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少しはためらったよね?

俺が人として何かを失った翌日の早朝。

俺はセレナが宿泊する宿に来ていた。

大丈夫と言いつつも大丈夫じゃない彼女のことだ、今日も迷子になるに決まっている。

故に迎えに来て損はない。

待ち合わせの時間まではまだ1時間以上あるのだが、アポイントなしに来たのだからこれくらいの余裕はみとかなきゃいけない。


待つこと10分ほどでセレナが宿から出てくる。


「おはよう」

「! 来たのか。大丈夫だって言ったのに……」

「うん、でも一応ね」

「はあ……心配性だな。子供ではないのだからそう何度も同じ過ちを繰り返すわけあるまい」


子供の方がもっと学習能力はあります。


「んじゃ、ギルドに行こう」

「待て待て」


セレナを先導して歩きだそうとしたところで止められてしまう。

一体なんだというのだろうか。


「どうしたんだ?」

「今日はまず買い物に行こう」


これはひょっとしてデートのお誘い?

ヤバい……今はちょっと持ち合わせがない。

この間下着(男もの)を買ってしまってすっからかんだ。


「いや、また別の機会に……」

「私達もいい加減、下の階層に行くべきだからな。そのための準備をしなければ」


あ……そゆことですか。

そりゃそうだ。

なんでセレナが俺ごときをデートに誘わにゃならん。

この美貌だったらより取り見取りだ。

俺がこのクラスの女性を落とすには財力が必要だ。

今のど貧乏な俺なんて誰も相手にしてくれないに決まってる。


「何をブツブツ言ってるんだ?」

「あ、いや、なんでもない」

「そうか。では行こう」

「ちょ、ちょっと! 俺金ねーんだけど……」

「お前になら十日に一割の利息で貸してやってもいいぞ」


それは暴利だと誰か教えてやってー。


「フフ……冗談だ。利息なしで貸してやる」


まあ、俺もそれくらいはわかっている。

とゆーか俺の眼はこんな軽いジョークにも能力を発現するのか。


「あざーす」


とりあえずセレナに礼を言っておく。

本当はまだ下の階層に行くという覚悟は決まっていないのだが、セレナが行くと言った以上従うしかない。

このままだと俺はずっと下の階層に行く覚悟が決まらんかもしれないしな。

他人の意見に流されるなんてよくあることだ。



雑貨屋にてポーションと携帯食料、その他数点の道具を買い込んで準備を整えた。

場合によっては迷宮内で睡眠をとることもあるのだ。準備は怠れない。

ちなみにどうやって眠るのかというと休息用の簡易結界が一枚1000Rで売っているのだ。

これを敷いて、その上に眠ればモンスターは人を知覚できないし、近寄ってこなくなる。

ただ、地面に敷いて固定しなきゃ発動しないし、効果時間は6時間ほどなのに使い捨てなので費用が嵩む。これを三枚。

合計で1万R近くセレナから借金してしまった。

借金は嫌だが、貰ってるわけではないのでセレナのヒモではないというのが唯一の救いって奴か。

さっさと返さないとな。




いつもの如く人が並んでいないマダムの受付で迷宮探索の許可を貰い、迷宮内に入った。

迷宮の五階層に関しては隅々まで踏破しているので、下へ向かう階段の場所などはわかっている。


俺はセレナの手を握ってパーティー登録をする。

この瞬間は物凄い役得だ。

いつまでも手を握っていたいが、そうもいかない。


さあ、気を引き締めて頑張ろう。

とは言っても下への階段は結界からそう遠いところにあるわけでもない。

少しの時間で階段に着いたのだが、その間にホーンラビット(角の生えた兎型のモンスターでセレナに名前を教えてもらった)4体、ゴブリン5体、キラー・ビー4体と距離と時間のわりにモンスターとの遭遇率が高い。

…………ん? そういえば効率がいいと思って祝福をオンにしてたな。

どうしようかな。

とりあえずこのままいこう。

敵と遭遇すればその分経験値とドロップアイテムが手に入る。

もうお腹いっぱいってなったらオフにすればいいんだ。

そう考えながら階段を降りていく。


いよいよ俺達にとっては未知の領域である六階層に足を踏み入れた。



「やはり構造は変わらないんだな」


六階層もこれまでと造りは一緒だ。


「だけどこの階層から出現するモンスターが変わる。気をつけろよ」


五階層ごとに結界があるように、モンスターも五階層ごとに変わる。

より強力に、より凶暴に。

だから注意しなければならない。

地図を広げながら迷宮を進んで行く。

程なくして二体のモンスターに出くわした。

一体は蝙蝠のようなモンスター。

そしてもう一体はでかいキノコのようなモンスターだ。

今まで複数現れることはあったが、違う種類のモンスターが同時に現れたのは初めてだ。


「デビルバットとノコノコか。デビルバットは私が引き受けたから、お前はノコノコを頼む」


名前の雰囲気から俺が任されたのはキノコの方だろう。

よくあるRPGなんかでは森とかで出くわす雑魚の定番みたいな存在だが、油断できない。

でも、攻撃に幅というものがない俺は、とりあえず近づいて斬りかかるしかない。


「ちょいやっさー!」


掛け声が変なのはご愛敬。

ただいましっくりくるのを模索中である。


俺の攻撃はノコノコとやらに当たりはしたが浅い。

こやつ、キノコの分際で回避行動とかとりやがる。


「ノコッ」


安直な声出しやがって。

カットマッシュルームみたいにしてやんよ。

今度は横凪ぎに剣を振るう。

まあ、剣を振るというよりも、野球のバッティングに近い。ちなみに右打席。

しかしこれも浅い。


「ノ〜コッ!」


ノコノコの攻撃はただの体当たりだ。

普通なら避けることも可能なほど単調なそれは俺の攻撃をかわしたあとの隙に行われたため、当たってしまった。

いわゆるカウンターってやつ。


「つあっ」


ノコノコの攻撃が右腕に当たった。

普通に痛いが、剣を振れないほどじゃない。

ノコノコにお返しとばかりに剣を振る。

テニスでいうバックハンドだね。

野球だと持ち手が逆だから。


この攻撃は相手を鋭く切り裂いたのだが、倒すには至らなかった。

だが、あと一撃もあれば倒せるだろう。

俺が更なる追撃をかけようとしたとき、ノコノコの様子が変わる。

なんと体を震えさせたのだ。

別に俺が強くて恐怖を抱いたとかそんなことはありえない。

その証拠になんか体から赤っぽい粉みたいなのが出てきた。

何だろコレ……って多分、胞子だよね!?

ヤバ……ちょっと吸っちゃった。

毒? 俺、毒状態? ステータス緑ってる?

慌ててノコノコから離れて自分の状態を確認する。

でも別に吐き気とか眩暈はしない。

遅効性のものか?

とりあえずあらかじめ買っといた毒消しを飲んでおこう。

そう思って道具袋に手を入れようとするが、急に目が霞む。

だが、やはり吐き気とかその他諸々、毒にかかった症状としてよく聞くようなものはない。

しかし何と言うか……


「眠い……」


今にでも眠りそうだ。

そういや、状態異常は毒だけじゃなくて、眠りってのもあるんだったな……

こうゆうときはアレ?

自分に刃を突き立てて眠気を吹っ飛ばしたりする感じ?

だけど、自傷癖反対。

……もういいや。

このままこの眠気に身を委ねよう。

あとはセレナに任せる。

セレナならきっとなんとかしてくれるはずだ(期待に満ちた顔)

んじゃ……おやす、みっ!

突然左肩に激痛が走る。

肩を見れば矢が刺さってる。

え? これって……

ちらりと後方を見る。


「眠気は飛んだか?」

「……おかげさまで」


吹っ飛んで、どっか行っちゃいました。

味方に撃たれるなんて予想外過ぎる。

つーか躊躇とかありました?

起こすのならもっと優しくソフトにしてほしかった。

具体的にいうと、俺がガキの頃発売されて今なお新作が発売されたりしてる携帯型ゲームでモンスターを集めて育てるやつのようにならんのか。

あれってシリーズの赤緑青黄は通行の邪魔になってるモンスターを笛で起こすんだぜ?

まあ、なぜかそのあと寝ぼけたモンスターとの戦闘になるのだが……

とにかく


「味方を撃つなんて酷い」

「相手の容赦ない攻撃で起きるか永遠に目覚めないかよりはマシだろう?」


……そりゃ確かに。

よく考えたら敵の目の前で眠るなんて格好の的だ。

なのに簡単に意識を手放して眠ろうとするとは、どうやら眠くて頭の回転が疎かになっていたらしい。


「……助かった」

「いや、いいさ。それよりさっさとあいつを片付けろ」

「ういっす」


つーてもどうすっかな……

ノコノコの胞子を撒く行為はまだ続いてる。

近づくのはナンセンスなのだが……ここはあえて行くっ!

剣を相手を突くように構える。

深呼吸を一回。

そしてまた、今度は大きく息を吸って、止める。

胞子を吸い込まないようにするための浅はかな知恵。

そのまま俺はノコノコに向かって突進した。


ああやって胞子を出してる間は一歩(足はないが)も動いていない。

モンスターなんて何かしらの弱点があってしかるべきだ。

恐らくは、動いていないのではなく動けないのではないか。

推測の領域を出ない話ではあるのだが、ひとつ賭けてみることにした。後ろにはセレナもいるしな。

俺は走る勢いをそのままにノコノコを突き刺した。


断末魔の悲鳴もなくノコノコは俺の剣の先で光となって消えた。

あとに残ったのはお馴染みの白の魔石(小)のみ。

モンスターが変わってもコレかよ……


セレナの方を見ると、弓を仕舞いながらこちらに歩いてきていた。

いつの間にか蝙蝠型のモンスターは倒していたらしい。


「フム……そちらも白の魔石のみか」

「そちらもってことはセレナの方も?」

「ああ……白の魔石(小)だ。これはお互いにひとつずつ取るでいいな?」

「ああ、問題ない。……それにしても、これ何に使うんだよ」


モンスターを倒して一番お目にかかるこのアイテムなのだが、用途が全くわからない。

しかも安いし……


「これを何に使うのかって……まさか、知らないのか?」


すごく意外なものを見たという顔でセレナに見つめられた。


「うん、知らない」


肩に刺さった矢を抜きながら正直に言う。

ついでに白の魔石を道具袋に入れて、代わりにポーションを取り出して飲む。

すると体が淡く光り、痛みが消える。


「お前は初めて会った時から、無知な奴だな」


思い返せば恥ずかしいものだ。

ぶっちゃけ、よく許してくれたもんだ。

でもこれで、俺とセレナが結婚したりして子供ができた時には「パパとママの出会いはね。迷宮でパパが強引にパーティー登録をしてしまったことから始まるんだよ」とか言えるんだけどな。

まあ、そもそも俺とセレナがそんな関係になる確率は低いんだけどね(ゼロじゃない。決してゼロではない)

でも、異種族間で子供とかできんのかな?

興味があるのであとで調べてみよう。

セレナに聞けば早いかも知れんが、なんの脈絡もない子供の話よりも


「んで、これって何に使うの?」


魔石のことを聞くのが優先だ。


「ウム、無知なお前にはやはり私が教えてやらねばな。仕方のない奴だ。いいか、魔石とは簡単に言ってしまえばエネルギーだ」

「エネルギー……」

「エネルギーとは活動の源となる力のことで、他の呼び方で活動力……」

「あ、エネルギーって言葉の説明は別にいいよ。これがどうゆう風に使われているのかを教えて」

「…………」


ヤベー……つい話の腰を折っちゃった。

セレナが不満そうにしちゃってる。


「ごめん」

「……まあいい、続けるぞ。魔石が何に使われているかだったな。その答えはあらゆるものと断言できるほどに我らの生活になくてはならないものになっている。地方では炎で明かりを灯すが、この都市では魔石を燃料にしたランプなどが用いられている。まあ、よく目にするからわかるだろ。そのほかにも今日行った雑貨屋のレジなどもそうだな。あとは魔法具の精製にも必要だ。まあ、白の魔石は純度とか諸々低いからろくなものに使えないのだがな」


要は前の世界で言う電気みたいなものか?

それにしても、またまたよくわからん単語が出てきたぞ。


「ちなみに魔法具って?」

「魔法力を注ぐことで奇跡を起こしたり、持っているだけで不可思議な効果を発動する道具だ。……お前も持ってるだろうが」


俺も持ってる?

心当たりといえば……


「これ?」


道具袋を持ち上げて見せる。


「そうだ。あとは銅の羽飾りや迷宮の指輪も魔法具の一種だ」

「ほえ〜……」

「これらは魔法力を注がなくても発動できる。しかし、魔法力を注がなくては発動しないものもある。それがこれだ」


そういってセレナは自身の指につけていた指輪を外して手の平の上に乗せる。


「こいつにはウィンドスラストの魔法が宿っていて、魔法力を注ぎながら唱えると発動させることができる」

「ふーん……それってまだ一回も使ったことないよね」

「お前と組んでからはな。魔法力はピンチの時のために温存してるんだ」


いや、問題はないんだけどね。

あと、どうでもいいことなんだが、魔法力ってMPのことでいいんだよね?

つーかそれで納得しときますよ?


「一度見てみたいな」


やはり魔法! って感じのものは是非とも拝見したい。


「うーむ……一度くらいならピンチでなくとも問題はないかもしれんな。何より見たことあるのとないのとではまるっきり違う。では、次の戦闘で見せてやることにしよう」


そう言ってセレナは先陣をきって進もうとするが、それは押し止めて俺が前を歩く。

迷子になりやすいのに先に進みたがる性格なのは困ります。


それにしても、こんなに戦闘が待ち遠しいと感じるのははじめてだ。



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