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第3部 第10話

「で、答えがこうなる」

「・・・」

「おーい、三浦!聞いてるか?」

「・・・」


森田は諦めたのか、ニヤニヤする私を無視して、自分の宿題へ関心を戻した。




お兄ちゃんってば、あんなこと考えてたんだ!

やるなあ!


でも私のニヤニヤの原因は、お兄ちゃんの就職先や、

ヒナちゃんの引き抜きに関してだけじゃない。


なんと、あの次の日、お兄ちゃんは正式にヒナちゃんにプロポーズしたらしい!

しかもヒナちゃんは、

「まだ、いいよ。三浦君が本当に結婚したくなったらしよう」と返事したのだ!!


どうやら、お兄ちゃんはヒナちゃんの浮気事件(誤解だけど)をきっかけに、

本気で結婚を考え出したようだ。

よほどヒナちゃんを手放したくないらしい。


桜子さんの病院の託児所にヒナちゃんを誘う件は前々から考えていて、

結婚とは直接関係はないらしいけど、

やっぱり、将来結婚しようと思ってるからこそ、誘おうなんて思ったんだろう。



以前のヒナちゃんなら、間違いなく泣いて喜んでプロポーズを受けたはずだ。

でも、今のお兄ちゃんは、結婚したいという気持ち半分・焦り半分、だということを

ヒナちゃんはきちんと分かっていて、「まだ、いい」と返事したのだ。


お兄ちゃんが本当にヒナちゃんと結婚したいと心から思える日まで、ヒナちゃんは待つと言う。


ヒナちゃんは、

「三浦君がお医者さんになるまでは、そんな日は来ないんじゃないかなあ」

と言っていたけど、その言葉の裏には、

「私はその日を楽しみに待っている。それまで私は私で頑張る」

と言う意思を感じられた。



お兄ちゃんが、希望を産婦人科に変えたのも、

ここのところヒナちゃんとのデートを減らしていたのも、

結婚や仕事に関することを、色々調べていたかららしい。



もー。

何よ。

私の心配を返してよ!



「ふふふ」

「・・・気持ち悪いぞ、三浦」

「男の人って、馬鹿よねぇ」

「なんだ?俺に喧嘩売ってんのか?」

「何言ってるの。森田は、男の人ってゆーより、オスでしょ」

「メスに言われたくないけどな」


やっぱり?



結婚祝いの方も、西田さんのお陰で一段落し、

今日は森田と学校に来て宿題をやってる(とゆーか、手伝わせてる)んだけど、

どーにもはかどらない。


これと言うのも、お兄ちゃんのせいだ!


「あ!森田!じゃなかった、サル!」

「・・・森田で間違ってないぞ」

「先生達が子供を作らないことって、みんなに言っといた方がいいんじゃないかな?」

「え?なんでだ?」


森田が机から顔を上げる。

私は、ヒナちゃんが心配していたことを告げた。


「ふーん。三浦の兄ちゃんの同級生はともかく、俺らの同級生には黙ってよーぜ」

「え、でも・・・」

「大丈夫だって」


何故か自信満々の森田。

って、何に自信があるのか。


でも、森田は先生と和歌さんのことなら何でも分かってるようだ。

森田が大丈夫って言うんだから、大丈夫なんだろう。


「ねえ。どうして先生達は結婚式しないんだろう」

「昔から先生は『結婚式の準備なんて面倒臭くってやってらんねー』って言ってたよ。

でもそれは多分、和歌さんの身体を気遣って、そう言ってるんだと思う」

「和歌さんの身体って、そんなに弱ってるの!?」


森田は、ゲラゲラ笑った。


「全然!すげー、元気だよ。なんも心配しなくていいのに、先生が勝手に心配してるんだ。

やっぱ昔、目の前で和歌さんが倒れるのを見てるから、怖いんだろ」

「・・・そうね」


あの豪快な先生でも臆病になることがあるんだ。

それだけ和歌さんのことが好きで、心配ってことなのかな。


もし、今私がここで倒れたら、森田はどうするだろう。

人並みには心配してくれるだろうけど、それは、

先生の和歌さんに対する心配や、

お兄ちゃんのヒナちゃんに対する心配とは、全くの別物だ。


逆に私はどうだろう?

絶対の絶対の絶対にありえないけど、もし森田が倒れたら、

先生が和歌さんを心配するように、心配できるかな?


自分が森田を好きだってことは認めざるをえないけど、

この気持ちがどこまで深いものなのか、正直自信ない。


万一、森田に子供ができないなんてことがあったら、

それでも私は「結婚したいくらい好き!」と胸を張って言えるだろうか。



「・・・ねえ、森田。森田って好きな女の子、いるんだよね?」

「な、なんだよ急に」

「その子のこと、どれくらい好き?その子が和歌さんみたいに倒れたら心配する?

その子が、子供できないとしても好きでいられる?」

「・・・」


森田は心底嫌そうに「はあ!?」と言う顔をする。


「なんで、そんなこと聞くんだよ」

「私、そこまで誰かを好きになれるのかなあ、と思って」

「・・・うるさい。そんな心配する前に、宿題が終わるかどうかを心配しろ!」


何故か森田が怒りだし、私の教科書をバンバンと叩いた。





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