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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第四十三話 夜襲の刃

1.静寂の夜


 港町の夜は、昼間の喧噪が嘘のように静かだった。

 波が岸壁を打ち、船の帆柱がきしむ音だけが響く。


 商会の広間では、縫い子たちが交代で針を進めていた。

 ランプの灯りに照らされ、青と白の糸が裂け目を埋めていく。


 リオは縫い子たちに差し入れのパンを運びながら、そわそわと落ち着かない。

「なあ大家さん、外、なんか嫌な感じしねえか?」


 リナは窓辺に立ち、剣に手をかけたまま低く答える。

「感じる。獣の匂い……いや、人だ。外に潜んでいる」


 私も胸の奥にざわめきを覚えた。

 ――来る。旗を裂いた者が。


2.影の侵入者


 深夜。

 縫い子たちが一息ついた頃、窓の外で小さな金属音が響いた。

 リナがすぐに剣を抜く。

「来た!」


 次の瞬間、窓ガラスが破られ、黒装束の影が三人飛び込んできた。

 顔を布で覆い、手には短剣。

 その狙いは――広間の中央に広げられた旗だった。


「旗を守れ!」

 私は叫び、トルクが木槌を振るって影を弾き飛ばす。

 リオは椅子を掴んで突撃し、マリエは布を抱えて後退する。


 幽霊少女がふわりと立ち塞がり、冷気を漂わせた。

「……裂かせない」

 影の一人が刃を振るった瞬間、冷たい風が走り、短剣が凍りついた。


3.混戦


 リナが前に出て剣を振るう。

 刃と刃がぶつかり、火花が散る。

「やはり人為か……! 旗を狙う理由は何だ!」

 だが相手は無言で攻撃を繰り返すだけだった。


 リオは豪快に叫ぶ。

「おらぁ! 港町の魚の恨みをくらえ!」

 椅子を振り回し、二人目を押さえ込む。


 トルクは寡黙に木槌を振り下ろし、床板を揺らして影を追い払った。

「お前らに旗は渡さん」


 一方、マリエは布を抱えて隅に下がり、必死に針を離さなかった。

「……守らなきゃ。この旗を……!」


 縫い子たちも怯えながら針を手に取り、布を抱え合う。

 彼女たちの震える瞳に、強い決意が宿っていた。


4.刃の狙い


 戦いの最中、影の一人が叫んだ。

「旗は町を縛る鎖だ! 自由を奪う象徴など、不要!」


 その声に一瞬、縫い子たちがざわつく。

 だがマリエがはっきりと言い返した。

「違う! 旗はみんなの心をつなぐもの! 裂け目を放置するほうが、不安を広げるだけ!」


 その声に応じるように、縫い子たちはさらに布を押さえ、針を動かした。

 ――刃と針。破壊と修復。

 広間はその対立の場と化した。


5.決着


 リナが最後の影を剣で壁に追い詰めた。

「旗を狙う理由は、誰に吹き込まれた?」


 だが影は答えず、煙玉を放ち、窓から逃げ去った。

 濛々とした煙の中で、彼らの足音が遠ざかっていく。


 残された広間には、裂けかけた旗と、針を握りしめた縫い子たち。

 そして、汗を拭う仲間たちの姿があった。


「……守れたな」

 トルクが短く言うと、リオが大きく息を吐いた。

「ふぅーっ、俺、もう魚食べる元気ないわ……」


 マリエは布を抱きしめ、涙を滲ませながら言った。

「絶対に……完成させます。この旗を」

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