第十七話-剣聖の遺児(みなしご)
I am sorry to be late.
第二章がとうとうスタートします。
これからまた毎日投稿を目標にするので、ぜひお読みください。
焚き火の赤が、夜の森をわずかに照らしていた。
杉本と藤山が並んで胡座をかき、その前にはこの場所に先導した二人の忍者が正座で座っている。
戦争により負傷した者達は、忍者達に傷を手当てしてもらい、今はぐっすりと眠っている。
静まり返った空気の中、歳をとっている方の忍者が話し出す。
「――名前を、伺いたい」
低く、探るような声だった。
藤山は即座に視線を返す。
「名前も知らずに助けたのか?」
声には、まだ警戒が残っている。
忍者は一瞬言葉に詰まり、すぐに頭を下げた。
「すまない。だが……」
視線は、藤山の隣に座る少年へ。
「そこの方。その腰の細さ、足の長さ……まさに忍者の体躯だ」
藤山の脳裏を、あの異常な速度がよぎる。
足が速くなる異能。
忍の家系ではないかという疑念。
当の本人は、鼻で笑った。
「……知らん」
ぶっきらぼうに吐き捨てる。
「ずっと昔から、ババアに育てられてた。俺が誰の子かなんて、知るわけねえだろ」
その瞬間、忍者の目が鋭く細まった。
「……まさか」
「杉本様、でしょうか」
少年の肩が、わずかに跳ねる。
「……!」
数秒の沈黙。
喉が、妙に乾く。
自分の名が、森に吸い込まれていくような感覚。
やがて、観念したように口を開いた。
「ああ。俺は――杉本しょうだ」
それを聞くと忍者は即座に手を付き、深く頭を垂れる。
「やはり……」
「あなた様に、どうしてもお話しせねばならぬことがございます」
もう一人の忍者も合わせて頭を下げる。
焚き火が、ぱちりと弾けた。
「あなた様の父君――杉本剣真様は」
一拍。
「剣真様の配下であった、岡山優によって殺されました」
藤山の目が見開かれ、口がぱっくりと開くが声は出せなかった。
――剣真。
かつて“天下統一者”として、その存在を世に轟かせた。
第一戦国時代の、今は隠された一つの伝説だ。
「……それは、いつ頃の話だ」
「二十年前。しょう様が、生まれた年でございます」
杉本は、何も言えなかった。
父がいたこと。
その父が剣聖だったこと。
そして、殺されたという事実。
胸の奥で、何かが静かに軋む。
怒りとも、悲しみとも違う。
ただ、父という言葉だけが、やけに重く感じた。
忍者は、さらに深く頭を下げる。
「お願いがございます」
「私たちは、あなた様に忠誠を誓います」
「その御志に、命を懸けて従います」
焚き火の火が揺れる。
「もし岡山が生きているならば――」
「その真実を、どうか明らかにしていただきたい」
「そして……もしそれが裏切りであったのなら」
一瞬、言葉を選ぶように間が空く。
「どうか、あなた様の御手で決着を」
藤山の胸に、微かな違和感が走った。
岡山優と言えば秒乗流殺拳の使い手だ。
剣真に忠義を誓った武将。
神の誓いは、破れない。
ならば、なぜ………?
「一つ、確認してもいいか」
忍者は顔を上げる。
「その戦い――具体的に、どんな戦況だった」
「そして……何か、おかしな点はなかったか?」
忍者は、ゆっくりと思い出すように語り始めた。
「里中が、火の海でした」
「そんな中、およそ三万の兵が里に押し寄せてきて」
「我々は、剣真様に『逃げよ』と命じられました」
一瞬、言葉が途切れる。
「……おかしいのは」
「剣真様以外、誰も死んでいないこと、でしょうか」
藤山の脳内に、電流が走る。
――神に誓った者は、逆らえない。
――なのに、岡山は剣真を殺した。
仮説が、静かに組み上がる。
もし岡山に命令した、上の存在が居たとしたら……いや、それを今公表すべきではない。
仮説だけで名を挙げ、万が一にも忍者達の標的がそちらに向けば――それこそ取り返しがつかない。
それよりは、生きているかどうかも分からぬ一人の男に、憎しみを向けさせておく方がまだ安全だ。
藤山は、何も言わなかった。
杉本は、ゆっくりと顔を上げた。
焚き火の光が、瞳に映る。
「……わかった」
「協力してくれるなら、ありがたい」
小さく息を吸う。
「岡山が生きているなら、俺が決着をつけてやる。」
声は静かだった。
だが、その奥に揺れるものは、確かにあった。
忍者たちは、再び深く頭を下げる。
藤山は何も言わなかった。
その沈黙こそが、真実に近づく道だと、確信した。
「今日はひとまずお休みくだされ。」
忍者が立ち上がる。それを見て二人も立ち上がった。
「ああ。」
杉本は短く答える。
二人は、他の兵が寝ている住宅の方へと歩いていった。
「まさかサスケ様の息子が生きておられようとは。」
背の高い忍者が低く呟く。
「これは好機だ。我々がこの二十年間、耐え忍んだ甲斐がある。覚えておれ、岡山……!」
老人の声は震えていた。
この七大技王同士の戦いは、純商人の手によって“食物戦争”と呼ばれるようになった。
そして、逃亡を図った者達は、いつしか“逃腰組”と軽侮された。
七大技王の席が一つ空いたことは、一瞬にして全国各地に知れ渡る。
それは、他の七大技王にも伝わった。
ある場所では――
「殿よ。お聞きくだされ!」
「先日、天伸のポーラー=バナー=キングが死亡しました!」
一人の武士が慌ただしく言い放つ。
男は、ゆっくりと腕を横に振った。
その瞬間、空気が裂けたのと同時に見えぬ斬撃が一直線に走り、武士の首元を横一文字に切り裂く。
血が噴き上がるのを横に、男は視線すら動かさない。
武士は声もなく崩れ落ちた。
男はくすくすと笑い、やがて腹を抱えて大きく笑い出す。
しばらくして呼吸を整え、言い放った。
「ポーラーが死んじまったのか。残念だ。」
目だけが、細く光る。
「俺がこの手で殺したかったな。」
またある場所では――
「架座根殿!」
「どうした。」
馬上の男が、横の武士を見下ろす。
「ポーラー様が先日、トーマスのやつに殺されてしまいました。」
「誠か?」
架座根は顔を戻し、空を見上げた。
雲が流れている。
何も変わらぬ空。
だが、その瞳の奥には、消えぬ火が宿っていた。
拳が、僅かに握られる。
「ポーラーよ……」
一瞬、言葉が止まる。
「……あとは任せておくれ」
その声は静かだった。
だが、それは誓いでも、悲嘆でもない。
何かを飲み込んだ者の声音だった。
食物戦争を土台に、今、新たな争いの種が蒔かれ始めている。
新しい編は「七大技王トーナメント編」です!
お楽しみに。
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