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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第十三話 盗賊団の影

1.不穏な風


 獣人姉妹――ミナとリオが入居してから、アパートは一層にぎやかになった。

 ミナは力仕事を率先して手伝い、壊れかけた屋根の修繕を一緒にしてくれるし、リオは花の世話が得意で、庭の一角に小さな畑を作り始めた。

 住人それぞれの得意分野が自然に形を成し、アパートは「ただの古い建物」から「共同で暮らす家」へと変わりつつあった。


 しかし、穏やかな日々は長く続かない。

 ある日の夕方、買い物帰りの私の前に、町の巡回兵が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「大家さん! ご注意ください。最近この辺りで盗賊団の目撃情報が相次いでいます」

「盗賊団?」

「はい。奴らは町の外れに根を張り、行商人や旅人を狙っていると……。町にも忍び込んでいるかもしれません」


 胸に冷たいものが走る。

 ミナとリオの事情を思い出した。まさか――。


2.不安を隠す姉妹


 アパートに戻ると、姉妹は夕食の準備を手伝っていた。

 ミナは包丁を握り、リオは静かに野菜を洗っている。

 一見いつも通りだが、私は見逃さなかった。二人の耳が微かに震え、緊張を隠しきれていない。


「……町の兵士から聞いたの。盗賊団が近くにいるって」

 私が切り出すと、ミナの手が止まり、リオが小さく息をのんだ。


「やっぱり……。ごめんなさい大家さん、私たちのせいだ」

 ミナの声は震えていた。

「商隊を襲った連中です。あいつら、きっと私たちを追ってきてる……」


 リオは包丁を持つ姉の手をぎゅっと握った。

「……わたし、こわい」


 私は大きく息を吸い、二人を見つめた。

「いい? ここはあなたたちの家よ。恐れる必要はない。だって――大家の私がいるんだから」


 言い切ると、リナが後ろからひょっこり顔を出した。

「幽霊の私もいるしね」

 スライムも「ぷに!」と膨らみ、トルクは腕を組んで頷く。


「盗賊が来るなら迎え撃つまで。大家さん、僕に策があります」


3.細工師の策


 トルクが提案したのは、アパートの敷地を丸ごと守る「防御の仕掛け」だった。

 木製の柱に刻んだ符と小さな機構を組み合わせ、侵入者が踏み込むと音を立て、閃光を放つ。いわば簡易の結界だ。


「人間相手に致命傷を与える必要はありません。ここは“家”ですから。けれど、威嚇と足止めなら十分可能です」


 私は深く頷いた。

「やりましょう。みんなの力で、ここを守るの」


 その夜から作業が始まった。

 ミナは力仕事で柱を運び、リオは小さな手で土を均す。リナは半透明の体で空を漂いながら周囲を警戒し、スライムは資材を運んだ。


 夜が更ける頃、仕掛けはほぼ完成していた。庭のあちこちに木柱が立ち、見えない網のようにアパートを包んでいる。


「これで最低限の備えはできました」

 トルクが汗を拭う。

「だが……問題は、奴らがいつ来るかだ」


4.忍び寄る影


 不安は的中した。

 翌日の夜、リオが「外に気配がする」と小さな声で訴えてきた。獣人の耳は人間より遥かに鋭い。


 私はすぐに住人全員を起こし、灯りを消した。

 外を覗くと、月明かりの下に複数の影が動いている。

 黒ずくめの男たち――盗賊団だ。


「……やはりここにいたか、獣人の小娘」

 低い声が響き、ミナが歯を食いしばる。


「リオ、下がってろ」

 彼女は妹を庇うように立った。


 だが、盗賊たちが踏み込んだ瞬間――仕掛けが発動した。

 閃光が走り、爆竹のような音が夜空に轟く。

 盗賊たちは目を押さえて叫んだ。


「な、なんだこれは!?」

「罠だ、退け!」


 私は玄関から飛び出した。

「ここは私のアパート! 勝手に荒らすことは許さない!」


 背後でリナが姿を揺らし、白い光を纏った。半透明の腕を広げると、風がうねり、盗賊たちを押し返した。

 スライムも巨大に膨れ、先頭の男に体当たりする。


 トルクは木製の小さな弩を構え、矢を地面に撃ち込んだ。そこから煙が立ちのぼり、さらに視界を奪う。


 盗賊団は完全に混乱していた。


5.姉妹の覚悟


 混乱の中、頭目らしき大男が現れた。

「チッ……やはりお前らか、獣人のガキども! 逃げ場はないぞ!」


 ミナは立ち向かおうとしたが、リオが袖を掴んだ。

「……姉ちゃん、わたしも戦う」

 いつも怯えていた彼女の目に、強い光が宿っていた。


「リオ……」

「ここはわたしたちの家だよ。もう逃げない」


 二人は背中を合わせ、盗賊団に立ち向かった。

 ミナの剣が閃き、リオの爪が空を裂く。

 大家の私も声を張り上げる。

「全員で守るのよ! ここは、私たちの居場所なんだから!」


 盗賊団は次々と倒れ、ついに頭目だけが残った。


6.決着


 頭目は狂ったように笑い、大剣を振り上げた。

「小娘どもがぁ!」


 しかしその瞬間、リナが背後に現れ、半透明の手で大剣を押さえた。

「……もうやめなさい」


 幽霊の冷気が剣を包み、金属がきしむ。

 隙を突いてミナが一閃、リオが爪で足を払う。

 大男は地面に叩きつけられ、動けなくなった。


 静寂が訪れる。

 盗賊団の残党は恐れをなし、闇の中へ逃げ去った。


7.夜明け


 夜が明けるころ、町の兵士たちが駆けつけ、捕らえた頭目を連行していった。

「大家さん、本当に感謝します。あなた方のおかげで、町の被害も未然に防げました」


 私は疲れた体で笑った。

「いえ、守ったのはただの我が家ですから」


 ミナとリオは並んで座り、互いの手を握り合っていた。

「……大家さん」ミナが口を開く。

「私たち、本当にここに来てよかった。あのとき出て行かなくてよかった」


 リオも小さく頷く。

「ここが、わたしたちの居場所」


 私は二人の頭を撫で、にっこり笑った。

「そうよ。ここは、みんなの家なんだから」

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