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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: じょんどぅ


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第六十九話 港に訪れる波紋

1.にぎわう港


 旗が裂けずに嵐を越えたあの日から、一週間。

 港町には活気が戻り、船の数も日に日に増えていった。


 「イカだよー! 朝獲れのイカだ!」

 「交易船が持ってきた香辛料はいかが!」


 港は声で溢れ、潮風に混じってスパイスの香りや焼き魚の匂いが漂っている。


 私は下宿の前でほうきを動かしながら、行き交う人々を見守っていた。

 「いやあ、すごい賑わいだな……」


 リオが薪を担いで戻ってくる。

 「こりゃ忙しくなるぜ、大家さん。宿代で小銭も稼げるぞ!」


 リナは淡々と剣を研ぎつつ、港を一瞥した。

 「人が増えれば同時に問題も増える。気を引き締めろ」


2.下宿に集まる旅人


 下宿には久しぶりに客が絶えなかった。

 商人風の男、海を渡ってきた吟遊詩人、さらには見習いの魔法使いまで。


 「旗が裂けぬと聞いて安心しました。これなら荷を預けても大丈夫です」

 そう言って商人が笑えば、リオは胸を張る。

 「うちの大家さんがいる限り、この町は安心だ!」


 私は慌てて手を振る。

 「いやいや、俺だけじゃない。みんなで守ってるんだ」


 客たちはその言葉にうなずき、温かな空気が広間を満たした。

 だが、すべてが順調というわけではなかった。


3.忍び寄る影


 夜。港の片隅で黒いフードの影が囁き合っていた。

 「旗は裂けなかったか……だが、まだ終わってはいない」

 「交易が増えれば、町には金が集まる。金が集まれば、欲もまた集まる」


 彼らは潮風に消えるように散っていった。

 その翌日から、港には小さな不穏が広がり始めた。


4.波紋の始まり


 市場での口論、値段の釣り上げ、倉庫の荷が消える騒ぎ。

 交易が活発になるほど、町には見慣れぬ人間が入り込んでいた。


 「おい、大家さん! また倉庫荒らしがあった!」

 漁師が息せき切って駆け込んでくる。


 リナが眉をひそめる。

 「ただの盗人ではない。組織立っている気配がある」


 私は唇をかみしめた。

 「旗が守られたら、今度は町そのものを揺さぶろうってのか……」


5.大家の奮闘


 私は下宿の広間に人々を集めた。

 商人、漁師、職人、旅人――。

 「旗は裂けなかった。だから今度は俺たち自身が裂かれないようにしよう。どんな問題が来ても、一緒に乗り越えよう」


 リオが拳を突き上げる。

 「そうだ! 盗賊なんかに負けるか!」


 マリエが針を握りしめる。

 「縫い子たちも協力します。情報を集めたり、合図を送ったり」


 トルクは木槌を手に静かに言った。

 「町の柵を作り直そう。見張り台も増やすべきだ」


 人々は一斉に頷き、町全体で備える体制が整っていった。


6.新たな客人


 その夜、下宿に一人の客が訪れた。

 灰色の外套に身を包み、鋭い眼差しを持つ男。

 「宿を頼みたい」


 彼は無口で、必要以上に口を開かなかった。

 だが剣の柄に刻まれた紋章をリナが見て、小さく目を細める。

 「……あれは辺境守備隊の印」


 つまり、この町の動きを探るために派遣された者かもしれなかった。


7.旗の下で


 翌朝、丘の上でその男は旗を見上げていた。

 「裂けても、縫い直せば立つ……か」

 その声には僅かな感嘆が混じっていた。


 私は隣に立ち、笑って言った。

 「そうだ。旗も町も、人の心もな。裂かれたって繕えばいい」


 男はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

 「……なるほど。見極める価値はありそうだ」


8.波紋の広がり


 しかし同じ頃、港の裏通りでは再び黒い影が動き出していた。

 「町は確かに結束している。だが、それを保つには労力が要る」

 「旗を裂けぬなら、町の心を裂けばいい」


 小さな波紋は、やがて大きな渦へと広がろうとしていた。

 それが町にどんな試練をもたらすのか、まだ誰も知らなかった。

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