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笑えない手紙


ふと、物音がしたような気がして目を覚ます。

周りを見回すが変わったところはない。いつも通りの綺麗に整頓されたTHE物置な風景だ。


「気のせいか……つーか今何時くらいなんだろ?」


この部屋には時計はないし、俺も持っていない。また、窓もないため時間を知る術はない。


「とりあえず風呂に入りたい」


服は神様の力で勝手に綺麗になるのだが、自分自身の体はそうはいかない。帰ってきて速攻で眠ってしまったので、はやく風呂に浸かりたかった。

起き上がって部屋から出ようとドアに手をかけた時、ちょっとした違和感に襲われる。

とは言ってもドアの隙間から紙のようなものが覗いているだけのことなのだが。

その紙を手に取ってみると『好きです好きです』とどっかで見たような筆跡で書かれている。


「どこだっけ?」


少し考えて帰ってきたときに発見した紙の存在を思い出す。まあ、そんなことはどうでもいい。どうせリカちゃんのいたずらだ。今は風呂だ。

そう思って俺は外にでる。

外は太陽が昇りきり、中天を過ぎた頃だった。大体6時間ほど眠ったのだろうななどと考えながらマダム宅の鍵を開けて入る。

基本的に自由に風呂などを使えるように俺はマダム宅の合い鍵を貰っている。しかもどうしても腹が減ってるなら家の中にある食材を勝手に調理して食べてもいいとまで言われているほどだ。

はっかり言ってかなり信頼されているというか信頼しすぎじゃね? と思わなくもないが、別に盗みを働くつもりもないし俺としても都合がいいことに違いないので有り難く今の立場を甘受している。

真っすぐ風呂場に向かうと一応誰も入っていないことを確かめてから中に入る。

最初はリカちゃんとの嬉し恥ずかしドッキリ遭遇とか夢想してたりもしたのだが、んなことになったら二度と家に入れないと言われているので細心の注意を払っている。


「ふい〜、あ〜〜〜」


バスタブに湯を張って浸かる。至福のひと時とはこの瞬間のことだ。


「たまらんっ! も〜タマランチ会長だっ!」


などとついくだらないことを口走ってしまう。

まあ、こんなことを言ってしまうくらい脳が緩んでいるってことだ。


「むむむっ?」


なにかを感じた気がして視線を上げる。すると換気用の窓が僅かばかり開いているのが見えた。


「はて? 開けたっけ……」


俺が入った時は閉まっていたような気がするのだが、見逃したのだろうか? わざわざ窓が開いているかいないかを確認して風呂に入るような真似をしていないので自信はない。まあ、開いてるのだから開けたのだろう。そう思ってその場は気にしないことにした。




「いやーええ湯でござんした」


頭を拭きながら物置へと戻ってくる。さっぱりした気持ちでドアに手をかけるとそこにはまたも紙片が挟まっているではないか。

抜き取って開いてみると『好きです好きです好きです』の文字が書かれている。起きた時に発見したものと同じ筆跡っぽい。つまりは同一人物だ。


「つーか増えてる」


なんか不気味だ。とゆーか今はリカちゃんはギルドでの仕事中でいないはずだ。つまりはリカちゃんのいたずらではない?


「も、もしやストーカーって奴?」


言ってて恥ずかしくなってきた。

つーか誰が俺をストーカーするんだよ。心当たりがまるでない。とゆーか俺ごときがストーカーされるわけがない。

ではこの紙はなんだという話になるのだが、俺がここに住んでいることはセレナでさえ知らないことだ。別に隠しているわけではないのだが、マダムとリカちゃん以外で知っている者は皆無と言っていい。

つまりは間違ってここに入れられた可能性がある。だってここは大変おモテになるリカちゃんの家だし、リカちゃん宛ての恋文(笑)がここに挟まれたと考えるのが自然ではないだろうか。


「うん、解決っ!」


はやく恋する少年もしくは青年。はたまたおっさんが間違いに気づくか、リカちゃんへ真っ向勝負をかけることを望む。

そんなことを考えながらその後は剣を振ったり、町をぶらついたりして過ごした。




それから数日が経った。

俺とセレナは試練には未だ挑まず十階層を中心にレベル上げを行っている。

と言うのも十階層の適正レベルは5であるにも関わらず俺のレベルが4のままで挑むのは不安だったからだ。

しかしそれも過去の話。今回で俺のレベルは無事に5となった。


「これで次回は試練に挑めるわけだな」

「まだ不安なんですけど……」

「そう言っていつまでも先延ばしにするわけにもいかんだろ。それにずっと言っているが、私と一緒に試練を受ける以上大丈夫だ」


俺としてはその無駄な自信がどこから沸き上がってくるのか是非とも知りたい。


「大体お前は普段おちゃらけてるのに、ビビり過ぎだ。それで慎重になるのはわかるが、それも過ぎると前に進めないぞ。何事もほどほどが丁度いい」


あなたは先走り過ぎですけどね。


「さて、今日と明日は体を休めて明後日に試練を受けよう。お前はそれまでにしっかりと覚悟を決めてこい」

「死ぬ覚悟?」

「馬鹿、不吉なことを言うな。私が言っているのは試練を受ける覚悟だ。当日ビビって駄々をこねても聞かないからな」

「善処します」

「便利な言葉だな」


呆れたようにセレナが言う。

そりゃそうだ。だからこそこの言葉を政治家などのお偉いさんが使うんですよ。

そしてセレナを宿まで送ってから、俺も帰ることにする。


「また、あるのかな……」


不安を口にする。

俺の不安と言うのは例のアレに他ならない。



「……あった」


物置のドアを見つめながら呟く。

そこにあるのはドアに挟まった複数の紙片。

そう、複数だ。

日を追うごとに数が増え、そして


「うわあ……」


紙を一枚抜き取って、折りたたまれたそれを開いて見てみる。

そこには相変わらずの『好きです』の文字が書いてあるのだが、その量はもはや尋常な数ではない。今ではA4の紙ほどの大きさに小説などの活字よりも更に小さな文字でびっしりと書かれている。

少し遠くから見ればそれはもはや黒い紙に見えることだろう。

はじめは恋する少年(青年もしくはおっさん)を応援していた俺ではあるが、もやはそんなことは露ほども思っちゃいない。

一途なのはいいが、こんなん嫌がらせ以外のなにものでもない。リカちゃん達の身の安全も考えてそれとなくストーカーには気をつけてなどと言ってはいるが、やはり犯人を捕まえねば危険だ。

こういう奴は物語的に「僕の物にならないなら君を殺して僕も死ぬ」とか言い出しそうだしな。

誰かに相談しようにも知り合いらしい知り合いもいないし、セレナに頼るのも男としてどうなんだと言うことなんで俺一人でどうにかしよう。

なあにストーカー少年(青年もしくはおっさん)ごとき俺一人でどうにか出来るだろう。

とゆーことで本日は隠れて物置のドアを寝ずの番をしながら見張ることにしよう。

紙が挟まれているのは絶対にドアだ。しかも毎日でなおかつ数時間に一回は確実に。

ならばここで張っていれば犯人は必ず姿を現す。そこを現行犯逮捕だ。

俺はそそくさと物陰に身を潜める。

さあ、犯人よ。いつでもきやがれ!!





朝になってしまった……

まさか一晩中見張ることになるとは思いもしなかった。

マジで寝ずの番をしたので超ねみぃ……

犯人は現れることはなかったのだが、叶わぬ恋と悟って諦めたのだろうか。

それならそれでいいことだとは思うのだが、だとすればタイミング悪いよ。せめてあと一日続けるか早くやめて欲しかった。

そうであったなら俺も一夜を無駄に過ごすことはなかったのに……

などと考えながら出勤するマダムとリカちゃんを物陰から見送る。これじゃあ客観的に見て俺がストーカーみたいだよ……

まあ、危険は去ったみたいだしとりあえず寝よう。

そう思って物陰から出て物置部屋に戻ろうとした時、ポケットから何かが落ちる。

それは最近よく目にするようになった物で、俺が眠らずに一晩過ごす原因となった物。

恐る恐る拾い上げて開くと見慣れてしまった筆跡で『好きです』という文字がびっしりと書かれている。とゆーか更に文字が細かくなってる。


「な、なんで俺のポケットに……」


そのことに驚愕しながらポケットをまさぐる。


「う、嘘……」


指に当たる感触にさらに戦慄せざるをえなかった。

それを握り、ポケットから取り出すとそこにはさきほどと同じような紙が大量に出てくる。


「どどどどどどうして!?」


思わず声を荒げてしまう。

そう一体いつ俺のポケットに入れたのだろうか。

いや……そうではない。

なぜ俺のポケットに入っているのか?

紙を一枚一枚開いて見てみる。

そこに書かれているのは『好きです』という言葉だけ。

そこが問題だ。

これがリカちゃんに宛てたものならば俺に渡す必要はない。それどころか『近づくな』と警告のようなものがあって然るべきだろう。友好的で恥ずかしがり屋な奴だとしたら『これをリカさんに渡してください』とかあってもいい。とにかく俺に『好きです』と書かれた紙を渡す必要性を感じないのだ。

とゆーことはつまり。俺は思い違いをしていたということだ。

これはリカちゃん宛ての物が間違って物置のドアに挟まれていたわけではなく……


「俺に宛てられた物……?」


一気に眠気が覚めてしまった。

紙に書くように俺に好意を持っているのかいたずらなのかはわからないが、こんなのを送ってくるというか俺に気づかれないようにポケットに入れるような男が俺を狙っているというのは事実だ。

どっちにしろ


「こ、怖い……」


よく考えれば、風呂の度に違和感を感じていたような気がする。あと、物置部屋に常になんとも言えないような違和感を感じている。それが何かはわからないがここに居ちゃいけない気がする。

俺はその場から走り出す。

とりあえず方角に見当はつけない。ただこの場から離れたかった。



走って辿り着いたのはよく見る建物の前。

正確にはセレナの宿泊する宿の前だ。

何故かここに来てしまった。

とりあえず中に入る。


「いらっしゃっ……おや、セレナちゃんのお迎えかい?」

「あ、いや。そうじゃなくて……セレナいます?」

「顔が青いけど大丈夫かい?」

「青春って感じですか?」

「どっちかというと青酸っ感じ」


毒?


「まあ、セレナちゃんなら部屋にいるよ」

「ども」


勝手知ったるなんとやらだ。

自分の泊まっている部屋さえ時々迷ってしまうセレナを部屋まで送り届けたこともあるためどの部屋にいるかもわかっている。

俺はその部屋の前まで行くと扉をノックする。


「はい」


中から凛としたセレナの声が聞こえて来る。


「助けてセレナえもん〜」

「帰れ」

「冷たい……」

「まったく、何の用だ?」


セレナがドアを開けてくれる。


「助けてくれ」

「本当に困ってるらしいな。とりあえず入れ」


セレナは俺を中へと招き入れる。

セレナの部屋はさして広いわけではなく、テーブルと椅子、そしてベッド以外には特になにもない簡素なものだ。


「そこの椅子にでも座れ。で、どうした?」

「あのな……」


ベッドに腰掛けたセレナに薦められるままに椅子に座り、ここへ来るに至った経緯を話す。証拠品として『好きです』と書かれた紙も見せた。


「ふむ……なるほどな」

「どうかお知恵をお貸しください」


セレナに頭を下げる。


「とは言ってもな……一晩張ってダメだったんだろ?」

「うん」

「それで気づかないうちに大量にポケットに入れられた、と」

「そうです」

「じゃあ、お前一人では手に負えないってことではないのか?」

「……そうかも」

「では、諦めて尻の心配でもしてろ」

「そんな殺生な!」


下げていた頭を上げて抗議の声を発する。とゆーかこの女、血も涙もないのか。

ちょっと前(前話)に女神だとか言ったの取り消しっ!


「とゆうのは半分冗談で、見ようとしてダメなら姿を見せざるを得ない状況を作るしかないだろ」

「どんなん?」

「さあ? 姿を見せないような奴は嫌いだとでも大声で喚いてみたらどうだ?」


な、なんて名案なんだ。


「そもそもお前はこの手紙を出したのは男だと思っているようだが女だという可能性

「よし、早速実行してくるっ!」

えっ? あっ、ちょっと待て! 人の話は最後まで……」


セレナの部屋から出て向かうのは宿の外。

そして外に出ると大きく息を吸い込む。


「俺はこそこそ隠れる奴は嫌いだっ! 手紙なんてもんに頼らず、堂々と出てこいや〜!」


来るなら来いっ!

俺の尻の貞操は何人たりとも許しはしないっ!



くだらない駄洒落とかは流し読みしてください……


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