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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第九十九話 首領の心

1.真実の空間


 扉を越えた瞬間、私たちを包んだのは暗闇ではなかった。

 そこに広がっていたのは、まるで夜明け前の街並みのような風景だった。

 だが建物の一つ一つには深い裂け目が走り、糸で無理やり繕われている。


 空には月も星もなく、ただ灰色の空気が満ちている。

 そして、その中心に立つ一人の男――首領がいた。


 彼は私たちを見て微笑んだ。

 それは敵意ではなく、どこか達観した笑みだった。


 「ここまで来るとは思わなかったよ、大家」


 私は布を握りしめた。

 「お前の心の中か……ずいぶん、荒れているな」


 首領は肩をすくめた。

 「荒れてなどいない。これが私の誇りだ。裂け目は傷ではない、勲章だ」


2.首領の独白


 彼はゆっくりと歩み寄り、街の裂け目を撫でた。

 「かつて私はすべてを守れなかった。仲間も、家も、誇りも。

  だがその傷を恥じる必要はない。傷は力となる。裂け目は私の証明だ」


 リナが震える声で言った。

 「でも、その裂け目に縋るあまり、あなたは人々をも裂け目に飲み込ませてきた」


 首領は首を振った。

 「彼らもまた選んだのだ。弱さを隠し、強さを得る道を」


 リオが叫ぶ。

 「違う! 裂け目を押しつけられたんだろう! 俺たちは選んでなんかいない!」


 首領の瞳が鋭く光った。

 「ではお前は、自分の裂け目を否定するのか?」


 リオは拳を握りしめ、震えながら答えた。

 「否定なんかしない! でも、繋ぐために使うんだ!」


3.心の衝突


 空間が震えた。

 首領の影が無数に広がり、街を覆う。

 裂け目の光が大地を割り、私たちを飲み込もうとする。


 マリエが歌を響かせ、裂け目の広がりを押しとどめる。

 「光よ、どうか……!」


 だが首領の声が歌をかき消す。

 「綺麗事だ。歌で傷が塞がるなら、この世に痛みは残らない」


 私は布を広げた。

 「歌も、布も、剣も、拳も……すべては繕うためにある!」


 布が光り、仲間たちの力を束ねる。

 リナの剣が裂け目を切り裂き、リオの拳が影を砕く。

 マリエの歌が崩れゆく街を支え、私は布で繕い続ける。


 だが首領は微動だにせず、ただ私たちを見据えていた。


4.首領の痛み


 「大家……お前は分かっていない」

 首領の声が低く響く。

 「裂け目を繕うことは、痛みを忘れることだ。私は忘れたくない。

  仲間を失った痛みを、裏切られた悔しさを、無意味にしたくない」


 彼の背後に、かつての仲間たちの幻影が現れる。

 皆、裂け目に呑まれ、影となっていた。


 リナが剣を下ろした。

 「……この人は、自分を罰し続けている」


 マリエの瞳に涙が溢れる。

 「だから裂け目を誇りにして……忘れないようにしているんですね」


 私は唇を噛んだ。

 ――首領もまた、私と同じ「大家」だったのかもしれない。

 守れなかった者を思い続け、繕う代わりに裂け目に縋った大家。


5.拒絶


 「ならば、繕わせてくれ」

 私は布を差し出した。

 「お前の裂け目も、痛みも、全部俺たちで縫い合わせる」


 首領の表情が初めて揺れた。

 だがすぐに、強い拒絶の光が宿る。


 「いやだ。忘れたくない。私は痛みを守る。

  そして痛みに縋る者たちの王であり続ける!」


 空間が大きく裂け、街全体が崩れ落ちていく。

 裂け目は塔を貫き、深淵の外へと広がり始めた。


 リオが叫ぶ。

 「このままじゃ……街ごと消える!」


 リナが剣を構える。

 「ここで止めるしかない!」


 マリエが歌を重ねる。

 「どうか……届いて!」


 私は布を握りしめた。

 「首領……! 痛みを守るだけじゃ、誰も救えない!」


6.最後の裂け目


 首領は両手を広げた。

 「ならば見せてやろう。これが私の最後の裂け目だ!」


 天空が裂け、大地が割れる。

 現れたのは巨大な「心の裂け目」――塔そのものを凌駕する深淵の亀裂だった。


 そこからは絶望の声が響き、人々の影が無数に這い出してくる。

 それは首領が背負い続けた痛みのすべて。


 私たちは立ち尽くしながらも、布を掲げた。

 「大家として、ここで繕う!」


 戦いは、次の瞬間に幕を開けようとしていた。

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