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第3部 第14話

「うまい!!」

「美味しいー!!」


夕方の職員室に続き、本城先生の家でも私と森田は仲良く合唱した。

もっとも、家の主はまだお仕事中だけど。


「すごい!何これ!?これが牛タン!?」

「な?仙台の牛タンは美味いだろ?」

「うん、美味い!って、森田が自慢するな。和歌さん、ありがとう!」


細くていかにも小食です、という見た目に反して、

私と森田に負けず劣らずモリモリと牛タンを食べている和歌さんが(本当に焼肉好きらしい)、

一旦手と口を止めて微笑む。


今日の和歌さんは、部屋着なのか柔らかそうな紺の布ワンピだ。

大人っぽい人だと思ってたけど、こういう格好だと、随分若く見える。

せいぜい二十歳くらいだ。


「私ももらい物だから。遠慮なく食べてね。先生はまだ遅くなりそうだった?」

「はい」


私が邪魔しましたから。


「それじゃ、全部食べちゃっていいわよ」

「いいんですか!?」

「ラッキー!」

「あ、タン刺しもあるけど、食べる?」

「おお!食べる、食べる!」

「タン刺し!?何それ!?食べたいです!」


私と森田に遠慮と言う言葉は存在しない。

牛タンの焼肉はもちろん、タン刺しや、その他和歌さんが作ってくれた料理を次々に平らげ、

「いただきます!」と言った40分後には、テーブルの上のお皿は綺麗になっていた。

危うくお皿まで食べそうな勢いだ。


「美味かったー。ごちそうさま」

「ごちそうさま、和歌さん!」

「ふふ、どういたしまして。さすがに現役高校生が2人もいると、凄い勢いね」


いや、和歌さんも負けてませんから。


森田は、テーブルを立つとソファーにポテッと引っくり返った。


「和歌さーん。今日、泊まっていい?」

「うん」


和歌さんの返事を待たず、森田はもう携帯でメールを打ち始めている。

親に打ってるんだろう。


「舞ちゃんも泊まる?」


え?本城先生の家に?森田と?

そ、それは、是非、泊まりたい・・・けど。


「帰ります。お兄ちゃんがうるさいんで」


お父さんよりお母さんより、何よりお兄ちゃんがうるさい。

とくに最近は。

森田が一緒だなんて知ったら、例え先生の家でも大目玉だろう。


「あ!そういえば、先生から聞いたんだけど、舞ちゃんてあの三浦君の妹さんって本当?」


「あの」って。

お兄ちゃん、高校時代なんかしでかしたのか。


「はい。三浦翔の妹です」

「すごい偶然ね。歩君が先生の生徒になっただけでも驚いたけど、

三浦君の妹さんまで同じクラスにいるなんて!」

「お兄ちゃんもビックリしてました。あ、もしかして、和歌さんてお兄ちゃんと結構仲良かったですか?」

「え?うん。どうして?」

「お兄ちゃんて、西田さんのこと好きだったって聞いたから」


和歌さんと西田さんは仲良しだもんね。

「あの」お兄ちゃんのことだ。

もしかしたら、和歌さんに近づいて西田さんとの接触を図ったかもしれない。

(なんか警察みたいだな)


和歌さんが「あれ」という顔になる。


「舞ちゃん、穂波のこと知ってるの?」


しまった!!


私は助けを求めて森田を見たけど・・・サル野郎め。

既に夢の中だ。


「あ、う、えっと・・・あ!ヒナちゃんから聞いたんです!」

「ヒナちゃん?」

「お兄ちゃんの彼女!飯島雛子ちゃんです」

「ああ!飯島さん!」


とたんに和歌さんの顔がほころぶ。

お陰でそこからは、話がお兄ちゃんとヒナちゃんのことに逸れて行った。


ああ・・・助かった。



「じゃあ、ずっと付き合ってるのね?」

「はい。ラブラブです。でもお兄ちゃんはプロポーズを断られて若干凹んでます」

「ええ?あはは、そうなの?」

「お兄ちゃんはまだ学生だし、

ヒナちゃんも次の春から職場を変えて一から頑張るって決めたみたいだから、

あの2人はまだまだ結婚できそうにありませんねー」

「一番最初に結婚しそうだったのに。わからないものね」


その時、玄関の扉が開く音がした。


「うわー!なんだ、これ!焼肉くさっ!!」

「あ」


和歌さんはいたずらっ子のようにちょっと舌を出して、廊下へ出て行った。


何やら「働く旦那をほっといて、焼肉かよ」「私も働いてるんですけど」「まあな。俺より給料いいし」

「そうですよ」「・・・。俺の分は?」「あります。少し」「・・・」

と、ラブラブ(?)な会話が寝室へと消えて行く。


私は笑いを噛み殺しながら、なんとなく立ち上がり、部屋を見渡してみる。


本当に豪華な部屋だし、多分家具も一緒に揃えたんだろう、

うちの家具とはお値段が一桁くらい違いそうだ。


でも、それでいて何故か居心地がいい。

来る者を拒まない雰囲気ってゆーか、温かみがあるってゆーか。

先生と和歌さんの人柄の成せる業だろう。


だから森田も、こうやって・・・


まるで我が家のようにソファで眠りこける森田を覗き込む。


ぷぷぷ。


ポカンと口開けて、本当に気持ち良さそうに寝ちゃってる。

見ていて、こっちまで幸せな気分になってくるような寝顔だ。


思わず携帯で写真を撮って、しっかり保護する。


それから、ソファの脇にかがんで、もう一度森田の寝顔を眺めた。


どちらかと言えば元々童顔の森田だけど、寝顔はますます子供っぽい。

なんか、かわいらしい。

まるで小学生みたいだ。


相変わらずだなあ・・・



ん?



私は首を傾げた。

相変わらず?

私、森田の寝顔って見たことあったっけ?


しばらく考えてみたけど、森田の寝顔なんて見た記憶がない。

それなのに、なんだろう、この懐かしい感じは・・・



そうだ!



私は手をポンっと打った。


「温泉で居眠りしてるサルと同じ顔だ!」

「お、さすが三浦。的確な表現だな」


ちょうど、着替えた先生がダイニングに入ってきた。


「先生!おかえりなさい!ごちそうさまでした!」

「・・・俺はご馳走した覚えはないけどな」

「先生、見て!このアホ面!温泉のサルそのもの!」

「ほんとだなー。サルよりサルっぽい」



先生は、和歌さんがかろうじて確保していた残りの牛タンを、

見ていて食欲がわくとも思えない森田の寝顔を眺めながら食べ始めた・・・




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