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換金してみました

さらにご都合主義ってます

階段を上り社へと出る。

やはり、社の内部は不思議な空気が流れているな。

この空気は嫌いじゃない、むしろ好きだ。

そんなことを思いながら社を出る。

俺が迷宮に入ったのはだいたい昼をちょっと過ぎたくらいだったのだが辺りはすっかり暗くなっていた。

俺は剣を鞘に納めたまま手に持って歩く。

ジャージなので腰に吊り下げるためのベルトなどがないのが若干辛いな。

そう思いながらギルドへと続く扉に向かって歩いていった。




「生きて帰ってきたようだね」


中に入ると声をかけられた。

マダムだ。


「もしかして、待っててくれたんですか?」

「なーに言ってんだい。たまたまだよ。たまたま」


だよね。

つーか待たれてても若干困る。

てゆーかマダムとフラグ立ってないよね?

いや、マダムが嫌いというわけじゃないよ?

むしろ好感が持てる人物です。

ただちょっと年的に釣り合わないかな?

だってどうみても二回りくらいは違うもん。

俺がイケるのは上下一回りくらいまでだ。

ん? とゆーことは下は13からオッケーってこと?

ないない。

さすがにそれは下過ぎる。

せめて結婚が許される16からでしょ。

それでも世間様から見ればロリコンかもしれないが……


「なにボーッとしてんだい?」

「い、いえなんでもないです」

「そうかい。んで、迷宮はどうだった?」

「凄かったです」


俺の答えにマダムは微笑みを返してくれた。


「モンスターは倒したかい?」

「はい」

「んじゃ、アイテムも拾えただろう。それなら換金しないとね」


マダムが眼鏡の爺のもとに歩いていく。

それに俺もついていく。

商人に売れば高く売ることができるとマダムは言っていたが、俺にその当てはない。

ここで売った方がいいだろう。


「クロースじいさん、起きな、客だよ」

「…………」

「クロースじいさん」

「…………」

「ジジイっ! 起きなっ!」

「ひゃいっ!」


ビックリした……

マダム急に怒鳴るんだもん。

爺もめっちゃビックリしてるし。

心臓が止まらなくてなによりだ。


「な、なんじゃ?」

「客だよ」

「ども」


とりあえず会釈した。


「ほぅ……新顔じゃな」

「今日が初迷宮だよ」

「それはそれは、よう生きて帰った」

「いやあ……」


照れるぜ。


「何しとるんじゃ。さっさとアイテムをださんか!」


爺がいきなりキレやがった。

褒めたんじゃねえの?

俺は集めたアイテムを爺の前の台に並べる。


「フム、白の魔石(小)が17に動物の毛皮が3。全部で230Rじゃな」


よくわからんがどれくらいの価値なのだろうか。


「やっぱりというか新人は実入りが少ないね」


マダムが呟く。

これって少ないのか?


「すいません、俺貨幣の価値ってよくわからないんですけどこれってどれくらいなんですか?」

「ガキの駄賃程度じゃな。メシ屋で飲み物を頼めばなくなるわい」

「なっ……」


命を懸けた報酬がこれ?

あ、あんまりだ……

迷宮探索に絶望したよ。

やめよっかな。


「なーに暗い顔してんだい。最初は誰もがそんなもんさ。でも階層が下がれば手にする金の額も上がる。それが迷宮探索ってもんだよ」

「でもこれじゃろくなもの食えない……」


迷宮探索で疲れてるし、腹の虫も限界だ。

どうしよう。

外に生えてる草って食べれるのかな?


「今日はあたしが食わせてやる」

「お、お姉さん……」


ええ人や……


「お姉さん?」

「こ、こら。お姉さんって呼ぶんじゃないよ」


マダム照れてやがる。

つーか爺、疑問文を挟むんじゃねえよ。

マダムの機嫌が悪くなったらどうするんだ。


「んじゃマダムと呼んでいいですか?」

「マダムか……いい響きじゃないか」


おっ、気に入ってくれたみたいだ。

これで名実ともにマダムって呼べる。


「小僧、今回の報酬じゃ」


そう言って爺が硬貨を投げてよこす。

乱暴な……

もらった硬貨は十円玉に類似した銅の硬貨3枚に百円玉に類似した硬貨2枚だ。

これで230Rか。

もらった硬貨を袋に入れる。

そしてすかさず袋に手を入れるとアイテム欄が現れ所持金230Rと記載されているのを確認する。


「7R」


ちょっとした思いつきを言ってみた。

手になんか握った感覚がするので取り出してみる。

さてどうなんのかな?

開いた手の平には一円玉に類似した硬貨が2枚に五円玉に類似した穴空き硬貨が1枚あった。


「……あれ?」

「どうしたんだい」

「いや、マダム。入れた硬貨と別なのが出てきて……」

「袋から取り出す金は適切なものになってるのは当たり前だよ」


ま、まじで?

なんという親切設計な異世界なんだ……

もとの世界の財布も見習って欲しい。

それにしても金がもとの世界と類似してんのも不思議だ。

他のはどうなんだろうな。


「ほら、用はもう済んだんだから行くよ」

「はい、マダム」


マダムのあとについていく。

なんというか探索者たちがマダムに対して道を開けていく。

なんかすっげぇ目を合わせない人もいるんだけどマダム何者?


マダムは町をどんどん歩いていく。

そして5分ほど歩いた所で一軒の家に入っていった。

なんかまさしくお家って感じの建物なんだがよくある都会の隠れ家的なお店なのだろうか。

俺はマダムのあとに続いて建物に入る。



建物の中はまさにご家庭という感じだった。


「ただいま」


ただいま?

マダムがただいまと言ったということはここはマダムのご自宅なのか?

これはもしや「一飯の恩義だその若い体を愉しませな」とか要求されてしまうんじゃ……

いやいや、マダムを信じろ。

そんなどこぞの物語的展開なぞあるわけが……


「あっ、お母さんお帰り〜」


なんか受付の時にマダムのとなりで行列作ってた美女がいた。

肩よりも少し長いくらいのフワフワの藍色の髪に優しさの滲む琥珀色の瞳。年は20にいくかいかないかというところで、また男の夢と希望が詰まっていそうな胸を強調したドレス調の服がなんとも似合っていた。

彼女はきっと癒し系に違いない(決めつけ)


「リカ、客を連れてきたよ」

「うん、連れて来るかもって言ってたから食事も三人分作っておいたよん」


マダムはあらかじめ客を連れて来る旨を告げていたらしい。

つーかお母さんて。

これは違う意味で物語的展開発生してる。

まさに《将を射んと欲すれば先ず馬を射よ》の入口に立った状態なのか!?


「なに突っ立てるんだい。こっちきな」


マダムに招かれる。


「はっじめまして〜。リカどぅえっす」

「…………」

「およ? 反応なっすぃんぐ? リカちゃんは寂しいれす」


あれ?

この子若干テンションおかしくね?


「もすも〜す、こちらリカ。応答願います」

「く、黒木相馬です」

「クロキソーマくんねっ! ソーマが名前なのん?」

「そ、そうです」

「んじゃらばソーマくんって呼ぶねん。あたしのことはプリンセスリカって呼んでくれたまえ」

「は、はあ……」

「む〜、ノリ悪いな〜。そこはお前のどこがプリンセスやね〜んってツッコむとこだよ?」

「リカ……あんた初対面で飛ばしすぎだよ」

「マダム」


天の助けだ。

正直対応に困っておりました。


「ぶっ……ま、マダムってあーた。なんつーボケを……もうダメ。アハハハハッ」


盛大に笑われてしまった。

一応ボケではなく、マジで言っているのだけどね。


「笑いすぎだよ」

「あいたっ」


マダムがリカちゃんを小突く。

なんとも微笑ましい光景だ。


「さて、ご飯にしようかね。ソーマはこっち座んな」


マダムの隣の椅子を示されたので、促されるままに座る。


「ほいほい、今日のメニューは……じゃじゃーん! クリームシチューなのですだ」


皿に盛られたシチューが目の前に置かれる。

食欲をそそる匂いがして腹の虫が鳴く。


「おうおう、チミは欠食児童なのかにゃ? ならば腹わたがちぎれるくらい食いなはれ。おかわりもあるでよ」

「いただきます」


家主よりも先に食べるのは失礼だと思うが我慢できなかった。

あっという間に皿は空になってしまう。


「おかわりいるかい?」

「ください」


マダムのご好意に甘える。

日本人の美徳はその謙虚さとか聞いたことがあるが、今の俺にはそんなこと関係ない。


「そう言えばあんた、飯食う金もなくて泊まるとこはどうしてんだい?」


こ、これはもしやお泊りフラグ!

慎重にいかねばなるまい。


「実は決まってないんです」

「そうかい」

「大変でごわすねー」


……………


………


会話が止まった。

もしかしてフラグではなく、ただの世間話だったのか。

たしかに、さすがにムシが良すぎるわな。


「えーっと、どっかに野宿に最適な場所知りません?」


幸いこの都市は温暖な気候で凍死の心配はない。

公園とかそういう場所に望みをたくす。

どうせ昨日は野宿したのだ。

一回も二回も変わらない。


「泊めてやりたいんだけど、さすがに今日会ったばかりの男、それも新人とはいえ探索者をってのは問題あるからね。アタシだけなら別に良かったんだけど、すまないね」

「あたしは別にいーんだけど」

「ありゃ、珍しいね。あんたもソーマを気に入ったのかい?」

「そだね。ソーマくんまだ一回しかあたしをえっちぃ目で見てないからね」


お、なにやらリカちゃんから援護射撃が始まったぞ。

一回エッチな目で見たっていうのは最初に胸を凝視したことだろうか。

気付かれていたとは不覚だ。

しかし、このリカちゃん。喋りはちょっと残念な感じがしてたけど性格はやはり癒し系なのか!


「ん〜でも、やっぱりいきなり泊めるのは……」

「なら、外の物置にでも泊めたげよ。野宿よりマシだと思いまする」

「それは妙案だね。どうだいソーマ?」

「それでお願いします」


マダムたちの提案に一も二もなく飛びつく。

俺からすれば物置だろうと寝床の確保できるのはありがたい。


「んじゃあ、ご飯のあとに案内するよ」


マダムの言葉で食事に没頭した。

結局さらに三杯ほどおかわりをした。




「ここだよ」


食事の後に案内されたのはまさに物置だった。

場所はマダムの家から出てすぐの場所。

広さはさほど大きくなく、物が整理されて置かれており、人一人がやっと寝れるスペースがある。

しかし、物置だというのに大してホコリもなく、定期的に掃除していることが伺える。


「これ、毛布だす」

「ありがとうございます」


リカちゃんの言葉は深くツッコんではダメだと食事中に理解した。

渡された毛布を受け取り、礼を述べる。


「今日は疲れてるだろ。狭いとこで悪いけどゆっくり休みな」

「はい」


狭いなんてとんでもない。

今の俺は屋根があるだけでも満足だ。


「んじゃお休み」

「おやすみなせーい。兄ちゃんいい夢見るんだぜぃ!」

「おやすみなさい」


二人が去る。

ほんとにいい人だ。

最初この都市に不法侵入した時はどうなるかと思ったがこの都市に入ってから人との縁にすごく恵まれている。

とりあえずマダムたちにはちゃんと恩返しをしなきゃなと考えながら瞼を閉じた。

迷宮での疲れからそう時間もかけずに俺の意識は眠りへと落ちた。




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