第二十一話-死が集う海
七大技王トーナメントの試練二つ目は海です。
参加者が同じ地に足を踏み入れますが、
当然争いは起こるわけです。
どうぞお楽しみに。
辺りは、どこまでも青かった。
海と空の境が溶け合い、世界は静まり返っている。
鳥の姿はなく、ただ漣だけが規則正しく船腹を叩いていた。
「そろそろ着くんじゃないか」
藤山が呟く。
杉本は辺りを見渡した。
「…なんかよ。静かすぎじゃないか?」
「ここら一帯はパクフィッシュの支配地域だからな」
「パク…フィッシュ?なんだそれ」
杉本は背中を向けながら質問する。
「パクフィッシュは言わばなんでも食べちゃう魚だよ、結構口が大きくて、海の中にいる他の生物を無差別に丸呑みしちゃうんだよ」
藤山は淡々と答える。
「なるほど、だからここには他の生物が住みつかねえのか」
船を漕ぎ続ける。
「あれは」
杉本の視線の先。
海面に、巨大な霧が垂れ込めていた。まるで壁のように行く手を塞いでいる。
「ただの霧だろ、通り抜けようぜ」
船はまっすぐ霧に突っ込む。
櫂の水を切る音だけが、やけに大きく響いた。
視界は一瞬で白に塗り潰される。
藤山はふと海へ目を落とし、言葉を失った。
「お、おいこれ…色がおかしいぞ?」
海面が、黒に近い赤で揺れている。
生温かい風が頬を撫で、鼻を刺す臭気が漂った。
「うわ臭え、血の匂いじゃねえか」
霧の向こうから、やけに物騒で重なり合う声が聞こえる。
「な、なんだ?」
「早く抜けるぞ!」
藤山の言葉に、杉本は全力で櫂を振るった。
やがて霧を抜ける。
その先に広がっていたのは、地獄だった。
「あれは…武士か?」
杉本が呟く。
「海戦が起こってる…!」
そこには無数の船が隙間なく連なっていた。参加者たちは獣のような唸り声を上げ、隣の船へと躍り込んでは血生臭い殺戮を繰り返している。
船からこぼれ落ちた者は、水面に顔を出したパクフィッシュの群れの餌食となった。
島全体に広がる凄惨極まる殺し合い。その光景は、まさに悪夢そのものだった。
「こ、こりゃあやべえな」
杉本は心の底から声を出す。
「……うん…」
藤山はわずかに引きながら答えた。
「よし、飛び越えよう!」
杉本はいい案が浮かんだかのように笑顔でそう言う。
「そう…だな…」
藤山も反対しなかった。
(流石に、こんな争いに巻き込まれたくないし…)
二人は心の中で同じことを呟いた。
「行くぞ!」
杉本は気を櫂に込めて水を切る。
船体が震え、海面を蹴るように宙へと浮き上がった。
血飛沫の上を弧を描き、真っ直ぐに島へ向かう。
「このまま着陸するぞ!」
その時、下で一人の男が弓を引き、二人の船に向かって矢を放つ。
次の瞬間、矢が船底を貫き、木片が爆ぜる。
船は空中で崩れ、二人の体が放り出された。
「何が起こった!?」
杉本が叫ぶ。
藤山は落下しながら視線を走らせる。
血と怒号の隙間。
ひときわ静かな船の上に、一人の男が立っていた。
弓を引いたまま、微動だにせず、こちらを見上げている。
足元には既に数本の矢が突き刺さり、折れた帆の上には、撃ち落とされた者の影が転がっていた。
「あいつは…」
「おい、透!」
藤山が考えている最中、杉本に呼ばれて思考が止まった。
「俺に捕まれ、一気に島に行くぞ!」
杉本は声を張る。
「わかった」
藤山は杉本の右腕にしがみつく。
「忍者の特訓の成果を見せてやんよ」
そう言うと、杉本は気を足に集中させた。
空中に気を放つ。
目に見えぬ足場が生まれる。
そして、その上に飛び乗った。
「それって…」
「ああ、踏気だ」
一歩。
もう一歩。
血と怒号の上を駆け抜ける。
足場が揺らぎ始めた。
気の床が波打ち、形が歪み始める。
「ダメだ、もう制御が効かねえ、飛び込むぞ!」
最後の踏み込み。
気を爆ぜさせるように蹴り込み、島へと身を投げる。
二人は地面を転がり、砂煙を上げた。
背後で、再び矢が風を裂いたが、もう届かない。
ゆっくりと体を起こす。
「いてててて…ギリギリ届いたな」
藤山は頭をかきながら言う。
しかし島の空気は、海と変わらなかった。
続々と参加者が上陸し、無言のまま中心へと歩き出している。
誰も助けない。誰も振り返らない。
ただ、生き残った者だけが進み続ける。
「行くぞ、翔」
「おう」
杉本は短く答えると、上向きの状態から背中を支点に体を深く折り曲げ、頭で跳ね起きた。
島の奥から、重たい鐘の音が響く。
一度。
二度。
三度。
二人は歩き出す。
血の匂いがまだ消えぬ島の中心へ。
七大技王トーナメントが――
本当に、始まろうとしていた。
ここからは、予選、トーナメントまで一気に行きますので、
是非お読みください!




