忘れた勇者
ピコピコ・・トゥルルルルル
ゲームクリアの音が鳴る。自身が学校の試験に失敗してから、やる気がなくなってしまった。いや、最初からなかったのだろうか、考えたらあまり勉強もしてこなかった。
「もう一本やるか」以前プレイしたゲームのカセットを手に取った時、僕の目の前が暗くなった。
「勇者様、魔王討伐おめでとうございます。王様がお待ちです」兵士のような男が大きな扉の前で言う。一瞬なにが起きたのかわからなかったが、すぐに気が付いた。
「異世界転生」しかも、魔王を倒したらしい。つまりゲームクリアのような状態になった世界への転生だ。元の世界で嫌な目線を向けられて来た僕にとっては最高の状態である。好きなだけ敬ってもらえる。楽しみで仕方がない。
「ケイジ、目が覚めた?」振り返ると女の人が立っていた。どうやらこの世界の僕の名前はケイジというらしい。好きな俳優のニコラスと同じ名前でとても気に入った。おそらく彼女は魔王討伐の旅を一緒にしてきた仲間だろう。
ゴゴゴゴ 兵士が扉を開けた。扉の奥には大きな椅子に腰を下ろしている男。おそらく彼がこの国の王様なのだろう。
「よくやってくれた、勇者ケイジ、戦士ファイ、そして非常に悔やまれることだが、亡くなった僧侶ローイン、魔法使いキク。君たちは世界を救った。今夜は祭りである」
大量の食べ物、旗、中央には自分らの銅像が立ち、なんと僕を型取った人形すら売られている。ファイはもう大量の酒を飲んでいる。
「おいおい、勇者さま!なんだい、こっちで飲もうや」「ケイジ~遅いぞ~」親しげな男たちが自分を呼んでいる。すぐに走って向かった。
「で、ファイちゃんとはどうなのよ?」筋肉質な男が尋ねてきた。
「お前魔王討伐が終わったらファイちゃんと結婚するって言ってたじゃねぇか」さらに筋肉質な男が尋ねる。よくよく考えると、ファイは自分の好みの顔をしている。祭りが終わったらファイの部屋にでも行ってみようか。
「勇者様~」女の子が呼んでいる。二人を巻いてすぐに向かった
祭りは三日三晩続いた。気が付いたのは勇者の体はこんなに遊んでも疲れない。そして酒にも酔わないし、いくら食べても限界が来ない。ファイも一緒に討伐したなら同じような体のはずだが、なんであんなに大量の酒を飲んでいたのだろう。夜ファイの部屋にいき、聞いてみることにした。
ファイの部屋を開けると、彼女はいなかった。靴もないのでどこかに出かけているのだろう。そういえば毎晩、隣の部屋から音がしている。窓を眺めるとちょうどファイが見えたので追いかけることにした。ファイが国の門から出て行った。勝手に出てもいいのだろうか。よく見ると腰には剣を携えている。
嫌な予感がして追いかける速度を上げた。
国の外には大量の怪物が立っていた。ファイが剣を抜いた。踏み込み、飛びついた。首元を狙うが、怪物はガードをし炎の魔法をファイに向かって打った。ファイは躱さずそのまま突っ込んだ。ファイが怪物の顔に切り込む。切れたが傷が浅い。怪物がファイに拳を叩き込み吹き飛ばす。木の影から同じ怪物がもう一体出てきた。このままじゃファイが負ける。
僕はファイを手伝うことにした。一応持ってきた剣を抜くと、僕はファイと戦っている怪物にとびかかる。
「何をしているの?」僕に気が付いたファイが叫ぶ。僕は勇者のからだに転生したのだ。このまま怪物を倒してファイへとアピールをしよう。
パキ
剣はあっさりと折られた。ファイは踏み込み、僕を抱え怪物の攻撃を避ける。
「あれは魔王軍の幹部よ。そんな攻撃で勝てると思ってるの?魔法を剣にまとって仕留めるはずでしょ。なんで剣一本で飛びつくの?とりあえず、私を回復してそのあと隠れといてちょうだい。」
「、、、」魔法の出し方など知らない。どうやって言い訳をすればいい。これじゃ僕はファイの足手纏いでしかない。そしてなんだこの怪物は、僕らは魔王を討伐したはずだろう。幹部程度にてこずってしまうレベルなわけがないだろ。僧侶や魔法使いが強いチームだったのか?
色々考えているうちにファイがこちらの様子に気が付いた。「なるほどね」ファイが一言いうと。そのまま怪物に突っ込んでいった。戦いは意外に30分ほどで終わった。ファイが全く同じ傷に何度も切り込み、無理やり致命傷にして勝っていた。しかしファイも限界なのか座り込んだ。
「あんた、記憶がなくなってるわね」ファイが聞いてきた。
僕は言い訳が思いつかず、自身の体に起きたことを話すことにした。この体も実際は僕のものではない。他者の体を勝手に使っているだけなのだ。
「知ってるわよ。」彼女からは意外な言葉が返ってきた。
ーー7年前
ピコピコ・・トゥルルルルル
ゲームクリアの音が鳴る。自身が学校の試験に失敗してから、やる気がなくなってしまった。いや、最初からなかったのだろうか、考えたらあまり勉強もしてこなかった。
「もう一本やるか」以前プレイしたゲームのカセットを手に取った時、僕の目の前が暗くなった。
目が覚めると自分の下に魔法陣が書いてあった。目の前に立つ男の頭には王冠が乗っていた。
「さて召喚されし男よ、君には勇者の資格がある。魔王討伐にいそしんでくれ。討伐を成功された暁には君に一生の安泰を与え英雄の称号を与えよう」
英雄、、それになれば敬ってもらえるだろうか。もう嫌な目線を受けずに済むだろうか。
「は、はい」僕は緊張しながらも同意した
「それでは君の名前を教えてくれるかな。」王様が僕に尋ねた
「、、、ケイジです。」僕は自分の名前を答えなかった。僕のことを映画で何度も励ましてくれた僕の中での英雄から名前を取った。
「それでは、勇者ケイジよ。余が命を与える。魔王を討伐し、世界を救済せよ」
その日から僕は勇者になった。
「君が勇者か!これからよろしく!私はローインだ。共にこの世界を救おう!しかし、王の人選に私が選ばれるとはなんて名誉なことなのだ!君もそう思うだろう?」
「は、はいぃ」この僧侶に会いに来るまでに山を三つ超えた僕は元気のない返事で返した。目の前のとんでもない速度の滝に打たれている男との旅はもっとつらいのだろうか、、
「それで勇者よ、君はすこしやわいな。」地獄の修業が始まった。
「寝るのは二日に一回で十分だ!慣れてきたら10日に一回に変更する!」
僕の毎日の修行は朝0時から始まる。2時には岩を持ち上げるスクワット1000回が終わるので山を5つ超える修行を開始する。初日は夜32時まで二つだけでかかったが今では1時間ほどで終わる
1年たったある日スクワットの反動で岩が砕けた。火の上を歩いても何も感じなくなった。滝の方を向いて目を開けられるようになった。疲れなくなった。
「師匠!今日の僕は何をすればいいでしょうか。」
「ケイジと私は年が同じだろう!ローインと呼んでくれよ。」
僕と師匠は山9つ越えた先にいる戦士へと会いに行く。1時間半でついた
「ここには久しく来たな。身体強化の呪文を唱える。心してかかろう」師匠の額にも汗がしたたる
「わかりました。」森に入ると早速怪物が現れた。師匠と怪物がぶつかり合う。力比べが始まった。
「先に行け。私も後で追いかける」ローインが叫ぶ
森を走る。後ろからも足音がするため、怪物も追いかけてきているのだろう。足元がぐらつく、足元にも擬態した化け物がいたらしい。岩なんかよりも圧倒的に硬いこいつにどう勝てばよいのだろう。
「どいて」後ろから声が聞こえる。怪物は真っ二つに切り裂かれた。
夜になって、師匠も追い付いた。「僧侶と勇者だけで旅してんの?あと二日もしたら死んでたわよ」ファイが笑う。
ファイから剣術を学ぶことになった。1年ほどで怪物を切れるようになるとは思っていなかったが、身体強化の呪文が効いたのだろう。すぐにできるようになった。
3年ほど冒険した後、魔王軍四天王に出会った。キクが魔法に注意を向け、身体強化の呪文を受けた僕とファイで切りかかった。ファイが吹き飛ばされる。炎を剣にまとい幹部を切った。僕が切った位置にファイが切りかかりキクの呪文で重力を増す。ローインが自身に施した身体強化、毒浄化の呪文で、幹部の体を噛みちぎり討伐した
魔王城には魔王の側近ただ一人とそれに守られる幼い魔王がいた。側近は重力魔法でローインを攻撃し、殺すことで身体強化を解こうとした。キクの重力魔法で相殺し、ローインを守った。しかし重力魔法を出している最中はほかのことができない。このときローイン、キクが動けなくなった。側近も重力魔法により動けないと考え、僕らは側近に切りかかった。
その時、ぐしゃという鈍い音が後ろから聞こえた。身体強化が解けた。さっきまでいた場所に魔王がいない。側近を切り伏せた時、後ろを向くと二つのつぶれた物体と幼さなどなくなった魔王が立っていた。
「やはり、注意を散乱させると殺しやすいな。」魔王が一言だけつぶやいた。魔王と向きあった自分をファイが抱きかかえ、魔王城から飛び出した。
「何をしている!」僕は叫ぼうとしたはずなのに声がかすれていた。体が震えていた。魔王は二人を圧死させた。つまり魔法強化、身体強化の呪文がかかり、重力を反転してかけた二人よりも強い重力で押しつぶしたのだ。おそらく、側近がいなかったとしても僕らは負けていた。
ファイの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああ
ケイジは目の前が真っ暗になった
すべてを思い出した。僕は魔王から逃げてしまったのだ。まだこの世界に魔王は生き残っている。ファイは僕をこれ以上傷つけないため、魔王討伐の嘘をついたのだろう。彼女は嘘がバレないために毎晩魔王からの刺客を一人で倒していた。そしてもう一つ気が付いた。二人がいないと僕らは幹部を倒すのにも手こずってしまうのだ。
「、、思い出した。」
「そう、よかった。さっきまでのあなた。最初会った時とそっくりだったわ」
「違うんだ。」僕は思い出した。最初の目標を、「みんなから敬いの目線を向けられる。」それを思い出した。二人はこのまま僕らが死んでも敬いはしない。二人に嫌な目線を向けられることは何よりも嫌だ。
「ファイ、今日出発するぞ」ファイは僕の顔をみた。そのあと少し汗をかいた。そして自身の胸を叩いた
「次はあいつの頭を踏みつけましょ」ぼうけんのしょはまだ消えていない
「勇者殿と戦士殿が消えました」兵士が叫んだ。兵士の顔は真っ青だ。兵士の家族は魔王軍四天王の一匹に殺されている。
「なに?それは本当か。あの二人が消えたなどとは全くもって思えないが。国民を持って捜索せよ。」王もまた魔王側近に妻子を嬲り殺されている。勇者は王国の後継者になるはずだった。彼以外に王の器があるものはいない
「ケイジが消えよっただと?」ドラゴンを倒した戦友である彼は酒場の机を放り投げた。
大きく聞こえる滝の音が聞こえなくなるほど国民はざわめいた。国民にとって彼らは英雄以上に恩人だ。ともに飲んだ酒瓶ですら捨てられない。
勇者のいない葬儀は静寂に包まれ寂しさが会場を支配した。勇者がいないなかこの二人の死体もない。魔法学校の仲間は泣き崩れる。キクは昔からの知り合いで、ローインはキクを連れ出すための潜入ではあったが生徒の一員であった。この二人は龍に襲われた学校を救ってくれている。勇者もそうである。
戦友は棺桶に誇りであったドラゴンの角を入れ、勇者との再会を願った。
2年後見張りの兵士の腰が抜けた。そして掠れているが、大きな声で叫ぶ
「勇者殿のご帰還です!!」
そこには勇者と戦士が何かを持ち立っていた。話はすぐに皆に伝わった。周りに集う群衆を押しのけ王が問う
「いままで何をしていたのだ」
勇者は手に持つものを道に投げつけた。
「忘れ物を取りに行っておりました」
道には魔王の首が転がっていた。
次の日、国が祭りとなった。彼らの結婚式である。
最後までお読みいただきありがとうございました。初めて小説というものを書きましたが結構面白かったです




