。
なんというかスポーツドリンクみたいな味だ。
それを飲み干すと体が淡く光る。
そしてなんと体の痛みが消えたのだ。
頭上を再び確認する。
探索者ランク I
レベル2
HP 25/25
MP 15/25
世界神の祝福(レベル1)
神のいたずら:体臭がなんかいい匂いがする(オンオフ可)
HPが全回復した。
一体ポーション一本でいくら回復するのだろうか。
これで50回復するとかだったらもったいないなぁ……
でも、死ぬよりマシだ。
とりあえず、小鬼を倒して落としたであろうドロップアイテムがないか見てみる。
すると見たことある白い石三つとなんか緑色の金属でできた硬貨が二つあった。
白い石は望みを乗せて袋に入れてみるが、袋に入れた途端弾き出すように吐き出される。
やっぱ白の魔石(小)だった。
袋に上限一杯入っているのでこれ以上はダメなのだ。
次に硬貨を入れる。
初めて獲得した物なので袋には当然入る。
手を入れて確認してみるとゴブリンコインと記載されている。
なるほど、今の小鬼ってゴブリンなのか。
それにしても
「さすがにモンスターとは言え、二足歩行する奴を倒すのはちょっとばかしきついな……」
ちょっとクるものがある。
まだまだ覚悟が足りないんだろうな。
ひと休みといきたいところだがここじゃいつモンスターが来るとも知れないし、進むことにしよう。
同じように勘に従って進むうちに何度かゴブリンと遭遇して戦った。
とは言っても複数いたのは最初だけであとは一体ずつだった。
また、兎型のモンスターも出てきたのだが、どちらもそう苦もなく倒せた。
兎型のモンスターはともかくゴブリンはまだ慣れるほど戦っていないのだが、そう感じるのはおそらくレベルアップに関係するのではないのだろうか。
くっそー、俺のステータスがどれくらい上がったのか見てみたい。
しかしこれならさらに下の階層に行っても大丈夫だろう。
ということで、ただいま俺は三階層へと下りる階段を探している。
まあ、勘に従って行けばそうかからず辿り着くだろう。
そう思って進んでいくと前方に人影を発見した。
しかし、ゴブリンとの初遭遇の時のような失敗を侵してはいけない。
じっくり、そしてねっとりとその正体を確かめねば!
恐る恐る目標に近づいていく。
目標は立ち止まっているため、進めば進むだけ近づく。
そしてその正体がはっきりと確認できるところまでくると安堵する。
完全に人だったからだ。
「すいません」
とりあえず声をかけてみる。
さきほどとは違い、何の打算もない。
俺の声に相手は振り返る。
声をかけた相手は女性だった。
切れ長の青い瞳に長い銀色の髪。また胸元が見えるような上着にホットパンツというのだろうか? 丈の短いズボンをはいていてその艶やかな褐色の肌をさらしている。
総じて露出度が高い印象だ。
そして露出度だけでなく彼女は背も高い。
俺が170くらいなのだが彼女の身長はそれよりも高いのだ。かといって180もないだろう。でも女性にしては長身だと言える。
しかしこの人も何というか、美人だな。
優しそうな外見のリカちゃんとは真逆の美しさ。
なんというかSっぽい。
「ただの人間族ごときがなんのようだ?」
嫌悪っぽいのが混じった口調で女性が話す。
声もやっぱSっぽい。
リカちゃんとは違い想像通りの感じに思わず笑みがこぼれる。
「何がおかしいっ! 人間族ごときが私を愚弄するのか!」
それが彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。
この世界はもとの世界とは違い、獣人族やエルフ族などのいわゆる物語に出てくるような種族が存在し、一部の者は多種族、とくに俺のような外見になんの特徴も持たない人間族と呼ばれる者を蔑んでいる者たちがいる。
彼女もそのような者の一人なのだろうか。
よく見れば彼女の耳は少し長く、先が尖っている。
「黙っていないで答えろっ!」
やばいやばい……
さらに怒らせちゃった。
美人さんに嫌われるのは嫌だ。なんとかご機嫌をとろう。
「すいません、あなたがあんまり綺麗なんで見とれちゃって……」
定番とも言える褒め言葉。
半分は本当のことだ。
「人間族ごときがダークエルフたるこの私を視姦しただと……」
怒り度アップ。
つーかダークエルフなの?
「いや、別に視姦とかそうゆうやましい気持ちじゃなくて、ほら、風景とか見て綺麗だなぁって感じるみたいな感覚ですよ?」
「……ホントにか?」
見つめられる。
なんかアタイ、ドキドキしてきた。
だって美人さんなんだもん。
ついつい目を逸らしてしまう。
耐性がないから仕方ないよね。
「なぜ目を逸らす。やはりやましい気持ちだったのか?」
「いえ、あんまりに熱心に見つめられるので恥ずかしくて……」
「なっ……ば、バカじゃないのか。別に私はお前など見つめていたわけではない。に、睨んでいたんだ」
俺がそういうとダークエルフの美人さんは真っ赤になって否定する。
あれ、この子……もしやツンデレの素質があるのか?
俺はツンデレというものに前から興味がある。
これは是非ともお近づきになりたい。
「俺と一緒に迷宮を進んでください」
気がつけば彼女の手をとってお願いしていた。
ちょっと前の俺なら全く考えられない大胆な行為。
一回死んでから、わりと開き直ってる部分あるからなー。
これが、体は正直ってやつだろうか?
戦闘描写は苦手としております。