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時として人は過ちを犯す

※注意

今回は主人公が少しばかりやっちゃってます


今、俺は全力疾走している。

なぜかと聞かれれば逃げていると答える他ない。

では一体何から逃げているのか。

それはほんの少し時間を遡って説明せねばなるまい。




縦ロール女との遭遇の後、ギルドから出た俺は迷子の捜索をしている。

無論迷子とはセレナのことで、彼女との待ち合わせでは毎回のように俺が捜索隊として出動している。

待ち合わせをしないで彼女を迎えに行けば早いと思うのだが、なぜかわからないが、「次は大丈夫だ」と自信満々に言ってくる彼女を信じた結果がこれだ。

いい加減俺も彼女も学習するべきだろう。

ただ、彼女を待つ時間も嫌いではない。

だって…………なんかデートみたいじゃね?

遅いぞとかセレナに言いつつも、内心ほくそ笑んでます。



とゆーわけでセレナの宿泊する宿に到着しました。

とは言ってもすでに居るわけない、事実宿の人の話ではだいぶ前にすでに出かけた後らしい。

前の世界みたいに携帯電話とかがあれば連絡もつくのだが、この世界にはそんな便利なものはない。

ならば人捜しとは、単純に相手がどこにいるのか聞き込みをかけるか推理するしかない。

だが、忘れてはいけない。

俺には神様からもらったシックスセンスの能力があることを。

シックスセンスは前の世界でも科学的には証明されていない。

だが、虫の知らせというようにただなんとなく自身の危機などの重要なことを感じ取ることがある。

俺の場合それの感度が異常ともいえるほどに高い。まあ、それで見たくもない存在が視界に入ったりするのだが、慣れてきたら意図的に無視できるようになった。うん、半透明の浮いてる人なんて見えていないぞ?

そしてそのシックスセンスがなんとなくではあるがセレナがギルドとは真逆の方向にいることを伝えていた。

って真逆かよ……

宿を出てから進む方向くらいは記憶してて欲しい。

とんだファンタジスタだ。


セレナを探して三千里とまではいかないが、そこそこの距離があるっぽいのでゆっくり町を見ながら散策気分で歩いている。

石畳で舗装された道に軒を連ねる店や民間を見てると、なんかホントにファンタジーの世界に来たという感覚を与えてくれる。



「やめてください」


そんな声がふと聞こえたので足を止める。

俺の直感が美少女が助けを求めていると告げている。

しかし、辺りを見回すがそんな存在はどこにも見えない。

ひょっとして、未だ出会わぬか弱い存在成分というものを欲しだした俺の生み出した幻聴なのだろうか。

そう考え、歩みを再開しようとしたとき


「困ります、やめてください」


やはり聞こえた。

どこだ?

もしかして路地とかにいるのかな……おっ、いた。


そこには茶髪にレイヤーカットのミディアムヘアで毛先にパーマをかけた10代後半くらいの眼鏡の少女とそれを取り囲む三人のゴロツキ共がいた。

少女は頭に顔の横についた耳とは別にケモノっぽい耳がついている。

それは獣人族の女性の証だ。

ちなみに獣人族の男性は完全に顔はその動物のものとなっている。

この違いは何?

まあ、お蔭様でケモノ耳の女の子がそこら中にいて眼福ですけど。


状況から察するにゴロツキ共が少女を強引に口説いているに違いない。

メイド服の少女も困っている。


…………メイド服?


よく見たらメイド服着てるよ、あの娘。

ほ、本物なのかな……

よく見りゃ美少女だし、あんな娘に「ご主人様」とか言われてみてぇ〜。

おっといけないいけない。

この場は、彼女を助けねばなるまい。

はっきりいってこれはいわゆるアレだ。

絡まれている美少女を助けてゆくゆくは…というフラグが存在しているに違いない。


………………


…………


……


無理。

ダメだ、俺にはできない。

具体的には勇気が足りない。

これで相手が一人なら行ったかもしれないが三人は無理。

少女よ、すまない。

情けない俺を許しておくれ。

せめて君がこいつらの慰みものとなった後のフォローはするから(最低)


「離してくださいっ!」

「そう言わねえでオレらと遊ぼうぜ〜」

「そうそう、気持ちよ〜くしてやるっつーの」

「おれっち達はいいテクもってるから、楽しめるっすよ〜」


下品な笑みを浮かべながら少女ににじり寄る男達。

クッ、俺には見ていることしか出来ないのか……せめて特等席でかぶりついて見守ろう(さらに最低)。


「! 誰だっ!」


動いたせいで音を立ててしまった。

だがなんとか誤魔化せねば。


「にゃ〜う」

「なんだ猫か……」


フッ、俺の特技のひとつ、発情期っぽい猫のモノマネでなんとか乗り切れ……


「つーか今は猫の発情期じゃねーぞ。誰だっ!」


しまった!

つーかこの世界の猫の発情期がいつかなんてわからないんだよね。

とゆーか今の季節すらわからない。


「くるっくー」


諦めの悪い俺としては奥の手の鳩のモノマネを出すしかない。

平和の象徴ともいえるコイツの鳴き声を聞いたらすべてはラブ&ピースに間違いない。


「なんの動物の鳴き声だ?」

「さあ、聞いたことないっす」


もしかしてこの世界に鳩いねえの?

選択をミスった。

ミンミン蝉にしとけばよかった。

しかし後には引けない。


「新種だくるっくー」

「……こいつ馬鹿だろ」

「往生際わりぃっつーの」

「救いようがないっす」


……クズに馬鹿呼ばわりされるなんて屈辱だ。

ラブ&ピースが通じないのなら、あと世界に存在する教えはギブ&テイクの精神のみ。

つまり馬鹿にされたのなら、馬鹿にしかえすしかない。

世界中の人よ、そして動植物たちよ。俺に勇気と言う名の力を貸してくれ。


「フッ、人が動物の鳴きマネをしているうちに去っておけば痛い目にあわずに済んだものを……」


カッコつけてみた。


「誰だてめぇは!」

「下賎なお前らに名乗る名前などない」


カッコつけ継続中。


「……とりあえず物陰から出て姿を見せてからカッコつけろよ」


無理無理無理。

顔見られたらおしまいだって。

報復怖い。


「黙れ。嫌がる少女を無理矢理襲う不埒な輩ども。貴様らのポークビッツのような粗末なものなど誰も見たがらないということを理解して早々に去れ」

「なっ、貴様好き放題言いやがって」


男の尊厳馬鹿にしてんだからそりゃ怒るよね。

それにしても鳩はいないのにポークビッツはあんの?

ちなみにポークビッツとはミニサイズのソーセージのことである。


「リーダー、あいつが出てこなくてもおれっち達が近づいてけばいいんじゃ……」

「確かにな。んじゃあのふざけた野郎を連れて来い」

「了解っす」


ゴロツキ共の一人がこちらに近づいてくる気配がする。

どうする? 考えるんだ。

顔を見られずにここから逃げる方法を!

今の俺にあるのはただ怪我なくこの場を離脱することのみ。


…………よく考えるまでもなかった。

俺にはこの窮地を脱する能力があるではないか。

とゆーことで


【唸れ、俺の加速装置】


普通ならゴロツキ共を倒す。

だが、もし途方もないほど相手が強かった場合を考えて今は戦略的撤退だ。

全力でその場から離脱する。

そしてゴロツキ共から死角になるところに身を潜める。


「リーダー、なんかものすげえ速さでなんかが去って行きました」

「はあ? ふざけんな。んで、隠れてた野郎は?」

「いないっす」

「ちゃんと探せっつーの」

「いないもんはいないっす。多分さっきのが隠れてた野郎なんじゃないっすか?」


どうやら俺の逃げる姿はよく見えなかったらしい。

よかった。動態視力次第で加速した俺の姿は普通に捉えることができるのだが、こいつらは油断してたのか見逃したようだ。

さて、このままここから逃げるとするか。


「チッ、まあいい。邪魔者もいなくなったことだし、楽しもうかお嬢ちゃん」

「嫌です」


忘れてた。

クソッ、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。


……ふざけるのはもっとダメだよな。

なんとか俺も彼女も逃げれてハッピーな感じで終われる案はないのか。


…………うん。

この方法ならやれなくもない。


そばにあった小石などを集める。

こいつをあいつらに投げつけてやる。

とはいってもちょいと怪我してもらう程度だ。

いくら悪人相手でも人殺しなんてできるだけの覚悟はない。

要は注意を少女から俺に移してやればいいんだ。

でも、姿を見せるのは得策ではない。

なにか顔を隠すような物は……持ってないか。

……いや、あった。

しかしこれを着用するのは人としての尊厳が……

でも、背に腹は変えられない。

やってやるっ!

ついでにジャージも脱ぐ。この服はいろんな意味で目立つ。ほかに着てる人見たこともねーし。


「キャスト・オフ……なんちって」


某ライダーの台詞なのだがキャスト・オフした後のチェンジ〇〇〇の音声が好きだったな……俺の股間のビートルの露出は絶対にありえないけどな(この状況での最低な下ネタ)。

さあ、いくぜいくぜいくぜー!



「ポークビッツ〜〜!」


大声でその名を呼ぶ。


「その声はっ!」

「あいつが戻ってきたっつーの」

「馬鹿な奴っす」


俺の声にゴロツキ共がこちらを見る。


「「「………………」」」


そして一様にその動きを停止し、信じられないようなものを見るような目を俺に向ける。


「貴様らの行いは人の道理に外れる。よって天誅をくだす」

「……いや、あんたに言われたくないわ」

「どう見ても変態だっつーの?」

「そっす。女物の下着被った奴に人の道理とか説かれたくないっす」


そう、今の俺の姿は客観的に見れば女性物の下着を覆面変わりにした変態だ。

女性物の下着とはもちろん神様からもらった物だ。


「うっせー。んなもん俺が1番わかってんだよ。死ねっボケッ!」


石を投擲する。

女の子に当てないように配慮はしているが、それ以外は狙いも糞もない。

ただ投げるだけ。


「ぐわっ、危ねっ」

「逆ギレしやがったっつーの」

「若者の暴走っす」


暴走してんのはお前らも一緒だろうに。

とゆーか20代の中盤なんて親戚の子供におじさん呼ばわりされる年齢だっつーの!

子供たちよ、俺はまだお兄さんと呼ばれたいのだぞ? 少しは気遣ってくれ。

なんか腹立ってきた。マジで死ね。

俺は小学生時代、野球でライトを守っていた男。コントロールには自信がある。

だがしかし、ブランクとプラスして石の感触がボールとは少しばかり違うのか当たらない。

そして拾い集めた石は手元からなくなってしまった。


「……どうやら弾切れのようだな」

「悪い子にお仕置きの時間だっつーの」

「覚悟するっす。変態」


なんだよ……

俺がこんなことしなきゃならなかったのはお前らのせいなのに変態扱いかよ。


「お、覚えてろっー!」


嘘です。すべて忘れてください。


「あっ、待ちやがれっ!」

「変態め、逃がさないっつーの」

「待つっす」


まあ、目的も果たしたし上出来だ。

あとはうまく逃げてくれ、メイド服の少女よ。



そして冒頭に繋がる。

とはいってもそろそろ町中を下着を被って疾走するのも嫌になってきた。

だっていつのまにか追ってくる人達が増えてるんだもん。

具体的には道にいた善良な人々。

それがゴロツキ共と一緒に追ってくる。

……君達は本当の敵が誰かわかっていない。

俺なんてただ下着を被った男だぞ?

しかもいたいけな少女を救った正義の味方みたいなもんだし。

だいたいこれは自前の物だし。

盗ったわけじゃねえんだから問題はないはずだ。

頭上を見る。



HP 27/30

MP 28/30



うむ、問題ない。こいつらを振り切るには十分残ってる。

ちなみに先日レベル3に上がって最大値増えました。


【俺は風になる】


今一度加速を発動して世界をスローモーションにする。

そして一気に駆け抜けた。

そこそこ離れたところで物陰に隠れて覆面代わりの下着をとる。

これで大丈夫だろう。

念のため脱いでいたジャージの上を取り出して着る。

これで一応ばれないだろ。


物陰から出て、俺を追いかけていた集団の横を通ったがスルーされて安堵の息が漏れた。

それにしても最後の加速でMPがほとんどなくなっちゃったから本日の迷宮探索は見送りだな。

せめてセレナは見つけよう。

と考えていたところ、集団の中に見知った銀髪がいた。

セレナ、お前もか。


「よっ、こんなとこで何してんだ?」

「! ソーマではないか」

「まったく、いつまで経っても来ないから探しにきたぞ」

「そ、そうか。それが私がギルドに行こうとした時に女性物の下着を被った変態が現れてな。女として許せないと思って追いかけているうちにこんな時間になってしまったのだ」


……露骨な嘘をつきやがる。俺の眼にはお前の鼻が某海賊漫画の狙撃手みたいに伸びて見えてんぞ。

だいたい、お前の言うその変態(認めたくない)が現れたのは約束の時間から大分経ってからだぞ。

でも薮をつっついて蛇を出したくないのでツッコミはなしだ。


「そりゃ大変だったな」

「う、うむ。今日は決して道に迷ったわけではないのだ」

「(嘘だって)わかってるって。それに俺も用が出来てしまったから、今日は迷宮探索は無理だしな」

「そうなのか?」

「ああ、だから明日同じ時間にギルドで待ち合わせしよう。それとも迎えにいこうか?」

「いや、大丈夫だ」


何を根拠にしてだよ。


「それじゃまた明日」

「わかった。……ところで宿にはどっちに行けばいいんだ?」


俺はセレナを宿まで送っていってやった。

余談ではあるが、迷宮都市オースティアで女性物の下着を被った変態韋駄天男が出没するということでしばらく話題を独占した。

……ふざけんな。


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