第十一話-バナナとトマト
食物戦争編に入りました!
まずはちょっとした設定や七大技王の凄さを書いたので
是非読んでください。
七大技王。
天をも轟かすその名声は、あの杉本 翔でさえも知っていた。
ポーラー=バナー=キング。
七人しか存在しないとされる、天下に最も近い者たちの一人。
その名が、今まさに目の前にある。
「我こそは桂の杉本 翔なるものだ。お初にお目にかかる」
杉本が一歩前に出て、そう名乗る。
「おお……貴方が杉本殿であるか」
穏やかな声だった。
高さ二メートルを超える身体に似合わぬ、柔らかな目。
「ならば、その隣にいるのは『光源』の二つ名を持つ探偵、藤山であるな」
「……ああ、そうだ」
藤山は一瞬だけ眉を動かし、静かに答える。
「杉本の臣下、藤山 透だ。で、そちらの方は」
警戒を隠そうともせず、視線をずらさない。
「私はテンディー=バナー=ナイトと申します」
もう一人のバナナが、一歩下がって頭を下げた。
「ポーラー王の臣下に御座います」
「七大技王が何の用だ」
杉本が間を置かずに言う。
「まさか、そちらの国の下につけなんざ、言いに来たわけじゃないだろうな」
「話がある」
ポーラーは即座に否定も肯定もせず、ただそう告げた。
「安心されよ。ここで剣を抜くつもりはない」
わずかに視線を落とし、続ける。
「――神に誓おう」
その一言で、空気が変わった。
杉本の肩から、わずかに力が抜ける。
この世界で、神に誓ったその言葉は軽くない。破ることは許されないのだ。
「話の内容は何だ」
藤山はなおも油断せず、問い返す。
「ここでは少々暗すぎる」
ポーラーは周囲を見回し、穏やかに言った。
「できれば、もう少し明るい場所で話さぬか」
「……わかった」
杉本は短く答え、馬の手綱を引いた。
四人はそのまま、杉山城へと向かう。
城内も決して明るくはなかったが、松明の灯りが、互いの表情をはっきりと映していた。
やがて床に座り込み、向かい合う。
「で、その話ってのは何だよ」
杉本が率直に切り出す。
「そちらの国と、バナナ王国の間に」
ポーラーは一拍置いてから告げた。
「不戦同盟と、商売の協定を結びたい」
「ほう……」
杉本は腕を組む。
「別に構わねえが。それで、お前たちに徳はあるのか」
「もちろんある」
即答だった。
「その代わりに――」
ポーラーの声が、わずかに低くなる。
「この先、私が起こす戦争に、力を貸してほしい」
二人は、思わず互いの顔を見る。
「一応、聞いておく」
藤山が口を開く。
「どこと戦う。そして、なぜうちらなんだ」
短い沈黙。
「戦う相手は、バナナ王国より遥か西」
ポーラーは淡々と語る。
「龍ノ津を治める、トマトの軍団だ」
その言葉に、藤山の視線が鋭くなる。
「……理由は?」
「理由は一つ」
ポーラーは、静かに言い切った。
「敵が――私と同じ、七大技王だからだ」
「ま、まさか……トマト人間の七大技王って……」
藤山の声が、わずかに揺れた。
「流石、ご存知ある様だな」
ポーラーは穏やかに頷く。
「トーマス=トマー=チェーン。私の因縁の相手だ」
その名を聞いた瞬間、空気が重くなる。
「因縁?」
杉本が短く問い返した。
「少し長くなるが、よろしいか」
ポーラーはそう前置きし、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「その昔……まだ第一戦国時代すら始まっていなかった頃だ。人々は、気と念の研究、そして新たな軍事強化のために、ある試みを行った。バナナとトマトを使い、人間作り出そうとしたのさ」
ー念
藤山は心の中で、その言葉を反芻する。
気と違い、気持ちによって振れ幅が大きい。
後天的に扱える者は極めて少なく、記録も断片的だ。
「そして長い時間の末、実験は成功した」
「バナナ人間とトマト人間が生み出され……その、最初の二体こそが」
ポーラーは、自らの胸に手を当てる。
「この私、ポーラー=バナー=キングと――トーマス=トマー=チェーンだった」
「しかし、ある時……その食物人間が暴走を起こし、街を破壊して逃亡した」
藤山が、歴史書の一節をなぞるように言った。
ポーラーは、わずかに目を細める。
「歴史書には、そう描かれていたかい?」
「だが、本当は違う。全て――トーマスがやったことだ」
静かな口調とは裏腹に、その言葉は重かった。
「私は、怖くなって街から逃げてしまった」
「だが、生き延びるためには、強くならねばならなかった。そうして今では……七大技王と呼ばれる所まで、来てしまったというわけだ」
「なるほど……」
杉本は、短く息を吐いた。
だが、すぐに眉をひそめる。
「……だが、わからない」
「本当に、バナナだのトマトだのが、そこまで強いのか?」
「七大技王って、そんなにすごいものなのか?」
「お前……何言って……!」
藤山が声を荒げかけた、その時だった。
ポーラーは、少しだけ笑みを浮かべ、すっと立ち上がる。
「何か、長めの棒はないか?」
「殿、何を……」
テンディーが一歩前に出るが、
「落ち着け」
ポーラーは、それだけを告げた。
「棒ではないが……」
藤山も立ち上がり、壁に掛けられていた鍛錬用の木刀を手に取る。
「これでいいか」
「ああ。それでいいよ」
ポーラーは木刀を受け取ると、部屋の縁へと歩いていく。
「お、おい!?」
杉本が声を上げた瞬間――
ポーラーは、躊躇なく飛び降りた。
だが、その身体は落ちることなく、空中でぴたりと止まった。
「あ、あいつ……浮いてるぞ!」
杉本の叫びに、
「あれは踏気だ」
藤山が、震える声で答える。
「気を足場にしている……それも、あんな完成度で……」
藤山の脳裏に、一つの事実が浮かぶ。
二人は、武器も持たず敵地へ侵入してきた。
もし、ここにいる全員で殺しにかかっていたら――
その想定は、最初から存在しなかったのか。
それとも――
ポーラーは、空中を歩くように城から距離を取り、静かに立ち止まった。
木刀に、大量の気が込められる。
いつもの、風が流れ込むような音ではない。
耳に刺さる、甲高い音が空気を震わせる。
そのまま軽く横に木刀を振った。
次の瞬間。
木刀が振るわれると同時に、気と空気が激突し――
ゴロ ゴロ ゴロ
天を割るような轟音が、夜を揺らした。
杉本は、全身を震わせたまま、腰が抜けたように尻餅をつく。
言葉も、呼吸も、出てこなかった。
――これが。
――七大技王。
その現実だけが、深く、深く突き刺さっていた。
次回も戦わずにもしかしたらその次も戦わないかもしれません。
ちょっとした番外編も入れていこうと思っているので。
食物戦争お楽しみに。




