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剣聖  作者: きたスラ
第一章「世界の理と定められた勝敗」
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第二話-静かな昼の血

細道戦でございます。

武士たちの心情や、理について、想像しながら読んでくれると幸いです。

 轟音とともに、屋敷の天井が砕け散った。


 瓦と木片が宙を舞い、日光が砕けた屋根から差し込む。


 その中を、一人の男が落ちてくる。


 杉本翔だった。


 床に着地した衝撃で、広間の空気が震える。 藤山透は、すでにその隣に立っていた。


 並び立つ二人を前に、細道国友は剣を握る手を震わせる。

 だが、その口だけは威勢よく開いた。


 「な、何事だこれは!」


 杉本が、肩を軽く回す。

 「よお、細道さんよ」


 細道の服装は高価な絹を使用する一方、だらしないお腹まわりの肉。

 手入れをしない髪のボサボサとした質感から傲慢さが見てとれた。


 「き、貴様は……!」


 細道の目が、杉本を認識して見開かれる。


 「そうさ。あんたの金を、たらふく盗んだ忍び――杉本翔様だ」


 細道は歯噛みしめ、すぐに藤山へ怒鳴りつけた。

 「おい、『光源』! 早くこいつを殺せ!」


 藤山は小さくため息を吐いた。

 「……まだ分からないのか」


 そして、淡々と告げる。


 「俺は、もうこっちについた」


 「な、なんだと……」

 細道は一歩退き、声を張り上げた。


 「者ども! 早くこいつらを排除しろ!」

 命令は、屋敷中に響き渡った。 だが――


 返事はない。


 「悪いな」


 杉本が、軽く言う。

 「全員、眠らせた」


 藤山が補足する。

 「俺の手製の睡眠薬でな。」


 細道は言葉を失った。


 「く……」


 杉本は刀を抜く。 金属音が、やけに静かに響いた。


 「じゃあ、()るか」


 杉本が一歩、また一歩と距離を詰める。


 「ま、待て!」

 細道は後ずさりながら叫ぶ。


 「桂の国は、我が国と同盟を結んだはずだ! 神に誓った約束だぞ!破ることは……」


 藤山が、遮るように言った。


 「俺たちは、桂の国の武士じゃない」


 「く、くそ……!」


 細道も刀を抜き、斬りかかる。 だが、動きは鈍く、覚悟も足りなかった。


 一合。 いや、半合も持たない。


 次の瞬間、細道は床に転がされていた。

 細道は恐怖に打ちひしがれた。


 杉本は細道の髪を掴み、そのまま引きずる。

 障子を突き破り、外へ投げ捨てた。


 外には兵が、壁のようにずらっと並んでいた。 だが、誰一人として前に出ない。


 細道は地面に転がりながら、必死に叫ぶ。

 「よ、よく来た! 待っておったぞ!」


 罵声と命令を浴びせる。

 「何をしている! 早くこやつらを斬れ! 後悔するぞ!」


 ――それでも、兵は動かない。

 視線を逸らし、剣を握ったまま沈黙している。


 藤山が、細道を見下ろした。

 「お前はな」


 静かな声だった。

 「そうやって、一生形式(ルール)に縋って生きてきたんだ」


 「なぜだ……」

 細道の声が震える。


 尻餅をついたまま動けなかった。

 「なぜ、誰も助けない……!」


 藤山は答える。


 「俺が、少し選択肢を与えただけさ」


 「選択肢……だと?」


 「今から細道の首を落とす、って言っただけだ」


 藤山は兵の列を一瞥(いちべつ)する。

 「なのに、お前が死ぬと聞いて、助けに来たやつはいなかった。」


 杉本が、刀を構える。


 「おしまいだ、細道」

 冷たい声だった。


 「貴様は、ルールに縛られすぎた」


 一太刀。瞬きをする頃には。


 ポテン。


 首が落ちた。後に胴体が


 ドサ。


 と後ろに倒れ込んだ。


 血がゆっくりと、全体に広がっていく。


 細道は死んだ。


 首と胴が分かたれたその場に、本来なら大勢いるはずの兵の気配はなかった。

 あるのは、張りつめた空気と、深い沈黙だけだった。 誰も口を開かない。 誰も動かない。


 その沈黙を破ったのは―― 街の向こうから響いてきた、地鳴りのような音だった。


 ドドドドド――


 馬の足音。

 しかも一頭や二頭ではない。 数十、いや百に近い数が、一斉に迫ってくる。


 兵たちの顔色が変わる。 剣に手を掛ける者。 息を呑む者。


 やがて、屋敷の前に騎馬の一団が姿を現した。 先頭に立つ男が、馬上から静かに辺りを見渡す。


 桂だった。


 その視線が、細道の亡骸(なきがら)に向けられる。


 一瞬だけ、目を伏せる。 だが、哀悼(あいとう)の色はない。


 「……状況は、聞いている」

 桂は馬から降り、淡々と告げた。


 「細道国友は、ここで死んだ」


 桂は淡々と続ける

 「そしてこの国は、主を失った」


 ざわり、と武士たちの間に声が走る。

 「どういうことだ……」

 「まさか、奪う気か」

 「同盟はどうなったんだ…」


 桂は、その声を制することなく聞き流した。


 「俺は、奪いに来たわけじゃない、現実を示しに来ただけだ。」


 桂は一歩前に出る。

 「この国は、今日から桂の領地とする。」


 一斉に、怒号と困惑が噴き出した。

 「勝手なことを!」

 「納得できるか!」

 「俺たちはどうなる!」


 桂は、声を荒げない。


 「選択肢は二つだ。桂につくか。それとも、この場で国と共に終わるか」


 沈黙が落ちる。


 誰もが、細道の死体を見ていた。


 つい先刻(せんこく)まで、この国の主だった男。


 その時、一人の武士が前に出た。

 「……待ってくれ」


 年は三十半ば。 無駄のない体つき。 だが、鎧には幾度もの修繕跡があった。


 「小林晴朗(はるあき)と申す」

 小林は、桂を真っ直ぐに見据える。


 「俺は武士だ。主に仕えるのが武士じゃない。守るものがあるから、剣を振るう」

 周囲の武士たちが、息を詰める。


 「細道殿は……もう、俺たちが守る主じゃなかった。」

 小林は一度、拳を握りしめ、吐き出すように言った。


 「なら俺たちは、生きて守れるものを選ぶ。桂の国の武士として、戦おう。」

 小林は桂に対して膝をつけた。


 一人、また一人と、膝をつく音が増えていく。


 「俺もだ」

 「家族がいる」

 「無駄死にはしたくない」


 桂は、静かに頷いた。

 「決まりだな」


 その場の緊張が、ようやく解ける。


 杉本は、藤山の隣で肩を鳴らした。

 「……終わったな」


 藤山は空を見上げる。


 杉本は刀を納め、踵を返す。

 「帰ろうぜ」


 二人は、そっと国を後にした。

次は桂に帰ってきて、いよいよ…

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