神様再び
「ソーマさん起きてください、朝ですよ」
優しい声に促されて意識が覚醒する。
目を開けるとそこには俺を優しく揺り動かすリカちゃんの姿がある。
一瞬天女かと思ったのは秘密だ。
「おはようございます。もう朝ですよ。朝食もできてますから家に入ってください」
リカちゃんはそう告げると立ち上がる。
朝飯まで用意してくれるなんて本当に申し訳ない。
しかし、リカちゃんのキャラがちょっと違う気がする。
いや、彼女は癒し系なのだ。これがデフォルトで昨日のあれはなんかいいことがあってテンションがおかしかったとかなのだろう。
「いきなりドーン!」
「ぐへっ」
と思ったらいきなりボディープレスをしてきた。
重力に委ねられたそれはリカちゃんの軽そうな体にも関わらずそこそこの威力となって俺に襲い掛かる。
次いで柔らかい感触が感じられたが、不意打ちをくらって痛みに悶える俺にはそれを堪能するところではない。
「ザ・おしとやかなあたし。深窓の令嬢っぽかったっしょ? やっぱ人を襲撃するには不意を打たないとねー」
俺の上に寝そべりながら言葉を紡ぐリカちゃん。
しかしなんだこの恋人のようなじゃれつきは。
嬉しいようなどいてほしいような不思議な気持ちでリカちゃんを見る。
「どしたん?」
「どいてくださると嬉しいです……」
「そかそか、さては朝の男な感じになってるなー?」
臆面もなくそんなことを言わないで欲しい。
俺の方が恥ずかしい。
とゆーか最近そっちの方は少し下降気味に……ゲフンゲフン
「おっ、ソーマくん寝癖ってるよん。せっかく綺麗な黒髪なのにもったいないない」
手櫛で俺の頭を撫で付ける。
女の子に頭撫でられるなんて初めてだ。
「そだ、目玉焼きはこれから作るんだけど固焼き、半熟どっちがいい?」
俺はどちらかというとスクランブルエッグの方が好きだ。
だが、わざわざ用意してもらうのにそんなこと言えるわけない。
「リカちゃんと同じで」
「あやや、あたしはいつもスクランブルエッグですたい。あんさん目玉焼きはいらんのでっか?」
「ますます同じでよろしくお願いします」
「はいよ」
リカちゃんは立ち上がる。
またもボディープレスがこないように警戒するが今度は何事もなく物置部屋から出ていった。
「よし、行くか」
「おはよう」
「おはようございます」
家の中へお邪魔して昨日食事をとったところへと行くとマダムが俺を迎えてくれる。
「ちゃんと眠れたかい?」
「おかげさまでぐっすりです」
「……あの環境で本当にぐっすり眠れたんならあんた神経図太いよ」
俺が気を遣って言ってると思っているような声音でマダムが話すが、百パーセント真実だ。
「ほい、おまちどう」
と、リカちゃんが朝食を持ってきてくれた。
所謂洋の朝食セット。美味そうだ。
「いただきます」
さっそくトーストを口に運ぶ。
うん、美味い。
「ところで、ソーマは今日も迷宮に潜るのかい?」
マダムが問い掛けてきた。
それに対して俺は少し考える。
だって命を懸けたといっても過言ではない昨日の探索でも230Rしか稼げなかったのだ。
はっきり言って割に合わない。
かといってせっかく神様にもらった能力を活かせるの仕事が迷宮探索以外にあるのだろうか。
「悩んでるね。昨日も言ったけど迷宮の最初の方ではあんまり稼げないものなんだよ。はっきり言ってギルドには誰でも入れるんだけどあまりの割の合わなさに何人かは次からは来なくなる。でも潜れる階層が深くなれば一般人の年収を一回の探索で軽く超えるほど稼ぐことだってできる」
「ま、まじっすか……別に金にはそんなにこだわってなかったけどね」
いや、さすがに飲み物買ってなくなるくらいの稼ぎなんてのは嫌だよ?
つーかそんなに稼げんの?
モテる男の条件なんてルックスと経済力が大事だというのが大多数の女の気持ちだろう。
その二つを持たない男はその大多数のカテゴリーから外れる、もしくは諦めた人を見つけてモノにするしかない。
ルックスに関しては神様が拒否したためどうしようもないが、経済力に関しては道が示された。
これさえあれば俺もモテる!
「マダム、俺、迷宮探索頑張るよ」
「そうかい、なんかすごく無駄に晴れやかな顔してるね」
ヤバい……スケベ心を悟られたか?
でも迷宮探索を頑張る理由はそれだけじゃないぞ。
「んで、マダムとリカちゃんに恩返しをする」
今のところはこれが一番の理由かな。
「おや」
「楽しみにしてるぜ、少年」
マダムが微笑み、リカちゃんがサムズアップをして見せる。
「んじゃ、しばらくあの物置は好きに使いな」
「いいんですか?」
マダムから嬉しい提案があがった。
「悪けりゃ言わないよ。そうだね、期限はあんたがあたしらに恩返しをするまでだね」
「はい、ありがとうございます」
つまり、稼げないようならいつまでも居ていいってことか。
いや……さっさと恩返しして出て行けか?
果たしてマダムの真意はどっちなのだろうか。
「それはそうとあんた、神殿に行って神様の祝福はもらったのかい?」
「なんですかそれ?」
神様ってあのお方のことか?
「知らないで迷宮入ったのかい?」
「そ、そうですけど……」
「ほんとによく生きて帰って来れたね……」
「勘が鋭いんです」
まあ、一階層を歩き回っただけだしね。
「勘ねぇ……ただ運が良かったってだけだろうに。とりあえず今日は神殿に行ってきな。詳しいことはギルド指南書に書いてあるけど、それでもわからなかったらそこらの神官捕まえて聞きな。あたしらはもうギルドにお勤めにいかにゃならん」
「はい」
俺も慌てて口に朝食を詰め込む。
家に鍵をかけるとしたら中に俺が陣取っていては出かけることができない。
その後二人と一緒に家を出た。
そしてギルドの前でマダム達と分かれると神殿へと向かう。
神殿の場所はマダムに教えてもらった。
あと神から与えられる祝福についてはギルド指南書に記述があった。
[神の祝福]
迷宮探索の前にまずは神殿に行き祈りを捧げ神様に祝福をしてもらいましょう。
神様は多種多様な方がおり、それぞれ違った力を授けてくれます。
また祝福を受けると若干の身体能力が向上します。
これらはあなたが迷宮に挑むことにおいて、きっと大きな力となってくれるでしょう。
そもそも神様とは………<中略>………つまり神とは我等に試練を与えると共に手助けをしてくれるのです。
また、神様に与えられた祝福は使用していくことでその力を増していき、新たな力を得ていきます。
日々絶えず精進してください。
神様の祝福ねぇ……
ぶっちゃけ俺がもらった能力自体が神様の祝福じゃないのか?
そもそもあの方いわく神様ってのはもともと丸くて大きな光のかたまりらしいじゃん。
なんだよ、多種多様って……
結局は丸くて大きな光のかたまりじゃん。
どうせその光がピンクとか青とか色違いなだけだろ。
ちなみに俺の前に現れたのは白い光のかたまりの神様である。
ほどなくして神殿らしき建物に着く。
なんとゆうか神聖な雰囲気のある真っ白い建物だ。
造りとしては教会とかが近いだろうか。
「あの、すいません」
とりあえず入口付近にいるガリガリのおっさんの神官さんに声をかける。
「迷える子羊よ、どうなされた」
返ってきたのは動物扱い。
失礼な奴め。
「神様の祝福を受けたいんですけど」
「そうですか、ではご案内します。こちらにどうぞ」
ご親切に先導して案内してくれる。
神殿の中に入るとさらに神聖さが増す。
用がなかったら気後れしてすぐに帰ってしまうだろう。
案内されるままに通路を進んでいく。
「こちらに並んでお待ちください」
神官さんが示したところには前に二人ほど人が並んでいた。
また、前方には広い空間があり、なにやら一部だけ円く光がまるでスポットライトのように差し込めている。そしてその中央で膝をついてなにやら祈っている人がいる。
あの人は一体なにをやってんだ?
そう思っているといきなり祈っている人間の頭上に女性が顕れた。
見ただけで彼女が人ではないことは理解できた。
腕が四本あることもそうだが、それよりもただただ美しかったのだ。
女神……
そう、あれこそ正に女神と呼ぶに相応しい存在だ。
つーか丸くて大きな光のかたまりじゃないっ!
多分世界が違うから神様も違うのだろうと予想を立てる。
そうしないと何かが納得できない。
『そなたに我、第三等級神アイリスの祝福を』
女神はそう言うと消えていく。
声も美しい。
「いかがですか?」
俺を案内してくれた神官とまた別のじいさんの神官が祈っていた奴に尋ねる。
「はい、体が軽くなりました」
「迷宮の指輪をしているのでしたらオープンと唱えればあなたが戴いた祝福が確認できます。あとで是非やってみてください。では次の方、どうぞ」
列の先頭の男が光の中心へ進み、膝をついて祈りを捧げる。
なるほどこうやればいいのか。
「では次の方」
そしていよいよ俺の番になる。
前にオープンと唱えた時、祝福なんて確認できなかったから俺も祝福を受けることができるはずだ。
俺の前に祈りを捧げた人達はみんな美人の女神さま達だったから俺もきっとそうに違いない。
女神さまの祝福かぁ……
いったいどんなものがもらえるのか。
前の奴らに習って光の中央に進み膝をついて祈りを捧げる。
俺を祝福してくれる女神さまはいったいどんなお方なんだろ?
『私だ』
あれ?
女の人っぽいんだけど、なんかどっかで聞いたことあるような声が聞こえた。
『人よ、目を開けろ』
嫌な予感がするが恐る恐る目を開けるとそこにはいわゆる丸くて大きな光のかたまりがいた。
「なぜに女神さまじゃないんですかっ!」
『そう嘆かれてもな。お前はもともとこの世界の住人じゃないからわざわざ私が来たのだ。言わばご指名入りましたー状態だ』
「何もわざわざ来なくても……」
『神は暇を持て余している。だから常に退屈なのだ』
「あなたにとったら俺のことなんて遊びってことですか?」
『まあいいではないか。ところで祝福を受けたいのだったな。それにしても……まだ何か欲しいのか?』
遊びに関して否定しないんだ……
それにしても、まだ欲しいのかだと?
くっ、たしかにこの方からはもう五つも(一つは余計)貰ってる。
でも
「貰うものは貰う主義です」
『まあ、誰もが受けることのできるこの世界の決まりみたいなものだから、お前に私から祝福を与える』
「出来れば有用なものをお願いします」
『例えば?』
た、例えばだと……
んー、何かないかな?
「MP無限とか」
これさえあれば加速の能力も使いたい放題だ。
きっと迷宮でも無双できる。
『ふーん』
あれっ?
反応が薄い。
『薄いも何も、お前の意見を聞いただけで与える祝福は別のものだ』
「なっ……せめてどんなものなのか教えてください」
『なに、別にあって困るものはやらんよ。さて、時間凍結を解くぞ』
へっ?
時間凍結?
そういえば結構長々と喋ってたもんな。
他の人達はそう時間もかからず祝福を受けていたからみんなそうやってきてたんだろう。
『世界神の名において、汝に祝福を与える』
神様の言葉と共に体が軽くなる。
「世界神とはまた聞いたことはありませんが大層な神様の祝福を受けましたね。ご気分はいかがですか?」
「不安です」
俺のミスとはいえ、女性用の下着を持たせた張本神だ。
いったい何をくれたんだろう。
「……長いこと勤めてますが、不安を述べたのはあなたが初めてです。迷宮の指輪を着けているのでしたらオープンと唱えればあなたが戴いた祝福が確認できます。あとで是非やってみてください。では次の方、どうぞ」
俺はその場から去る。
そして神殿の出口へと向かう通路の途中、意を決して唱えてみる。
「オープン」
すると頭上のHPたちの他に新たな項目が記載されていた。
探索者ランク I
レベル1
HP 20/20
MP 20/20
世界神の祝福(LEVEL1)
神のいたずら:体臭がなんかいい匂いがする(オンオフ可)
……またいらないのが増えた。
つーかこれって、なんとなくだけどスキルみたいなものなんだろうと思える。
それにしても、レベル1ってことはレベル2もあるのかな?
だとすれば更に違う能力的な物が増えるのだろうか……
今だにポケットに入っていた女性用の下着を取り出す。
「神様の力が無駄なことに使われてるなぁ……」
とりあえずいつまでもポケットに入れてるのはまずいので道具袋に入れておく。
なんか捨てられないんだよな、これ。
また、もらった祝福をオンにして自分の体臭をいい匂いにさせておく。
とりあえずだからね?
せっかくもらったのに使わないのも悪いし……
まったく、神様も戯れが好きだな。
主人公の祝福はネタであってネタではないです。
祝福=スキルみたいなものと思ってもらっていいです。