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第二十八話-蘇我鎌瀬

遅くなりました!

今回は蘇我鎌瀬 対 地田勝です。

お楽しみに!

 二人が闘技場から観客席を繋ぐ通路を歩いている。闘技場や控室などとは違い灯りが点いておらず、妙に暗く静まり返っていた。


 コツコツと靴が鳴る音が、通路に響く。


 「次の試合がとうとう決勝か」

 杉本は胸が高鳴る。


 藤山は頭の後ろで手を組む。


 「そうだな。でもその前に一試合あるぜ」

 藤山は思い返すようにそう言った。


 杉本はそれを聞いて足を止める。藤山も少しして止まった。


 「蘇我鎌瀬 対 地田勝だろ?どっちが勝つんだろうな。あの蘇我鎌瀬ってやつも相当の実力者だと思ってるんだが」


 二人はあの川岸での会話を思い出す。蘇我は決勝に残るのは自分だと宣言していたが、どうなのだろう。


 「でも…」

 杉本は藤山の方を見つめて不敵に笑う。

 「最後に立つのは俺たちだよな!」


 藤山はその言葉に一瞬だけ目を見開くが、表情を戻して「ああ」と微笑みと一緒に返事を返した。


 (この(くだり)、何回目だろう…)

 藤山が心の中で呟いた。


 二人がもう一度歩き出すと、前から足音が近づいてくる。近づいてくるにつれて姿が見えるようになると、その男は地田だった。


 二人はすれ違いざま、地田と目を合わせ、挑戦的な顔を見せつけた。すると、地田はその顔を見た途端顔を逸らして逃げるように歩いていった。


 二人はその行動を不思議に思い、背中を目で追う。


 「なんだあ?」

 杉本は遠ざかる地田の背中を見ていった。


 「なんだろうな」

 藤山も違和感を口にする。


 地田の足音はだんだんと離れていき、いつしか聞こえなくなった。沈黙が続くのがむずむずとしたのか、杉本が口を開く。


 「ううん…まあ、とりあえず行こうぜ」


 「あ、ああ」

 二人はまた歩き出したが、藤山はまだその違和感が心の中で残っていた。


 歩いた先にある長い階段を登って行くと、向こうから灯りが見えた。外はもう夜中だというのに、光の先から聞こえる声援は時間などとっくに忘れている。


 二人は観客席に座り、闘技場をまっすぐに見つめている。


 杉本は背もたれに体を乗せ、腕を組んでいる。


 右にいる藤山は、両脚に腕を置いて身を乗り出し、食い入るように下を覗き込んでいる。


 「さあて、どっちが勝つかな」

 杉本は全身に熱がまわり、興奮が抑えられなかった。


 闘技場の冷ややかなタイルの中央には審判が立ち、その左手には地田が静かに佇んでいた。しかし、対戦相手である蘇我の姿はどこにもない。


 会場に困惑のざわめきが波及していく。


 「なんだあいつ。土壇場で尻尾を巻いて逃げやがったのか?」


 「おいおい、期待外れもいいとこだぜ。金返せよ!」


 客席からは怒号に近いブーイングが吹き荒れた。


 「皆様、落ち着いてください!お静かに!」

 審判が必死に声を張り上げるが、荒れ狂う群衆が静まる気配はない。


 「はあ……辞めたいなあ、こんな仕事……」

 審判はがっくりと肩を落とし、誰に聞かせるともなく愚痴を零した。


 「俺はここだ!愚民どもよ!」

 地田の視線の先、遥か上方の観客席に立つ一人の男へ全聴衆の目が吸い寄せられた。その傲慢な立ち姿だけで、彼が蘇我鎌瀬であることは明白だった。


 蘇我は躊躇なく客席から闘技場の芝生へと身を躍らせる。


 ドスン、と重苦しい着地音が会場の空気を震わせた。


 蘇我は悠然とした足取りで闘技場の壇上へと登る。


 「では、真剣勝負の内容を……」

 審判が形式的な手続きを促した。


 「やっと、退屈を凌げそうな獲物とお目見えだぜ」

 見開かれた両眼が地田を射抜く。その瞳からは、抑えきれない殺意という名の渇望がどろりと溢れ出しているようだった。


 「この会場でまともに()を操れるのは、俺とお前、あとはあの兄弟くらいなものだからな。まあ、貴様に殺されたあのなんちゃって衣使い――高橋とか言ったか。あんな端者(はしたもの)もいたが、どうでもいい話だ」

 蘇我は両手を天に掲げ、陶酔したように空を仰いで言葉を継ぐ。


 「待ちに待った死合い(試合)だ。存分に(たの)しまなきゃあなあ?」

 蘇我はゆっくりと視線を落とし、地田を正面から見据えた。


 「……そうだな」

 地田は一切の関心がないかのように、低く短い礫を投げるように応じた。



 「あ、あの……真剣勝負の内よ……」


 審判の言葉を、蘇我の鋭い声が断ち切る。


 「あん? そんな微温(ぬり)い決め事などどうだっていい。無しだ、無し」

 そのあまりに奔放(ほんぽう)な物言いに、審判は狼狽の表情を浮かべた。


 審判は力なく「分かりました」と呟くと、二人の殺気から逃れるように距離を取る。


 「はあ、めんどくせえ……」

 誰にも聞こえぬ早口で吐き捨てた。


 瞬時に表情を取り繕い、マイクを口元へと引き寄せる。

 「それでは第十四試合、蘇我鎌瀬 対 地田勝! よーい……」


 会場を刺すような沈黙が支配する。


 「始め!」

 号令とともに、開戦を告げる鐘の音が峻烈に鳴り響いた。


二人は呼吸を合わせるようにして、一斉に衣を纏った。立ち昇る密度の高い気配は、両者の力が決定的に異なる性質のものであることを如実に物語っていた。


 「……珍しい衣を扱っているな」

 藤山が独り言のように、低く呟いた。


 「なんだって、何がわかるんだ」

 杉本はその言葉に含まれた危うさに反応し、食い入るように問い質す。


 「蘇我が纏っているのは()()()()だ。肉体の制御感覚を極限まで引き上げ、一分一厘の狂いもなく、機械のごとき正確さで技を繰り出す。対して、地田が選んだのは()()()()――。俺も伝聞でしか知らんが、存在そのもので相手を圧し、敵の気の感覚を攪乱し狂わせる特殊な力だと聞く」


 杉本はその解説を聞き、戦場から片時も目が離せなくなった。

 「こいつは、実物だな」


 静寂を破り、先に動いたのは蘇我だった。刃に気を凝縮させ、鋭利な気の斬撃を放つ。地田は淀みない動作で刀を抜き、それを正面から受け流した。蘇我は間髪入れず幾重もの斬撃を浴びせ続け、地田は一瞬の綻びも見せず、冷徹にそのすべてを捌き続ける。


 「あの斬撃の鋭利さを見ろ。一撃でも防ぎ損じれば、その瞬間に地田の敗北が決まる」

 藤山もまた、眼前の死闘に意識を昂揚させていた。


 拉致があかぬと判断したか、蘇我は不意に攻撃を止め、弾丸のような速さで地田へと肉薄する。地田もそれを迎撃すべく地を蹴った。両者の刀が激突した瞬間、奔流する気が衝突し、鼓膜を震わせる凄まじい衝撃音が轟いた。


 最前列で観戦していた者たちは、そのあまりの激しさに呑まれたのか、あるいは過剰な興奮に当てられたのか、次々と意識を失い崩れ落ちていった。


 二人は弾かれるように距離を取り、互いの間合いを測りながら反時計回りに闘技場を疾走し始める。審判はその殺気の渦の中心に立たされていることに死の予感を覚え、慌てて舞台の外へと飛び降りた。


 「お前、なかなかやりやがる……!」


 蘇我は愉悦に歪んだ声を上げながら再突進し、地田の眉間へ向けて真っ直ぐに刃を突き立てる。地田は刀を水平に掲げ、両手で圧し止めるようにその一撃を封じた。


 硬質な金属音とともに、激しい火花が散る。その至近距離で、二人の視線が交錯した。戦いそのものを貪るように楽しむ蘇我の瞳と、深く静かな怒りを湛えて射抜くような地田の視線。


 「長らく忘れていた気がする。この、闘いの昂揚感とでもいうべき感覚を」

 地田が渾身の力で刀を弾き返すと、蘇我は軽やかに後方へと跳んだ。


 「敬意を払おう。貴様は強かった。だが、私を討つには、まだ機が熟していなかったようだな」

 地田は感情を排した、変わらぬ温度の声でそう言い捨てた。


客席のあちこちで、観客が糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。その光景を視界に捉えた藤山は、「まさか……」と震える声で戦慄を漏らした。すぐさま闘技場へと視線を戻す。


 「何を、言っ……て……」

 蘇我の体が不自然に揺らぎ、力なく膝をタイルの上についた。支えを求めるように、震える両手を地面に突き立てる。


 「こ、これが威圧の衣の真価だというのか……!?」


 藤山は驚愕のあまり、弾かれたように立ち上がった。その額からは、一筋の冷や汗が頬を伝い落ちる。


 「気の感覚を狂わせるなどという、そんな生易しい力じゃない。相手の脳腑へ直接、致死的な気を送り込んでいるんだ」


 藤山の解説を耳にし、杉本は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。


 「…ざ………んな……こ…なで…の…俺ぐ…あ…」

 蘇我の視界は混濁し、世界がぐにゃりと歪んでいく。


 抗う術を失った蘇我の体は、そのままドサリと無機質なタイルの上に倒れ伏した。


 会場に困惑のざわめきが波及する。


 「おい、何が起きたんだ? 突然倒れちまったぞ」


 「知るかよ。気を使いすぎて、自滅したんじゃねえか?」


 静まり返る空気の中、審判が重々しくカウントを刻み始める。


 カウントが後半に差し掛かった頃、地田は静かに刀を鞘へと納め、蘇我に背を向けた。背後で倒れ伏す蘇我は、指先一つ動かす気配もない。


 「早急に治療をしろ。放置すれば、呼吸が止まり命を落とすぞ」


 地田はそれだけを言い残し、悠然と舞台を降りた。審判のカウントが「十」を数え上げると、会場は戸惑いを飲み込むような大歓声と喝采に包み込まれた。


 「勝者、地田勝!」

 審判の宣言が、地鳴りのような歓喜の渦を巻き起こす。


 騒乱を背に受け、地田は芝生の上で足を止めると、出入り口の方角を向いて静かに胡座をかいた。敗者へ敬意を払うように、深く目を瞑る。


 闘技場には救急隊が駆け上がり、力なく横たわる蘇我を担架で運び出していく。


 「……行くか」

 杉本が立ち上がり、呆然と立ち尽くす藤山へ声をかけた。

 「地田が、待っている」


 杉本の言葉に、藤山は覚悟を決めたように短く応じた。

 「そうだな」

 過去を振り切るように一度深く息を吐き、藤山は前を見据える。


 「泣いても笑っても最後の勝負だ。絶対に、勝つぞ!」

 杉本は力強い足取りで歩み出し、自らに言い聞かせるように言葉を紡いだ。


 ついに宿命の決勝戦――杉山兄弟 対 地田勝の幕が、今上がろうとしていた。

次からとうとう杉山兄弟 対 地田勝が始まります!

地田勝の過去も明らかになるでしょう。

更新をお待ちください。

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