浜辺のピクニック
港町に滞在してから数日が経ち、すっかり仲間たちはこの町の空気に馴染んでいた。
朝、宿の窓を開けると潮の香りが風に乗って漂い、青空の下にはきらめく海が広がっている。
「今日は天気もいいし、外で食べようか」
大家の一言に、全員の顔がぱっと明るくなった。
「やった! ピクニックですね!」リオが飛び跳ねるように喜び、幽霊少女も「海でごはん!」と小さく拳を握る。
リナは少し微笑んで、「たまには悪くないな」と頷いた。
マリエは窓辺で歌を口ずさみながら、「海辺なら、波の音に合わせて演奏できるかも」と目を輝かせる。
こうして一行は、食料を詰めた籠を抱えて浜辺へ向かうことになった。
◆海辺への道
港を抜け、砂浜へ続く道を歩く。
通りには魚を干す漁師の姿があり、子どもたちは網を抱えて走り回っていた。
「ほら、海が見えてきた!」リオが指差すと、眼前に碧い水平線が広がった。
砂浜はきらきらと光り、波が白い泡を立てて寄せては返す。
「きれい……」幽霊少女が小さく呟く。
彼女にとって、こうしてみんなと一緒に海を眺める時間は、何よりも新鮮で尊いものだった。
◆広げられた布と籠
浜辺の岩陰に大きな布を敷き、籠を置く。
中には宿で用意したパンやチーズ、焼いた魚、果物、そして大家が今朝こっそり作った簡単な惣菜が詰められていた。
「おおっ! これは豪華だ!」リオが早速パンにチーズを挟み、勢いよくかぶりつく。
「はしたないぞ」リナが眉をひそめるが、口元には小さな笑みが浮かんでいた。
幽霊少女は果物を手にとり、嬉しそうに眺めた。
「きれいな色……」
「リンゴだ。食べてごらん」大家が言うと、彼女は一口かじる真似をする。果汁が唇に光のように浮かび、彼女は「甘い気がする!」と笑った。
「……気がする、か」リオが苦笑したが、その言葉が妙に胸に残った。
◆波打ち際の遊び
食後、みんなは自然に波打ち際へと駆けていった。
リオは靴を脱いで海に突っ込み、「冷たっ!」と叫ぶ。
リナは腕を組んで見守っていたが、幽霊少女に手を引かれ、仕方なく靴を脱いで波に触れる。
「……悪くない」
そう呟いた彼女の頬に、ほんのりと笑みが宿った。
マリエは流木を拾って即席の竪琴に仕立て、波の音に合わせて歌い始める。
その歌声は潮風に乗り、浜辺全体を柔らかく包み込んだ。
大家はその光景を眺めながら、穏やかな気持ちで砂に腰を下ろした。
「こんな日々が、ずっと続けばいいな……」
◆小さな宝探し
「貝殻見つけよう!」幽霊少女の提案に、一行は砂浜を探し回った。
リオは大きな巻貝を見つけ、「ほら! 耳に当てると波の音がするんだぞ!」と得意げに差し出す。
リナは小さな白い貝を拾い、「指輪みたいだな」とつぶやいた。
マリエは星形の貝殻を見つけ、嬉しそうに髪飾りに差し込んだ。
幽霊少女は透き通るような青い欠片を拾った。ガラスのように見えたそれは、長い年月をかけて角が丸くなった“シーグラス”だった。
「これ……光ってる」
「いいもの見つけたな」大家が微笑むと、彼女は宝物のように胸に抱いた。
◆夕暮れ
やがて夕日が沈み始め、空が茜色に染まっていく。
波は金色に輝き、砂浜に長い影を落とした。
「きれいだなあ……」リオが見惚れるように呟く。
リナも黙って空を見上げ、マリエは小さく歌を重ねる。
幽霊少女はシーグラスを光にかざし、目を細めていた。
大家はその背中を見ながら、静かに心に刻んだ。
――この瞬間を、絶対に忘れない。
◆宿への帰路
帰り道、リオは「次は海で泳ぎたい!」と意気込むが、リナに「溺れるぞ」と冷たく返される。
幽霊少女は籠の中の果物を抱えて、「明日も食べよう」と笑った。
マリエは静かに歌を口ずさみ、大家はみんなを見守りながら歩いた。
戦いのない日々。
だが、この何気ない一日こそが、最も尊い冒険なのだと、大家は思った。




