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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: じょんどぅ


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第四十一話 潮騒の街へ

1.海との出会い


 港町へ続く道を抜けた瞬間、視界がぱっと開けた。

 果てしない青。

 空と地平の境界線が溶け合い、波がきらきらと陽光を跳ね返す。


「うおおおお! これが海かぁぁぁっ!」

 リオが馬車から飛び出し、砂浜を駆け下りた。

 波打ち際まで走ると、靴を脱ぎ捨てて水に足を突っ込み、子供のように飛び跳ねる。


 マリエは馬車から降りるなり、その場に立ち尽くした。

「……広い……本当に、どこまでも……」

 風に髪をなびかせ、目を潤ませている。


 トルクは眩しそうに目を細め、唇の端を少しだけ上げた。

「俺も長いこと旅したが、こうして海を見るのは久しぶりだな」


 リナは地図を閉じ、真剣な眼差しで海を見つめていた。

「潮の流れが強い……嵐の後の影響かもしれない」


 幽霊少女は砂浜に足を下ろすことなく、潮風に髪を揺らしていた。

「……懐かしい匂い。波は記憶を運ぶ」


 私は胸いっぱいに潮風を吸い込みながら、声をかけた。

「さあ、行こう。港町はすぐそこだ」


2.潮騒の街


 馬車を進めると、やがて大きな港が姿を現した。

 帆船が何隻も並び、白い帆布が風に膨らんでいる。

 埠頭では人々が荷物を運び、魚を並べ、商人たちが声を張り上げていた。


「すげぇ……町中が動いてるみたいだ!」

 リオが目を輝かせる。


 町は石畳が続き、白壁の家々の窓には色とりどりの布が掛けられていた。

 潮風に布がはためき、街全体が旗のように見える。


 私たちは商会の使者に案内され、港町連合商会の本館へと向かった。


3.裂けた旗


 商会の館は、港を見下ろす丘の上にあった。

 重厚な扉を開けると、年配の商会長が出迎えてくれた。


「遠路はるばる、よくぞ参られた。大家殿、そして皆々様」

 深く頭を下げられ、私は慌てて会釈を返した。


 案内された広間には、裂けた巨大な旗が広げられていた。

 青地に白い波と船を描いた、美しい意匠。

 だが真ん中から大きく破れ、布は無残に裂けている。


「嵐に巻き込まれ、港を守る象徴がこの通りに……」

 商会長は重々しく言った。

「旗なくしては海路を守る加護も失われ、町は不安に揺れております」


 マリエが恐る恐る布に触れた。

「……強い布です。けれど、この裂け方は……」


 リナが眉をひそめる。

「自然の破れじゃない。刃物の跡……誰かが意図的に裂いた」


 空気が凍りついた。


4.町の影


 その夜、私たちは港町の宿に滞在した。

 広間では魚のスープや焼きたてのパンが並び、住人たちがわいわいと食事をしている。


「うまい! やっぱ海の魚は違うな!」

 リオはスープをおかわりし、トルクは黙々と魚をさばいて骨まで食べ尽くす。


 マリエは紙に裂けた旗の縫い目を描き写していた。

「……縫い直すことはできます。でも、また裂かれたら……」


 リナはグラスを置き、低い声で言った。

「この町には内部に敵がいる。嵐を口実に、旗を失わせようとした誰かが」


 幽霊少女は炎を見つめ、囁いた。

「波の音の中に……怒りが混ざってる」


 私は胸の奥がざわつくのを感じた。

 旗を直すだけでは済まない。裂け目を縫うには、この町の心の裂け目とも向き合わなければならないのだ。


5.決意


 その夜更け。

 私は港を見下ろす宿の窓辺に立ち、暗い海を眺めていた。


 リオが隣にやって来て、口いっぱいにパンを頬張りながら言った。

「なあ大家さん。旗を直したらさ、みんな笑うかな」


「そうだね。旗は町の心だから」


 リオはもごもごとパンを飲み込み、にっと笑った。

「だったら絶対直そうぜ! 誰が裂いたとか、そいつのことはリナに任せとけばいい! 俺らは港町を元気にするんだ!」


 無邪気な言葉に、胸が少し軽くなった。


「うん。きっと大丈夫」


 海の向こうで、月が波に銀の縫い目を描いていた。

 その輝きを見つめながら、私は強く心に誓った。

 ――旗も、この町の心も、必ず繋ぎ合わせてみせる。

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