第二十七話-若人の戦い
戦いの様子を細かく書くために、少し投稿速度が落ちていますがご了承ください。
準決勝を書きました。お楽しみに!
二人が闘技場を離れた後、間隔をあけて、新しい試合が展開された。
第十試合、郷田蒼蓮 対 百武刑部の末、郷田が百武を突き殺して勝利。
第十一試合、蘇我鎌瀬 対 滝川虎清の末、滝川が場外で気絶し蘇我の勝利。
第十二試合、地田勝 対 矢佐野中僧の末、矢佐野が降参し地田の勝利。
準決勝に移るにあたり、今度は夕食休憩が三十分与えられた。しかし、二人はすでに闘技場の上であぐらをかいて座り、目を閉じて精神統一を行なっている。会場内に人がゾロゾロと戻ってきても、二人の姿勢は変わらなかった。
審判が時間前に闘技場の上に上がってくるが、二人はやはり何も反応しなかった。やがて、一人の男が闘技場の入り口から現れる。二人はそれを感じると同時にそちら側を見つめた。
一見すればどこかの流派の門下生かと見紛うほど、上から下まで一切の乱れがない着こなしの男だ。身長は百五十センチ程度と低く、身に纏った服はその丈に合っていない。鮮やかな赤の狩衣に、黄褐色の指貫。繊細な予備動作を読ませぬよう、この戦略的な装束を選んだのだろう。両腰には二本の刀を携え、その佇まいは静かな威圧感を放っている。
顔立ちは極めて若く、丸い鼻には艶が溢れ、広く見開いた瞳には底知れぬ悠然さが宿る。下半円の弧を描いた唇は、一見すると優しい顔のように見えるが、確実にこちらを煽っていた。
「名前にしては可愛い顔だな」
杉本が無表情で言う。
郷田はゆっくりと階段を上がってくる。その自信に満ち溢れた表情が、足先からも伝わってくるようだった。
「それでは真剣勝負の内容を」
審判が向かい合った三人の真ん中にマイクを動かす。
「お前、結構若いだろ?今何歳だ?」
杉本が一歩前に出て質問する。
「僕からしたら、君たちも相当若いと思っているのだけど…まあいいか。僕は十九歳だよ」
藤山は後ろで目を丸くする。
「若いなあ。俺たちは二十一と二十二なんだよ」
親指で自分、藤山の順に指を指す。
「もったいないな、若いもの同士で潰し合わないといけないなんて」
郷田は残念そうに言った。
その顔を見て藤山が一歩前へ出る。
「よし、じゃあ勝ったほうが負けた方の下につくことにするか」
藤山が提案をした。
「いいね、じゃあ勝利条件は殺すのはなしで負けを認めるか場外だけにするか」
郷田が了承し、新たな形式を決める。
審判がそっとマイクを口に寄せた。
「決まりましたね…それでは!これより、準決勝第一試合、杉山兄弟 対 郷田蒼蓮の試合を始めます!」
会場が激しい歓声で埋め尽くされた。
両方は端と端に寄り、刀を抜く。郷田は腕を交差させ、両腰から刀を抜く。
「二刀流か」
杉本が思わず呟いた。
藤山は郷田の構えだけで何かピンとくるものがあった。
足を横に開き、顔の前で刀を交差させて刃先を見せつける。二つ獲物を握る流派は元々数少なく、それもあんな攻撃型の構えは一つしか思い浮かばない。服からしてもよく分かる、火山の噴火とその地鳴りを題材とした、噴火烈鳴流だろう。
「なあ翔」
藤山が刀を鞘に収めながら言う。杉本は藤山の方を向いた。しかし、藤山は今度は懐のあたりから二本の小刀を用意する。
「悪いんだけどこの勝負、俺だけにやらせてくれないかな?」
藤山は杉本の顔を見て真剣にそう頼んだ。
「お、おう。良いけど…」
杉本は藤山の表情を見て言葉が詰まり、そこから何も言えなくなった。
杉本は刀を鞘に収め、一歩下がる。
会場はその行動を見てざわめきだした。
「何してんだあいつ?」
「おいおい、舐めとるんかあいつ?」
罵声が飛び交う中、審判が手を高く掲げる。
「よーい…」
ざわめきが瞬時に静まって、空気がしんとする。
「始め!」
その声と共に、遠くから鐘の音が響いた。
「一対一を挑むとは、よほど自信があるらしい。だが、手加減はしないよ」
郷田はそう言い放つと、鋭い踏み込みで突進した。交差させた二振りの刀は、防がれれば即座に次なる連撃へと転じる、噴火烈鳴流特有の攻めの起点だ。その特性を見抜いていた藤山は、紙一重のところで横に避ける。
藤山は小刀を高く掲げ、反撃に転じようと肉薄した。しかし、郷田は左手の長い刀身を巧みに操り、藤山の小刀を力任せに弾き飛ばす。腕を後ろに持っていかれ、藤山の体勢が大きく崩れた。
郷田はその機を逃さない。練り上げた気を右手の大刀へと注ぎ込み、裂帛の気合とともに斜め上へと切り裂いた。
「――っ!」
藤山は咄嗟に腹を凹ませて致命傷を避けたが、鋭い切っ先がその腹部を浅く切り裂く。藤山は後方に飛び退くと、膝をつき、溢れる鮮血を抑えるように腹を抱えた。
「いってえ……」
苦しげな吐息とともに、藤山の服を鮮血が汚していく。
「やはり二人で戦わないのかい?」
郷田の問いかけに、藤山は険しい表情のまま、ゆっくりと立ち上がった。深く呼吸を整えると、不思議なことに傷口からの出血が止まり、彼は腹から手を離した。
「悪いな。俺は今、ただお前に勝つことだけが目的じゃないんだ」
藤山の低い声には、先ほどまでの余裕とは違う、底知れぬ決意が宿っていた。
「……理屈は分からんが、僕も手を抜くつもりはないと言ったはずだ」
郷田は全身から圧倒的な気を解放し、再びあの交差の構えをとる。
「分かってるさ。だが、俺に二度同じ攻撃は通用しない」
藤山もまた、二本の小刀で郷田と同じような構えをとった。体の奥底から爆発的な気を放出し、場を支配する空気が一変する。
郷田の眉がピクリと動いた。だが、即座に真剣な面持ちで地を蹴る。
「行くぞ!」
二人の影が中央で激突した。
キィィィン、と高く鋭い金属音が連続して鳴り響く。打ち合うごとに剣速は加速し、吹き荒れる衝撃波が暴風となって会場全体を揺らした。
郷田は額に汗を浮かべ、必死の形相で二振りの大刀を振るう。しかし、藤山の速度はそれを遥かに上回っていた。
やがて、目にも留まらぬ速さで繰り出された藤山の剣撃が、郷田の放った二本の刀を同時に弾き飛ばした。郷田が無防備になった懐へ、藤山が音もなく滑り込む。
気づけば、郷田の喉元には、冷たい小刀の刃が突きつけられていた。
郷田は一瞬目を見開いたが、やがて参ったと言わんばかりに苦笑を浮かべた。
「……降参だ」
その宣言が響いた瞬間、会場は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。興奮のあまり総立ちになり、躍り出す観客まで現れる始末だ。
「あの……私の仕事は……」
審判が、主役を奪われたような寂しげな表情で熱狂する観客席を見つめていた。
郷田は藤山に歩み寄り、握手を求めるように右手を差し出した。
「流石だ。強かったよ。僕の動きをあそこまで完璧に追えるなんてね」
「俺に、あんな見え透いた攻撃は通じないよ」
二人は清々しい微笑みを交わし、固く握手を交わした。
藤山が杉本のもとへ駆け寄る。
「わがままを聞いてくれて、ありがとな」
「それはいいが……おい、腹の方は大丈夫なのか?」
杉本の懸念に対し、藤山はケロリとした顔で応えた。
「ああ、浅い傷だったからな。もう塞がったよ」
「ふーん、ならいいけどな」
どこか呆れたような、それでいて信頼の滲むやり取りを交わしながら、二人は闘技場の入り口へと消えていった。
杉本兄弟は、ついに決勝戦へと駒を進める。
次はとうとう地田戦…と言いたいところですが、そこまで行くかはわかりません。
とりあえず、地田vs蘇我が戦うところは描きます。
面白ければ評価、ブクマ登録お願いします。




