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十五階層へと至る道


「パーティー加入希望? 別に構わないぞ」


オリビアさんの一件を相談した時のセレナの反応はあっさりとしたものだった。


「マジで?」


その反応が意外だったので思わず聞き返してしまう。


「その女は竜族で、しかも二十階層まで到達しているのだろう? なら戦力的に問題はないだろ。それよりも次の探索のことなんだが、十五階層まで行ってみないか?」

「いやいやいや! 探索計画の前に本当にいいの?」

「なにがだ?」


不思議そうに聞き返してくるセレナ。


「だってセレナ、美玲(メイリン)の時はとりあえず反対してたじゃん」

「ああ、だけどメーリンはかなりよくやってくれてるからな。頭ごなしに否定するのも良くないと学習したんだ」


セレナは頑固かと思いきや、結構柔軟なんだよな……


「だとしても、会ったこともない相手を受け入れちゃっていいのかよ?」

「その言い方からすると反対して欲しいのか?」

「そういうわけじゃないけど……なんかこう、一悶着あるのかと期待半分、不安半分でやってきました」

「そうか、期待にも不安にも応えられなくて悪かったな」


まあ、話が早くて助かった。


「その人、オリビアって名前なんだけどそこそこな個性の持ち主だからね」

「フンッ、ストーカー女と馬鹿をパーティーメンバーに持つ私が並大抵の個性に動じることはない」


はっきりと言いやがりますね。

つーかひどいです。


「……その中に極度の方向音痴も付け加えておいてください」


皮肉混じりに反撃を開始する。


「んで、迷宮探索のことなんだが、今回の探索で十五階層まで行く。いいな?」


しかし、俺の反撃はあっさりとスルーされてしまう。いいんだ……所詮俺はこんな役回りさ。


「それはいくらなんでも急ぎ過ぎるだろ」

「戦力的には問題ない。メーリンは十五階層まで攻略しているし、私らのレベルも探索していくうちに上がる」


俺の発言にセレナが言い返す。

確かにセレナの言うことも最もだと思う。

深い階層へ行けば行くほど、得られる経験値も増えるし、モンスターが落とすアイテムも高価になっていくに違いない。

だけどそれに比例するようにモンスターが強くなるのは当たり前だし、迷宮の通路に隠された卑劣な罠なんかも出現してくる。

このように危険度が増していく迷宮に対して性急にことを進めていくことが正しいことなのだろうか。


「美玲はどう思う?」


ここで美玲の意見を聞いたのは、ただ単に上位の者の見解を知りたいというものではなく自分の意見を述べることから逃げただけなのはわかっていた。


「そうですね……本当はもう少し十一階層から出現するモンスター達との戦闘に慣れてもらいたい気持ちがあるんですが、セレナさんの意見に反対する材料も持ち合わせておりません」

「では、今回の探索で十五階層まで行くことに決定だな」


美玲が反対しなかったことで、セレナの言葉通りに十五階層まで行くことが決定した。



迷宮探索の方針を決めたあと、俺達は食料や装備などの準備に取り掛かる。

今までの迷宮探索とは違い、地図のない道を五階層も進むのは多大な時間と労力がかかるらしい。

探索の途中で食料が尽きたのか、戻って来ることのなかった人間の数は多いと聞く。

そのため、準備は食料を中心に荷物を揃えた。


「一応、半月ほどは迷宮に潜っていられるだけの食料は確保できましたね。だけど、食料が半分になった時点で十四階層に到達出来なければ戻りましょう」


美玲の言葉にセレナが頷く。

もちろん俺もその言葉に賛成だ。迷宮内でひもじい思いをしながら死んでいくのは嫌だしな。




その後、ギルドの受付を済ませ、俺達は再び迷宮の十一階層目にやってきた。


「消耗を出来るだけ抑えるために、無駄な戦闘はしないようにしましょう」

「無駄な戦闘?」

「戦う必要がないモンスターにわざわざ喧嘩を吹っかけるなということです。リン達が戦うべきは道中で通行の邪魔だと思えるモンスターだけです。よろしいですか?」

「ああ」「うっす」


確かにモンスターを見ると、とりあえず矢を射る女の方がいるしな。


「分かれ道が来たら、リンの祝福の一つである気配遮断で斥候しますから」

「へー、美玲の祝福ってそんなの持ってたんだ」


俺のとは大違いの役立ちそうなもん持ってるじゃねーかよ。

それにしても気配遮断って……


「なんかストーカーすんのに役立ちそうな祝福だな」

「ご主人様、役立ちそうではなく役立つんですよ? まあ、姿を見られた瞬間に効力は失いますがね」


そう言われて俺はどう答えればいいの?

つーか使ってんのね。どうりでいきなり背後から現れたように感じるわけだ。


「いちゃつくな」

「いちゃついてないって。そう言えばセレナの祝福ってどんなのあんの?」


迷宮探索の初期から一緒にいるけどいまだに見たことないんだよな。


「お前の前で幾度も使っているだろ?」

「嘘っ、知らないよ?」


あ、でもセレナに嘘をついた様子はない。

本当に使ってやがる。

いったい、いつの話だ?


「千枚通しと言う祝福でな、貫通力の強化だ。これがなければスタッグビートルの装甲を貫くのはしんどい。他にもホークアイと言う視力強化の祝福も持ってるぞ」

「弓のための祝福って感じだな」

「ホークアイに関してはそうかもな。だけど千枚通しは槍使いでも持ってたりするぞ。ところでソーマの祝福はどんなものがあるんだ?」


因果応報って奴か……だけど俺は二人に比べてかっちょわりい祝福しかないわけで、言うに言えない。


「リンも調べたけどわからなかったんですよね。教えてください」


うぅ……美玲まで純粋な瞳で俺を見つめてやがる。

仕方ない教えてやるか。


「俺の祝福は……モンスターが寄ってくる匂いを発することだ」

「それは……マジか?」

「イエス。美玲が匂いを辿って俺に行き着いたのも、この祝福のせいだ」

「す、素晴らしい祝福ですーっ!」


お、なんか美玲には好評だ。

セレナはなんか考え込んでるけど……


「そうか、どおりでモンスターとの遭遇率が高い気がしたわけだ」

「あ、うん。でも、ちゃんと祝福をオフにすることも出来るからね。現に今も切ってるから」

「へ? ああ、いいんじゃないか?」


意外と受け入れられた。


「クンクン……あの匂いはしませんね。なんか残念です。ご主人様の匂いが一般男性と同じになってしまいました……迷宮探索が終わったら元に戻してくださいね」

「う、うん……」


なんか、傷ついた。

俺の価値は後付けで得た匂いなのか?


「他は?」


セレナが尋ねてくる。

さて、他と来たか……俺の祝福は現在二つあり、一つは先ほど言った匂い発生だがもう一つは神様が話し掛けてくるとかいうわけのわからない物だ。

しかも、試練突破の時に使用されてからまったく音沙汰ない。


「今のところ祝福はこれだけだ」


とゆうことでなかったことにした。


「そうか……なんか隠してないか?」


うげっ、鋭いな。


「ダンディーな男には秘密が付きものさ」

「……気持ちが悪い」


渾身の決め顔だったのに反応が手厳しい。


「ふむ、ご主人様には秘密&謎がいっぱいですね。なんとも暴きがいがあります」


こっちの娘さんはなんか燃え上がってる。


「ま、まあ、話はそのくらいにしておこうぜ。敵だ」


会話に夢中になっていたため、接近に気づくのが遅れてしまった。

俺の言葉にセレナと美玲がそれぞれ自身の武器を構えた。




その後の探索は予定通り無駄な戦闘は避けながらゆっくりと進めていった。

地図もない迷宮を進む上で大切なのは勘と運、それと確かな方向感覚である。

そのことを鑑みると、うちのパーティーには絶対に当てにしてはならない人物が存在しているし残った二人のうちの片一方はもう一人に従順だ。

つまり進むべき道の選択は必然と俺がとることになった。

そして俺はシックスセンスと言ういわば勘に優れている。探索一日目にして十三階層目に辿り着き、二日目には十五階層へと到達したのは当然の帰結と言える。

残念なことにあまりに順調すぎて宝箱に巡り逢えなかったことは悔やまれるが、普通に考えて短い時間で十五階層まで踏破できたのは喜ぶべきことだ。十五階層は結界のある階層なので地図が存在する。あとは地図に従って進めばいいだけだ。

また、道中俺もセレナも一つずつレベルを上げることも出来た。これは当然と言えば当然のことではあるが、喜ばしいことに違いはない。

だと言うのに……


「「…………」」


後ろを歩く二人に見られてる。

なんか知らないけど見られちゃってるよ……

見つめてるとか艶っぽいものでは断じてなく、ただ見られてる。

それは例えば昆虫やあさがおの観察のごとき視線だと言える。


「……なに? なんなの?」


気になって尋ねてみる。


「……いえ」

「別に……」


俺が振り向くと同時に視線が逸らされる。

本当に一体どうしたと言うのだ。


「もしや、惚れたな?」


とりあえず茶化して空気を和ませてみるか。


「惚れてますけど?」

「ふざけるな馬鹿」


作戦は一応の成功をみせ、二人と視線が合う。


「んで、なんで俺を見てたわけ?」


そこでもう一度質問をぶつけてみる。


「リンは常にご主人様を見てますよ?」

「……君はそうかもね。でも視線の意味は違うよね?」

「特に意味はないです。確証がありませんから……」


確証?

なんの証拠を探してるっていうんだ……


「今回の探索は運が良かったなという話だ」


訝しむ俺にセレナが告げる。

そこでようやく二人の考えを推測することができた。

おそらくだが、あまりに順調過ぎることに不思議がっていたのだ。

通常の迷宮探索では迷宮に入る前の美玲の言葉にあるように長期の探索を前提として準備している。一日で一階層進めば順調どころか早いペースだと考えられている。

だと言うのに俺達は僅か二日で十五階層まで到達してしまった。

そこでルートを決定していた俺を見ていたのだと思う。だがしかし、現時点で言えばただ単に運がものすごく良かったで片付けられる事象なため言葉に出来ないということだろう。


「えーと、運が良かったんじゃなくて俺の勘が鋭かったんだよ」

「そうか……」


あれ?

俺としては自分の能力を明かした一言だったんだけど反応が薄いな。

もしかしてまた茶化したとか思われちゃったんじゃないだろうな。


「だ、か、ら〜! 俺は勘が鋭いのっ! それゆえに今回の探索は早く進むことができた。ドゥーユーアンダースタンドゥ?」

「おふざけはいいから進もうか。もうすぐ結界だ」


軽くスルーされてしまった。

うーん……もしかして俺の推測が間違ってたのかな。


「ちょっと待ってください」


そんなことを考えていると美玲が場に制止の声をかける。


「セレナさん、もっと真面目にご主人様の話を聞くべきです」

「話を聞こうにもソーマはすぐふざけるのだから仕方ないではないか」

「……ご主人様。先ほどの話、いつものアレな発言ですか?」

「いや、さっきの勘が云々はふざけてないよ。本当に俺は勘が鋭いんだ。あと、美玲。アレってなに?」

「ということです。今のご主人様がふざけている、または嘘をついているように見えますか?」

「ふむ……勘が鋭いで片付けていいものなのか?」

「そこはリンも疑問ですが、ご主人様がこう言っている以上、それで片付けてあげるのがベターな選択だと思います」


ようやく信じてもらえたみたいなのだが、


「ねえ、アレってなに?」


俺にも疑問が生まれてしまった。


「今までのことを振り返ればおのずと答えがでる。胸に手を当てて考えてみろ」

「え? いいんすか?」


マジかよ……結構大胆だな。


「この場合手を当てるだけじゃなく、揉んじゃっても事故だから」


一応予防線を張っておく。

そして俺の両手はセレナの胸の頂きに……


「お前はなにをしてるんだっ!」


触れなかった。

代わりにセレナの拳が頬にめり込む。


「ぐぴゃっ!」


奇怪な音を出して倒れてしまった。



HP 09/60

MP 24/60



減った。体力が減った。

しかもかなり危険区域に差し掛かってきた。

おかしいな、まだ20以上はあったはずなのに……


慌てて道具袋からポーションを取り出して飲む。

なんとか窮地は脱出したようだ。


「誰が私の胸に手を当てろと言った!」


セレナの怒声が響く。


「ご、ごめん……脳内で勝手に都合よく変換しちゃったみたいだ。でも、セレナも悪いんだぜ。そもそも俺の胸に手を当てろとも言われてないし」

「この状況でお前が触れていい胸は自分自身のもの以外ないだろ!」


ごもっともなお話です。

だからこそ、勇気を出して立ち向かったわけだがな。例え本当に触れていたとしても勘違いで済むあの状況は正直おいしかった。


「いやー勘違いしちゃった。メンゴ」

「勘が鋭いって自分で言った矢先に勘違いなんかするなっ! あと、謝罪にもっと誠意を込めろ」

「お二人ともそれくらいにしてください。あまりに騒ぐからモンスターが集まって来ちゃいました」


美玲の声に視線を移すとスタッグビートルやスライム、そして十三階層から出現していたホーホーというダチョウくらいの大きさの鶏のようなモンスターが群れをなして迫ってきていた。数は全部で十近い。


「やるの?」

「十五階層のモンスターとなるとリン的にはきついです」

「だろうな。では、一時退却だ」


幸運にも挟み撃ちではなかったために、モンスターのいない方へ全力で逃げた。


<教訓>

迷宮内での大声はやめましょう。


その後、かなり遠回りをしながらもなんとか結界内に辿り着くことができた。

結界内の魔法陣は一人ずつしか使えないので、セレナ、美玲、俺の順で使用することになった。

セレナが魔法陣を使って帰還した後、残ったのは俺と美玲の二人。


「ご主人様」

「ん?」


魔法陣を使うのは美玲の番ではあるのだが、美玲はすぐには魔法陣を使用しなかった。


「リンの胸にならいつでも手を当てていいですよ」


そう言い残すと美玲は逃げるように魔法陣へと入り、迷宮の外へと帰還していった。

見間違いでなければ、顔が赤かったようにも思える。


「美玲でも恥ずかしがるんだ……」


どこかで羞恥などないと思っていた美玲の意外な面を見て若干唖然としたが、よくよく考えれば彼女も年頃のお嬢さんなんだから当然だよなと納得する。

そして少し遅れながらも魔法陣の中に入り、


帰還(リターン)


と帰還の言葉を唱えた。



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