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剣聖  作者: きたスラ
第一章「世界の理と定められた勝敗」
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第八話-覚醒の余白

この話は少し、落ち着く回なので、激しいものはありません。

でも、謎はどんどんと深くなっていきます。

杉本の正体。

神との関係。

ホワイトスペースと黒の男。

 あの戦いから、一週間が経っていた。

 蝉の声が、やけに大きく響く晴れの日だった。


 杉山屋敷の一室で、杉本は静かに目を覚ました。

 しばらく天井を見つめたまま、呼吸を確かめる。

 痛みは、もうない。

 体は重いが、確かに生きている。


 ゆっくりと上体を起こす。


 視界の端、障子の前に人影があった。

 背中を向け、座ったまま外を眺めている。

 藤山だった。

 開いた障子の向こうから、夏の光が差し込んでいる。


 藤山は、すでに目を覚ましていた。

 杉本の気配に気づくと、藤山は体をこちらに向けた。

 「おはよう。」

 いつもと変わらない声だった。


 「……おはよう。」

 杉本もそう返す。


 両腕を上げ、大きく背伸びをした。

 「どれくらい、寝てたんだ。」


 「ざっと一週間ってところだな。」

 藤山は肩をすくめる。

 「俺も、一昨日目が覚めたばかりさ。」


 「そうか……。」


 藤山は、らしくもなく、そのまま後ろに倒れた。

 「くう……。」

 妙に高い声を出し、天井を仰ぐ。

 そして、息を吐くように言った。

 「……良かったあ。」


 しばらくして、藤山は視線を杉本に向ける。

 「あの戦いさ。」

 「お前が踏ん張らなかったら、間違いなく負けてたぜ。」


 杉本は、何も答えなかった。

 ただ、視線を落とす。

 「……それなんだけどさ。」


 「何だよ。」


 「俺、あの時……夢の中で、誰かに力の使い方を教えられたんだ。」

 藤山が、ぴくりと反応する。

 「どういうことだ?」


 杉本は、あの時のことを、ゆっくりと話し始めた。

 白い空間。

 体が動かなかったこと。

 椅子に座る、足しか見えない“黒の男”。

 突き放すようで、背中を押す声。


 話し終えると、部屋に沈黙が落ちた。

 藤山は、顎に手を当て、考え込む。

 「……黒の男に、力の使い方を教えられて覚醒、か。」


 「仮にだ。」

 藤山は続ける。

 「お前がいた、あの白い部屋を――ホワイトスペースと呼ぼう。」


 「不思議だな。」

 「足しか見えなくて、それ以外は黒く塗りつぶされたみたいに、何も認識できない、か。」


 「ああ。」

 杉本は頷く。

 「俺は寝そべったままで、身動き一つ取れなかった。」


 藤山は、天井を見上げる。

 「……立場が、はっきりしてるな。」

 「お前は地に伏し、相手は座っている。」

 「触れることも、近づくこともできない。」

 ぽつりと呟く。

 「まるで……神みたいだな。」


 藤山の胸に、以前からの違和感が蘇る。

 杉本。

 こいつは、一体何者なのか。

 この世界の絶対神と、何か関係があるのではないか。

 黒の男が言っていた、“使命”。

 それは、何を指しているのか。

 ふと、記憶の端に引っかかる。

 忍の家系に、杉本という名があった気がする――。


 藤山が再び考え込んだ、その時。

 反対側の障子が、静かに開いた。


 「お目覚めですか。殿。」

 小林が、部屋に入ってきた。


 その声に、藤山が体を起こす。

 「小林、武士たちを集めてくれ。これからの話を――」

 杉本が言いかけたところで、藤山が手を上げた。

 「待て。」


 二人は藤山を見る。

 「今後の方針について、三人だけで話そう。」


 少しの間が流れる。


 杉本は布団を脇へと押しやり、三人が向かい合うように座った。

 自然と、場の空気が引き締まる。


 「俺たちは、種ヶ原を桂の国とした。」

 藤山が口を開く。

 「今は、鉱山、城、そして城下町を得ることに成功したわけだ。」


 「そうだな。」

 杉本が頷く。


 藤山は指を三本立てた。

 「今後の方針は三つ。」

 一本目を折る。

 「一つ。城下町にて、武士と武器を買うための金を得ること。」

 二本目。

 「二つ。桂の国を、杉山の国として統一し、その名を商人どもに広めること。」

 三本目。

 「三つ。次に狙う国――﨑の国の落とし方。」


 藤山は視線を二人に向けた。

 「これについて、話し合いたい。」


 「了解しました。」

 小林が即座に答える。


 「一つ目は……座を作る、か?」

 杉本が考えるように言った。


 「いや、それはダメだ。」

 藤山は首を振る。

 「今大事なのは、商人どもに多く来てもらうことだ。

 座で縛るより、楽市楽座を目指した方がいい。」


 「我々は、鉱山を直接支配できています。」

 小林が続ける。

 「鉱物は、そのまま売るだけでなく、杉山の国独自の貨幣を作るのも、よろしいかと。」


 杉本は、少しだけ考えたあと、頷いた。

 「よし。この件に対しては、小林。お前に担当させよう。」


 「は。」

 小林が短く返事をする。


 「二つ目も、そのまま頼むぞ。」

 藤山が言った。

 「お任せください。」


 「で、(たつさき)の落とし方はどうすんだ?」

 杉本が尋ねる。


 藤山は、にやりと口元を歪めた。

 「それについては……考えがある。」

 藤山は身を寄せ、声を潜める。


 コソコソ、と短い囁き。


 「……お、おお。」

 杉本が目を見開く。

 「まじか。出来っかな、そんな芸当。」


 「は、ははは。」

 小林が思わず笑みを浮かべる。

 「面白いですね。それを、お二人で……。」


 藤山が立ち上がる。

 「よし。これで会議は終了だな。」

 「次に向けて、頑張るぞ。」


 「おおーっ!」

 声が重なった。


 ――そして、一年が過ぎた。

 種ヶ原の城は、すでにその名を失っていた。

 今では、人々はそこを杉山城と呼ぶ。

 城下町には商人が集い、鉱山からは富が流れ、

 国は、確かに形を持ち始めていた。


 城の上。


 杉本と藤山は、並んで眼下を見下ろしている。

 そこには、二万を超える兵が整然と並んでいた。


 風が旗を揺らし、甲冑が陽光を弾く。


 杉本は、一歩前へ出る。

 「皆の者――」


 息を吸い、声を張り上げた。

 「出陣だー!」


 その瞬間、

 国中を揺るがすような歓声が、天へと突き抜けた。

次回から、﨑戦です。

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