第二十三話-公開処刑
一回戦を書きました。
お楽しみに。
会場は巨大なドーム状になっていた。
外から見れば城にも等しい規模。内部は円形に広がり、地面には手入れの行き届いた芝生が敷き詰められている。天井は完全に塞がれ、自然光は一切入らない。その代わり、白く均一な光が闘技場全体を照らしていた。
天井付近には四方向それぞれに巨大なモニタが設置されている。闘技場の中央を映し出し、生中継で観客へ届けるためのものだ。
中央には、正方形状のタイルが隙間なく並べられ、大きな正方形の闘技場を形成している。その周囲を囲むように三段の観客席が連なり、商人たちがずらりと座って闘技場を見下ろしていた。
すでに紙束や帳簿を広げ、賭けの準備に余念がない。
闘技場中央に立つ審判なりの男が、マイクを高く掲げる。
「皆様、本日は七大技王トーナメントにお集まりいただき誠にありがとうございます!」
声がドーム全体に反響する。
「このイベントは、絶神を収める近藤天皇によって開かれており、この天井に掛けられた大きな映像も、あまりに広いアリーナも全て、絶神の最先端技術を用いたものとなっております。興味を持たれた方は是非、本国へ伺って見て下さい!」
観客席から軽い笑いと拍手が起こる。
審判は宣伝を終えると、表情を引き締めた。
「それでは本題に入りましょう」
会場は静まり返った。
「これから、トーナメントの組み合わせを、勝ち抜いた選手をブロック順にくじで引きます。それではまず一枚…」
小さな箱に手を入れる。
わざとらしい間の後、取り出された紙が掲げられる。
「“D”と書かれているので、一番目は菅武!」
一瞬の静寂の後、歓声が爆発した。
「菅武か、聞いたことがあるぞ!」
「巨体の化け物だろ!」
観客席の一角で、巨体の男がゆっくりと立ち上がる。
頭は完全に剃り上げられ、光を鈍く反射する。顎から頬にかけて濃く伸びた髭が、平たい顔立ちをさらに無機質に見せていた。鼻は低く、目は細い。だがその瞳は常に半開きで、焦りも怒りも浮かべていない。
肩幅は異様に広く、首はほとんど見えない。盛り上がった僧帽筋がそのまま頭部へと繋がっているかのようだ。
腕と足は丸太のように太く、明らかに特注の紺色の衣から、存在感が溢れていた。
審判は続けて紙を引く。
「“B”と書かれているので、二番目は杉山兄弟。よって一回戦目は、菅武 対 杉山兄弟ー!」
ざわめきが波のように広がる。
商人たちは顔を見合わせた。
「おいおい、藤山と杉本…だよな」
「逃腰組じゃねえか」
「そんな奴、大会に参加すんじゃねえよ」
瞬く間に「帰れ」というブーイングが響き渡る。
観客席から浴びせられる嘲笑。
闘技場中央の巨大モニタに、杉本と藤山の姿が映し出される。
処刑台に立たされた罪人のように。
二人は苛立ち、目を吊り上げた。
「お静かに!」
審判はマイク越しに声を張る。
騒ぎが徐々に収まる。
「ち、調子に乗りやがって…」
杉本は愚痴を漏らした。
くじは淡々と引かれていく。
第二試合、桐谷宗次郎 対 宇喜多貞勝。
第三試合、郷田蒼蓮 対 浅利景長。
第四試合、楠瀬宗近 対 百武刑部。
第五試合、蘇我鎌瀬 対 真壁義範。
第六試合、滝川虎清 対 神代惟重。
第七試合、高橋久岳 対 地田勝。
名前が読み上げられるたびに、歓声やどよめきが起こる。
第八試合、出川山之亮 対 矢佐野中僧。
すべての組み合わせが決定した。
観客席の熱はすでに最高潮に達している。
「それでは早速、一回戦を開始いたします!」
審判がマイクの尾を上に向けて言った。本戦トーナメント開始の号令が、会場に響き渡る。
杉山兄弟は静かに呼吸を整えつつ、闘技場の両端についている階段から上へと登った。Bブロックで勝ち抜いた後、初めて他のブロック勝者たちと顔を合わせる瞬間だ。
周囲からは歓声やざわめきが湧き上がる。商人たちは手に持つ紙や札を弄びながら顔を見合わせた。
「おい、あの兄弟、今頃怖くてちびってるぜ」
「あの巨漢、二百二十キロもあるらしいぞ」
「賭けにもなんねぇな」
観客の視線はすでに戦闘の行方に釘付けだ。
菅はゆっくりと闘技場に登ってくる。その一歩一歩が大地を揺らす。肩には巨大な斧。刃は分厚く、光を鈍く反射している。
「両者、真剣勝負の内容を――」
二人は互いに目を合わせ、わずかに頷いた。
「金だけよこせ。全財産だ。」
一瞬、会場が静まり返る。
菅の細い目がゆっくりと開いた。
「舐めおって。ガキンチョが。貴様らのようなもやしを蹴散らすなど、お遊びにもならんわ。首だけよこせ。」
低く響く声に、空気が重く沈む。
菅は斧を肩に担ぎ、大きく息を吸い込む。その肺の膨張だけで、巨体がさらに膨れ上がったように見えた。足の裏から伝わる振動が、芝を通して観客席にまで伝わる。
両者は睨み合う。
「一回戦、よーい」
沈黙が走る。
「始め!」
鐘の音が鳴り響いた。
二人は同時に走り出す。
菅は巨体を前に揺らし、斧を振り上げた。空気を切り裂く音が鋭く響き、次の瞬間、床が抉れる。衝撃が波のように広がり、観客席の一部がざわめいた。
だが、二人はそこにいない。
わずかな体捌きで斬撃をかわす。
菅もまた止まらない。横薙ぎ、振り下ろし、返しの一撃。巨体に似合わぬ速度で斧を振るう。その軌道は荒々しいが、威力は凄まじい。
しかし二人の動きは無駄がなかった。
藤山が斧の柄をわずかに弾き、軌道を逸らす。同時に杉本が懐へ滑り込む。刃先が菅の脇腹へと走った。
手応えはあった。
だが、浅い。
筋肉が刃を押し返す。
菅の目が見開かれた。
「効かぬわッ!」
肘打ちが炸裂し、杉本が弾き飛ばされる。芝を滑り、転がった。
観客席からどよめきが上がった。
菅はまだ立っている。傷口から血を流しながらも、斧を握る手は緩まない。
再び振り上げて、力任せの大きな一撃を放つ。
藤山は小刀で斧の柄を受け流し、刃の軌道を殺す。
そこへ杉本が戻る。
二人の呼吸が、完全に重なった。
斧が地面を叩いたその刹那、杉本の刀が真っ直ぐ菅の胸へと突き込まれる。
今度は深く、根本まで刀が胸に刺さった。
菅は、倒れない。
血を吐きながらも、斧を振り上げる。
最後の一撃を叩き込もうとした。
だが腕は途中で止まり、巨体がゆっくりと傾く。
地響きとともに崩れ落ちた。
沈黙の後、会場はざわめき出す。
「嘘だろ……」
「速すぎる……」
審判が左手を大きく掲げる。
「杉山兄弟、一回戦通過!」
歓声と混乱が会場を包む中、二人は静かに闘技場を降りる。
「ちぇ、でかいだけってわけじゃなかったな」
杉本が小さく笑う。
「強かったさ。ただ、読みやすかった。」
藤山が答える。
二人は同時に、まだ戦っていない誰かの方へ視線を向ける。
「今から戦うのが楽しみだぜ。」
「……ああ。」
そう言って、静かに休憩室へと向かっていった。
人の名前考えるの大変だぜ…
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