思うだけでもダメですか?
ご迷惑をおかけします。
なぜだ……
なぜなんだ……
「なぜ死んだんだ、俺〜〜〜〜っ!」
眼下に見える男の死体を見ながら叫ぶ俺。
すでに俺は幽霊となっている。
俺の死因は不注意における転落死。
場所は住んでいるアパートの階段だ。
アパートというものはほぼ外に階段があるといってよい。
今の季節は冬、前日の朝方降った雪が少し溶けた後、寒さで凍ってツルツルという悪循環が生じ、見事に滑り落ちた。
くそっ、滑り落ちたなんて受験を控えた学生に対して失礼にも程がある。
えっ? 俺の歳?
20代半ばですけど?
受験? ノリで出た発言です。
そんなことよりも!
「立て! 気合いで立て俺っ!」
なんとか、なんとか生き返れ。
俺の人生なんてまだまだ先があるだろうが。
80くらいまで生きるとしてあと50年以上もある。
なんとゆーかもったいない。
つーか結婚その他、諸々やりたいことがまだいっぱいあるんですけど!
やりたいゲームやまだ完結していない漫画の続き、そして幸せ家族プラン。
くっそー、娶った嫁にすでに子供がいて、めちゃくちゃ可愛がってファザコンに仕立てあげる夢が……
怨むぞ、神よ
『怨むな、人よ』
めちゃくちゃ威圧感をもつ女みたいな声が聞こえた。
ま、まさか神がここに?
辺りを見回すとなにやら大きな光の塊がある。
「これが、神?」
『様をつけろ、人』
「あっ、はい。神様」
しかしまた声からして美人のお姉さんとか来るのかと思ったのに期待ハズレだ。
『期待ハズレとはなんだ、人』
「す、すいません」
さすがは神、心を読めるのか……
『様をつけろと言っている。良いか、神とはもともと丸くて大きな光のかたまりだ』
どっかで聞いたことあるような。
『あの芸人のネタは正解だ』
そうなんだ。
『それはそうとさっさと成仏しろ』
「そ、率直すぎる……」
それはないだろう。
死んだんですよ、俺?
ソレを受け入れることができないでいるのに……
『受け入れろ』
「そんな殺生なっ!」
なんて理不尽なんだ……これが神、いや神様。
『ではどうすればいい?』
「生き返らせてください」
即答です。
『無理だ。この世界のお前の人生は終わったのだ』
「嫌だ〜っ! 生きて、かわいい女子とイチャイチャしたいんや〜〜〜〜っ!」
『でもこの世界で生き返らせるのは無理だ』
くそっ……ん? この世界?
それって違う世界ならいいっていうこと?
『…………それならオッケー』
「マジで?」
『この世界において死んだという事実が存在するお前を生き返らせるのはシンドイのだが違う世界となれば話は別だ』
光明だ。
ヤバい、神様ヤバい。
『希望は?』
「希望までっ! いいんすか?」
『気分しだいで如何様にもしてやる』
なんというサービス精神旺盛な神様なんだ。
これは全世界のオタクな方達の夢である二次元の世界へ……
『無理だ』
「なぜですかっ!」
目から液体出てくる。
『あれは制作者の創造した世界だ。入ることはできない』
神はいなかった
『ここにいる』
じゃあ、俺を二次元の世界に……
『無理だってば』
絶望した……絶対成仏なんかできない。
『二次元の世界とやらは無理だが、近い世界なら可能だ』
「近い世界?」
『なんか剣とか魔法を使う世界に行けばいいんだろ?』
「は、はい」
いきなり投げやりな感じになった。
『候補が三つくらいあるが……』
「どんなんすか?」
『人種差別激しい戦国の世界と魔王が支配する暗黒の世界、そんで一獲千金を夢見る迷宮のある世界』
「迷宮の世界で」
即答だ。
だって、他はなんか殺伐として嫌だ。
『んじゃ、その世界にお前を
「待った、待ってください」
……何?』
「付加価値とか何か特殊能力つけてくれたりしないんですか?」
ただその世界に行くだけなんてつまらない。
一応駄目元で聞いてみた。
『言ってみ』
「叶えてくれるんですか?」
『三つ』
また三つ……三が好きなのかな?
『……二つ』
「ごめんなさい! 馬鹿にしたわけではないんですっ! 神様最高です。いよっ世界一っ!」
『世界?』
「世界なんて矮小すぎますよねっ! もう全部ひっくるめて一番です」
『んじゃ四つ』
「なんか中途半端じゃないですか? 全ての頂点に立つ神様なんですから、もう一声お願いします」
『五つ』
「神様最高です」
よしっ、何にしようかな?
「そ、それじゃまずは神様と同じ力をもつ瞳をください」
某ノートに名前を書き込んで人を殺していくマンガでは、死神の眼があって名前と寿命が見えていた。
きっとこの神様ならそれ以上のものを持っているに違いない(根拠なし)
『まず、私に眼はない』
「なぬっ?」
そーいや丸くて大きな光のかたまりだー。
眼どころか顔とか体もねーじゃん。
『だが、私にも視覚というものがある』
た、たしかに……
見えなきゃ神様なんてやってられないよね。
『だけどやめておけ』
「why?」
なぜだ。
『情報量が多過ぎて、人ごときの矮小な脳ではパンクして死ぬぞ?』
「そ、そうですか。んじゃあ、やめます」
『そうしろ』
「ではなんでも一つ強制的に命令できる王の力を持つ眼を……」
『あれは人にはすぎた力』
ダメか……
でも特殊な力を持つ目は是非とも欲しい。
「では、人の嘘を見破る眼をください」
『具体的には?』
ぐ、具体的にだと?
「えっと……視界に納めてる間に嘘をついたらその人の鼻が伸びて見えるとか?」
嘘がわかると聞いてまずはじめに思い浮かんだのは最終的には人間になった人形の話。
『フム、それは視線を外したあとで、対象をまた見るとどうなるのだ?』
「そこは元通りなってる的な感じです」
いつまでも伸びっぱなしは嫌だ。
『それくらいならば人の脳でも処理できるか……だが、人間不信になっても知らんぞ?』
「そ、それは嫌だ……」
でも、能力的には是非とも欲しい。
だって嘘を見破るということはつまり騙されないということだ。
よく騙した奴が悪いだとか、騙された奴が悪いだとか聞くけれど、そんなことはどっちでもいい。
でも、わかりきっていることがひとつだけある。
それは、騙された奴の負けってこと。
だから……
「でも甘んじて受けます」
『そうか。ではあと四つだ』
「それじゃあステータスを最強にしてください」
『てめーで鍛えろ』
えぇぇぇ……冷たい。
ステータス最強はお約束みたいなものなのに……
「それじゃあ、加速装置みたいな能力ください」
『それはどんなものなのだ?』
「1秒を俺だけ1000倍の速さで動けるみたいな感じです」
要は某ライダーのクロッ〇アップとかサイボーグの人が持つアレ。
『できなくはないがただの人がそんなことしたら、死ぬぞ?』
「な、なんでですか?」
『1秒で1000倍の動きをするってだけで筋断裂や骨折の可能性があるし、何より空気摩擦で発火する』
たしかにあれって特殊な金属を纏った人や改造されてる人がやってることだったな。
でも、譲れないものもある。
「んじゃどれくらいならいいんですか?」
『いいとこ10倍くらいだな』
「じゃあそれで」
『では、これを授ける』
すると、神様から何やら小さな光が俺に向けて放たれる。
そしてそれは俺の手首に取り付き、腕輪となった。
「…………えっと」
『お望みの加速装置とやらだ』
本当に装置を渡してきた。
いや、よく考えたら特に問題はない。
「使用方法はどうすればいいんですか?」
『頭の中で加速とでも唱えればいい』
「ピ〇ラとかじゃダメですか?」
個人の素早さをあげるわけだしな。
『別にどうでもいい……要はお前が加速するイメージを持てば発動する。それでは願いはあと三つだ』
「それじゃあ、イケメンにしてください」
俺の容姿はひいき目に見て中の下だ。
イケメンは憧れる。
『人よ、今の容姿も味があってよいぞ?』
遠回しに断られた。
つーか味があるって褒め言葉なのか?
あとは何があるんだ?
そうだ
「シックスセンスをビンビンにしてください」
シックスセンス、いわゆる第六感。
直観とか予知などのいわゆる科学では解明されていない感覚のことだ。
『あと二つだ』
よし、これで危険を感じとったりのほかいろいろ大丈夫だろ。
んで次の願いなんだが……
「最強の装備を下さい」
あたかもRPGにおいてラスボス戦に挑むかのような奴をくれ。
『くれとはなんだ。くださいと言え』
「ください」
『しかし、私はRPGとやらをやったことがない。なのでお前の着ている服をお前の成長に合わせて強化されるようにしてやろう』
着てる服ってこのジャージのこと?
「待ってください! もっとかっちょいいのを……」
「あと一つだ」
やっちゃった……
つーか勝手に決めて、勝手に施行しちゃったよ。
まあ、百歩譲ってそれはいいとしよう。
俺の成長に合わせてとか言う部分が気になるといえば気になるが、この際スルーだ。
それにしても、最後の願いだ。
こいつはよく考えねば……
間違ってもギャルのパンティーをくれなんて言うボケをかまそうものなら……
『それで願いは終わりだな? それじゃあ新たな世界へとお前を送る』
嘘っ!
「なしっ! 最後のなしっ!」
つーか声に出してない。
『思考を読める我から見れば違いがない』
そうだろうけどもっ!
徐々に俺の身体(霊体)が薄れていく。
くっ、甘んじて受け入れるしかないのか……
それにしても
「神様はなんで俺にこんなに好待遇を?」
よくあるミスで間違って殺してしまったとか記念すべき第何人目の死亡者とか?
『神は間違いを起こさないし、死がめでたいもののわけあるまい』
「ではなんで?」
『人よ……お前は怨念強すぎ。このままじゃ総てを恨み、悪霊となって世界の者に迷惑かけるから、成仏もしくは異世界への蘇生という名のこの世界からの追放が必要だった』
それってただの厄介払い?
でも、それで第二の人生を歩めるのだから文句もない。
とりあえず行こう(逝こう)ではないか新たな世界へ
変わっていないと言えば変わってない(とゆーか表現を変えただけに見える)かも知れませんが、実は同じように見えて違うものになってたりします。