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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第九十八話 影の番人

1.扉の前


 階段を登りきると、そこには巨大な扉がそびえていた。

 漆黒の木材を思わせる質感。しかしよく見れば、無数の裂け目を糸で無理やり縫い合わせたものだ。

 まるで首領自身の心を象徴しているかのようだった。


 私たちは息を呑み、扉に近づく。

 その瞬間――扉の前の闇から、人影がゆらりと立ち上がった。


 それは首領に酷似した姿を持ちながらも、瞳には光がなく、口元は深い裂け目で歪んでいた。

 闇そのものから生み出されたかのような「影の番人」だった。


 「ここから先へは、繕いを掲げる者は通せぬ」

 声は低く響き、空間そのものを震わせた。


 私たちは思わず武器と布を構える。

 リナが小声で呟いた。

 「……まるで首領の心が、自らを守っているみたい」


 私は頷く。

 「つまり、ここを越えなければ首領の本心には辿り着けない」


2.戦いの始まり


 影の番人は巨大な剣を生み出した。

 その刃は黒い裂け目の光を帯び、振るうたびに空間が裂けていく。


 リオが真っ先に飛び込んだ。

 「俺が先陣を切る!」


 拳を振るい、番人の剣とぶつかる。

 衝撃が走り、床の糸が砕け散る。

 「ぐっ……重い!」


 リナが横から斬り込むが、番人は剣を振り払って彼女を弾き飛ばす。

 「くっ……!」


 その動きは力強く、しかも無駄がない。

 首領の「力」だけを凝縮した存在のようだった。


 私は布を広げて防御の陣を張る。

 だが裂け目の力は布をも食い破ろうとする。

 「……繕いが通じにくい……!」


 マリエが後方で歌を響かせる。

 だが影の番人はその歌に耳を貸すことなく、ただ無機質に剣を振るい続けた。


3.仲間の奮闘


 リオが歯を食いしばり、拳を再び繰り出す。

 「俺の怒りは……繋ぐためにある!」


 拳が番人の胸を撃ち抜いた。

 だが闇はすぐに修復し、番人は微動だにしない。


 「無駄だ」

 低い声が空間を震わせた。


 リナが剣を構え直す。

 「迷っても……斬るべき道はある!」

 彼女は連撃を繰り出すが、すべて受け止められる。


 マリエが必死に歌う。

 「光よ、どうか……!」

 彼女の声は確かに私たちを支えていたが、番人には届かない。


 私は息を呑み、思った。

 ――これは、首領の「拒絶」そのものだ。

 繕いを拒み、過去を守り抜こうとする心の壁。


4.大家の布


 「……ならば、大家として挑むしかない」


 私は大きく布を広げ、仲間の前に立った。

 布は何度も裂かれ、破れそうになる。

 それでも私は針を走らせ、瞬時に繕い続ける。


 「布が裂けても、また縫い合わせればいい!」


 リオが吠える。

 「そうだ、何度でも!」

 彼は布の裂け目から拳を突き出し、番人の動きを押し返す。


 リナが続いた。

 「迷いも縫い合わせる!」

 剣に布を巻きつけ、閃光のように突き込む。


 マリエの歌が布を照らし、私たちの力を束ねた。

 「繕いの光よ……!」


 四人の力が重なり、布の光が影の番人を包み込んだ。


5.番人の正体


 番人が呻き声を上げる。

 「……守らねば……誰にも踏み込ませぬ……」


 裂け目の隙間から、首領の姿がかすかに見えた。

 それは若き日の彼、仲間を失う前の姿だった。


 マリエが震える声で言った。

 「この人……首領さん自身なんです。失った痛みを守ろうとして……番人になった」


 リナが剣を下ろす。

 「……彼を斬るんじゃない。解き放つんだ」


 私は頷き、布を差し伸べた。

 「お前の痛みも、裂け目も、俺たちが一緒に繕う」


 番人はしばらく沈黙し、やがて剣を手放した。

 闇がほどけ、静かに霧散していく。


 「……行け。あとは、あの人自身に……」


 そう言い残し、影の番人は消えていった。


6.扉の向こうへ


 重い沈黙が訪れた。

 扉の前に立つ私たちは、しばし言葉を失った。


 リオが拳を握りしめる。

 「番人は……首領の心そのものだった。なら、本体は……」


 リナが息を吐く。

 「私たちを拒む理由、きっとあるんだ。でも、もう引けない」


 マリエが布を撫でる。

 「歌います。たとえ届かなくても」


 私は布を扉にかけた。

 「大家として、この扉を開ける」


 糸がほどけ、扉がゆっくりと開いていく。

 その先に待つのは――首領の真実だった。

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