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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第八十七話 瓦礫の誓い

1.戦いの翌朝


 黒き嵐が退いた翌朝、王都の広場は瓦礫の山と化していた。

 石畳は割れ、屋根瓦が散乱し、崩れた家の前で人々が呆然と立ち尽くしている。


 「……ひどいな」

 リオが腕を組み、瓦礫を見渡す。


 リナは剣を腰に収め、険しい顔をしていた。

 「影は退けましたが、この被害……。人々の心もまた裂かれてしまうかもしれません」


 マリエは布を抱えながら、崩れた家々に視線を落とした。

 「でも……繕える。瓦礫の下にいる人たちも、きっと」


 彼女の言葉に、私は頷いた。

 「そうだ。大家の仕事はここからだ」


2.大家として


 私は深呼吸をし、集まった人々に向かって声を張り上げた。

 「聞いてくれ! 家が壊れた者も、心が裂けた者も、ここにいる! だが俺たちは繕える! この瓦礫の上にまた暮らしを築こう!」


 人々は互いに顔を見合わせ、怯えや戸惑いの色を浮かべていた。

 だが、やがて誰かが「そうだ……」と呟き、もう一人が「繕える」と続けた。


 瓦礫の中からか細い歌声が響く。

 マリエが布を掲げ、リオが声を重ね、リナが静かにうなずいた。

 やがて人々は瓦礫を片付けながら歌を口にし始めた。


3.救出と修繕


 午前中は崩れた家々からの救出に追われた。

 リナが瓦礫を剣で切り分け、リオが力任せに持ち上げる。

 マリエは布で負傷者の心を落ち着かせ、幽霊少女は傷ついた子どもたちを慰めた。


 「大家さん! こっちにまだ人が!」

 駆け寄ったリナに導かれ、私は倒壊した柱の下から少年を助け出した。

 母親が泣きながら抱きしめ、周囲に安堵の声が広がる。


 その光景は、確かに人々の心を繋いでいった。


4.影の残滓


 だが、安堵の一方で不安も残っていた。

 瓦礫の陰には黒い靄の痕跡が残り、触れた者の心を冷たくする。

 人々はそれを恐れ、近づこうとしなかった。


 「影の残滓か……」リナが眉をひそめる。

 「放置すれば再び芽吹く」


 マリエは布を広げ、震える声で言った。

 「布で……繕えるかもしれません」


 私は頷き、彼女と共に布を裂け目にかけた。

 歌声が広がり、靄はゆっくりと光に溶けて消えていった。


5.瓦礫の誓い


 夕刻、瓦礫の上に人々が集まった。

 修繕の手を止め、誰からともなく歌が始まる。

 それは悲しみを抱えながらも、未来を繋ぐ歌だった。


 「裂けても」

 「繕える」


 その声が夕暮れの空に響き渡る。

 私は人々の輪の中で静かに頷いた。


 ――大家として、この都もまた一つの家だ。

 瓦礫は壊れた証であると同時に、新しく築くための礎になる。


 「この瓦礫の上に、もう一度家を建てよう」

 私は人々に向かって宣言した。

 「裂けた都を、みんなで繕おう!」


 歓声が広がり、涙を流す者、拳を握る者、歌い続ける者。

 瓦礫の誓いが、確かに都を一つにした。


6.影の影


 その夜、私は夢を見た。

 暗闇の中に首領が現れ、低く囁く。


 ――繕ったところで、また裂ける。

 ――瓦礫はやがて崩れる。


 だが私は夢の中で答えた。

 「何度でも繕う。瓦礫が崩れても、また積み直す」


 首領の影は揺らぎ、やがて消えていった。


7.新しい朝


 翌朝、都の空は久しぶりに澄んでいた。

 まだ瓦礫は多く、影の脅威も去ってはいない。

 だが、人々の表情には確かな光が宿っていた。


 マリエが布を抱きしめ、静かに微笑む。

 「大家さん……繕えるって、本当なんですね」

 私は笑い、肩を叩いた。

 「そうさ。大家の仕事は、何度でも家を立て直すことだ」


 王都の一角に、歌と誓いが広がっていく。

 その響きは、次の戦いへの力となるだろう。

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