不法侵入しかない
無理矢理な感じも否めないかもしれません……
目を開けるとそこは荒野だった。
「ほんとに異世界に来たのか?」
自問自答をするが答えは出ない。
とりあえず確かめるためてみよう。
「唸れ、俺の右腕の加速装置!」
言葉を発したのはノリだ。
つーかよく考えたら荒野でやっても確かめようがないじゃん。
誰か他に人がいるのなら別だが……うん、人っ子一人いない。
……寂しい。
つーかさっきから気になるこれなんだろう。
俺は頭上にある物を見る。
HP 20/20
MP 18/20
なんかまるっきりRPGのあれなんだが、神様二次元っぽい世界とか言ってたよな。
これじゃまるっきり二次元だよ。
ありがとう?
まあ、これくらいの設定で良いか悪いかの判断はできねーしな。
とりあえずどこかにあるであろう迷宮とやらに行こう。
そう思って適当に歩きだす。
と、ジャージのスボンのポケットに違和感を感じる。
つーかこのジャージ、神様に改造されたんだっけな。メーカーもので動きやすく、気に入っているのだが、変なことにはなってないよな?
そう思い、一応見える範囲で確認したのだが、とりあえずなんともない。
確認が終わったところでポケットに手を突っ込み、違和感のもとを取り出してみる。
女性ものの下着だった……
「なぜ、あそこで俺はくだらないことを考えたんだ」
ものすごく反省している。
つーかこの下着未使用みたいだな。
なぜわかるのか?
普通新品かどうかなんて判断できるよね?
別にそうゆう趣味もってるわけじゃないんだからね。
「くっ……これがいったい何の役になるんだ。あのどスケベ豚のお茶野郎め……」
と嘆くのはこれくらいにして、MPが減ってるのは加速装置を使った影響だろうか。
装置なのに俺のエネルギーを使用するとは……生意気だな。
嘘だよ。
「やっぱリスクもないといかんよね」
俺が発する言葉に応える声はない。
やっぱ寂しい。
「早くどっか人のいるとこに行こっと」
そう呟くとまた適当に歩き出す。
方角は何となくだが、こっちの方がいい気がする。
歩き初めて数時間がたっただろうか。
とりあえず少しの休憩を挟みつつ、歩いてきたのだが日も暮れてきて、いい加減疲れてきた。
ここらでなんか野宿に最適な場所とかないもんか。
そう思い探して見ると大きな岩が見えた。
とりあえずあの岩に近づいてみよう。
「うん、そこそこでかいな」
1DKの部屋くらいならこの岩をくり抜いて作れそうだ。
そんな感想を抱きながら岩の周りをぐるりと回る。
と、何かに躓いて転んでしまう。
「いってー……なんだよ……ひぃっ!」
自分の躓いたものをよくよく観察して見れば、それは人の白骨化した遺体だ。
さ、殺人事件?
いや、多分ここで野垂れ死んだんだろう。
「俺もこうなるのかも知れないな……」
ビックリはしたのだが、それよりは自分も今後こうなってしまうかもしれないという恐怖の方が大きい。
それは、生々しい腐敗した死体ではなく、白骨だということが関係しているのだろう。
それにしても、人里までどれくらいあるのだろうか。
「ん?」
死体の側に何かを見つけた。
それは前の世界では全然関わりがなかったものだ。
「剣か……」
鞘に納まったそれを手にとって抜いてみる。
真っすぐな両刃の剣がその姿を現す。
いわゆるロングソードという奴だろうか。
この人死んでんだし、護身用に拝借しよう。
はっきり言ってただの盗っ人の行為ではあるが、致し方ない。
誰だって自分の身はかわいい。
「ごめんなさい」
謝って許されることではないかもしれない。
でも、言葉だけでもかけてあげたかった。
『別にもう使えないからいいんだけどね』
あれ?
どこからか声が聞こえたような……
見上げれば、そけには立派なヒゲを生やしたオッサンがいた。
ただひとつ違うのはその人が半透明っていうことだけ。
「誰?」
『な、お、お前……オレが見えるのか?』
このテンプレ的な反応は
「もしや、幽霊さんですか?」
『お、おお! そこで死んでるのがオレだ』
や、やっぱり……
幽霊って本当にいるんだー。
と数時間前までは自分も同じだったというのに、そんな感想を抱いてしまった。
この世界って幽霊が見える世界なのか?
でも、この人の反応を見るにそんなことはないっぽいな。
「えっと……死因とか聞いても?」
『餓死だ』
ああ、そうなんだ。
『くっそ、オースティアまであと少しというところだったのに……』
オースティア? 街の名前か?
「ちなみにそのオースティアまではあとどれくらいですか?」
『あん? そうだな……半日くらい歩けば着くかな』
そりゃ、あともう少しってとこだったな。
無念で成仏できないのもわかる気がする。
『ところで、お前さんにその剣をあげたわけだが……』
なんだ? 返せってか?
本人が出てきた以上仕方ないか……
そっとロングソードを死体の側に戻す。
『いや、違う違う。それはお前さんにやるよ。ただちょっとだけお願いを聞いてくれよ』
「なんですか?」
聞くだけはタダだ。
埋葬してくれとか、愛しのあの娘に恋文を渡してくれとかが一般的かな。
『その身体、少しだけ貸してくれないか?』
「なんか怖いっす」
『大丈夫。痛くないから』
そう言って実は痛いのがお約束だ。
つーかそもそも
「何のためにとり憑くんですか?」
『そ、そりゃあれよ。成仏する前に地面を踏む感触を記憶に焼き付けたいっていうささやかな願いだよ』
純粋な願いだし、叶えてやりたいものだ……それが本当のことならばな。
何か鼻が伸びてる。
これはあれだ神様にもらった能力が発動してる。
つまりは嘘をつかれている。
つーか、幽霊にも有効なんだな……
「本当はどう思ってるんですか?」
『いや、本当だって! 別に他意はないよ』
また伸びた。
やっぱり嘘なのか。
だとすれば少し揺さぶってやる。
「とか何とか言って俺の身体を乗っ取るつもりなんじゃないっすか?」
『ばばば馬鹿じゃないのか!? そそそんなこと考えてるわけないだろ』
動揺しすぎだ。
鼻も伸びてるから嘘だとわかるのだが、そうしなくてもこれはわかる。
「えっと、お断りします」
『な、なんだと?』
「いや、流石に乗っ取られるのは嫌なんで」
『チッ、ばれちゃあ仕方ないか。こうなったら実力行使で無理矢理奪わせてもらうっ!』
そうくんのっ?
いや、当然といえば当然か。
どうしよう……対抗手段がない。
『お前さんの身体、いただくぞっ!』
ヤバい……こうなったら
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」
十代の頃、先輩の修学旅行のネタ土産としていただいた般若心経をこれまたネタで覚えた俺はそれを唱えてみる。
はっきり言って異世界で通用するのか不安ではあるが、それ以外に選択肢が浮かばなかった。
『ぐっ……な、なんだこれは』
オッサンが苦しみだす。
効果ありだ。
よりいっそうの念を込めて唱える。
『く、くっそ……ようやくまた……』
オッサンは消えてしまった。
うーん……ちょっぴり罪悪感。
でも、乗っ取られたくないし、別にいいか。
名前くらい聞けば良かったかな……
一応オッサンはロングソードをくれるって言ったまま、消えちゃったから有り難くいただいておこう。
それにしても、なんで幽霊なんかが見えたんだ?
もしかして一回死んだことと関係あるのか?
それで霊感が……待てよ、霊感?
はっ! よく考えれば霊感もいわゆる第六感に分類されたりするじゃん。
もしかしてそのせい?
ヤベー……自ら進んで欲しちゃったよ……色んな霊とか見えるんだろうな。
ホラー映画とかはあんまり得意じゃないんだけどな。
剣を持って、その場から離れる。
流石にここで野宿するのは嫌だし、別の場所を探そう。
それから俺は別の少し小さめの岩を見つけてそこで野宿し、目が覚めるとまた、歩きだした。
疲れた。
非常に疲れた。
野宿したところから感覚に従って歩きはじめてから半日が経った。
その間こまめに休憩を挟んでいたが、空腹と疲労を覚えた辺りからHPとMPの両方が減ってきた。
今の俺のHPなどは
HP 12/20
MP 08/20
である。
MPの減りが著しい。
あのあと少し経ったらMPは回復したのだが、疲れにより減りだした時はHPを上回る勢いで減った。つまり、疲労は体力的よりも精神的にきていると考えていい。
回復するには休むのが1番だろうが、そんな場合ではない。
目の前に町らしきものが見えているからだ。
今まで人っ子ひとりいない荒野を進んで来たのだ。
いい加減誰かに会いたい。
故に疲労でへばっている場合ではないのだ。
心なしか軽くなった足取りで町を目指す。
俺の新たな人生の開幕だ。
「身分証がないものは通せない」
絶望した。
門番のごっついオッサンに町へ入ることを拒否された。
なぜ、なぜこんなことに……
町に入れなきゃ意味ないじゃん。
ほら、門のなかは大勢の人で溢れている。
触れ合いたい、もっと多くの人と触れ合いたい。
丸一日荒野を歩いた俺のテンションはおかしいことになっている。
かくなる上は……
門番から見えないところで出来るだけ近いところに移動し、腕輪に触れる。
そして門番がよそ見したところを見計らって
【加速】
世界が少しだけゆっくりになる。
そしてそのなかで俺は普段通りに動くことができる。
だとしても10倍ということは大したことができるわけではない。なので門番の隙をつき、全力疾走で門をすり抜け中へと入る。
そしてまた門番の視界に入らない場所に隠れて加速状態を解く。
「ぐおっ、いてえ……」
身体に無理な動きを強いるためなのか、身体にかかる負担が大きいみたいだ。
まあ、オリンピック選手よりもだいぶ速いからね。
動いてる途中からなんか痛いと思っていたが、解いたら更にきた。
だが便利。
俺はこのためなら多少の犠牲(痛み)は惜しまないぞ。
それにしてもと頭上を見る
HP 12/20
MP 03/20
HPは減っていないがやはりMPは減っている。
俺の体感時間でいうと加速装置使用十秒に1ずつMPを使用している感じだ。
まあ、こうゆうことは少しずつ慣れていこう。
とりあえず不法侵入は成った。
……だって身分証とか用意できるわけねえもん。
さあ、飯を食おう。
しまった……金がない。
俺は悩んでいた。
無論金のことである。
わりと一番大切なことではなかろうか。
くそっ、異世界にチートっぽい能力を持って行けるということに浮かれ過ぎてた。
何がギャルのパンティーだ。
こんな糞の役にも立たないもんよりも金、つまりはMONEYが必要だろうが
唯一といっていい持ち物を握りしめながら後悔する。
と、肩を叩かれる。
「なんだよ!」
自分の不甲斐なさにうちひしがれていた俺は若干ではあるが声を荒げる。
そこにいたのは武装したひょろりと背の高い優しそうな顔の兵士(男)だった。
「な、なにか?」
門番とのやりとりで言葉が通じるのはわかっているので尋ねてみた。
「私ね、この迷宮都市のね、警備兵なのよね。おたくね、もしかしてね、最近ここきた人?」
「イ、イエス」
不法侵入の件か?
ヤバいぞ……ばれてたのか。
「うんとね、最近ね、下着泥棒がね、出てんのさ」
……ん? 雲行きがなんだかおかしくなって
「とりあえず詰め所まで来てくれるかな?」
ある意味不法侵入よりも嫌な理由で連行されました。
「いやね、ごめんね」
「仕事なら仕方ないっすよ」
とある食堂にて件の兵士と飯を食っている。
あのあと運よく真犯人が捕まったという連絡が入り、なんとか切り抜けることができた。下着が未使用だったのも理由としてでかい。
まあ、そのあとのなんで女性用の下着を持っていたかの追求はめちゃくちゃ困ったので恋人へのプレゼントとありもしない嘘でごまかしておいた。
だが、いつかほんとに恋人を作ってやる。
それはそうとこの兵士、名前はジャック=リバーは顔の通りいい人だった。
間違いで捕まえたお詫びと称してこうして飯を奢ってくれている。
名前が某切り裂き魔とニアミスしているのがまたいいではないか。
「それはそうとね、君は迷宮探索にね、来たんだろ? どうだった?」
どうだった? と聞かれてもな。
「まだ行ってないんだ」
「そうか、それならね、今からね、探索者ギルドに行くんだね」
ギルド?
よくわからんがとりあえず頷いておけ。
「そっか……場所はね、わかるかい?」
こ、これは神の助けか?
「案内してくれないか?」
「いいよ。ご飯のあとにね、行こうか?」
「是非」
俺がそう言うとジャックは微笑んで頷いてくれる。
な、なんていい奴なんだ。
後光が見える。
俺達は会話を楽しみながら食事を続けた。
10倍の速度というと分かりやすく言えば全力疾走で100メートルを15秒で走ると仮定するならば、時速240キロで走れます。