八階層到達
六階層での最初の戦闘が終わり、進みはじめてから程なくして魔法を見る機会は訪れた。
相手は蝙蝠型のモンスター、デビルバットとやらが二体だ。
「よしっ、ではやってみせるからな」
「えっと…片方俺がやった方がいい?」
「いや、いらん」
そう言うとセレナは先程見せてくれた指輪を嵌めている左手をデビルバットに向けて掲げる。
すると指輪が緑色に光を放つ。
「ウインドスラストっ!」
セレナがそう言い放つとデビルバットの一体が不可視の刃で切り裂かれていく。
これが魔法なのか……
なんとゆうか
「おもしろくない……」
ついつい本音を呟いてしまう。
切り裂かれてるのは解るけど過程が全く見えない。
魔法の名前から風の刃とかなんだろうけど見えないもんは見えない。
おっかしいなー、ゲームとかだと緑色の刃みたいなもんが見えるんだけどな。
所詮は空気か。これなら炎系の魔法の方が迫力もあるし、わかりやすくていいんだけどなぁ。まあ、持ってないもんをどうこう言っても仕方ないけどね。
そうこう考えているうちにデビルバットの一体は光になって消える。
「あと、一体」
セレナは左手をもう一体に向ける。
「ウインドスラストっ!」
そしてまた同じように唱える。
どうやらウインドスラストの攻撃対象は単体のみみたいだな。
そしてまた、見えない刃に切り刻まれてデビルバットは光になる。
「ふぅ……どうだ?」
一仕事終えたセレナが俺に感想を求めてくるがどうするべきだ?
とりあえず褒める? それとも本心を話す?
いや、そんなの決まっている。
「すげーよ。これが魔法なんだなっ!」
好感度アップのためにはこっちしか選択肢がないだろ。
「これは魔力を注ぐタイプの魔法具でも最下級のもので安物なんだが、こんなものでそこまではしゃげるとはな」
呆れるようにセレナが言うが、どこか嬉しそうでもある。
俺の選択は正解を選んだみたいだな。
それにしても、安物ってことは俺にも買えんのかな。
「ちなみにおいくら万円ですか?」
「円? これは10万Rだ」
高っ! 魔法具高っ!
今の俺じゃ全く手が出ねーよ。
「フッ…お前が魔法具を買うためには、まず借金を返さなきゃな」
「ごもっともです」
俺はセレナからだけではなく、実はマダム達からも借金をしている。
ここだけ聞くとなんか駄目人間っぽいな。
「それに、魔法具がなくても神様の祝福を受けていれば魔法に似た奇跡を使うことができる」
「どゆこと?」
「繰り返すようだが、祝福を受けた神様や祝福のレベルによっては魔法具などに頼らずとも魔法に似たものを使えるようになることもあるんだ。ただ、全ての祝福がそうであるとは限らない。中にはただひたすらに身体の筋力を強化する祝福もあると聞く」
……ああ、祝福の隣に(レベル1)とかあったもんなぁ〜。それにしても俺の持つ神様の祝福で魔法のような力を使えるようになるんだろうか?
どっちかというと限らない方のカテゴリーに含まれてそうだ。
「ちなみにセレナは祝福で魔法みたいなことできんの?」
「いや、私の祝福はレベル1ではそういうことはできないみたいだ。まあ、そのうち祝福のレベルが上がれば使えることも出来るだろう」
「確か使えば使うほど力を増すんだっけ?」
「確かにそうではあるが、やはりモンスターを倒して経験値を得ていくことが大事だ」
「ん? でもギルド指南書には……」
「間違っているとは言っていない。ただ、使うだけで上がるレベルなど高が知れていると言ったのだ。まあ、戦わないものには過ぎたる力でもあるからな。迷宮探索者以外には身体能力の向上だけでも十分過ぎるくらいだ」
にゃるほどね。
まあ、確かに誰もが受けることができる祝福がただ使うだけで強力になるのだったら苦労はしない。
力を求めるならそれなりの代償も必要だということだろう。
この場合の代償とは無論命を賭けた戦いという意味だ。
「そんなことよりもほらっ」
そう言ってセレナがデビルバットを倒してドロップした白の魔石のひとつを投げてよこす。
それをキャッチして道具袋にいれる。
これで俺の道具袋に入っている白の魔石(小)は8つ。あと2つで道具袋の限界だ。
「またこれだけか?」
「いや、違う」
そう言ってセレナは何か拾うと俺に見せてくる。それはなんかの羽みたいなものだった。とゆーかこの場合の羽って
「蝙蝠の羽だよね?」
「だな」
セレナは自分の道具袋にそれを入れる。そしてそのまま道具袋に手を入れてアイテム名の確認を行っている。ここらへんこの道具袋は便利なんだよな。
「あっ、おしい。さっきのアイテムは蝙蝠の羽ではなく、蝙蝠の翼という名前みたいだぞ」
ぶっちゃけどっちも変わらないと思うのは俺だけ?
まあ、とにかく新モンスターにおいてはじめて白の魔石以外のアイテムをゲットしたってことだ。
その後の六階層の攻略も概ね問題なく進んでいった。そして3時間ほどで七階層に辿りつき、4時間ほどの探索で八階層へと至る階段をほとんど問題なく見つけることができた。
さて、ここで概ねとかほとんどとか曖昧にした部分の問題を説明するとしよう。
と言っても本当に大したことはない。
ただ単にデビルバットに俺の攻撃が当たらず、一体も倒せなかったというだけの話だ。
さすがに凹む。まさか、繰り出す攻撃のことごとくを回避されるとは思わなかった。
奴の回避力は鬼だ。俺の剣戟の命中力が低いということも考えられるが、この際そこには目をつぶろう。
おかげでセレナはデビルバットを全て担当し、俺がノコノコを倒すときには臨機応変に動くという労働を強いることになってしまった。
もちろん俺だってデビルバットに性懲りもなく立ち向かうのだが、囮役としてしか役に立っていない。
倒すモンスターの数は5:3くらいの比率なのだからセレナの方が負担なのは言うまでもないだろう。
見ればセレナも大分疲労を覚えているようだ。
「休憩を入れよう」
「そう、だな……」
俺の提案にセレナも頷く。
俺はセレナの頭上を見る。
HP 13/32
MP 15/41
続けて自分の頭上を見る
HP 19/30
MP 14/30
HPは何もモンスターの攻撃を受ければ減ると言うわけではない。
空腹を感じてもHPは減るし、MPも疲れを感じれば全くMPを使う行為をせずとも減る。
厄介といえば厄介な話だ。
連戦を重ねた俺達は、まだポーションなどに余裕はあるのだが、疲労という意味では結構キテいた。
「迷宮に入ってから大分経つし、ここらで大休止も必要じゃないか?」
「確かにな……でも適切な場所がない」
「それなら八階層によさ気な場所を見つけてある」
「ほう、どこだ?」
俺が八階層の地図を広げるとセレナがそれを覗きこんでくる。
「ここ」
地図のある一点を指す。
九階層へと至る階段とは真逆とはいかないまでも少々遠回りとなるが、部屋のようになった空間だ。
ここなら入口のみに気を張っていれば問題はない。
「ふむ、問題はないようだ。では、ここを目指すとしよう」
そう言って立ち上がろうとするセレナの腕を掴む。
「なんだ?」
「いや、今は休憩中でしょ? 急いては事を仕損じると言うし、休める時は休もう。目的地までは少なく見積もっても1、2時間はかかる」
モンスターの数によってはどれほどの時間がかかるかわからない。
一応祝福はオフにしておく。
出来ればオンにしておきたいが、モンスターの遭遇率は下げておきたいので致し方ない。
「……わかった」
俺の言葉にセレナも納得してくれた。
少しの休憩を挟んだあと、俺達は八階層へと歩みを進めた。
セレナの話ではここから出てくるモンスターの種類が増えるらしい。
しかし、運がいいのか悪いのか、俺達はノコノコとデビルバットに数回遭遇しただけで目的地へと到着することができた。
「3時間交代で見張りをしつつ休もう」
セレナからそう提案されたのは当然と言えば当然だ。
いくら迷宮に入る前に購入した休息用の簡易結界があるとしても二人同時に眠りこけるのは避けなければいけない。
というのも万が一結界の効果が切れてしまった時に目を覚ましていなかったりしたら、それはもう恐ろしいことになるからだ。
具体的にはモンスターに襲われることもそうだが、何より迷宮に飲み込まれる恐れがある。
アイテムが袋の許容量を超えて、やむを得ず拾わないままにして残した場合、時間が経過すると迷宮に飲み込まれて消えてしまう。それと同じことが眠りにより微動だにしない俺達にも起こる可能性があるのだ。
それを防いでくれるのが結界なのだが、長い休息をとるときは気をつけなければならない。
「んじゃ、セレナが先に休みな」
結界を敷いた上に座りながらセレナに言う。
「いいのか?」
「無問題」
「そうか、では3時間後に起こせ」
そう言うとセレナは俺に懐中時計のような物を投げて寄越したのち、横になって眠りにつく。
手っ取り早く回復するためにはやっぱり睡眠が1番なのだ。
なので迷宮探索者は寝ようと思ったときにすぐ眠れることが必須のスキルであると言われている。
「それにしても……」
ついつい喉が鳴る。
無防備に背中を見せて眠るセレナ。
なんというか……たまらん。
襲ったらどうなんだと俺の頭の中の悪魔が囁く。
待て待て待て、まだ眠りが浅いはずだ。
って眠りが浅いとかじゃなくて襲うこと自体がダメですから、と頭の中の天使が悪魔に対抗しているが、かなり危うい。
とゆーか女性の寝姿を見ながら悶々とするなんて十代の女を知らない頃に戻ったみたいだ。
落ち着け俺。
ふと時計を見てみると早くも1時間が経過していた。
つーか時間経つの早いよ!
どんだけ悶々としてんだよ。
それにしても、こうも容易く俺のそばで眠られるとわりと確かな信頼関係が築けているのかなと嬉しく思える。
最初は人間族ごときとか色々言われていたのだが、頼られている部分もある(主に方向音痴の補完として)
信頼していない相手に背中を預けるなんて有り得ない。パーティーを組むに当たって信頼関係というのは大事なのだ。
その点で言えば俺もセレナには信頼をよせている。
そこによこしまな感情が一切ないとか聖人ぶったことを言うつもりはない。
だけど、もはや仲間としてセレナという存在は外せない。
俺だけがこう思ってるのかもしれないので、出来るだけセレナの意向に添う形で迷宮探索を続けていくしかない。
戦いに関して大した能力も技術も持たない俺がセレナに戦力外通告を出される可能性もあるが、出来ればセレナとは末永く一緒にやっていきたいものだ。
「う〜ん……」
セレナが寝返りを打つ。それによって顔がこちらを向いた。
普段は凛とした美人である彼女も寝顔はあどけない。
こんな風に彼女の寝顔を見た男が何人いるのだろうか。
つーかこうやってセレナの寝顔を見ていると、入れてはいけないやる気スイッチがオンになってしまいそうなので顔を背ける。
とりあえず落ち着こう。
「あ〜、ヤニが欲しい……」
ヘビースモーカーというわけではないが、喫煙者だった俺は、この世界に来て意図せずに禁煙をしている。
まあ、購入する金がないのもあるのだが、何よりタバコがないのだ。
もちろん煙管や葉巻といった物は存在するのだが、俺の中ではタバコと言えば紙巻きタバコである。
やっぱ〇イルド7とかキャ〇ンじゃないとダメだ。
値上がりを機に止めようかとも思ったが、結局止められなかった。
この世界に来て一月も経っていないが、吸いたいと思う場面は多々ある。
「この際、葉巻に手を出してみようかな」
製造技術が拙いのか、雑貨屋で見たかぎり葉巻は安いもので一本5000Rと前の世界から考えるとお高い。
タバコなんぞは完全に嗜好品であるため、必要でないと言えばそこまでなのだが、自分へのご褒美としていつか買ってやろう。
そんなことを考えながら時間を過ごしていった。
相変わらず分かりづらい文章ですみません……