第二話 幽霊少女との出会い
古びた二階建ての中を歩き回っていると、あちこちから軋む音がした。床板は踏むたびにみしみしと悲鳴をあげ、壁は長年の湿気で黒ずんでいる。
普通なら「不気味」と思うところだが、私には違った。
「床は補強すれば大丈夫そうだし……壁は塗り直しね。窓は換気すればまだ使えるかも」
頭の中で修繕計画を立てると、胸の奥がうずうずして楽しくなってくる。
そうして廊下の奥の部屋に入ったときだった。
ふわり、と白い光が浮かんでいた。
「……え?」
光は人の形をしていた。透き通るような姿の、十歳くらいの少女。
青白い顔でこちらを見つめ、か細い声を落とす。
「……ここは……わたしの……」
思わず私は雑巾を持ったまま固まった。
けれど、怖いよりも先に出てきた言葉は――
「ごめんね。勝手に入っちゃったわね」
少女は目をぱちぱちさせて、驚いたように口を開いた。
「こわく……ないの?」
「幽霊さん? 初めて見るけど、全然。だってあなた、ただ寂しそうに見えるだけだもの」
少女は一瞬言葉を失い、それから俯いた。
「ここ……誰も来てくれなかった。ずっと一人で……」
胸がちくりとした。
アパート暮らしをしていると、孤独そうな住人に声をかけることがある。「おはようございます」とか「お元気ですか」とか、ほんの一言。
それだけで少し表情が変わる人を、私は何度も見てきた。
だから――
「だったら、一緒に住めばいいじゃない。ここ、私が大家になるから」
少女はぽかんと口を開けた。
「……い、いっしょに?」
「そう。住人第一号ってわけ。家賃は……そうね、“笑顔”で払ってちょうだい」
次の瞬間、少女の顔に初めて色が灯った。
ふんわりと微笑んで、光が柔らかく部屋を照らす。
「……うん。わたし、ここにいる。これからは……ただいま、って言うね」
私は大きくうなずいた。
「いいわね。じゃあ、ようこそ――異世界大家荘へ」




