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剣聖 ―神の理の中で、それでも剣を取り続ける二人の覇道戦記―  作者: きたスラ
第一章「世界の理と定められた勝敗」
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第十二話-七大技王

本編に戻りました。

トマトとバナナの戦の前の様子を語った回です。

お楽しみください。

 ことが終わると、ポーラーはすっと空の上で跳んだ。

 踏気で宙を渡り、そのまま狭間の上に足を乗せると、流れるような動作で部屋へと戻ってくる。


 杉本は立ち上がり、藤山とともに狭間から距離を取った。

 無言のまま、視線だけがポーラーを追う。


 杉本の右手には、木刀が握られていた。

 いや、もはやそれは木刀と呼べる状態ではない。


 黄色の腕の上で、根元から折れ、所々が砕け、ぼろぼろになっている。

 気を通しすぎたのだろう。


 残された持ち手の部分から、微かに気の残滓(ざんし)が漂っていた。

 重たい沈黙が、部屋を満たす。

 その沈黙を破ったのは、ポーラーだった。

 「さあ、どうする」

 穏やかな声。

 だが、その一言は、問いではなく通告に近かった。

 「同盟を結んでくれるか」


 二人は即答できなかった。

 動揺は隠しきれず、目がわずかに震える。


 ――断ることなど、不可能だ。

 杉本は、はっきりとそう確信していた。


 さきほど見せつけられたのは、脅しではない。

 ただ、七大技王という存在の現実だった。

 「……へ、へへ」

 乾いた笑いが漏れる。

 だが、それは恐怖から逃げるためのものではなかった。


 「当たり前だろ」

 杉本はそう言い切り、ポーラーを見据える。


 藤山もまた、内心で思考を巡らせていた。


 断って今この場で殺されるよりは、同盟を結ぶ方が遥かに合理的だ。


 ただそれだけではない。

 藤山は、ポーラーの目を見る。

 そこには、利用価値を測る者の色がなかった。


 捨て駒として扱う王の視線でもない。

 何より――本当に、表情が優しい。


 (……この者は、違う)


 藤山はそう確信する。

 もう少しだけ、内面を探る価値がある。

 「決まりだな」

 ポーラーは静かに頷いた。


 「それではここに、杉本の国とバナナ王国との間に」

 「()()()()()()()()()を結ぼう」

 一瞬の間のあと、ポーラーは左手を差し出す。


 杉本は迷うことなく、その手を取った。

 こうして。

 戦争の前に、一つの協定が結ばれた。


 その後、ポーラーとテンディーの二人は、夜の(とばり)が下りきる前に馬へと跨った。

 言葉は多く交わされなかった。

 闇に溶けるようにして、二つの影は城下を離れ、やがて夜の向こうへと消えていった。

 静けさだけが、杉山城に残された。


 それから一週間後のことだった。

 杉山城に滞在していた杉本と藤山のもとへ、バナナ王国からの使者が訪れる。


 差し出されたのは、一通の手紙だった。

 封蝋(ふうろう)には、見慣れぬ紋。

 だが、差出人の名を見るまでもない。

 杉本は黙って受け取り、ゆっくりと目を通した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 杉山國 杉本 翔 殿


 予てより案じておりし龍ノ津の動向、いよいよ動きがあったとのこと。


 十万余の蕃茄(ばんか)兵、我が甘蕉(かんしょう)王國へ向かい進軍の由。

 三日の後、両国の境なる煌壮(こうそう)にて、彼らを迎え入れることと相成った。


 杉本、ならびに藤山 透。其方ら両名は、全兵の一割を率い、自ら此の地へ参  られよ。国の平穏を保つため、其方らの力を、静かに貸してほしい。


 道のり、急がずともよいが、遅れぬよう。

 煌壮の地にて、待っている。


 甘蕉王國

 ポーラー=バナー=キング


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 読み終えた杉本は、ゆっくりと息を吐いた。

 「……ついに、きたな」

 藤山は、短く頷く。


 「種ヶ原にいる兵を集めてくれ」

 「わかった」

 それだけで、十分だった。

 準備は早かった。


 街の外れに人が集められ、旗が掲げられ、武具が配られる。

 そうして集まった兵は、およそ五千。


 堅いの空気の中、杉本は馬上に立った。

 「我々はこれより、同盟国の参戦により、煌壮へ向かう」

 声は、よく通った。

 「杉山軍――出陣!」


 その声と同時に全軍の喉から、大地を揺るがすかのような雄叫びが放たれた。


 その光景を、藤山は杉本のすぐ隣で見ていた。

 馬上の杉本は、もはや迷いを見せていない。

 号令を下すその姿は、驚くほど自然だった。


 (……様になってきたな)

 藤山は、わずかに微笑する。


 やがて、五千の兵が一斉に馬を走らせる。

 その隊列は一直線に、煌壮の地を目指して進み出した。

 戦いの場へ向かうその背中を、

 昼の光が、静かに照らしていた。

 

 空気を切り裂きながら進む隊列は、無駄な声もなく、ただ蹄の音だけを地に刻んでいく。


 この世界の馬は速い。

 速さそのものが前提として組み込まれた生き物であり、休息と走行を繰り返しながら、黙々と距離を削っていく。

 誰一人として「遠い」と口にする者はいなかった。


 昼は乾いた風が肌を打ち、夜は星が進路を示した。


 交代で手綱を握り、簡素な休息を挟みながら、兵はただ前を向いて進む。

 戦に向かう行軍とは、本来こういうものなのだと、杉本は無言のまま理解していた。


 藤山は馬上から、何度か後方を振り返る。

 隊列は乱れていない。

 疲労はあるが、恐怖はまだ表に出ていない。


 杉本の背中が、兵たちの視線を自然と引き寄せているのがわかった。

 やがて、空気が変わる。


 土の匂いに、わずかな鉄の気配が混じり始めた。

 風の流れが重くなり、遠くの地平が、どこか落ち着かない色を帯びて見える。

 「……近いな」

 藤山が、低く呟く。

 杉本も頷いた。


 言葉にせずとも、兵たちの多くが同じことを感じ取っていた。

 

 進軍三日目の昼頃、視界の先に広がったのは、なだらかな地形と、その中央に据えられた一帯。


 煌壮。


 両国の境として定められたその地は、不思議なほど静まり返っていた。

 まだ、敵影は見えない。

 だが、何もいないはずの平原が、すでに戦を待っているように、張り詰めた気配だけを孕んでいる。


 杉山軍は、速度を落とし、陣を整え始めた。

 ここから先は、逃げ道のない場所だ。


 煌壮へと続くなだらかな地形を越えた時、最初に視界へ入ったのは、すでに展開を終えた一つの軍勢だった。


 黄色。


 それだけで、誰もが理解した。

 バナナ王国軍は、約定どおり、すでにこの地に陣を敷いていたのだ。


 整然と並ぶ兵は、過剰な密集も無駄な広がりもなく、平原の上に静かに横たわっている。

 その中央、ひときわ大きな影が、馬上で待っていた。


 「……先に着いてたか」

 杉本が、低く呟く。

 だが、その声音に焦りはない。

 むしろ、当然だと言わんばかりの納得が、そこには滲んでいた。


 藤山は無言のまま視線を巡らせる。

 兵の顔つき、馬の落ち着き、陣の完成度。

 どれを取っても、即応可能な状態であることは明らかだった。

 杉山軍が速度を落とすと、それに呼応するように、バナナ軍の前列がわずかに動く。


 威嚇ではない。

 互いの距離を守るための、最小限の反応だった。

 やがて、両軍は適切な間合いを保ったまま、向かい合う。


 その時、中央から一騎が進み出た。

 ポーラー=バナー=キング。


 黄金色の体躯は朝の光を受けてもなお眩しいが、そこにあるのは威圧ではなく、揺るぎない重みだった。


 「待っていたぞ、杉本殿」

 戦場にあるとは思えぬほど穏やかな声。

 だが、その一言だけで、この場の主が誰であるかは明白だった。


 「約束どおり来た」

 杉本も馬を進め、一歩前へ出る。

 「力は貸す。だが、命を捨てるつもりはねえ」


 ポーラーは、わずかに目を細める。

 「それでいい。私は、命を数える戦いしかしないよ」


 二人の視線が交わり、短い沈黙が落ちる。

 そこに、疑念はなかった。


 次の瞬間――


 藤山が、遠く西の地平に目を凝らす。

 「……来る」


 赤の津波。

 「随分と早えな。」

 最初は、地平に滲む程度の色だったそれは、やがて濃さを増し、「群れ」として明確な形を成し始める。


 トマト兵。

 十万を超える数が、まるで一つの生き物のように、こちらへ向かっていた。

 空気が、重くなる。


 兵たちの背筋が、恐怖ではなく、避けようのない覚悟によって自然と伸びていく。

 ポーラーは天を仰ぎ、静かに息を吐いた。


 「――時だ」

 合図とともに、煌壮の中央から狼煙が上がる。

 白く、真っ直ぐに、迷いなく。

 それは開戦の宣言であり、退路を断つ印だった。


 杉本は前を見据え、剣の柄に手をかける。

 藤山もまた、その隣で静かに呼吸を整える。


 すでに、舞台は整っていた。


 これより先、ぶつかるのは軍ではない。

 ――七大技王同士だ。

次からはいよいよ戦が始まりますが、最初はバナナ達とトマト達が戦います。

ポーラーは少し離れた場所で見ています。

次の投稿をお待ちください。

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