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剣聖  作者: きたスラ
第一章「世界の理と定められた勝敗」
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第一話-影が動く夜

序章が終わり、第一章がスタートしました!

「世界の理と定められた勝敗」というのが章の題名ですが、

どういう意味なのかをワクワクしながら読んで欲しいです。

 夜はまだ深い。


 月明かりだけが、二人の立つ街路を淡く照らしている。


 藤山透は、刀を収めた杉本翔を静かに見ていた。

 杉本は足に刺さった針を抜き、投げ捨てた。


 その静けさに金属の硬い音が鳴り響く。


 「……で」


 藤山が口を開く。

 「お前は、どこの国の人間だ」


 「なんて言えばいいんだろうな。」


 杉本は一瞬だけ視線を外し、すぐに戻した。

 「とりあえず、桂の国でも細道の国でもねえよ。」


 「じゃあここに来たのは…」


 「自分の国を持つためだ。」


 藤山は眉をわずかに動かす。

 「だから桂の国を利用しているってわけか。」


 杉本はにやけた顔をとる。


 「桂は金や軍は他の国より劣るが、兵の忠誠は高い。」


 「逆に細道は大名が変わって兵の忠誠は愚か、民も不満を漏らしてばかりだ。」


 「俺が加われば、細道を()れる。」


 藤山はため息を吐く。


 「盗んだ金は。なんの意味があるんだよ。」

 「交渉材料さ」


 即答だった。


 「細道を倒した後、桂に真剣勝負を持ちかける。」


 その言葉に、藤山は一瞬、言葉を失った。


 「まあ、そんなところだ。」

 藤山は頭をかいた。


 「……俺はな」


 藤山は静かに名を明かす。


 「『光源』ていう名の探偵だ。少しは名が知られてると思うが」


 杉本は首を傾げた。


 「知らん」


 藤山から「へ?」と声が漏れた。

 藤山は思わず瞬きをする。


 「……知らん、だと?」


 「知らん」


 「どんな探偵だろうと、俺には関係ねえよ。」

 藤山は、内心で苦笑した。


 この男は、名声にも常識にも興味がないらしい。


 「あ、でもお前確かに戦うのはうまかったな。」


 杉本が称賛した。


 「まあな。一応、武術の心得ぐらいには、かな。」


 「それよりも、お前速すぎだろ。見たことないぞ。足が痺れてても、俺が反応できないくらいの速度で飛びかかってくるやつ。」


 杉本は自慢げに言う。


 「そりゃあそうだろ。俺は異能持ちだからな。」


 藤山は驚く。


 「なんだっけ?『風速』だっけ。みたいなやつ…かも?」


 風速……足の速度が極端に上がる異能だ。


 異能は才能や家柄に大きく作用される。


 彼の場合……


 「……忍の家系か?」

 藤山は問いを変える。


 杉本は少し考える素振りを見せた。

 「分からん」


 「俺昔からばあちゃんに育てられたんだわ。親のことは、ほとんど知らない。」


 否定はしていなかった。


 藤山の胸に、言いようのない違和感が残る。


 (――こいつは、何だ)


 思考を深めようとした、その時。


 「で、お前の異能はなんだよ。」


 思考が途切れた。


 やっぱ聞いてくるか。


 藤山は少し頬を染め、顔を逸らしながら言った。


 「『天才』って名前の……やつだよ……」


 「て、て、天才って……」

 杉本は大笑いした。


 クソ、だから言いたくなかったのに。


 「一応、頭の回転が速くなったり、するんだよ。」

 杉本は「へえー」と低く言った。


 反応が薄い!


 「おっと忘れてた。」

 杉本が言った。


 「桂には、話を合わせてある。」


 「どう言うことだ?」


 藤山は視線を上げる。


 「お前がくるってことは事前に知らせてんだよ。」

 どうやら、俺が協力することを先読みしていたらしい。


 藤山はしばらく黙り込んだ後、短く答えた。


 「……分かった」


 街は眠り切り、人の気配はない。


 二人の石畳を走る硬い音だけが響いていた。


 桂の屋敷に入り、長い廊下を進む。


 奥の部屋に進むと、障子から、一つの(あかり)の漏れる部屋で立ち止まった。


 その先、一本の蝋燭(ろうそく)の前に、男が正座して待っていた。

 蝋燭の炎が揺れ、男の影が壁に伸び縮みする。


 「連れてきたぜ」


 杉本の声は軽い。

 だが、部屋の空気は引き締まった。


 「ご苦労だった。」

 男はそう答え、視線を藤山に向けた。


 疑う目を持たないその男は、柔らかな表情をしていた。


 「こいつは桂順平(かつらじゅんぺい)だ」


 伸ばした髪の毛を団子に頭をかんざしで止めている。

 姿勢がいいのか、身長は二人よりもずっと高そうだった。


 服は、そこらの国の兵と同じくらいには、綺麗な服を着ており、

 ただ、豪華かと言えば、それほどではなかった。


 目の下は薄く隈があり、細道との関係で長い時間考えてきたのだろうか。疲労が疑われる。


 「よろしく。君が、杉本殿の言っていた者か」


 藤山は一礼する。

 「ああ。藤山透だ。細道の国から使わされた」


 一瞬、桂の肩が跳ねた。


 「……元、だ、な」

 「あ、あまり驚かさないでくれ。」


 桂は苦笑し、視線を落とした。


 その様子を、杉本は横目で見る。


 「んなことより」

 杉本が手を叩くように言った。


 「早速、話そうぜ。」


 二人は桂に向かえ合うように座った。


 「何についてだい。」

 桂が反応する。


 「決まってんだろ。細道をどう殺すか、だ」


 桂は言葉に詰まった。

 「は、早くないか……?」


 「何言ってんだ」

 杉本はあっさり言う。


 「もう十分メンツは揃ってるだろ。」


 藤山は二人を見ていた。


 桂は眉を寄せた。

 「だが……物資も食料も足りない。武器も訓練も……戦争を起こすには、あまりにも――」


 「まあな」


 杉本は一度、認めるように頷いた。


 それから藤山を見る。


 「どうする」


 藤山は顎の下に拳を持ってきて、考える素振りを見せる。


 蝋燭の芯が、ぱちりと音を立てた。


 「……いけるな」

 藤山は真剣に言った。


 「どうやってだ」

 桂が恐る恐る問う。


 「物資は関係ない」

 藤山は淡々と言った。


 「必要なのは、()()()()だけだ」


 桂の目が見開かれる。

 「ほう」


 杉本が口の端を上げた。

 「続けろ、探偵」


 「細道、名を細道国友(くにとも)は、昔に行った真剣勝負という後遺症によって兵や民を従わせているのさ。」


 「どういうことだ。」


 「つまり、前の当主、細道戦国が国同士の真剣勝負によって兵や民を従わせたことが、今の代、国友にまで続いているって訳さ。」


 桂は、ようやく腑に落ちたように息を吐いた。

 「と、ということは……」


 「細道が死ねば、縛りは消える」

 杉本が言葉を継ぐ。


 「兵は宙に浮くってことだな。」


 「そういうことらしい。」


 藤山は頷く。


 「そのために――」


 藤山が続ける。

 「細道の兵は俺に任せろ。俺が押さえる。」


 杉本が被せる。

 「じゃあ俺が、首を取る」


 「頼んだ」

 藤山がお願いした。


 桂は二人を見比べ、戸惑いながら口を開く。

 「……私は、何をすれば?」


 杉本は少し考え、いつもの調子で言いかけてから、言葉を選び直した。


 「無理すんな」

 続ける。


 「新しい兵を迎える言葉を考えとけ。」


 桂は驚いたように目を瞬かせ、ゆっくり頷いた。


 「……分かった。やってみよう。」


 蝋燭の炎が、静かに揺れ続ける。


 三人の影が、壁に重なっている。


 「今日は、とりあえず解散だ」


 杉本が軽く言い、立ち上がった。


 蝋燭の火が揺れ、影が壁から外れる。


 三人は短く言葉を交わし、杉本が先に部屋を後にした。


 静寂が戻る。


 藤山は、桂に視線を向けた。

 「おい、桂さんよ」


 桂は顔を上げる。

 「……薄々、気づいてんだろ」


 「杉本の目的に、ついてか」

 桂は小さく答えた。


 藤山の声は低い。

 「――あいつはな」


 藤山は一歩だけ近づく。


 「いつか、お前に真剣勝負を持ちかける。」


 桂の指が、わずかに強張った。


 藤山はそれ以上は言わず、顔を伏せる。

 「考えておくんだな」


 そして、静かに続けた。


 「その日は……割と近いかもしれないぞ」


 藤山は踵を返し、部屋を出た。


 桂は口を漏らした。

 「そんなこと、わかってるさ…」


 外に出ると、夜はすでに白み始めていた。


 ――夜明け。


 藤山は二人に告げる。


 「それじゃあよろしく頼む。」


 そうして、一人、細道の国へ向かった。


 長い道のりを歩き続ける。


 正午を過ぎた頃。


 藤山は、細道の屋敷の前に立っていた。


 門の前に立つ兵が、警戒した目を向ける。


 藤山は名だけを告げた。

 「『光源』だ」


 その瞬間、兵の顔色が変わった。 兵が一礼した後、門が開かれる。


 藤山は迷わず中へ入り、障子の前で立ち止まる。


 そして――


 障子を開き、立ったまま口を開いた。

 「細道殿よ」


 広間に、声が響く。


 「忍びは、桂の国から一切の消息を断ちました」

藤山は大きな声でそう言った。


 「貴様、そのような失態を犯して、よく戻ってこれたな。」

 細道は狂ったように怒鳴り声を上げた。


 藤山は、その声を遮るように、低く続ける。


 「そして本日」


 真っ直ぐに告げた。


 「――あなたの首を奪いに、参じた模様です。」


 ーーその瞬間


 轟音と共に、天井が突き破られ、瓦と木片(もくへん)が飛び散る。


 上から、一人の男が落ちてくる。


 杉本翔。


 細道は驚愕(きょうがく)し、思わず天井を見上げた。

次の話では、いよいよ、細道の国襲撃が始まります。

細道はどうなるのでしょうか。

細道の兵はどんな感情を抱くでしょうか。

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