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待ち人来ず、知らない人は来た

セレナ(呼び捨てになった)と一緒に迷宮探索をするようになってから十日が経った。

その間は迷宮の下の階層へは行かず、五階層を中心としてあちこち動き回りながらモンスターと戦っていた。

基本的にお互いの道具袋にほどよくアイテムがいっぱいになるまで戦って、迷宮から出ることの繰り返しだ。

嬉しいことに換金した全体の金を半分ずつに分けてもらえるため、一日の稼ぎがちょっとばかり増えた。

そういうことを繰り返したおかげで、少し金も貯まったのだが、基本的に必要な生活用品とか足りてないので、そういった物に形を変えて金は消えていった。

下着やシャツはいくつか買えたのだが、服というものは基本、今着ているジャージしかない。

これは防具も兼任しているし、神様の改造で常に清潔さを保たれているのだが、これ一着しか外で着る物がないというのも嫌だ。


そこで俺は考えた。普段他の奴らはどんなものを着ているのかと。

注意して見たことなんてなかった。

周りを見回すと鎧やらローブやら、THEファンタジーといった服装の方がいっぱいいる。

いざ、観察ターイム。


ちなみに今はギルドでセレナを座りながら待っていり最中だ。例によって道に迷ってるのだろう、すでに約束の時間から1時間が経過している。



他の者たちの服装は当然というか、自分の体に合った物で、ゴツい体のお兄さんは重鎧、ひょろいおっさんは軽鎧、快活な少女はローブを着ている。どっかのお嬢様みたいな縦ロールの角生えた人が重そうな鎧を着ていたのは少し異質で目を引いた。

まあ、他にも、それでいいのかという装備で迷宮に入る人もいた(上半身裸のムキムキ男やどうみてもビキニなお姉さん)

う〜ん……こう見てると普段着っていうか装備の観察だよね。


「それにしても……」


俺は袖を捲って、いわゆる中肉中背で適度な筋肉のついた腕を見る。

俺ってすげえ普通だなぁ……

ムッキムッキの人とかと比べると自分とのあまりの違いに驚くしかない。

俺なんて神様からの能力がなければ取り留めて目立ったところがない。

だけど、俺はそんな自分が嫌いではない。

別にナルシストというわではない。

ただ自分自身が嫌いなんて言うのは産んでくれた親に対する冒涜だと思うからだ。


「あ〜、ヤベ……母ちゃんに会いたくなってきた……」


今までは新しいことの発見などで、思い返すことはなかったが、いざ日常が安定しはじめると望郷の念にかられてしまった。

そうなってしまうと思い出すのは前の世界のことばかり。

両親や友人、果ては近所のコンビニの店員さんまですべてが懐かしい。

ただ、忘れてはいけない。

あの世界での俺は死んだのだ。

もう、戻れない。

頭を抱える。


「はぁ…………鬱だ。世界中の不幸が俺に集まってるんだな」


思えば黙って成仏した方がこんなこと思わずにすんだだけ、楽だったかもしれない。

大体、違う世界に寄越すくらいなら無理矢理成仏させろっての!

……こんなんただの責任転嫁だよな。


「だけど恨まずにはいられない。それが俺のアイデンティティー」

「さっきからブツブツとうるさいですわね」


横から声がかけられる。

視線だけそちらを見遣るとさっき見た縦ロールの人がいた。

いつのまに隣に座ったんだ?

先程はちらりとしか見てなかったが、近くで見ればすっげえ整った顔立ちをしている。

炎のような赤い髪に金色の瞳、純白の鎧に身を包んでいるため体つきはわからんがどこからか薔薇のようないい香りがした。

また、頭に生える角が彼女が異種族であることを示している。

ギルド指南書によると角が生えた種族は竜族と鬼族の二種族。

んで、鬼族の角は尖んがっているのに対し、竜族は尖んがっいない。

彼女の角は尖んがっていないので、結論、彼女は


「竜族……」

「人間族A、ワタクシは発言を許可した覚えはなくてよ」


すっげえ上から来られた……

口調からいって良いとこのお嬢さんなんだろうな。なにより縦ロールだし(偏見)。

つーかAかよ。

話し掛けといてモブ扱い。

いや、所詮俺なんてその他大勢の一人に過ぎないのだから当然の扱いか。

しかし、いきなりの雑言を軽く受け入れてやるほど俺の心は広いわけではない。


「あんたの許可を貰わないと発言できないなんてのはどこにも書かれてない」

「道理ですわね。今度からはそこら中に書いておきましょう」


皮肉が効かなかった。


「つーか、あんたいきなり何様だよ」

「ワタクシが誰だかわかりませんの?」

「あいにくと最近ここに来たもんで」

「なるほど。いいでしょう。高貴なワタクシの名をその耳垢の詰まった耳をほじっくってお聞きなさい!」


そう言うと女はじっとこっちを見てる。

言いたいならさっさと言えばいいのに……


「どうぞ」


あまりに沈黙が長いので促してみた。

だが彼女は口を開かない。

おいおいおい、まさか名前忘れたとかいうオチじゃないだろうな。


「…………耳垢をほじくりませんの?」


ようやく口を開いたと思ったら、俺の耳掃除待ちかよ。

めんどくさいので指で耳の穴をほじる仕草をする。


「ようやく準備ができたようですわね。よく聞きなさい、人間族A。高貴なワタクシの名前はオリビア=N=アンリ。皇位継承権をもつアンリ一族の長女ですわ」

「ふーん……」


どうすごいのか具体的によくわからん。

ただ、けっこういいとこのお嬢様なんだろうなというのは伝わってきた。


「……反応それだけですの?」


不満そうだな。

確かにちょっとばかり薄かったか?

でも、お嬢様っていうのは半ば予想してたしな。驚くポイントが、正直見出だせなかった。


「すごーい。マジ、半端ねえー(棒読み)」


すごく馬鹿にしてる感が出てしまったな。

でも、他にやりようがなかった。


「当然ですわ。オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ、ゲホッゴホッゴホッ…オエッ」


いくら高笑いがお嬢様の嗜み(偏見パート2)みたいなものだとしても長いわ。

つーか咽せるだけなら未だしも、嘔吐いちゃってるじゃん。


「んで、結局何の用なわけ?」

「そうでしたわ。隣に辛気臭い男がいたら鬱陶しいですから、どこかへ消えてくださいとお願いしたかったんですの」


なにその自己中発言。

つーかてめーが消えろと思ってても言えない小市民な俺。

さて、どうしたものか。

選択肢は二つ。

一つは彼女の希望通りにどっかに行くこと。

もう一つは居座ること。

前者は面倒は起きないが負けた気分になる。

後者は面倒が起きそうだが負けではない。

この場合は


「とりあえず仲間が来たらどっか行くんで、それまでお話でもしませんか?」


後者を選びつつも友好的にいこう。


「人間族Aごときのためにワタクシの貴重な時間を使えと? しかし、それもまた一興ですわ。許可します。ワタクシを楽しませてみなさい」


いちいち偉そうだな。


「んじゃ、質問タイムといきますか。オリビアさんも探索者ですか?」


わかりきってるけど、取っ掛かりとして一応聞いておく。


「無論ですわ。とゆーかギルドに鎧を着けている以上、当たり前でしょうに。人間族Aは頭が悪いんですのね」


言い方が腹立つ。

そりゃ、頭いいとは思わないけど。


「なんでまた、迷宮探索を? そんなことしなくても暮らしていけるでしょう?」


お嬢様なんだし、優雅に紅茶でも飲んでろよ(偏見パート3)


「別に、ただ家の力の及ばないところに行きたかっただけですわ。でも生きるためにはお金いる。だけどワタクシは人に仕えるのは性に合いませんから、ここに行き着いたんですわ」


この都市にお前一族の家の力が及ばないなら、お前を知らなくても普通じゃないのか?

よほど一族が有名なのか、こいつ自身の名前が売れてるのか、自意識過剰なのか。

一体どれだ?


「今はどこまで迷宮探索を進めてるんですか?」

「そうですわね。確か二十階層まででしたわね」


はい、名前が売れてる線は消えました。

ちなみに1番深い階層に進んでる奴は七十階層なので、初級者といったところか。

……初心者の俺よりは上だけどな。


「それにしても、竜族のアンリ一族って俺、今まで聞いたことなかったです」

「そうですの? まあ、ここは竜族の国から離れてる田舎ですし、そういう人もいるかもしれませんわね。だけど、己の無知を恥じた方がよろしくてよ」


確かに無知は恥じるべきなのかも……

うーん……一族が有名かどうかはとりあえず保留にしておこう。


「それにしても、オリビアさんは綺麗ですよね」

「いきなり、何を当然のことを言うのですの?」


当然とか真顔で言い出した。

いや、まあ、本当に綺麗だし、無駄に謙遜するよりは好感がもてるな。

絶対モテて色々と遊んでるくせに、「俺、モテないんですよ〜」とか言う奴よりは百倍はマシだ。


「いや、綺麗な人に綺麗って言うことこそ当然のことですよ」

「一理ありますわね。なら、もっとワタクシを褒めたたえることを許しますわ」


えぇぇ〜……クッ、ノリで言葉は紡ぐもんじゃねえな。

いきなりでかい壁にぶち当たってしまった。

綺麗以外の褒めるところが見つからん。

適当に乗り切るしかない。


「まずは瞳が神秘的で美しいです」

「あらあら」


ぶっちゃけ瞳が綺麗とか言う表現はよくわからん。

死んだ魚のような濁った瞳はなんとなくわかるんだけどなあ……


「顔立ちも上品です」

「まあまあ」


顔立ちが上品とか基準は何だろう?

下品な顔はすぐわかるのにな……


「体も均整のとれた素晴らしいラインですし」

「よろしくってよ」


鎧着てんのにわかるわけねえだろうが。


「何より家柄が素晴らしい」

「とーぜんっですわ。オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッゲホッ…オエッ」


突っ込んだらダメだろうな。

とりあえず機嫌はよくできたみたいだな。

つーかなんで俺はこの人のご機嫌とりしてんだろ。

…………美人だからかなぁ。

男が美人に弱いってのは当たり前だよね。


「あら、ワタクシの待ち人が来たようですわね。それでは人間族A、ご機嫌よう。貴方との会話、そこそこ楽しめましたわ」


そう言うと彼女は席を立って、似たような鎧を着た男達のもとへ歩み寄っていった。

あれが彼女の仲間なのだろう。

結局、俺のことは人間族Aで確定か。

まあ、あの縦ロール女とはもう関わることもないだろうし気にする必要もないだろう。

それにしても俺のお仲間はまだこないのか?

……仕方ない、捜しに行くか。



主人公はネガティブや怒りなどの負の感情の度合いによって黒くなっていきます。


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