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リーダーの資質

お久しぶりです。


セレナとオリビアさん両名の怪我は大したものでなかったこともあり、次の日には迷宮探索のためにこの前到達したばかりの十五階層に俺達は訪れていた。

美玲(メイリン)と俺は出掛けから一緒だったし、セレナに関しては途中に宿屋で拾ってから来たのだがオリビアさんに関しては現地集合だ。

そのオリビアさんと言えば俺達が到着する前に既に来ていたらしく、いつもの重鎧に身を包みその背に大きな盾を背負い、またその手には突くことに特化した突撃槍と呼ばれる槍を持ち仁王立ちして俺達を待ち構えていた。


「来ましたわね」

「待たせましたか?」

「先に来ているのだから当然待ったに決まってますでしょう。相変わらず頭が悪い」


『待った?』『ううん、私も今来たとこ』は様式美として重要だと思うのは俺だけか。まあこんなこと言ってくれるのは謙虚な人か心の綺麗な人くらいだからオリビアさんに期待するのは無駄か。決してオリビアさんの心がどす黒く汚れてるとかは思ってないが、この人に謙虚さなどありはしないだろうことは間違いない。


「頭が悪いと言うか察しが悪いって言って欲しいっす」


とりあえず馬鹿扱いは嫌だと小さな反抗をしてみる。


「どちらにせよマイナス評価に変わりありませんからどうでもいいですわ」


あえて言いたいのだが、別に俺は遅刻したわけではない。だと言うのにマイナス評価なのか……


「そんなことよりも、その槍がお前の武器か?」


セレナが話を変えてオリビアさんの背負う盾を見る。つーかセレナを迎えに行かなけりゃもう少し早く着いてたんですけどね。

しかし、大人な俺はそんなことをいちいち言わない。泥を被るのは俺だけで十分だ。


「この槍とそして盾がワタクシの得物ですわ」


得物とは一般的に得意とする武器のことを言う。槍はともかく盾も得物と呼んでいいのだろうか。


「なるほど、お前は聖戦士(パラディン)なのだな」

「そうですわ。皆さんでワタクシを敬いなさい」


オリビアさんがいつものように偉そうな物言いでセレナの言葉に応える。しかしなんで敬わなければいけないのだろうか。

聖戦士(パラディン)と聞けば拙い俺のゲーム知識からいってもなんとなく高尚な気がするのだがそこらへんから来てるのだろうか。


聖戦士(パラディン)ってのは神殿に認められた戦士のことで、こと守りにおいて効果の高い専用の装備を買うことが出来る人のことを言うんです」


俺の意志を汲んだのかわからないが、美玲がよくいる説明キャラの如く解説を始める。


「普通の人は買えないの?」

「買えません。神官や聖戦士(パラディン)しか入ることの許されない店でしか売ってませんから」

「へー、俺も聖戦士(パラディン)とやらになれるのかなぁ」

聖戦士(パラディン)になるにはその者の技量や精神などを見極める為のいくつもの難しい試験に合格しなければなりません。また、その試験を受けるだけでもお布施と言う名の高額な金銭を払わなければなりませんから、正直に申しまして今のご主人様では少しばかり厳しいかと思います」


正直に言うとか言いつつも美玲ははっきりとは言ってくれなかったが、要は貧乏な俺では試験を受けるなんて無理ってことだな。


「お前、よく受かったな」


セレナがオリビアさんに向かって感心したように声をかける。


「当然ですわ。ワタクシは試験を受けてませんもの。所詮世の中はこれ次第ですわ」


そう言ってオリビアさんは指を狐の形にする。あれってなんだべ?


「お前まさか……金で聖戦士(パラディン)の資格を買ったのか?」

「実家から持ってきた端金がありましたから使い切るのに丁度良かったんですの」


狐の形は金のことか。

つーか試験受けずに金で買ったってめちゃくちゃお嬢様っぽい。ここはひとつ金で総てが買えるなんて思うなよとか言ってみるか? 金持ちにこうゆうこと言うのってちょっとした憧れがある


「なんでも金でどうにかできるなど思わない方がいい」

「あっ……」


セレナに先に言われちまったっ!


「ええ。ですから後腐れなく全部使ったんですの。この装備も日々の糧もワタクシが迷宮探索で稼いだお金で購入しましたわ。おかげで大したものは買えませんが、自分の力だけで生きてるという実感が持てて気分がいいですわ」


そう言ったオリビアさんの顔はすごく晴れやかで見とれてしまった。


「ふん、傲慢なお嬢様に世間の厳しさについて教授してやろうと思ったのだが、その必要はないらしいな」

「あなたごときにワタクシが教わることなど何一つありませんわ。とゆーか……」


そこで言葉を止めるとオリビアさんは一度咳ばらいをする。

さて、一体何を言うつもりなのやら。


「あなた方はまだ十五階層に到達したばかり、つまりワタクシが一番この先のことに詳しく、尚且つ美麗で勇ましいということですわね」

「そーですね」


後半はともかく前半についてはその通りだ。


「ならばこのパーティーのリーダーは誰がやるべきかあなた達にもおおよその検討はついているでしょう」

「そーですね」


何やら会話の行く末が予想できるな。


「であれば、その任に相応しき者を一斉に指差してみませんこと?」

「そーですね」


パーティーメンバーが四人になったのだからリーダーを決めるべきだというオリビアさんの言葉に某お昼の番組並の予定調和な返事を返しながら肯定してやる。

ここでこの意見に反対する理由もないし、どの道リーダーは必要な存在だ。


「リーダーに相応しい者か……皆がそういうのならなってやらないこともない」

「あら、図々しい言葉が聞こえましたけどワタクシの幻聴でしょうか」


だが、俺の不用意な肯定が新たな火種となって点火してしまいそうだった。


「おいおいお嬢さん方、あんたら昨日仲直りしたっしょ!?」

「別に喧嘩ではない。これから行われるのは誰がリーダーに相応しいか決める話し合いだ」

「話し合いなんて必要ありませんわ。誰がリーダーになるべきかなんてワタクシ一択しか選択肢がありませんもの」

「昨日パーティーに入ったばかりのくせにリーダーの地位などおこがましいにも程がある。リーダーというのは実力もそうだが、何より大事なのは仲間の信頼だ」


セレナの言葉はもっともかもしれない。俺の経験上でも一番の実力者と言うより、人を引っ張っていく力が強いというか頼れる人間が集団のリーダーになる。四番でエースだろうとキャプテンとは限らないのだ。

まあ天は二物を与えるというか、実力もありながらリーダーシップも兼ね備えている輩も多々存在することは否定しないがな。


「信頼など当にワタクシは集めてますわ」

「どうだか……」

「いいでしょう。では、せーのでリーダーに相応しいと思う者に指を差しましょう」


こうゆうのを決める上で一番わかりやすいのは多数決だからな。


「提案です」


そこで事態を見守っていた美玲が手を挙げて意見があることを主張する。


「確かめいりんさんでしたわね。なんですの?」

「自分に指差すのはなしにしましょう」

「……なぜですの?」

「面白くないからです」


……それだけ?


「……まあ、いいでしょう。一票減るだけで結果は変わらないでしょうし」

「しかしだな」

「あら、セレナさんはご自分の票がないと自身がない、と」

「上等だ。ソーマ、分かってるな?」

「へっ?」


プレッシャーかけてきやがった。


「クロキソウマ、頭が悪いなりに空気は読みなさい」


こっちもか……

それにしても頭が悪いなりの空気の読み方ってなにさ。


「では、僭越ながらリンが音頭をとらせて頂きます。せーのっ!」

「え、待って……」


俺の心の準備が出来てないうちにそれぞれが他の人に指を差す。

俺がセレナかオリビアさんのどちらかを選べば角が立つ。

という逃げの思考をゼロコンマ一秒くらいで判断して俺の指先はそれ以外の美玲に向く。

その美玲の指先は俺の眼前にある。

そして残りの二人の指先はと言うと揃って美玲に向かって差し出されていた。


場の空気がなんとも言えないものになる。

リーダーをやりたがってた二人には一人の票も入らず、美玲には自分自身以外の三人の票が入った。つまりは満場一致で美玲に決まったわけだ。


「あら、リンがリーダーですか? そういう柄じゃないのでリンは辞退します。とゆーことで次点のご主人様がリーダーですね」

「はあっ?」


そして思いがけない美玲の発言についつい大きな声を発してしまう。


「いやいやいやそれはない」

「そうですわ。クロキソウマがリーダーなんて有り得ませんわ」


否定の声は俺よりも先に二人から発せられる。その言葉に傷ついたような、それでいて自分もそう思っているだけにいかんともし難い衝動に駆られる。


「でも、普通に考えてリンが辞退する以上ご主人様がリーダーになるのが適切な判断です」

「いや、だがしかしだな」

「それにリンがパーティーリーダーに相応しいと思う人はご主人様しかいません」


意志の強い瞳とはこのことだろうか。

それにしてもちょいとばかりこの娘は盲目的過ぎる気がする。そりゃあ、昔は学級委員とかになったこともあるが、このメンバーのリーダーなんて荷が重い。


「俺はやらない」


だからこそ自分の意思ははっきりと伝えておかなければあとあと面倒なことになりそうだ。


「それならば私がやってやろう」

「あら、あなたになんて任せられませんわ。ワタクシがリーダーをやります」


あれ?

この流れはもしや……


「お二人には無理です」


……違ったか。

ここで美玲も名乗り出れば、例のお約束が発動したのだが、異世界の人間には馴染みがなかった。


「どこが無理なんだ。私がやれば何の問題もない」

「いーえ、ワタクシがやりますわ」

「もう、お二人ではダメだと言ってますのに……こうなったらリンがやります」


しかし、幸か不幸か最後の一石が投じられてしまった。


「いやいや、そんなん言うなら俺がやるよ」


ここでこう言わなければ日本に生まれた意味がない。

だと言うのに、そんな俺を見つめる瞳には困惑と何言ってんのお前的な感情が込められている。

なんというか、挙げた手の虚しさったらないな。しかし、ここで俺はかかったとばかりにニヤリと笑みを零す美玲のことを見逃していた。


「どうぞ」


美玲のこの一言に羞恥により逃げ出したい衝動に覆われた心が救われた気持ちになる。


「いや、皆が名乗り出たから俺もノリで……」


ひとボケ済んでスッキリしたのでここで俺は引くはずだった。


「ご主人様、逃がしませんよ」


ぐわしっと肩を美玲に掴まれなければの話だ。


「逃がしませんってなんで?」

「ご主人様がリーダーにならないとまたあの二人が争ってしまうからです。そんなの面倒臭いだけじゃないですか」


俺の問いに美玲は二人に聞こえないような声量で自分の考えを俺に話す。

いや、言いたいことは分かるんだけどね。面倒臭いってもう少し言葉を選びましょうよ。


「それにセレナさんは方向音痴ですし、オリビアさんは無駄に偉そうですし、はっきり言ってリーダーを任せるのは現状で不安しかありません」

「それでも俺がやるよりはいいだろ」

「とゆーかあの二人は独裁を行う可能性がありますから嫌です」

「でもさ……」

「わかりました。なら暫定版としてご主人様がリーダーになりましょ? そして間を空けてもう一回リーダー決めを行う旨を二人に告げましょう」


なんでこの娘はこんな必死になってんの?


「つーか多数決で美玲になったんだから、お前がやればいいだろ?」

「どうせリンはご主人様に従うんですから結果的に変わりませんよ」

「それならそれで影の支配者ポジションの方がいいんだけど……」

「……それも悪くないですね。すいませーん。やっぱリーダーはリンがやります!」


切り替えはやっ!

あ、でも期せずしてパーティーの影の支配者の座をゲットだぜ。


「とゆーことでリンがパーティーリーダーで、ご主人様がそれを裏から操る真のリーダーになりましたので以後よろしくです」


なに言ってんのーっ!?


「真のリーダー……?」

「はいです。リンがリーダーをやって自分はそれを裏から操りたいとご主人様がおっしゃいましたので」


確かに似たようなことは言ったけどそこまで積極的ではなかったよね?

ほら、二人の視線が完全に調子に乗った馬鹿を見るように冷たくなっちゃったじゃん。


「馬鹿らしいですわ。そうまでしてパーティーでの地位に固執するんですのね」

「言ってやるな。色々可哀相な奴なんだ」


ついには可哀相な人間扱いまでされる始末。


「わかったわかった。パーティーリーダーはメーリンで影のリーダーがソーマだな」

「仕方ありませんわね。よろしくお願いしますわね、影のリーダーさん」


なんか馬鹿にされてるようにしか感じられないな。

斯くして俺はメンバー公認でパーティーの影のリーダーになった。

そして、オリビアさんを仲間に入れて初めての迷宮探索が始まる。



間隔が空きすぎなんてものじゃないですね…

投稿してた頃と今じゃ環境が違いすぎてなんともいえない心境です。

ショックなことに設定をまとめたデータが消えてました(泣)


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