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剣聖 ―神の理の中で、それでも剣を取り続ける二人の覇道戦記―  作者: きたスラ
第一章「世界の理と定められた勝敗」
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第十三話-地獄

真の戦争がスタートします。

お楽しみあれ。

 とうとう、両軍が正面から衝突した。


 杉山兵は、バナナ軍のさらに後方に待機し、戦況を静かに見守っている。

 人数比は二対一。明らかにバナナ軍が劣勢だった。

 だが、個々の実力差は圧倒的で、迫り来るトマト人間を一匹たりとも逃がさない。


 バナナ達は全員、寸分の迷いもなく、トマト達の頭部に生えたヘタを切り落としていく。

 そこが弱点であることを、彼らは当然のように理解していた。


 杉山兵の前には、高く大きな旗が一本、まっすぐに掲げられている。

 風に揺れるその旗には、普段食卓に並ぶのと同じ、何の変哲もないバナナの絵が描かれていた。

 そのすぐ近く、右からテンディー、ポーラー、杉本、藤山の順に、四人は馬上で横一列に並んでいる。


 「何だよ。トマト人間、全然強くないじゃねえか。」

 杉本が吐き捨てるように言った。


 「……変だ。」

 藤山は目を細め、前線から視線を外さない。

 「トマトらに、まったく知性を感じない。動きはフラフラしているし、攻撃も単純だ。まるで、殺すことしか考えていないみたいだ。」


 「トーマスの仕業だ。」

 ポーラーが低く言った。

 杉本と藤山が、同時に彼を見る。

 「やつは昔から、殺すことに何の躊躇いもなかった。」

 ポーラーは続ける。

 「だが……まさか、味方に知性を共有することすらしないとはな。トマト達を、完全に兵器として扱っている。」


 「相当の野郎ですね。」

 テンディーが静かに呟いた。

 「ああ。」

 ポーラーは前を見据えたまま、短く答えた。

 「あいつを、わからせてやらないとな。」


 日が落ちるにつれ、バナナ軍の兵達が飛び散らせる汗は、夕焼けに照らされて鈍く輝いていった。

 地面はトマト達の死体で覆われ、赤い水溜りが無数に広がっている。


 それでもなお、前線にかかる圧は弱まらない。

 倒しても、倒しても、次のトマトが前へ出てくる。

 戦場は、まだ終わる気配を見せていなかった。


 夜半。


 バナナ軍では、二度目となる前衛と後衛の切り替わりが行われていた。

 前線に立っていた兵が静かに下がり、後方で待機していた兵が、無言のままその位置を引き継ぐ。

 無駄のない動きだった。

 疲労を分散させ、消耗を最小限に抑える――長期戦を想定した、完成された戦い方。


 それでも。トマトの数は、減っていなかった。


 どこからか、甲高い悲鳴が夜を裂く。

 無数の音の中で、それははっきりと「一人分」だと分かる叫びだった。

 ポーラーは歯を食いしばり、自身の太ももに当たる部分を、強く殴った。

 「まずい……これで、やられたバナナの数は十七人だ」

 低い声だった。

 だが、その一言に、重みがあった。


 「しかし……敵が減っていないように感じるのは、なぜでしょう」

 テンディーの言葉に、ポーラーはすぐには答えなかった。


 視線を伏せ、わずかに呼吸を整える。

 「……少し、戦況を聞いてみるか」

 そう言うと、ポーラーは静かに気を解放した。

 空気が、わずかに震える。


 「何をしてるんだ」

 杉本が怪訝(げげん)そうに声を上げると、すぐ横でテンディーが制した。

 「静かにしろ。今、王は以心伝心の最中だ」

 「……以心伝心?」


 「それも使えるのか」

 藤山が小さく目を見開く。


 「何だよそれ」


 「心を気を通して通じ合い、会話することができる。気の応用だ」

 藤山は、短く説明する。

 「ただし、本当の友情を持った仲間同士でなければ、成立しない。」


 「それって……」


 「ポーラー王にしかできない、芸道だ」

 テンディーは、どこか誇らしげに言った。


 しばしの沈黙。

 やがて、ポーラーが目を開く。

 「……わかった。報告、ありがとう」

 そして、顔を上げる。

 「まずいぞ。トマトが死んだ場所から、芽が出ているらしい」


 一同が、息を呑んだ。

 「明日になれば、あの芽からトマト人間が生え出す。

 戦況は、確実にこちらが削られていく」


 「しかし……それでも数が減らないのは、おかしいですね」

 テンディーの疑問に、ポーラーは即座に頷いた。


 「原因は、トーマスだろう」

 杉本は目を細める。


 「奴が、大量のトマト人間を生み出しているに違いない。

 どうにかして、朝になるまで、その量産を止める手は――」


 「任せろ」

 杉本が、言葉を遮った。

 「俺たち、杉山兵が注意を引こう」


 「それがいい」

 藤山が続ける。

 「まだ、ポーラー殿が出るのは早い」


 ポーラーは、しばらく二人を見つめてから、ゆっくりと頷いた。

 「……願ってもない話だが、頼めるか」


 「もちろんだ」


 「ありがとう。

 だが、お前たちが死ぬことは、絶対に許さん」

 その声には、命令ではなく、祈りが込められていた。

 「せめて二人は、生き残ると約束してくれ」


 「わかった」

 杉本は、迷いなく答える。

 「約束しよう」


 「……よし。行け」


 二人は一礼し、馬を走らせた。

 その動きを合図にしたかのように、後方で待機していた杉山兵たちが顔を上げる。

 暗闇の中でも分かる、張り詰めた眼差し。

 「いくぞ、お前ら」

 杉本が叫ぶ。

 「出番だ!」

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、

 大きな歓声が夜を揺らし、

 杉山兵は一斉に馬へと跨った。


 杉山兵は、夜の戦場へと一斉に走り出した。

 それを待っていたかのように、バナナ軍は乱れ一つなく進路を開ける。

 声はない。

 だが、前線の動きは寸分違わず揃っていた。


 馬は闇を裂くように駆け、行く手のトマト人間を弾き飛ばしていく。

 轢き潰され、跳ね飛ばされ、それでも赤い影は尽きない。

 その最前を、杉本が走る。


 ――見えた。

 一瞬、闇の奥に浮かぶ顔。

 同じ形をしたはずのトマト人間の中で、明らかに異質な存在感を放っている。


 トーマス。


 その周囲では、赤黒い芽が伸び、膨らみ、新たな形を成しつつあった。


 杉本は刀を抜く。

 「進めぇぇぇッ!」


 声が夜に響いた、その直後。

 トーマスが、ゆっくりと右腕を掲げた。

 何かを想像させる真っ赤な腕。

 その動きには、異様なまでの余裕があった。

 指が開かれる。

 そして、指から何かが放たれた。

 放たれた五つの赤い塊が、空中で膨張する。


 次の瞬間


 それらは形を変え、五体の巨大なトマト人間となって地に降り立った。

 体長、ほぼ十メートル。

 細長い体躯は通常のトマト人間と同じだが、質量と圧だけが桁違いだった。

 腕には関節がなく、タコの足のようにうねりながら垂れ下がっていた。


 一本の拳が振り下ろされる。

 馬が、まるで小石のように押し潰された。

 「――止まれッ!」

 杉本の声が、即座に飛ぶ。


 一瞬の動揺。

 だが、深く息を吐き、今起きたことを集中して整理する。

 次の命令は迷いなく続いた。


 「馬から降りろ! トマトにはい登れ!」

 「馬は、小さいトマトを近づけるな!」

 応える声が重なり、闇の中で動きが分かれていく。

 馬たちは、まるで理解しているかのように前へ出た。


 「お前たちは一体を相手しろ! 残りの四体は――」

 「待て」

 声が割り込む。

 「俺も出る」

 テンディーだった。

 長槍を肩に担ぎ、前へ出る。


 「俺が二体を引き受ける。二人は、残りを頼む」


 「一人で二体だと!?」

 杉本が叫ぶ。


 「この程度なら問題ない」

 テンディーは淡々と言った。

 「伊達に、王の右腕を名乗ってはいないさ。この程度、どうということもない」


 杉本は、言葉を失う。

 ――本当に、俺たち二人で残りを相手できるのか。

 一瞬だけ、その考えが脳裏をよぎった。


  「それに、こいつに勝つ自信もない者が、天下を取るなど、できるはずがない」

 テンディーが続ける。

 「それとも、もう一体俺が受け持った方がいいか」

 

 杉本はカッとなる

 「いらねえ」

 即答した。

 「俺は天下を取る男だ。ここで引く気はねえ」


 巨大な影が、頭上を覆った。

 拳が落ちる。

 杉本と藤山は右へ、

 テンディーは左へ跳ぶ。


 「その自信だ」

 その一言を残し、テンディーはトマトの群れの中に消えていった。


 そして、兵達も動き出す。二人もお互いの敵に向かって飛び出した。

 巨大トマトは腕をふらつかせ、見下ろしている。


 最初に崩れたのは、杉山兵だった。

 巨大なトマト人間の一歩。

 それだけで地面が揺れ、足を取られる。

 登ろうとしても、表皮は異様に硬く、刃が浅く弾かれた。

 「くそ……っ!」


 突き立てた槍が、途中で止まる。

 次の瞬間、振り払われた腕が、兵と馬をまとめて吹き飛ばした。

 話にならない。

 数でも、技でもない。

 単純な質量と暴力が、すべてを押し潰していく。


 「下がれ! 兵は下がれ!」

 杉本が叫ぶ。


 だが、声が届くより早く、また一人、また一人と吹き飛ばされていく。

 「……まずいな」

 藤山は歯を噛みしめた。


 視線は、巨大トマトの動きを追っている。

 速くはない。

 だが、範囲が広すぎる。

 一撃一撃が、回避の選択肢を削り取っていく。


 「杉本! 正面から行くな!」


 「分かってる!」

 杉本は異能を解放させ、一段階速度を上げた。

 巨大トマト人間の死角へと回り込む。地を蹴り、背後から一気に飛び上がった。そのまま背中へ刀を突き立て、肉に食い込ませるようにしてしがみつく。


 だが、触手のような腕が、あり得ない角度でしなり、自分自身の背中を叩きつける。

 衝撃が全身を揺さぶる。


 杉本は振り落とされ、空中で体勢を崩したまま落下した。両足でなんとか着地するが、すぐに距離を取らされる。

 「クソ!」

 急所が高い。攻めたくても、決定打が届かない。


 背中に刻んだはずの傷も、巨大トマト人間の崩れた肉が、ゆっくりと、しかし確実に再生していく。


 一方、藤山は距離を保ち、気の斬撃を放ち続けていた。だが、狙うべきヘタは頭のてっぺんにあり、頭ごと断たなければ切り落とせない。

 それが分かっているからこそ、攻撃は通らない。


 その横では、杉山兵たちが次々と倒れていった。

 触手が振るわれるたび、人が吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 時間が、確実に削られていく。


 二人は焦りながら、それでもどうすればいいのか答えを掴めずにいた。

 その時、ふと左を見る。

 テンディーは、二体の巨大トマト人間に挟まれながらも、戦線を維持していた。


 一体へ向け、長槍を脇に構える。

 大きく踏み込み、全身の力を乗せて突いた。

 一点に集中された気の線が走り、右足が胴体から引き剥がされる。


 体勢を崩した巨大トマト人間が横倒しになる。

 テンディーは、その一瞬の隙を逃さない。

 槍を頭上で回転させ、跳躍し、頭の上で横一文字に振り抜いた。

 大きなヘタが、一撃で払い落とされる。


 そのままトマトの頬の部分に着地し、こちらを振り向いた。

 まるで、見せたかのように。

 テンディーはすぐさま次の一体へ向かい、足元のトマトを倒しながら距離を詰めていく。


 杉本と藤山は、その姿を目に焼き付ける。

 二人は、何かを掴んだように、もう一度、それぞれの敵を見据えた。

次回-死の概念がなくなった世界

死を超えた恐怖をあなたに。

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