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ギルドにて

ご都合主義です

ジャックと食事をしながらこの都市のことを聞いた。

要約すると

太古の昔、魔王率いる魔物たちが人間達を蹂躙していた。

それに対抗するために人は神に救いを求め、神が人に与える試練として迷宮を創った。

その最奥に至ればなんでも望みが叶う。


迷宮は世界中にいくつか創られたのだが、そのなかでもここ迷宮都市オースティアの迷宮は最大最難関と言われ、今だ踏破したものはいないとのことだ。

魔王率いる魔物たちに関しては他の迷宮を踏破した者たちによって倒されたらしい。

だったらここの迷宮は? と聞かれれば強くなるのに効率的で、なおかつ迷宮内で手に入れるものは高く売れるなどの探索する者にとっていいことづくめ。

俄然やる気が出てくる。

ちなみに踏破された迷宮は徐々に朽ちていく傾向にあり、今では迷宮探索といったら基本的にオースティアの迷宮でのことをいうらしい。


「……とまあね、こんなとこだね」

「勉強になったよ。サンキュー!」

「それじゃあね、会計してね、ギルドに行こうか」


ジャックが席を立ったので俺も立ち上がる。

そしてレジで支払いを済ませる。

この都市は中世ヨーロッパ的な町並みにも関わらず現代的な技術も多種多様に見受けられる。

先程の食事の会計の時にあったレジがひとつの例だ。

他にもいろいろあるが何より嬉しかったのは


「日本語っていいなぁ……」


そう、言語だけでなく文字も日本語なのだ。

ぶっちゃけヨーロッパ風な日本に暮らしているかのような感覚だといえば伝わるだろうか。

とはいっても歩いている人は普通ではない。

約半数の人が鎧やローブを着ていたり武器を携えており、また顔がわんわんと吠える動物なムキムキの人がいたり、耳が長く尖んがっている人や角が生えている人もいる。

よくできたコスプレのようにも見えるのだが、そうではない。

これがここの現実なのだ。

おら、なんかすっげぇワクワクしてきたぞ。


「何してんの? 行くよ」

「あっ、はい」


ジャックに促され後に続いて歩く。



数分ほど歩くと大きな建物が見えた。


「あそこがね、ギルドだよ」


ジャックが指差す先を見る。

建物の看板にはデカデカと

《探索者ギルド》

の文字が書かれている。

……よかったー。

実はジャックは悪い人間で俺を騙して裏路地に連れ込んで惨たらしい目に遇うことも予想してたからな。

無事についてほっとしてます。

ごめん、そしてありがとうジャック!


「んじゃね、私はこれでね、死なないようにね、気をつけてね」


そう言うとジャックは元来た道を戻って行く。


「ありがとうございました!」


その背中に向けて礼を述べると手を挙げて応えてくれた。

かっけぇ〜。練習しようかな、アレ。




ギルド内は広々としていた。

例えるなら市民体育館くらいだろうか。

そこには受付のようなものが五つ並んでいる。

またそれらとは離れたところに受付のようなものがあり、眼鏡をかけた爺が気持ち良さそうに眠っている。

また建物の中央には郵便局や銀行などにある記入用の台がある。

俺はとりあえず一番空いている受付に向かう。

つーか真ん中の受付が異常に混んでいて他が割と空いていた。

受付にいたのは妙に貫禄と圧迫感があるふくよかな中年女性だった。この女性を仮にマダムと呼ぶことにしよう。

マダムの横をちらりと見るとえらい美女が受付に座っている。

やたら並んでいるのはこの子目当てか!

……失敗した。俺もこっちにすれば良かった。


「おい、あんた。用件を言いな」

「す、すいません。ギルドに登録したいんですけど」

「あっちの記入台で必要事項書いて持ってきな」


マダムが先程見た記入用の台を指す。


「ありがとうございます、お姉さん」

「余計な世辞はいいからさっさと書いて持ってきな」


とマダムに追い払われながら記入台に向かう。

マダムめ、口ではぞんざいに扱いつつも表情は嬉しそうだったな。

これはもうお姉さんで推していくしかあるまい。


ギルド登録用紙と書かれた紙を一枚とペン(普通のボールペン)をとる。

なになに?

お名前

黒木相馬っと

年齢

25歳だね

探索者志望動機

ん〜難しいな。昔からなりたかったでいいか。

と、項目は三つか。

意外と少ないんだな。


書き上がったギルド登録用紙を持ってマダムのところに行く。

美女のとこに行きたいのは山々だが、並びすぎだよ。

待つのは嫌いではないが、別に好きでもない。どうせだったらすぐに済ませられる方がいい。


「お姉さんお待たせしました」

「別に待っちゃいないよ。ほら、よこしな」


マダムに用紙を渡すとマダムはパソコンのようなものに文字を打ち込む。


「次はこれに手を置きな」


差し出されたのは平べったいものだ。なんというか指紋認証の機械に似てる。本物見たことねえけど。

差し出されたそれに右手を置く。

すると微量の機械音が聞こえる。

何してんだろ?


「もういいよ。とりあえずギルド登録は完了だ。とは言ってもまだやることがあるけどもう少し時間がかかるからその間に簡単に説明してやる」

「よろしく、お姉さん」

「ギルドは探索者の登録からお金の預かり、引き出し、それから迷宮探索へ入るための報告のためにくることになる」

「迷宮探索の報告?」

「そう、迷宮に入るためにはいちいち受付に報告する必要がある。これは生存確認の意味合いが強い。それを終えた後はそっちの扉から迷宮の入口にいく」


マダムが俺の右手側の扉を指した。


「そんで迷宮から出た後で必要なのはあっち」


マダムが眠りこける爺のいる受付を指す。


「あそこで寝てる爺はアイテムの買い取りをやっている。ま、どれも定価だから賢い奴は高く買ってくれる商人に売ってるんだけどね。一応買い取りだけでなくアイテムの鑑定もやってるから何かわからないものがあったら持って行きな」

「了解です、お姉さん」

「そのお姉さんっての推し過ぎると馬鹿にされてる気分になるからもうやめな」

「ごめんなさい」


不快にさせてしまったか?


「別にいいよ。んじゃ、出来たみたいだからこれ着けな」


といって渡されたのは指輪だ。


「これは?」

「迷宮の指輪だよ。探索者ギルドに所属している証だ。いいからまずは着けな」


俺は指輪を嵌める。

右手の人差し指にちょうどの大きさだった。


「んじゃ、外してみな」


なぜに?

なんとゆうか無駄な時間を過ごしちゃったのだろうか。


「あれ?」


抜けない。

指輪が抜けないんですけど!


「とまあ、そのように基本的にもうその指輪は抜けないからね」


最初に言って欲しかった。

ちょっと焦ったじゃん。


「んじゃ、オープンって言ってみな」

「オープン」


言われた通りにやってみると



探索者ランク I

レベル1

HP 20/20

MP 16/20



と頭上に表示される。

よく見ればジャックのおかげなのか、えらく回復している。

とゆーか新たにレベルとランクが表示されている。


「探索者ランクとレベルが表示されたね? それはあんたの指輪に触れた人間に見せることができるからね。そんでレベルってのはあんたの強さの指標だ。迷宮でモンスターを倒すと経験値ってのがあんたに入って一定の量になるとレベルが上がる。迷宮の階層÷2の端数切り捨てが適性レベルって言われてるから参考にしな。んで、探索者ランクってのはあんたの探索者としての強さだね。レベルとは似てるようで違うからね。この探索者ランクによって納める税金の額が変わるからあとでこれを確認しな」


そう言ってマダムは分厚い本を俺に渡す。


「んで、今日はどうすんだい? とは言っても装備も何も整えてないみたいだし、やめとくかい?」

「できれば迷宮に入りたいんですけど……」

「死ぬかもしれないよ?」


マダムが言ってくるが先立つものがないのだ。装備を整えようにもどうしようもない。


「それでもです」


俺には神から与えられた特殊能力がある。

それさえあれば最初の方は多少の準備不足でもどうにかなるはずだ。


「わかった。迷宮探索の許可を出す」


マダムの言葉と共に一瞬指輪が光る。


「死なないように深入りはやめときな。あと餞別をやる」


そう言ってマダムはくたびれた袋と銅で出来た羽の飾りをくれた。


「これは?」

「魔法のかかったアイテムだよ。こっちの袋は重量無視で道具がなんでも各10個ずつ入る。んでこっちの羽飾りは迷宮から出るためのものさ。今回は必要ないだろうが、五階層ごとにある結界の敷かれた安全地帯で使えば地上に戻ってこれる。この銅の羽飾りだと二十五階層まで使えるからね。」


それは確かに迷宮探索の必需品と言えるだろう。


「ありがとうございます、お姉さん」


やべ、ついお姉さんって言っちゃった。

マダムを不機嫌にさせてしまったと思ったがマダムは優しい笑みで俺を見ている。


「そうやって素直なお世辞言ってくれる子なんて久しぶりだからね。いいかい、無理すんじゃないよ? 死にそうになったら一目散に逃げな。浅い階層のモンスターならついてこれないからね」


マダム……めっちゃいい人だ。


「んじゃ行ってきます」

「気をつけるんだよ」


マダムの心配混じりの激励を背に受けながら俺は初めての迷宮探索へと向かった。



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