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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第二十二話 盗賊団の襲撃

1.迫りくる足音


 それは、月のない夜だった。

 黒い雲が空を覆い、森の奥から低いざわめきが風に乗って流れてくる。


 私は眠れずに庭に出ていた。冷たい土の匂いが鼻を突き、胸騒ぎが止まらない。

 そのとき、幽霊少女がふっと現れた。

「……来る。たくさん」


 言葉と同時に、木々の影の奥で無数の松明が揺らめいた。

 心臓が跳ね上がる。


「みんな! 起きて!」

 鐘を鳴らすと同時に、アパートの灯りが次々と点った。

 剣を握るミナ、震えるリオ、祈りを込めるリナ、道具を抱えたトルク、そして跳ね回るスライム。


 私たちの小さな家は、ついに本当の戦場になろうとしていた。


2.敵の姿


 塀を越えて現れたのは十数人の盗賊たち。

 顔を布で覆い、短剣や棍棒を振りかざし、血走った目でこちらを睨む。


「ここが噂のアパートか。可愛らしいもんだな」

 頭領らしき男が嗤う。

「財も女も、全部いただくぜ!」


 私は前に出て、声を張り上げた。

「ここは渡さない! 帰れ!」


 男は大きく笑い、刃を振りかざした。

「抵抗するなら、潰すだけだ!」


3.戦いの始まり


 最初に飛び込んだのはミナだった。

 剣が月光を反射し、盗賊の棍棒を弾き飛ばす。

「この家は通さない!」


 リナが詠唱し、光の矢が敵の目を眩ませる。

 トルクは仕掛けた罠を起動し、地面に張った糸が音を立て、鐘が鳴り響いた。


 スライムは賊の足に絡みつき、泥のように動きを封じる。

 幽霊少女が冷気を纏った声を放つと、男たちは一瞬怯え、後ずさった。


 私はリオを背に庇いながら叫んだ。

「みんな、落ち着いて! 息を合わせるのよ!」


4.激しい攻防


 しかし敵は多かった。

 後ろから矢が放たれ、屋根瓦に突き刺さる。

 ミナが盾代わりに板を構え、リナが防御魔法を展開した。


 トルクは素早く敵の背後に回り込み、器用に足を狙う。

「ちょこまか動くな、小人!」

「舐めるな!」


 その間にもスライムがぷるんと膨れ、二人分の体を押し倒す。


 リオは震えながらも声を張り上げた。

「やめて! ここは、みんなの家なの!」

 その声は一瞬、敵の手を止めた。


5.頭領との対峙


 やがて、頭領が前に出てきた。

 大きな斧を肩に担ぎ、凶悪な笑みを浮かべている。

「小娘どもが……楽しませてくれるじゃねえか」


 ミナが剣を構える。

「来いよ! 絶対に負けねえ!」


 斧と剣がぶつかり、火花が散った。

 衝撃にミナがよろめくが、必死に耐える。

 リナが支援の魔法を唱え、彼女の体を光が包む。


 私は息を呑み、叫んだ。

「ミナ、下がらないで!」


 ミナの瞳に、決して折れない光が宿っていた。


6.住人たちの連携


 リナの魔法が矢となって飛び、トルクが頭領の足元に仕掛けを放る。

 爆ぜる音と共に煙が立ち込め、敵は咳き込む。


 その隙に幽霊少女が声を響かせる。

「帰れ……ここは、私たちの居場所……!」


 恐怖に顔を引きつらせた盗賊たちが後退する。

 だが頭領だけは怯まず、斧を振り回して突き進んだ。


 ミナが受け止め、リオが背後から必死に抱きつく。

「お姉ちゃんをいじめないで!」


 スライムが跳び上がり、頭領の顔に張り付いた。

「うおっ!? な、なんだこれ!」


 その一瞬の隙を逃さず、ミナが渾身の力で斬りつけた。

 頭領の腕から斧が落ち、地面に転がった。


7.勝利と静寂


 頭領が呻き声を上げ、部下たちに叫ぶ。

「撤退だ! こんな連中に手こずるとは!」


 盗賊たちは慌ただしく森へと逃げ去った。

 庭に残ったのは、荒れた土と倒れた松明、そして私たちの荒い息だけ。


 私は膝から力が抜け、地面に座り込んだ。

 ミナが剣を握ったまま空を仰ぎ、リオは泣きながら姉にしがみついている。

 リナは震える手で杖を下ろし、トルクは額の汗を拭った。

 スライムはぷるぷる震えながらも誇らしげに跳ね、幽霊少女は静かに微笑んでいた。


8.守れたもの


 私は皆を見回し、声を絞り出した。

「……ありがとう。みんなのおかげで、ここを守れた」


 リオが涙を拭いながら言う。

「わたし、怖かったけど……でも、もう逃げたくなかった」


 ミナが妹の頭を撫で、リナが静かに手を合わせる。

 トルクは短く笑い、スライムは「ぷに!」と鳴いた。


 幽霊少女は月のない空を見上げ、囁いた。

「これが、私たちの家……」


 胸の奥が熱くなる。

 恐怖も傷も残っている。

 けれど、確かに守り抜いたのだ。


9.夜明けの光


 東の空が白み始め、鳥の声が響いた。

 アパートの瓦屋根が朝日に照らされ、金色に輝く。


 私は深く息を吸い込み、静かに呟いた。

「この家は壊させない。これからも、ずっと」


 隣で笑う住人たちの姿は、疲れ果てているのに眩しかった。

 その姿こそが、私の誇りであり、守るべき日常だった。

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