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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: じょんどぅ


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第七十三話 祭りの支度、灯る笑顔

1.祭りの宣言


 黒霧との戦いから数日が経った。港はまだ傷跡を残していたが、人々の表情には疲労よりもむしろ晴れやかな光が宿っていた。

 そんな朝、私は広場に立ち、町の人々へ告げた。


 「港を守り抜いた俺たちに、今こそ祭りが必要だ。心を癒やし、未来へ進むための祭りをしよう!」


 「お祭りだって!?」

 子どもたちが歓声を上げ、漁師たちは顔を見合わせて笑った。

 「いいじゃねぇか! 網も直ったし、魚も揚がった。腹一杯食わせてやれるぞ!」

 商人たちも頷き合う。

 「交易の品も並べれば、異国の人間だって喜ぶさ」


 こうして港の祭りは正式に決定した。


2.準備開始


 祭りの準備は町全体を巻き込んで進められた。

 リオは木材を担ぎ、広場に大きな舞台を組み立てている。

 「大家、見ろ! 俺の筋肉、祭りのためにあるみてぇなもんだ!」

 「壊すなよ。ちゃんと組めよ」

 私は汗をかくリオの背中を見て笑った。


 リナは町の子どもたちを相手に踊りの稽古をしていた。

 「足を揃えて。そう、右、左……。呼吸を合わせるんだ」

 剣士らしい凛とした声だが、その表情はどこか柔らかい。子どもたちが「リナ先生!」と呼ぶたびに、彼女はわずかに照れていた。


 マリエは縫い子たちと共に、広場を彩る旗や衣装を作っていた。

 「鮮やかな色を使って、昨日の霧を忘れられるように」

 布を広げ、針を走らせる彼女の姿は真剣そのものだった。


 幽霊少女は……というと、屋台の周りで興味津々に飛び回っていた。

 「これなに? お菓子? 甘いの? わたし食べられないけど匂いは分かる!」

 屋台の主人たちは苦笑しながらも、「祭りの看板娘だな」と微笑ましく彼女を受け入れていた。


3.住人たちの想い


 準備の合間、私は一人ひとりの住人の声を聞いて回った。


 鍛冶屋の親父は鉄鍋を磨きながら言った。

 「俺たちも怖かったが、大家の声があったから逃げずに済んだ。だから今度は俺たちが支える番だ」


 酒場の女将は樽を並べながら笑った。

 「港が裂けたら商売もおしまい。でも、あんたが“繕える”って言ったから信じられたのさ。今夜はうんと飲ませてやるよ」


 それぞれの言葉が、私の胸に温かく積み重なっていく。

 ――大家として、この町の声を守り続ける。改めて心に誓った。


4.祭りの前夜


 日が沈むと、広場の舞台には灯籠がずらりと並べられた。

 子どもたちは興奮して走り回り、大人たちは明日の段取りを確認する。

 港の波は穏やかで、まるで祭りを祝福しているようだった。


 その夜、私は下宿の縁側に座り、住人たちと一緒に休息を取った。

 リオが大きな欠伸をして言った。

 「明日は思いっきり騒げるな。拳じゃなく太鼓叩けってな」

 リナは茶をすすりながら静かに微笑んだ。

 「こうして人々が笑っているのを見ると、剣を振るった甲斐がある」

 マリエは針を置き、空を見上げた。

 「明日の衣装……みんなが笑ってくれるといいな」

 幽霊少女は縁側に座って足をぶらぶらさせ、ぽつりと言った。

 「わたし、明日はずっと笑ってる。……ここにいるから」


 私は皆を見渡し、静かに頷いた。

 「そうだな。明日は、この町が裂けないことを証明する日だ」


5.笑顔の灯り


 夜半、町のあちこちに灯籠の明かりがともされた。

 橙色の光が通りを照らし、家々の窓から笑い声が漏れる。

 傷跡を残した港も、今はまるで夢の中のように穏やかだった。


 「大家さん」

 マリエがそっと声をかけてきた。

 「……わたし、前は針を握るのが怖かった。でも、今は違う。ここでなら、未来を縫える気がするんです」

 「そうか」

 私は頷き、心の底から言った。

 「その針で、この町を何度でも繕ってくれ」


 マリエは涙をこらえ、笑顔で頷いた。


6.祭りの夜明け


 東の空が明るくなり始めた。

 波の音に混じって太鼓の試し打ちが響き、子どもたちの歓声が広場を駆け抜ける。

 港の町は、かつてないほどの高揚に包まれていた。


 私は胸の奥に熱を感じながら、静かに呟いた。

 ――今日、この町は新しい一歩を踏み出す。

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