第六話 初仕事は雨漏り修理
導入:雨の朝、幽霊少女とスライムと一緒に「雨漏り事件」が発覚。
問題:屋根瓦のずれ・古さで部屋が濡れてしまい、住人たちが困惑。
試行錯誤:大家さんが修理を試みるが失敗。幽霊少女の幽霊ならではの行動、スライムの吸水力、トルクの職人技で解決に向かう。
サブエピソード:修理中に大家さんが屋根から転げ落ちそうになる→幽霊少女が支える→トルクが救う、などちょっとした事件。
解決:見事に修理が終わり、住人たちの絆が深まる。
余韻:夕暮れの縁側で「ここはもう家だね」と実感する場面で締める。
1.雨の朝
異世界に来てから数日、穏やかに過ごしていた。
幽霊少女は私の部屋に顔を出すたび「ただいま」と言うのがすっかり習慣になり、スライムは廊下をぷるぷる移動して掃除を担当。新しく加わった小人職人のトルクは、早朝から裏庭で道具を整えては「ここはいい場所だ」とうれしそうに呟いていた。
そんなある朝、窓を叩く雨音で目が覚めた。
しとしとと降り続く冷たい雨。私は「ああ、今日は外に出られないな」とぼんやり思いながら、布団から出た。
だが数分もしないうちに――ぽた、ぽた、と耳障りな音が聞こえてきた。
「……あれ?」
天井を見上げると、古びた板の隙間から水滴が垂れ、床に小さな水たまりを作っている。さらに廊下の奥からも「ぽたっ」「ぽとん」と不規則な音。
嫌な予感がして走り出した。
「こりゃ本格的な雨漏りだわ……!」
幽霊少女があわてて現れ、濡れた床を指差す。
「大家さん! ここも、あっちも!」
スライムは床に飛び乗り、ぺちゃぺちゃと水を吸収しているが、とても追いつかない。
私は額に手を当ててため息をついた。
「やっぱり、築年数が相当いってるのね……」
2.試行錯誤
すぐに脚立を持ち出し、屋根裏に上がってみた。
湿った木の匂い。暗がりのなか、瓦がずれて小さな穴が空いているのが見えた。そこから雨が容赦なく滴り落ちている。
「補強すれば大丈夫そうだけど……一人じゃ無理ね」
私が唸っていると、トルクが梯子を登ってきた。
「大家さん、手伝います! こういう作業こそぼくの出番ですから!」
小人族の小さな体は、屋根裏の狭い空間にぴったりだった。彼は器用に釘や木片を取り出し、ずれた瓦の下に差し込んで仮補強を始める。
一方で下では、幽霊少女がバケツを並べ、スライムが水を吸い込んでは窓から外へ飛んでいき、また戻ってくるという不思議な連携プレーを見せていた。
「いいぞ、みんな頼もしい!」私は声を張った。
だが問題はすぐに起きた。
補強用の木片が足りず、瓦を完全に固定できないのだ。中途半端に押さえただけでは、またずれてしまう。
「むむ……これじゃ本格的に直さないとだめですね」
トルクが眉を寄せた。
「市場まで行って資材を買ってくるしかないか……」
私がそうつぶやいた時だった。
3.小事件
ずれた瓦を確認しようと、私は勢いで屋根に登ってしまった。
雨に濡れた瓦は想像以上に滑りやすく、足をかけた瞬間、体がぐらりと傾いた。
「わ、わわっ――!」
ずるりと足を取られ、私は屋根の端に転げ落ちかけた。
その刹那、冷たい腕が私の背を押さえた。
「大家さん!」
振り返れば、幽霊少女が必死に私を支えていた。
透ける腕は頼りなげだが、不思議と確かな力を感じる。
その直後、下からトルクの怒鳴り声。
「危ないですよ! 素人が屋根なんかに登っちゃ!」
彼は小人とは思えない力で私の足をつかみ、ずるずると屋根裏へ引き戻してくれた。
心臓がばくばくしていた。
「はぁ、はぁ……助かった……」
幽霊少女は涙目で私を見つめ、「もう無茶しないで」と小さく震えていた。
私は彼女の頭を撫で、トルクに深々と頭を下げた。
「ごめん、そしてありがとう。……次はちゃんと任せるわ」
4.解決へ
昼過ぎ、雨が弱まった隙を狙い、私は市場へ走った。
木材と防水布、金具を買い込み、腕がちぎれそうになりながら戻ると、みんなが待ち構えていた。
「資材、買ってきたわよ!」
「おおっ! これでいけます!」トルクの目が輝く。
そこからは本格的な修理が始まった。
トルクが瓦を外し、腐った木板を交換。私は釘を打ち、幽霊少女は幽霊らしく屋根裏をすり抜けながら道具を運ぶ。スライムは濡れた部分を吸い取って、作業環境を整えてくれた。
「よし、これで最後だ!」
トルクが金具を打ち込むと、ずれていた瓦がぴたりと固定された。防水布を重ね、雨水の通り道をふさぐ。
やがて空が晴れ、屋根に残った水滴が光を反射した。
しんと静まり返った屋根裏に、雨音はもうなかった。
5.余韻
夕暮れ。
縁側に腰を下ろし、全員でお茶を飲んだ。
橙色の光が差し込み、湿った空気に土と木の匂いが漂う。
「これでひと安心だね!」幽霊少女がにこりと笑う。
スライムはちゃぷちゃぷと音を立て、誇らしげに揺れている。
トルクは腕を組んで満足そうに頷いた。
「大家さん、ほんと無茶しちゃだめですよ。でも……正直、楽しかったです」
「ええ、みんなで力を合わせたからこそね」
私はしみじみと屋根を見上げた。
まだ古びた建物だが、確かに少しずつ“家”らしくなっている。
「ここは……もう私たちの居場所ね」
ぽつりとつぶやくと、少女もトルクもスライムも、それぞれの形で「うん」と応えてくれた。
その温もりが、胸の奥深くに広がっていった。




