第一話 気がつけば、ここはどこ?
朝起きたら、私は知らない道に立っていた。
昨日まで確かに、私はアパートの通路で電球を替えていたはずだ。なのに、気がつけば空は澄んだ青で、頭上を見上げれば、翼を広げた何かが悠々と飛んでいる。あれは……竜?
「えぇ……夢じゃないわよね……」
足元に広がる石畳の道をそろりと踏みしめる。固い感触。どうやら現実らしい。
周りを見渡せば、人々が行き交っていた。腰に剣を下げた男、耳が長い女性、背中に荷物を背負った子供たち。
まるでファンタジーの世界そのもの。
私は思わずため息をつく。
「……どう見ても異世界よね、これ」
けれど、慌てる気持ちはなかった。私は大家だ。トラブル対応には慣れている。
深夜に「隣がうるさい」と怒鳴り込まれることもあったし、真夏に水道管が破裂して呼び出されたこともある。そう思えば、「異世界に飛ばされました」くらい、大したことない……のかもしれない。
とりあえず住む場所を探そうと歩き出すと、町外れに一軒の建物があった。
古びた二階建て。屋根瓦は欠け、窓枠は錆び、入口には「立入禁止」と書かれた板。
でも、私はピンときた。
「――ここ、いいわね」
錆びた鍵を回すと、ぎい、と音を立てて扉が開いた。
薄暗い廊下に埃が舞い、床板はところどころ抜けかけている。
普通なら誰も寄りつかないだろう。だが、私の胸はわくわくしていた。
なぜなら――
「これ、リフォームのしがいがあるじゃない!」
私は思わず笑った。
異世界に来ても、大家は大家。
ボロ屋を見れば、直して住ませてあげたくなる。
ここから、私の新しい日常が始まる。
1日目は1時間毎に投稿予定です。
2日目は夕方以降に1話づつ投稿予定です。




