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無駄な女の戦い(前編)


明くる日、喫茶店『ワシの店』にてその戦いの火蓋は切って落とされた。


「さあ、やって参りました。第一回どちらが頭をさげるのか争奪三本勝負。司会進行&問題出題、その他諸々はこの楊・美玲(ヤン・メイリン)が務めさせていただきます。なお、解説はこの人。リンのご主人様こと黒木相馬様です」

「よろしく」

「ついにはじまりますね? ご主人様はどちらが勝つと予想されますか?」

「正直、俺の口からはちょっと憚られます。それより二人に言いたいことがあります……俺のために争うのはやめてっ!」


結論から言えば、盛大にスベった。

場が妙にシーンとしている。

くそぅ、誰か突っ込むか何かのアクションを見せろよ。たったそれだけで大分救われるのに……


「ところであなた! えーとセ、ナンチャラさん。ちゃんと首は洗ってきましたの?」

「セレナだ。お前こそ覚悟はいいのか?」


やはりスルーされた。

HPは減っていないが、違う何かが減った気がする。

でもこんなことで泣かない! だって男の子だもん。

それにしても早くも火花がバチバチと散ってやがる。


「ワタクシの覚悟は一億年の昔からできていますわ。それよりワタクシはあなたに首を洗ってきたのかと聞いたのですわ!」

「私も覚悟は決めてきた」

「……別にそんなこと聞いてませんわ。ワタクシは首を洗ってきたかどうか聞いてますわ」

「だから……」


なんだこの話の噛み合ってない感は……

そんな風に考えていると不意にオリビアさんと初めて出会った時のことを思い出す。


「大丈夫。セレナはちゃんと首を洗って来てるよ。首筋からしっかりと石鹸のかほりがしたんで……」

「なっ!?」

「そう、それならいいですわ」


やはり、そのまんまの意味で聞いていたか。最初の耳の穴をかっぽじって的な流れの時とまったく一緒だ。

オリビアさん……なんとも難儀な人だ。


「……ソーマが私の匂いを嗅いでいたという若干気持ち悪い行為を働いていたことは置いておいて、最初の勝負はなんだ?」


あ、なんか変態扱いされてしまった。嘘も方便って言葉を知らんのか小娘……


「気になる最初の勝負は……ジャジャーン! 知力勝負です。勝負方法は簡単。リンの出す問題に先に正解を答えた方が勝者です。ただし、一度間違えたら相手が某か解答するまで答える権利はありません」


セレナの問い掛けに美玲が答え、勝負を説明する。


「ちゃんと公平な勝負にしてくださいな」

「そこはもちろんです。両者にとって多分不利益のない問題をご用意しました。ところでお二人共ルールは把握できましたか?」

「ああ」「いいですわ」


美玲の問い掛けに二人が頷く。

さて、一体美玲はどんな問題を出すのかな。実は俺もどんな問題が出るのか知らない。

つーか、この後どんな勝負をするつもりなのかもわからない。


「第一問!」


美玲が声を張り上げる。なぜか前傾姿勢で構えるセレナ、オリビアの両者。

つーか第一問って言った後の溜めが無駄に長い。ファイナルアンサー後の某司会者並に長いよ。視聴者はそんな無駄なものより早く先が聞きたいんだからね! 正解のCM跨ぎは更にいらつくから!


「……ご主人様の年齢はいくつ?」


美玲が問題を言い放つが、そのことで時が制止してしまう。

俺自身もそうきたかー! と驚いてしまった。


「な、なんですの、その問題は……」

「ソーマの年齢だと……」


なんか、すいません。


「そんなの、この女に対しての露骨なサービス問題ではありませんの?」


オリビアさんが憤慨する。

ま、当然だわな。

だけど……


「いえ、そんなことはありません。セレナさんはご主人様の年齢は知らないはずです。そして何より人間族の成長過程も知らないはずですから」


なぬ?

セレナは俺の年齢を知らないとは思っていたが、人間族の成長過程とはなんぞや?

って種族が違えば成長速度も多分違ってくるよな。

となると他の種族はどう成熟していっているのか調べる価値ありだな。


「むー……七十五?」

「違います。セレナさんはオリビアさんが答えるまで解答できません。それにしても平均寿命二百を超えて、若い時間の長い無知なダークエルフならではの解答ですね」


搾り出すようにセレナが解答するが、なんか見当違い過ぎてへこむ気にもならない。

つーか美玲の言葉から推察するにセレナが小娘どころか、見た目二十代の百歳超えたばあさんの可能性があるってことか? とゆーか若い時間が長いってどこの戦闘民族だよ。穏やかな心でブチ切れたら伝説の戦士になったりしないよね……

でも、美人だからいっかー。


「ふむ、確か人間族は竜族の三倍程の速度で成長していくんですわよね。見た目的にはワタクシとそう変わりありませんから、ワタクシの年齢を三で割って二十四ですわ」

「おしいですっ! 解答権がセレナさんに移ります」


んーと、オリビアさんが二十四に至った経緯を考えて、逆に三をかけてやるとオリビアさんの年齢になるわけだな……うぉっ、還暦を超えてらっしゃる。なんか、ショックと感動が同時に襲ってきた。

でも、美人だからいっかー(二回目)。


「二十四でおしいなら二十三だ」

「はい、違いまーす。オリビアさんに解答権移動です」

「二十五ですわ」

「はいはい大正解です。では正解したオリビアさんに10ポイントっ!」

「やりましたわ。10……ポイント?」

「えー伝えるのが遅くなりましたが、この三本勝負は二本先取で勝利ではなく、ポイント制です。頑張って多くのポイントを集めてください」


先取ではなくポイント制か。

でも、それって最後には一発逆転のチャンスとか言って桁外れなポイントが加算されるルールの布石みたいなもんだよね。

こりゃ前半にいくらポイントを稼いでも無駄だな……


「聞いてませんわっ!」

「はい、言ってません。とゆーか二本先取とも言ってませんけど……さて、それでは第二問。ご主人様とリンの絆の証である指輪型魔法具。これには黄色の魔法が込められています。その魔法とは?」


今度は溜めないんだ……

つーかこれってセレナへのサービス問題?

思いっきりセレナの前で手渡されたしな。それに迷宮攻略中にも幾度か使った。

これで同点かとも思ったのだが、当のセレナは首を捻って一生懸命思い出そうとしている。

正直その姿は軽く傷つくわー。


「黄色の魔法で指輪型。尚且つあなたがたの力と貧乏そうな顔を考えるとライトニングしかありえませんわ」

「正解です。10ポイント獲得」


またもオリビアさんの正解だ。

セレナはかなりのサービス問題を落としてしまったな。


「さて次の問題です」





その後第九問まで問題が続いた。

そしてそのどれもが俺に関係していたわけで……正直恥ずかしすぎる。

風呂でどこから洗うかとかどんな問題だよ。そーいうのは女性のものを聞くからいいのであって二十代中盤の大してかっこよくもない男のなんて知っても気持ち悪いだけだ。

いい加減耐えらんない。

しかも二人のポイントが80対10でセレナが大差で負けてるって何? セレナはそこまで俺に興味がないのかと無駄に傷ついたよ。

唯一正解した問題が、俺と同じ敷地内に住んでいる探索者ギルド受付の人気No.1な女性の名前って、俺の要素が少ない。ギルド受付No.1って時点で絶対オリビアさんもわかってたよ。僅差で勝っただけじゃん。

今日、来なきゃ良かった……


「では知力勝負最後の問題です。第十問、ご主人様の平常時の陰け……」

「それはさすがにアカーン!」


嫌な予感がして問題の途中で慌てて美玲の口を塞ぐ。

まったく一体どうやって情報を仕入れたというんだ。

この先を聞いたら俺は美玲と普通に接することができなくなる。いや、そもそも今までのも普通に考えてアウトかもしれない。

美玲が美少女じゃなかったら口封じにあまり語れないことをするか、逃走していただろう。


「美玲、お前を真正面から見られなくなりそうだから、これ以上俺を辱めないでくれ」


切実な声音で懇願する。


「も、申し訳ありません。さすがに問題にしていいものではなかったです。これはリンとご主人様だけの秘密でしたね」

「いやいや、その言い方だと『げへへー皆には内緒だぜ』って俺が見せたみてーじゃん。誤解を招くような発言はやめてー!」


せっかくの清純なイメージが、記憶にある忌まわしき姿の似合う存在になっちゃうよ。


「それで最終問題は?」


心底呆れたという顔でセレナが聞いてくる。


「そうですね〜。それではそれぞれが思うご主人様のいいところを言ってもらいましょうか。ポイントはご主人様がお付けになってください。ただ、あんまりあげ過ぎないでくださいね。公平にお願いします」


なんか別の意味で恥ずかしいのがきた。

でも二人がそれぞれ思う俺のいいところってのは聞いてみたい気がする。


「バッチコイ!」


心の準備は出来た。

例えどんないい感じの褒め言葉が来てもにやけ面にはならない。目指すべきはクールな男。

しかし、俺のそんな気持ちとは別に二人は口を開かずジロジロと俺を凝視している。

これはもしかして……


「俺のいいところって思いつかない……?」


これはマジで泣きそうだ。

人間誰しも取り柄はあるというが、俺にはそれがないと言うのか。いや、二人が見つけてないだけだ。なんだかんだ付き合いは短いからね。


「……カッコイイんじゃないかしら?」


オリビアさんがいかにも苦し紛れという感じで答える。


「0ポイント。俺程度がカッコイイなんておこがましい」

「……ですわよね」


肯定されるとそれはそれで腹立つ。

嘘でもそんなことはないって言って欲しかった。プラスしてワタクシの中ではトップクラスですとか言われたら50ポイントくらいあげてたっつーの!


「うーん、ソーマのいいところ……人間族にしてはましなところだな」

「10ポイント」


搾り出してそれか……

でもまあ、悪くもないからとりあえずって感じ。


「はい、それでは次の勝負に移りまーす。その前に現在のポイントはオリビアさんが80ポイント、セレナさんが20ポイントです」


こういう問題は普通思いつく限り何度でも解答可能だというのに、いかにも切り上げたというノリで美玲が問題を打ち切る。

俺もいたたまれない感じなので、延長希望は出さない。

現在、オリビアさんが大幅リードだ。

それにしても次の勝負は何だろう……

知力の次とくれば体力か?


「次の勝負は体力&魅力を競い合ってもらいます」


体力と魅力を競う。

そ、それってもしや……


「キャットファイト!? しかもポロリもあるよ下着マッチかよ!」

「違います」


俺の期待は無慈悲にも一瞬で否定されてしまう。

なんとも儚い夢だった。


「違います」

「……二回言わなくていいから。ちゃんと理解してるよ」


追い討ちとはやるな。


「次の勝負は閑古鳥の鳴くこの寂れたお店にお客様を連れて来る、です。要は客引きですね。制限時間は一時間で、一人につき20ポイント差し上げます。ただし、入店時に〇〇さんの紹介で来ましたって言わないと得点入りませんから」

「てか体力関係あんの?」

「客引きの基本は足です。それに人見知りの人間だとすれば他人に声をかけるだけで体力を使います」


なんか納得できない。

そもそも、


「セレナ達って人見知りなのか?」


そんな素振りは見た覚えがない。

かと言って誰にでも陽気に声をかけられる怪物(モンスター)の感じもなかったが……


「両者とも必要がなければ他者に声をかけないタイプですね。でも、自分自身が必要であると思えばどんなみみっちいことでも喋りかけるタイプです」


それはなんか納得だな。


「なんか馬鹿にされてないか?」

「侮辱は許しませんわよ」


二人が美玲の言葉に反応する。


「ともかく、ルールは把握できましたか? そして実はこの勝負のためにリンのよく利用する洋服屋さんに衣装を借りてきました。これを着れば魅力度五割増しは間違いなしです」


そう言って美玲は自身のアイテム袋から次々と服を取り出す。

その種類は美玲の着ているメイド服からチャイナ服っぽいものや神官の服など多種多様だ。

つーかコスプレ?


「こんなもの着なくともワタクシの魅力ひとつでこの店に行列を作ってやりますわ」


オリビアさんはそう言うと店を出ていく。


「私も着替えるのは面倒だから遠慮しておく」


セレナもまた着替えずに店を出ていった。

なんとももったいない……


「無駄になっちゃいましたね……」


そして後に残ったのは淋しそうな美玲と


「まあ、コーシーでも飲みなさい」


慰めるかのように美玲の前にそっとコーヒーを出すじい様と俺の三人。

仕方ない。俺も慰めてやるか……


「元気だせ。いつかその服達をあの二人に着せてやろうじゃないか」


普通に俺が見たい。

チャイナっぽい服のスリットから覗く足とか想像するだけでたまらん。


「ご主人様……」

「なーんか欲望が透けて見えるのぅ」

「黙れジジイ。俺にも飲み物だせ。コーヒー以外な」

「……前と同じのでええな」


それから幾分かまったりとした時間を過ごす。

他の客は来る気配もない。


「それにしても美玲の行く店ってそんな感じのがいっぱいあんの?」


少し気になったことを聞いてみる。

この世界にコスプレ専門の店があるとは驚きだったので場所を聞いて行ってみるのもいいかもしれない。


「はい、色んな趣味嗜好の服が取り揃えられてます。それに、防御力にも優れてるんですよ。リンのは下から数えた方が早いような安物ですけどね」


そんなフリフリヒラヒラのメイド服に防御力が存在していることにビックリだよ。

まあ、ジャージで迷宮に入って、これの防御力に助けられている俺が言うのもなんだけどな。


「ふーん。ナース服はある?」

「ナース……ですか? まあ、着ぐるみもありますけどお茄子は見かけたことはないかもしれません」


なんか微妙な話の齟齬が感じられるな。


「それにしても美玲ってメイド服買ってたんだな。どっかの屋敷に仕えてたときに支給されたんだと思ってた」

「リンはご主人様以外に仕えたことありませんよ?」


なるほど。仕えるべき主を探していたはぐれメイドが俺を理想の主人として見出だしたわけか。


「そもそもこのメイド服はリンの趣味ですし」

「…………マジで?」


驚愕の事実だ。

メイドかと思ったらただの趣味かよ。


「でも、この服を着ている時はリンはメイド以外の何者でもありません。ご主人様はリンに何でも命令していいんですよ?」


美玲が俺の瞳を見つめながら徐々に近づいてくる。

もういっそ体から沸き上がる衝動に身を任せちまうか。

なんて考えていると店の扉が開き、中へ人が入ってくる。

それはとても見慣れた人だった。


「リカちゃん?」


そう、入って来たのはリカちゃんに他ならなかった。


「いやー、通りでセレナんに声をかけられたもんで来ちった」


セレナめ、知り合いに声をかけるとはやりおる。


「ついでに連れてきたから」


リカちゃんがそう言うとその姿の後ろからセレナが入店してくる。


「あれ、まだ時間は残ってますよ? お客さんだけ呼び込めば戻って来なくても大丈夫ですよ?」


セレナの姿を見た美玲が声をかける。


「ば、場所がわからなくなったんだから仕方ないだろっ!」


セレナが声を荒立てる。

どうやら俺達は致命的なことを忘れていたらしい……



なるべく早く次話を投稿できるよう頑張ります

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