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最強の武器

 翌朝、ジークは夜明けとともに村を出た。村人たちは総出で見送りに来ており、女将は涙を流しながら手を振っていた。ジークは軽く手を上げただけで、振り返ることなく西へと向かった。


 平原を抜け、丘を越え、森を通り抜ける。ジークの足取りは速く、休むことなく進み続けた。目的地は、ガルヴァ山脈。そこにいる魔導師ザルゴンを見つけ、黒龍の居場所を聞き出す。


 それが、今のジークの唯一の目的だった。


 二日目の夕方、ジークは小さな街に辿り着いた。石造りの建物が立ち並び、城壁に囲まれた、中規模の街だ。門には衛兵が立っており、入街する者をチェックしている。


「止まれ。身分証を見せろ」


 衛兵がジークを呼び止めた。ジークは冒険者ギルドの登録証を見せる。


「冒険者か。武器は?」


「腰の刀だけだ」


 衛兵は、ジークの腰に下げられた極刀を見た。その鞘に刻まれた紋章を見て、目を見開く。


「こ、これは……まさか、極刀……?」


「そうだ。問題あるか」


「い、いえ!ど、どうぞ、お通りください!」


 衛兵は慌てて道を開けた。極刀の持ち主――それだけで、どれほどの実力者か分かる。下手に逆らえば、命はない。


 ジークは街の中へと入った。通りには露店が並び、様々な商品が売られている。武器、防具、薬草、魔法の道具。冒険者向けの街のようだった。


「ジーク、この街で情報を集めるか?」


「ああ。ガルヴァ山脈への道を確認しておく」


 ジークは街の中心にある冒険者ギルドへと向かった。大きな石造りの建物で、入口には多くの冒険者が出入りしている。


 中に入ると、広々としたホールが広がっていた。受付カウンターには複数の職員が立ち、冒険者たちが列を作っている。掲示板には、様々な依頼の張り紙が貼られていた。


 ジークは受付カウンターに向かった。そこにいたのは、若い男性職員だった。


「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?それとも報酬の受け取りで――」


 職員の言葉が、途中で止まった。ジークの腰に下げられた極刀を見て、顔色を変えたのだ。


「きょ、極刀……!?あ、あの、失礼ですが、お名前は……?」


「ジークだ」


「ジーク様……!お噂はかねがね……!」


 職員が慌てふためく。周囲の冒険者たちも、ジークに注目し始めた。


「あれが、極刀の使い手……」


「マジかよ……実物を見るの、初めてだ……」


 ざわめきが広がる。しかし、ジークは気にせず、職員に尋ねた。


「ガルヴァ山脈への道を知りたい」


「が、ガルヴァ山脈ですか……?あそこは、非常に危険な場所ですが……」


「知っている。道を教えろ」


「は、はい!こちらの地図をどうぞ!」


 職員は慌てて地図を取り出し、ジークに手渡した。


「ここから西へ一日ほど進むと、山脈の麓に着きます。そこから登山道がありますが――魔物が非常に多いので、十分にお気をつけください」


「分かった」


 ジークは地図を受け取ると、ギルドを出ようとした。しかし――。


「おい、ちょっと待てよ」


 低い声が、ジークを呼び止めた。


 振り返ると、そこには大柄な男が立っていた。全身に傷跡があり、腰には大剣を下げている。歴戦の冒険者、といった風貌だ。


「何だ」


「お前、本当に極刀の使い手なのか?」


 男の声には、挑発的な響きがあった。周囲の冒険者たちが、緊張した面持ちで二人を見守る。


「そうだ。それが何か」


「……俺は、この街で一番強いと言われている冒険者だ。名はグラント。極刀の使い手がどれほどのものか――試させてもらいたい」


 グラントが、大剣の柄に手をかけた。殺気が、辺りに満ちる。


 しかし、ジークの表情は変わらなかった。


「興味ない。失せろ」


「何だと……!」


 グラントの顔が、怒りに歪んだ。


「俺を――馬鹿にするのか!」


「馬鹿にしているわけではない。ただ、お前と戦う理由がないだけだ」


 ジークは踵を返した。しかし――。


「逃げるのか!臆病者が!」


 グラントの罵声が響く。それでも、ジークは立ち止まらなかった。


 しかし――グラントは、ジークの背中に向かって大剣を振り下ろした。


 その瞬間――。


 キィン!


 乾いた金属音が響いた。


 ジークの極刀が、いつの間にか抜かれ、グラントの大剣を受け止めていた。刀身と刀身がぶつかり合い、火花が散る。


「――何?」


 グラントが、驚愕の表情を浮かべた。自分の攻撃が、いとも簡単に防がれた。しかも、ジークは振り返ってすらいない。


「……一度だけ忠告する」


 ジークの声が、低く響いた。


「二度と、俺に剣を向けるな」


 その言葉とともに、ジークが極刀を一振りした。


 瞬間――グラントの大剣が、真っ二つに折れた。


 いや、折れたという表現は正しくない。斬られたのだ。極刀の刃が、大剣の刀身を、まるで紙のように両断したのだ。


「な――」


 グラントの言葉が、喉に詰まった。自分の愛剣が、一瞬で破壊された。信じられない光景だった。


 ジークは極刀を鞘に収めると、何も言わずにギルドを出ていった。


 残されたグラントは、呆然と立ち尽くしていた。折れた大剣を握りしめ、震えている。


「……化け物だ……」


 その呟きは、ギルド内にいた全員の思いを代弁していた。



 ジークは街の宿屋に一泊した後、翌朝早くに出発した。西へ向かい、ひたすら歩き続ける。平原を抜け、草原を横切り、やがて前方に巨大な山脈が見えてきた。


 ガルヴァ山脈だ。


 険しい岩肌がそびえ立ち、頂上は雲に隠れている。その威容は、まるで世界の果てを示すかのようだった。


「……着いたな」


「ああ。ここから、本当の試練が始まる」


 ヨルの声が、緊張を帯びていた。ガルヴァ山脈は、魔物の巣窟として知られている。上級魔物はもちろん、時には龍級の魔獣も出現すると言われていた。


 ジークは山脈の麓に辿り着き、登山道を探した。しばらく探すと、岩の間に細い道が見つかった。人が一人通れるかどうか、という狭さだ。


「ここからだな」


 ジークは道に足を踏み入れた。岩壁が両側にそびえ、上空はわずかしか見えない。薄暗く、じめじめとした空気が漂っている。


 慎重に進んでいくと、前方で何かが動いた。ジークは立ち止まり、極刀に手をかける。


 岩陰から現れたのは――巨大な蜘蛛だった。体長三メートルはある、不気味な魔物だ。八本の脚は鋭い棘で覆われ、口からは毒液が滴っている。


 ロックスパイダー――岩場に棲む上級魔物だ。


 蜘蛛は、ジークを獲物と認識し、糸を吐き出した。粘着性の高い糸が、ジークに向かって飛んでくる。


 しかし――。


 ジークは極刀を抜き、一閃した。


 糸が、真っ二つに斬られた。極刀の刃は、どんなものでも斬り裂く。糸程度では、止められない。


「――邪魔だ」


 ジークが踏み込む。一歩、二歩。その動きは速く、蜘蛛が反応する前にジークは間合いに入っていた。


 抜刀。


 極刀が、蜘蛛の体を斬り裂いた。硬い外骨格も、内臓も、全てが一刀のもとに両断される。蜘蛛は、断末魔の叫びを上げる間もなく、絶命した。


「……」


 ジークは極刀を鞘に収め、再び歩き始めた。魔物の体から転がり落ちた魔石を拾い上げ、巾着袋に入れる。


 それから、ジークは次々と現れる魔物を倒していった。ロックスパイダー、ストーンゴーレム、マウンテンウルフ――どれも上級魔物だったが、極刀の前では無力だった。


 極刀は、全てを斬った。


 岩を、鉄を、魔法の障壁を、そして命を。


 その刀身は、決して欠けることなく、曇ることもなく、ただ斬り続けた。


 これが、極刀の力。


 世界最強の武器の、真の姿だった。


 登山を続けること数時間。ジークは中腹にある平坦な場所に辿り着いた。そこには、古びた石造りの建物があった。


 古城の遺跡だ。


「……ここか」


 ジークは城の門へと近づいた。門は既に崩れ落ちており、中へ入るのは容易だった。


 城内は薄暗く、静寂に包まれていた。しかし――確かに、人の気配がする。


「誰かいるな」


「ああ。恐らく、ザルゴンだろう」


 ジークは警戒しながら、城の奥へと進んでいった。廊下を進み、階段を上り、やがて大広間のような場所に辿り着いた。


 そこには――一人の男が立っていた。


 黒いローブを纏い、顔は フードで隠されている。しかし、その体からは強大な魔力が漏れ出ていた。


「……ようこそ、極刀の使い手よ」


 男が、低い声で言った。


「待っていたぞ――ジーク」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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