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第十九話-勇気

この回はバナナ達が出場することに対してどう感じているかの回です。

二人がとうとう旅立つのでお楽しみに。

 ある若いバナナは、木陰に身を潜めながら二人の会話を盗み聞きしてしまった。


 二人が立ち上がり、焚き火から離れていくのを確認すると、彼はそそくさとその場を離れる。

 里の出入り口に集まる者たちの視線を避け、森の奥へと駆け込んだ。

 息を切らしながら枯れ葉を踏み鳴らし、奥へ、さらに奥へと足を進める。

 やがてぴたりと立ち止まる。辺りには、紅葉の木々が風に揺れる音だけが響いていた。

 

 「七大技王トーナメントに出場するなんて…」

 暗い顔で呟く。正直に言えば、やめてほしかった。


 ポーラー王は、圧倒的な実力で七大技王トーナメントを勝ち抜いた。

 だが、あの二人はまだ――言うなれば、才能を秘めた原石のような存在だと感じていたからだ。

 

 カサ カサ カサ カサ


 背後から足音が響く。近づくにつれて、その音は次第にゆるやかになった。


 足音が止まる。

 振り返ると、そこにはテンディーが立っていた。

 

 「テンディー様、どうしてここに…」

 思わず問いかける。

 

 「お前が森の中に駆け込んでいく姿を見てな。後をつけてみたんだ」

 テンディーは真剣な表情に戻る。

 

 「お前、二人の会話を聞いちまったのか」

 

 「わざと聞こうとしたわけではありません!」

 若いバナナは慌てふためく。

 

 「その、偶然焚き火の近くを通りがかった時に、二人が真剣に話していたもので」

 

 「そのまま気づかれぬよう隠れていたんですが、その時に聞いてしまいました」

 テンディーは小さく頷いた。

 

 「本当は、トーナメントなんか出て欲しくないです」

 

 「どうしてだ」

 

 「だって別に、そんな称号がなくたって強くは成れますし、有名にだって…」

 

 「それを決めるのはあいつらだ」

 話を遮るようにテンディーが言う。

 

 「あの二人は凄い。俺たちには一生を賭けても手に入れられないようなものを持っている。そう感じるんだ」

 若いバナナは黙って聞いていた。

 

 「あの二人には、あいつらのやるべき事がある」

 

 「俺たちには絶対に出来ない事がな」

 鋭い眼光が突き刺さる。

 

 「俺たちにもやるべき事があるはずだ、忘れたか」

 若いバナナはビクッと体を震わせた。

 

 「王の仇を取ること…」

 

 「違う!」

 はっきりと言い捨てる。

 

 「王は自分の仇を取ってもらうために最後まで一人で戦い抜いたのか?そんな訳がなかろう」

 

 「王は、これまで信じ合ってきた仲間たちを守り抜くために最後まで立ち続けたんだ」

 若いバナナは目を大きく見開く。

 

 「王は全員で守り合い、助け合うことを託した…ならば私達が今やるべきことはなんだ」

 胸の奥が熱くなる。視界が滲む。

 

 「いつか来るその時のために…仲間たちを守れるだけの力を手に入れます」

 

 「そうだ、それで良い!」

 「それが俺たちの宿命だとしても…」

 テンディーはぽつりと呟いた。


 若いバナナは空を見上げる。

 赤と青に染まった空へ、黄色の腕を力強く突き上げる。

 

 「俺も、絶対に強くなってやる、仲間を守れるくらいに!」

 涙が滝のように頬を伝った。

 テンディーはその後ろ姿を静かに見つめ、わずかに微笑む。


 森の向こうから鳥の鳴き声が響いた。

 

 「そろそろ帰るぞ、帰ったら訓練だ」


 若いバナナは振り返り、「はい」と大きく返事をしてテンディーの元へ駆け寄る。

 二人は並んで里へと戻っていった。


 そこから一年が過ぎた。


 派手な出来事は、なかった。

 だが、里は確実に変わっていた。


 朝早くから地を踏み鳴らす音。

 夜遅くまで消えない灯り。

 傷だらけの手。

 呼吸と型を、何度も覚え直す者たち。


 藤山と杉本は、以前より寡黙になっていた。


 藤山は一人で鍛錬を重ねながら、許可を得て里の古書を漁る。岡山に指示を出した存在を探るためだ。


 杉本は二人の忍者とともに夜明け前から里を出て、忍法を徹底的に叩き込まれていた。日によっては、一晩中戻らぬこともあった。


 互いを深く信頼しているからこそ、余計な言葉は消えていった。


 そして、トーナメント二日前の早朝。


 里の出入口には、全員が集まっていた。

 遠ざかっていく足音だけが、やけに高く響く。


 立ち止まり、二人はゆっくりと里を振り返った。

 杉本は何か言おうとして――やめた。

 代わりに、同時に深く一礼する。


 若いバナナは歯を食いしばった。


 叫びたかった。

 せめて、全力で送り出したかった。

 だが、それが出来なかった。


 テンディーはその様子を見つめ、静かに拳を胸へ当てる。


 それを見て、その姿に倣う者が一人、また一人と続く。

 藤山と杉本はわずかに微笑み、背を向ける。


 背中が、ゆっくりと地平線の先へ溶けていく。

 その背を見送りながら、誰もが同じことを思っていた。


 ――生きて、帰ってこい。

 二人はまた、新たな世界へと歩みを進めていく。

ここからは、七大技王トーナメントが始まります。

草原を駆け、海を超え、二人は会場へとたどり着けるのでしょうか。

距離は約13000kmです。

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