雨の日の読書会
◆朝の雨音
その朝、窓を打つ雨音で大家は目を覚ました。
いつもは潮風に混じって聞こえる鳥の声も、今日は雨にかき消されている。
外は白く煙るような雨景色。港の賑やかさも今日はどこか静まり返り、通りを行き交う人影は傘を差したわずかな数だけだった。
「今日は出かけられそうにないな」大家が呟くと、リオは布団の中から顔を出してにやりと笑う。
「なら、寝坊が許される日ってことだな!」
「だめです」リナがきっぱりと否定する。
幽霊少女は窓にぴったり張りついて、「雨、きれい」と楽しそうに外を眺めていた。
マリエは椅子に腰かけ、すでに分厚い本を開いている。
◆読書会の提案
「そうだ、今日は読書会にしよう」大家の提案に、みんなの視線が集まった。
「読書会?」リオは首を傾げる。
「同じ部屋でそれぞれ好きな本を読んで、時々感想を話し合うんだ」
「へえ……まあ、雨の日の過ごし方って感じだな」
「面白そう」幽霊少女が小さく手を挙げる。
「知識を蓄えるのは悪くない」リナも肯定する。
「静かな時間、歌に似ています」マリエは微笑んだ。
こうして、みんなで宿の共有スペースに集まり、積んであった本を持ち寄ることになった。
◆それぞれの一冊
机の上に並べられた本は実に様々だった。
リオが選んだのは冒険譚。怪物を相手に大立ち回りする勇者の話だ。
「やっぱこれだろ! 血が騒ぐ!」
「雨の日に騒がなくていい」リナが即座に釘を刺す。
リナが手に取ったのは歴史書。戦の記録や古代の剣術について書かれている。
「武の道を歩む者として、知識は糧だ」
「難しい本だな……」大家は苦笑する。
幽霊少女が抱えてきたのは絵本だった。
「これ、かわいい絵がいっぱい」
「いいじゃないか」大家は優しく頷く。
そしてマリエは音楽理論の本を手にしていた。
「この本には、失われた旋律について書かれているのです」
その言葉に場の空気が少し静まり、みんなが耳を傾けた。
◆読書の時間
やがてそれぞれのページをめくる音が部屋に満ち、外の雨音と混ざり合った。
ぱらり、ぱらり。しとしと。
その静かな響きが、不思議な心地よさを生み出す。
リオは興奮した様子で本を読み進め、時々声をあげる。
「おい! ここで勇者が敵を斬ったんだぞ!」
「静かに」リナが眉をひそめる。
リナは逆に没頭しすぎて、顔がどんどん険しくなっていった。
「……この戦術は愚策だ」
「いや、感想を言うときは柔らかくな」大家が苦笑する。
幽霊少女は絵本を指差し、「この動物、リオに似てる!」と笑う。
「どれどれ……って、おい! 俺はこんな丸っこくねえ!」
「似てる」リナが即答し、場が和んだ。
マリエは本から目を上げて、「この旋律、きっと歌える気がします」と小声で呟き、鼻歌を紡いだ。
雨音に重なるその旋律は、まるで外の世界を包み込むかのように柔らかかった。
◆お茶の時間
「読んでたら腹減ったな」リオがぼやくと、大家は立ち上がった。
「じゃあ、お茶にしよう」
台所で温かいハーブティーを淹れ、簡単な焼き菓子を並べる。
湯気の立つカップを前に、みんなが一息ついた。
「うまいなあ……雨の日にぴったりだ」リオが感嘆する。
「体が温まる」リナも珍しく表情を和らげた。
幽霊少女は焼き菓子を眺め、「甘い匂い……」と目を細める。
マリエは「香りも音楽に似ています」と呟き、カップを両手で包んだ。
◆感想の時間
お茶を飲みながら、それぞれの本の感想を話すことになった。
リオは冒険譚について、「やっぱり仲間と一緒に戦うって最高だよな!」と熱弁。
「まあ、お前らと一緒に旅したほうが何倍も楽しいけどな!」と付け加え、場を笑わせた。
リナは歴史書について、「過去の戦から学べることは多い」と真剣に語った。
「だが、同じ過ちを繰り返さぬためには……日常もまた大切だと感じた」
その言葉に大家は心の中で強く頷いた。
幽霊少女は絵本を抱えて、「みんなで笑ってるのがいい」と感想を述べた。
「わたしも、こんなふうに……ずっと一緒にいたい」
その言葉に場が静まり、誰もが自然と微笑んだ。
マリエは音楽の本から得た旋律を小さく歌い、みんなの心を癒やした。
「雨の中で生まれる音……それは静けさの歌」
◆夕暮れ
雨は夕方になっても止まず、窓の外は薄暗いままだった。
けれど宿の中は、温かい灯りと笑い声に満ちていた。
大家は湯気の立つカップを片付けながら、ふと心の中で思った。
――戦いのない日々。こうして雨音を聞きながら、本を読み、仲間と語らう時間。
これこそが、本当に守りたかった世界なのだと。




