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帰還しました


「ビビった過去の自分よ、さよならっ」


なんとなく腹に力を込めて言ってみた。

キラー・ビーとの初遭遇から奴らの相手は全てセレナさんがしているのだが、もういい加減慣れた。

さすがは蜂というか、飛ぶスピードはそんなに速くないし、元の世界にいたから(こんなでけぇのはいないが)どんな存在か知ってるのは逆に好都合に思えてきた。

なにより虫だ。

虫なら殺せる!


「…………」


なんかセレナさんがわざわざ振り向いて可哀相な人を見るような目で俺を見ている。

確かに迷宮でいきなり大声出すとかモンスターに位置を教えてるようなもんで、不用心だよな。

ほら、セレナさんの後ろにキラー・ビーが来ちゃったじゃないか。

ん? 敵来てんじゃん!

セレナさんは気づいていない。

セレナ、後ろ後ろ!


ヤバい。心の中で大御所の往年のコントを彷彿させる感じでふざけたせいで声出すタイミングを逸した。

キラー・ビーが迫る。

羽の音にセレナさんが気づくが遅い。

やられる。


「危ないっ!」


間一髪でセレナさんを押し倒してキラー・ビーの攻撃を回避する。

よかった、間に合った。


「ソーマ、後ろだっ!」


セレナさんの声に振り返ろうとしたとき、背中に痛みが走る。


「いっつーーー!」


プスッていったよ。

痛い痛いっ。

奴め、旋回して人の背中を刺しやがった。

くっそ……虫ごときが


「いい気になるなっ!」


立ち上がって剣を構える。

キラー・ビーは俺から少し離れたところに漂っている。

こいつらの攻撃は、ただ針剥き出しで突っ込んでくるだけと単調だから避けることは容易だ。

だが攻撃を避けるのは簡単でも当てるのは難しい。飛んでるが故に相手の攻撃にカウンターを合わせるしか今の俺に攻撃手段はない。

キラー・ビーを見る。

奴の攻撃に移る時を見逃してはいけない。


…………来た。


キラー・ビーが攻撃のために突っ込んでくる。

やはりそんなに速くない。

とはいっても小学生の野球選手の球速くらいはある。

だがしかし、俺も小学生時代は野球にて不動の九番だった男。

こんなもん、絶好球や。


「うおぉりゃあーっ」


キラー・ビーに合わせて刃を立てて剣を振りきった。

相手の突っ込んでくる力も利用され、キラー・ビーを両断することができた。

キラー・ビーが光になって消えるとそこには白の魔石のみが残る。

どうやらハチミツはドロップしなかったらしい。


「ソーマ、大丈夫か?」


セレナさんが心配してくれてる。

あれっ?

とゆーか


「セレナさんが、俺の名前を呼んでくれた……」

「は?」

「やっべー超感激だー! ずっと貴様とか言われてて、キラー・ビーとの一件でヘタレに確定してたもんな。それにキラー・ビーへもリベンジ果たしたしな。良いことずくめだ」

「……大丈夫みたいだな。刺されたと思って心配したのだが、無駄だった」

「ん? そういえば、あの針に刺されてプスッとかいうのは有り得ないな。どっちかというとブスッって感じだし……」


不思議に思って刺された箇所を触ってみるが、ぶっとい針が刺さったような穴はない。

それに、痛みも針仕事してて誤って指に刺したくらいのものしかない。


「セレナさん、俺の背中どうなってます?」


セレナさんに背中を見せる。

セレナさんはまじまじと俺の背中を見たり、触れたりする。


「特に外傷はないな。というか見た目以上に丈夫な生地なんだな。あのキラー・ビーの攻撃で穴すら開かないとは」


なんかジャージが褒められた。

まあ、神様に改造されてますからね。

それにしても、神様が以前この世界に俺を寄越す前に俺の成長に合わせて強化されるって言ってたんだけど、俺のレベルが上がって少しは丈夫になったのかな?

でも、キラー・ビーの針が効かない(たぶん)っていうのは頼もしい情報だ。


「しかし、貴様でも盾くらいにはなるんだな」


ムッ……盾ってなんだよ。

ちょーっと気を悪くしたのだが


「……助かった。ありがとう」


囁くように呟いた彼女の言葉が聞こえて、ニヤニヤが止まらなかった。



その後、モンスターを倒しながら最短ルートで四階層に行くことができた。

四階層では新しい種類のモンスターはおらず、今までの三種類のモンスターが迷宮内を闊歩していた。

セレナさん曰く五階層まではこの三種類しかでないらしい。

だとすれば問題ないと思い、これまでのように進んでいたのだが、モンスターが今までより明らかに強くなっていた。

そういえば、マダムが最初に言っていた。

迷宮の階層÷2の端数切り捨てが適性レベルだと。

つまり今までのモンスターはレベル1が適性レベルだったのに対して今の階層のモンスターはレベル2が適性。

強く感じて当然だ。

だが、苦労するかというとそんなことはなかった。

適性レベルなんだから倒せない道理はないし、なによりセレナさんは今、レベル3らしい。

油断しないように気をつけながら進んでいき、無事に五階層にたどり着いた。


とはいっても五階層にたどり着いたから終わりということではない。

結界のある場所に行かなければ銅の羽飾りは使えないのだ。

しかし、幸いにも結界のある場所は四階層からの階段からそう離れていなかった。

途中、モンスターと遭遇して戦闘になりながらも、10分ほどでたどり着くことができた。


結界があるのはそこそこ広い空間で、正に神殿で感じたような神聖な空気に包まれていた。

また、人口の池のような物もあり、澄んだ水がそこにある。

これって、飲めんのか?


「久しぶりに太陽を拝めるな」


俺が考えこんでいると、セレナさんが空間の中央に進んでいく。

良く見れば空間の中央には何やら魔法陣のようなものが刻まれている。


「ソーマ、先に行くぞ」


セレナさんが魔法陣の中央に立った。


帰還(リターン)


セレナさんはそう唱えると、淡い残光を残して消えてしまった。

これは、あれだな。

初めて迷宮に来たときに、前の探索者たちが消えた時と同じだ。

妙に納得しながら俺自身も魔法陣の中央に進む。

セレナさんの真似をすればいいんだよね。

緊張するなぁ。

深呼吸しとこ。

それから三回ほどゆっくり深呼吸をして呼吸を整えた。

噛まないように気をつけねばな。とある眼鏡の魔法使いは噛んだせいで友人一家とは別の場所にワープ(?)しちゃってたからね。


帰還(リターン)


そう唱えた瞬間、体がちょっとした浮遊感(ジェットコースターで高いところから一気に落ちた時の感じ)を味わったと思った次の瞬間、目の前の景色が変わる。

どうやら迷宮の入り口の社に跳んだらしい。


「遅かったな」


セレナさんが声をかけきた。

どうやら律儀に俺を待っていてくれたらしい。

彼女の頭上を確認すると、既にHPなどは見えない。

どうやら、無事にパーティー登録を解除できたようだ。


「すいません」

「? なにか謝るようなことをしたのか?」

「……いえ」


忘れてる?

でも、蒸し返して怒らせたくはないので、このままいこう。


「ところで、五階層にもどるにはどうすればいいんですか?」

「行きたい階層を言ったあと移動(ジャンプ)と唱えればいいみたいだぞ」

「ありがとうございます」


これで次からの探索もバッチリだ。


「フッ、では行くか。久々に太陽を浴びに…………って暗いっ!」


外に出たセレナさんが騒いでいる。

確か俺が迷宮に入ったのは昼前くらいで、だいたい半日ほど潜っていたのだろうから暗いのは当たり前だ。


「夜が明けたら改めて太陽の光を浴びればいいじゃないですか」


とりあえず慰めておく。


「それもそうだな」


納得してくれたらしく、彼女はギルドに向かって歩きだした。





「あ〜、やっと来た〜」


ギルドに入ってところでリカちゃんが椅子に座っているのが見えた。


「も〜、おっそいよ。日付変わっちゃったじゃん」


やっぱそのくらいは経ってるんだな。

つーか


「待っててくれたんだ」

「そりゃ、まだ道覚えてないだろうし、お守りが必要かなって」


いったいどれだけ待っててくれたんだろう。


「それはそうと、誰?」


リカちゃんが指を差すのは一緒にギルドに入ってきたセレナさん。


「人を指差しちゃ、めーです」


教育的指導入りました。

まあ、世話になってるので、強く怒れはしませんがね。


「おまえの女か?」

「ちゃいます」


セレナさんの勘違いも即座に訂正しておく。

でも、悪い気がしないのは言うまでもない。


「えっと、こちらはリカちゃんです。すごくお世話になってる方の娘さんでギルドに勤めてます。んで、こちらがセレナさん。迷宮内で偶然出会った方で、一緒に五階層に行ったんです」


それぞれに紹介をする。

いやぁ〜、美女同士の邂逅の現場にいれるなんて運が良いなあ……


「はじめまして。リカといいます。今回は“うち”のソーマ君がお世話になりました」


うん、なんでリカちゃん喧嘩腰?


「いや、世話になったのは私のほうだ。ソーマとはこれから“も”仲良くしていきたい」


呼応するようにセレナさんの言葉も語調が強めだし……

というか


「今、これからも仲良くしたいって言いました?」

「あっ、うん、そうだな。盾として役に立ったからな。お前がどうしてもと言うのなら一緒に迷宮探索をしてやらんこともない」


な、なんだと……

俺の眼に映る彼女の姿は変わらないので嘘をついているということもない。

いったいどうゆう心境の変化が……

いや、盾として役に立ったって本人言っちゃってるし、それを望まれてんだろう。

それに超絶方向音痴の彼女からすれば誰かと組むという選択は当然だ。

たまたま俺に白羽の矢が当たったに違いない。

人間族嫌いの彼女が選んでくれたことがすごく意外だが、嬉しいことこの上ない。


「是非よろしくお願いします」

「そ、そうか。ならば私は明日は体を休めたいから明後日の昼にでもギルドで待ち合わせしよう」


そう言って彼女はギルドから出ていこうとする。

しかし、途中で立ち止まると、振り向いた。


「それと、次からは敬語はやめろ。いいな」


そう俺に告げると返事も聞かずにギルドから出ていった。

アイテムの換金とかしてかないところを見ると独自のルート的な物も知ってるんだろうな。


「ソーマ君、美人との遭遇率高いよねー」

「確かに」

「……納得しちゃうんだ」

「リカちゃんも美人の一人だよ?」

「セーンキュー」

「You are welcome.……ところでさ」

「なぬ?」

「いや、セレナさんに突っ掛かったのって……嫉妬?」

「んにゃ、ノリ」


リカちゃんは嘘をついていない。

それはそれでガッカリだ。


「もしかして、あたしがソーマくんに惚れてるとか思ったのん?」

「そ、そんなこたぁない」

「まだ、惚れるほどソーマくんのことは知らないしねー」


……まだってところに望みを抱いてポジティブに考えよう。



俺達は俺が今回得たアイテムを換金してから帰った。

今回は

白の魔石(小)、ひとつ10R×10

動物の毛皮、ひとつ20R×10

ゴブリンコイン、いち枚50R×10

ハチミツ、ひと壺200R×6

計2000Rの稼ぎだった。

昨日の10倍も稼いだぞ。

とはいっても時給換算したら200Rいかないんだけど……

つーかハチミツ高いよ。

狙い目か?




翌日は俺も体を休めると共にギルド指南書をじっくりと読んだり、剣を素振りしたり、あたりを散歩しながら時間を潰して、ゆっくりとした。

焦って迷宮に挑んでも死ぬ確率が高まるだけだしな。


ちなみに約束の日、セレナさんは日が暮れてからギルドに姿を現した。

朝、体調が少し悪かったとか言い訳しているが、嘘は俺の眼に効かない。

きっとギルドに来るまでに迷ったに違いない。

……追求はしないけどね。



無理矢理っぽい……

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