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第3部 第9話

シュッシュッ!


「・・・舞。何、ファイティングポーズ取ってんだ」

「別に」



新宿からお兄ちゃんに呼び出されたホテルまで電車と徒歩で45分。

遠路はるばる来てやった。


が!!!!!


ラウンジのソファで、長くて綺麗な足を組んでいたのは、私が頭の中で描いていた美女そのものだった。

お兄ちゃんはと言えば、その横でまさに「しれっ」と座っている。


くそう。

なんて絵になる2人なんだ。



私とヒナちゃんは、2人の素人離れしたオーラにすっかりヤラれてしまった。


「お兄ちゃん。話の内容によっちゃあ、兄妹の縁切るからね!」

「おお。それは願ったり叶ったりだな」


・・・別の手を考えよう。


じゃあ、やっぱりコレか。


シュッシュッ!


「・・・ごめんな、桜子。変な妹で」

「ううん。ユニークで素敵な妹さんね」


そう言う笑顔にも全く嫌味がなく、見とれそうになる。


いかん、いかん。


私は、なんとか「桜子」さんの欠点を探そうと、全身をジロジロ見る。


上品なピンクベージュの巻き髪。

つけまつげやエクステではない、自然に長くボリュームのあるまつげ。

その下の魅力的な瞳。

筋の通った鼻に、魅惑的な唇。

透き通るような白い肌。

そして豊かな胸とくびれたウエスト。


か、完璧だ。


しかも「桜子」って。

どっかのご令嬢か?


「あ・・・もしかして、本竜桜子ほんりゅうさくらこさん?」

「あら。私のこと、ご存知?」


ヒナちゃんの質問に、桜子さんが頷く。


ほんりゅうさくらこ。

やっぱり、どこぞのご令嬢に違いない。


「なんだ、ヒナ。知り合いか?」

「ううん。大学で有名だったから。凄く綺麗な人が医学部にいるって」


お兄ちゃんとヒナちゃんの通う大学は、かなりマンモスな大学だ。

そこの文学部だったヒナちゃんが医学部の桜子さんを知っているくらいなのだから、

よっぽど有名なのに違いない。

こんな人をヒナちゃんに紹介したいだなんて、お兄ちゃん、何のつもりだろう。


私とヒナちゃんが顔を見合わせたとき、桜子さんが優雅な笑みを浮かべて言った。


「私、三浦君とこれからの人生を一緒に歩みたいと思ってるの」



は?



あまりに想像通り事が運ぶと、人間逆にあっけに取られるもんだ。


私は右アッパーも忘れて、唖然とした。

たぶん、私の横のヒナちゃんも同じ顔をしてると思う。


お兄ちゃんが焦る。


「桜子!誤解招くような言い方するなよ!ヒナはともかく、妹は凶暴だから!」


なぬ!?


「ふふ、ごめんなさい。私のこと、敵視してるみたいだから、ちょっとからかってみたくなっただけ。

でも、ある意味間違ってはないでしょ?」

「ま、まあな」


からかってみた?

ある意味間違ってない?


なんじゃ、そりゃ。



でも、一つだけ確かなことがある。

それは、お兄ちゃんがこの桜子さんには素を見せてると言うこと。

つまり、お兄ちゃんにとって心許せる人であるってことだ。


まあ、これからの人生を一緒に歩むんだったらそうだろう。


とっととどっかへ歩んで行ってしまえ。


「・・・三浦君」

「ヒナ。ごめんな、誤解するなよ?」

「うん・・・」


ヒナちゃんが小さくため息をつく。

落ち込んでるというより、自分を落ち着かせるためのようだ。


「さあ、三浦君。どう説明しましょうか?」

「そうだな・・・。ヒナ、俺さ、この桜子と将来一緒に働こうと思ってるんだ」

「え?」


私とヒナちゃんが一緒に声を上げる。


桜子さんが、鞄からパンフレットらしき物を取り出し、私とヒナちゃんの前に置いた。

そこには可愛らしい文字で「マミーホスピタル」と書かれてある。


「マミーホスピタル?」

「ここ、桜子のお父さんがやってる病院なんだ」

「へ??」


お兄ちゃんの説明によると。


桜子さんのお父さんがやっているこの「マミーホスピタル」は、

産婦人科と小児科がある病院で、桜子さんのお父さんは院長であり小児科の代表者でもある。

産婦人科の方の代表は別のお医者さんがやっているらしい。

で、桜子さんは、小児科のお医者さんになり、この病院を継ぐ予定、なのだとか。



「じゃあ、お兄ちゃんはここで産婦人科の先生をやるの?」

「ああ。前に一度見学させてもらったことがあって、その時から気に入ってたんだ」

「・・・ふーん」


そういうことか。

それで「これからの人生を一緒に歩む」なんて言い方をしたわけね?


「それで、ヒナにお願いがあるんだ」

「私に?」


そこからは桜子さんが引き継いだ。


「飯島さんって保育園の先生なのよね?」

「はい」

「うちの病院内に、近々託児所を作る予定なの。母親が診察の時とかに、子供を預かる為にね。

それで、もしよければ、飯島さんにそこで保母さんをやって欲しいの」

「え?保母さん?私が?」


ヒナちゃんはかなりビックリしている様子だ。

まさかこんな話だとは思いもしなかったんだろう。


もちろん私もだ。


「2人目の出産のために診察に来ているお母さんって、たいてい上の子供も連れてくるのよね。

でも、待ち時間とか診察時間とか、子供は大人しくしてられないし、お母さんも妊娠中なのに、

ゆっくりできないし。分娩中も、誰かが上の子を見ておかないといけないじゃない?」


ヒナちゃんが頷く。


「小児科の方も、例えば子供が2人いて、1人が風邪を引いて診察してる時に、

もう1人を託児所に預けられれば、風邪が移る心配もないし」


桜子さんがパンフレットを開く。

その真ん中辺りに「来春、託児所開設予定」の文字が大きく出ている。


「三浦君にこの話をしたら、『彼女が保育士やってる』って教えてくれて。どうかしら?」

「どうって・・・でも、今の保育園は辞めないといけないのよね?」

「それはそうね。もちろん強制はしないわ。飯島さんが、やってもいいと思ってくれるなら、

是非来て欲しいの。それに、」


桜子さんが笑顔でチラッとお兄ちゃんを見た。


「飯島さん、いずれ三浦君と結婚するんでしょ?2人が同じ病院で働いていたら、何かと便利だと思うけど」






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