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剣聖 ―神の理の中で、それでも剣を取り続ける二人の覇道戦記―  作者: きたスラ
第一章「世界の理と定められた勝敗」
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番外編一-黒装束の男

番外編です。ちょくちょく番外編も出そうと思うので、

結構大事な内容が多いのでぜひみてください。

 一万を超える兵を擁していた香信軍は、たった一日で滅びた。


 龍ノ津の大地には、折り重なる死体と、地面を埋め尽くすほどのトマト人間が(うごめ)いている。


 赤黒く染まった戦場の中心に、一人の男が立っていた。

 トーマス=トマー=チェーン。

 七大技王の一角。


 トーマスの身長は、およそ百八十五。

 人の形をしてはいるが、肌は真っ赤に染まっており、人というにはあまりにも歪だった。


 五頭身の体躯。その頂にあるのは、茎を残したままのトマトの頭部。

 熟し切った赤は不自然なほど濃く、均一で、作り物めいてすらいる。


 顔の中央には、縦に裂けるように並んだ二つの目がある。

 その眼差しには、感情を隠すという発想が存在しない。


 その周囲では、主を中心に円を描くように、無数のトマト人間が滞在していた。

 そこへ、一人の男がゆっくりと歩いてくる。


 フード付きの黒装束。

 顔は影に隠れ、表情は読み取れない。


 死体を踏み越え、血の海を進みながら、男は呟いた。

 「何だお前たちは。トマトか?」


 その声に反応し、トマト人間たちが一斉に男を向く。

 人形のように揺れながら、男に向かって飛びかかった。


 ――だが。

 男は、攻撃する素振りすら見せなかった。


 空間が歪かと思えば、トマト人間たちは、文字通り粗挽きとなって地面に散った。

 肉片が飛び、赤い汁が雨のように降る。

 男は足を止めることなく、歩き続ける。


 次々と襲いかかるトマト人間は、触れる前に砕け散っていった。

 その異変に、中心に立つ男が気付く。


 「誰だ!」

 トーマスの声が戦場に響く。

 黒装束の男は、とうとうトーマスの前に立った。

 「おお。お前はまさか――七大技王のトーマス=トマー=チェーンだな。」


 トーマスは、無言で人差し指を突き出す。


 次の瞬間。


 周囲に散らばっていたトマト人間の肉片が、蠢きながら宙に浮いた。

 命令を受けたかのように集束し、一直線に黒装束へと直噴する。

 ところが肉片は、男に触れる直前で、力を失ったように失速し、地面に落ちた。


 「……何が起きた!」

 トーマスの声に、明確な動揺が混じる。

 力が、吸い込まれたかの様な、そんな感覚。


 黒装束の男は、肩をすくめるように言った。

 「悪いな。俺に気を使った攻撃は、効かない。」


 そう言うと、男は両の懐に手を入れる。

 右手に月の刃(つきのやいば)

 左手に日の刃(ひのやいば)

 二本の小刀を静かに抜き放った。

 「この二本が、俺を守っている。」


 トーマスの目が、見開かれる。

 「……まさか、それは――明颯(みょうそう)・村正!?」


 黒装束の男は答えず、淡々と続けた。

 「前から気になっていたことがある。貴様は、ずっと昔から存在している人間だが、衰えを知らぬ。」


 「まるで――神のように。」


 トーマスは、わずかに眉をひそめる。


 「まさか貴様……生物から天命(てんめい)を奪っているのか。」

 その言葉に、トーマスははっきりと動揺した。

 それを見て、男は笑う。

 「それだ。」

 「私が、長らく探し求めていた力は。」


 トーマスは低く唸る。

 「人間如きが、その力を操ることなど不可能だ。」


 黒装束の男は、一歩踏み出した。

 「ほほう。ではトーマスよ。その力で、私の天命を奪ってみるが良い。」


 「……呆れたやつだ。わざわざ、死ぬ気か?」


 「早くしろ。」


 「望むところだ!」

 トーマスは叫び、指を触手のように伸ばす。

 そして、その指を黒装束の男の身体へと突き立てた。


 トーマスは、伸ばした指先へと気を集中させた。

 それは触手のようにうねり、周囲に満ちる何かを絡め取っていく。


 吸われている。

 命そのものが、音もなく引き剥がされていく感覚。

 指先から吸収されたそれは、脈動するようにトーマスの体内へと流れ込んでいった。


 「ほう。なるほど、その気の流れか」

 黒装束の男が、感心したように呟く。


 「何を、わかったような口をきく」


 「いいや。よくわかった」

 男は左手を上げ、淡く光を反射する刃を見せた。


 日の刃。

 「この日の刃を持っているとね。気の流れが、まるで可視化されるかのように見えるんだ」


 そう言い残すと、トーマスの指先で起きていた吸収がぴたりと止まる。

 いや、止まったのではない。

 流れが、反転した。


 「な――」


 トーマスの体から、気が引き剥がされるように流れ出す。

 それは一直線に、黒装束の男へと吸い寄せられていった。


 「だから、その流れを()()()()()いいだけさ」


 悲鳴が上がる。

 トーマスは膝を折り、地に崩れかける。


 黒装束の男は容赦なく気を込め、さらに深く――天命を吸い上げていった。

 やがて吸収が終わると、

 トーマスはがくりと膝をつき、その場に留まった。


 「貴様……どれだけ生物から無駄に天命を奪っている」

 男の声は冷静だった。

 「お前の中にある天命は、すでに数万人分を超えているぞ」


 「数など、どうでもよかろう」

 トーマスは歪んだ笑みを浮かべる。

 「私は無駄な命を、有効活用してやっているだけだ」


 周囲のトマト人間たちへ、ちらりと視線を走らせる。

 「これが、有効活用か」

 黒装束の男は淡々と答えた。


 トーマスはむくりと立ち上がる。


 「まあいい。その天命……使えそうだ」

 「何……?」


 次の瞬間、男は上を仰ぎ、両手を大きく広げた。


 「俺は今、世界で初めてーー

           二種の異能(デュアル・レガシー) を達成した!」


 声が、戦場に響く。


 「新たに、天命を操る異能を獲得したのだ」


 「……化け物が」

 トーマスが吐き捨てる。


 「異能の名は後で決めるとして……なあ、トーマス」

 男は視線を落とし、静かに告げた。

 「俺の臣下に下らぬか」


 「断る」


 「まあいいさ」

 男は微笑んだ。

 「貴様は、俺に逆らうことはできない」


 「……いつか、殺してやる」


 「好きにしろ」

 黒装束の男は、淡々と言い放つ。

 「まずはお前の実力を示してもらおう。生かすかどうかは、それからだ」

 少し間を置き、続ける。

 「お前と同じ七大技王に、バナナ人間がいるだろう。そいつを殺せ」


 「……わかった」


 「だが、何故バナナなんだ。上には、もう一人七大技王の国があるが」


 「面識がある」

 男の声は冷たかった。

 「後の、私の計画に邪魔になるかもしれん」


 「ふっふっふ……良いだろう」


 「俺はしばらく、この国に滞在する」

 黒装束の男は、トーマスとすれ違いざまに言い残す。

 「できるだけ早く、この死体の山を片付けて、殺しに行ってくれ」


 そうして男は、

 かつて香信の城であったであろう建物へと、静かに歩み入り、姿を消した。

黒装束の男は一体…

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