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ヒプルディアの商人

作者: 啝賀 絡太
掲載日:2026/05/07

 さぁさ!どうぞご覧ください!


 世にも珍しい、ヒプルディアでございます!


 おや、見ない顔でありやすね……旦那、ヒプルディアは初めてですかい?


 ヒプルディアは、いわば人魚の一種でね、人間の子供のような見た目でおりやすが、纏っているドレスは、実は鱗とヒレなんですよ。


 ……へへへ、旦那様、そんな目で見ないでくださいよ。ここに来たということは、旦那様もお仲間なのではありやせんか?


 ささ、こちらへどうぞ。暗い部屋ですので、足元には気をつけて。当店自慢の娘たちを紹介いたしやす。


 …………。


 ここの子達はですね、元々は野生だったんですよ。例えば、排水路の隙間や河の上流にある洞窟、下流にある排水路の影に、いつのまにかいるんです。


 どうしてそんな場所にいるかは、あっしもよくわかりやせん。


 でも、夏の終わりになると、小さな彼女たちがいるんです。


 あっしは、そこにいる彼女たちを拾っては育て、踊り子にしているんです。なんせ、綺麗に育ててあげれば、あのような綺麗な衣を纏うんですから。


 不思議ですよねえ。


 汚泥まみれの影で擦れて生きるよりは、絢爛に舞ってもらう方が良い。このように。


 さぁ、ご覧ください!私が手塩にかけたヒプルディアたちでありやす!ネオンライトに照らされ、音楽に乗って舞い踊る!これが彼女たちの特技です!


 特にあの子はどうでしょう。オーロラと言いまして、キャリコ柄の尾鰭が腰周りから足先まで伸びまして、パウスカートのように綺麗に揺らめくんですよ。


 …………ふむ、お気に召さない。


 それなら、彼女とかどうでしょう。


 鱗肌が真珠のように盛り上がっていて、体が光を眩く反射するんですよ。このケースのように、ライトの色が変わる場所で身体をくねらせば……ほうら。光を受けた鱗がよく目立つ。


 身体の動きに合わせ、コントラストが際立つんです。とてもイイでしょう?


 彼女でもダメ?ふむ、そうですか。それなら…………おや、どうかしましたかな?


 ……なんですって、一番奥にいる大きな娘が気になる?


 ははあ、そうですか……確かに彼女ほど大きいのは珍しいかもしれませんな。いや、彼女はなかなか危なっかしくてですなぁ。


 ほらあそこの、人間でいう肋や、二の腕、ふとももをご覧くだせぇ。鱗があるはずなのに欠けていたり、古傷が残っているでしょう。


 あれは彼女がまだ他のヒプルディアと同じ大きさの頃にたくさん跳ね回ったせいでついた傷なんですよ。


 下半身の尾ひれも欠けてしまって、今はもう満足に舞えなくなってしまったんでさぁ。ずっと隅で座り込んでいるんです。


 それでも餌はちゃんと食べるもんで、病気にもならなく、珍しく二次性徴前の児童と同じくらいの大きさまで育っちまったんです。


 引き取り手がいないなら、あの子を買わせて欲しい?ううむ、そうでありやすか…………


 ふむ…………


 大きめの身体が良いなら、あの娘はいかがですか?ヒプルディアにしては滅多にない濃い藍色の肌をしていて、渋い色で好きなマニアも多いですよ。


 …………ふむ、どうしてもあの娘が良いと。そう、ですか。


 いえ、旦那の言うとおりです。引き取り手がいないのなら、旦那が買っても問題ありやせん。ですが実は彼女は、少し事情が違いまして……

 

 …………ん?おぉ、坊じゃないか。



 随分見ていないから、とうとうおっちんでしまったんじゃないかと思ってたんでさぁ。


 どうしたんだ?その袋……なに!?金だぁ!?


 お前、いったいどこでこんな大金…………貯めていた?へぇ、最近いなかったのは、働き詰めていたってことか。それで、このお金をどうしたいんだ?


 あの子を引き取りたい?ほう、そうか……だが坊のような身分がヒプルディアを飼うとなるたぁ、坊の雇い主が黙っちゃいないんじゃないか?すぐに別れるハメになるぞ。


 ……この子と一緒に町を出る?ほう、ほう、大きく出たな。あてはあるのか?…………ないのか。


 威勢だけあっても、現実はそう甘くねぇさ。それに、お前たちの影響でこっちの足がつくなんてことはゴメンだ。


 昔と同じように、ここに足を運ぶでいいでねぇか。

 …………それでも、この子を迎え入れるというのか。一緒に広い場所へ出たいと。


 ……………………。


 まったく、こんな汚い袋に入れやがって…………ちょっと待っとれ。


 …………………………。


 ほれ、鍵だ。なにって、そこのケースを開ける為のだよ。


 連れて行けってんだ。


 当たり前だが、生きていくのに水は不可欠だ。あいつは特に大きい個体だが、半身ほど入るケースがあれば、なんとかなる。


 行け。店の裏にあの子の為の荷物をまとめてある。すぐ近くの桟橋に船も用意した。


 金もいらねぇ。こんなはした金じゃあヒプルディアを引き渡せねぇが、まぁ売れ残りだからな。これだけでいい。残りはお前がちゃんと管理しろ。


 もうすぐ雨が降るから、その後に船を出せ。河は激しくなるが、誰にも気づかれず、追われることもないだろう。


 おら、さっさと行け!二度とツラ見せんじゃあないぞ!!

 …………………………………………達者でな。


 ……………………。


 すみませんねぇ。せっかく目にかけていたでしょうに。


 坊が、本当に小さな頃からずっと一緒でしたもんでねぇ。取り置きされていたやつだったんですよ。


 ……えぇ、えぇ。


 ご納得いただきありがとうございます。さぁどうぞ続きを。他の娘もどうぞゆっくりご覧くだせぇ。


 皆、私が手塩にかけた、自慢の娘たちですんで。

 こんなシチュいいよねシリーズです。


 啝賀です。


「一見悪そうな商売をしてるようだけど、実は野生種を保護し手塩にかけてる、ちょっとツンデレなおじさんが良いよね」をコンセプトに書きました。


 今回は地の文で、一人のセリフのみの文章に挑戦してみました。


 いかがでしょうか。


 ヒプルディアは、ラテン語の金魚「ヒプルス」と踊り子「ルディア」を合わせた言葉です。



 というわけで、ヒプルディアは金魚をモチーフにした人魚または魚人です。


 以前、水族館に行ったら金魚が人の手によって進化していった種みたいな説明を見て、創作に使えそうやん!って思ってネタをあっためてました。


 夏の終わりの夕暮れ、透明な衣を纏い、夏休みが終わらないで欲しいと憂う子供たちを誘い、そしてそのまま何処かへ連れ去ってしまいます。


 もちろん、連れ去られた子供の行方は知れず。


 水辺の近くに現れるため、溺死しまったか、或いは妖精に食べられてしまったか……

 

 ただ、商人が見つけ保護した種については、愛されながら育つのでそんな事はしなくなります。


 少年と一緒に出て行った種についても然り。共に過ごしてきた時間が長かったので、逃げ出した後は、どこかで幸せに暮らしているのでしょうね。


 では次の物語でお会いしましょう。


 啝賀でした。

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