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第3部 第5話

「西田さん?」


電話の向こうで、ヒナちゃんが意外そうな声を出す。


「知ってる?」

「もちろん。3年生の時、同じクラスだったし。

あ、三浦君と私と月島さんと西田さん、みんな3年5組で本城先生のクラスだったの」

「そうなんだ」


ヒナちゃんが少し笑った。


「いきなり西田さんの名前出されたら、そりゃ三浦君は挙動不審になるわよ」

「どうして?」

「三浦君、1年の時、西田さんに片思いしてたから」

「お、お兄ちゃんが片思い!?」


今すぐ隣のお兄ちゃんの部屋へ飛んで行って、お兄ちゃんをおちょくりたい衝動に駆られたけど、

なんとか思いとどまる。


「それで!?2人は付き合ってたの!?」

「ううん。結局三浦君は振られちゃったの」


うわー!

お兄ちゃんにそんな過去があったなんて!!


私は足をバタバタさせた。


凄い弱味を握った!

これでしばらくは、デカイ顔させないぞ!


「で、仕方なく私と付き合ってくれたの」

「・・・仕方なく?」


あんなにヒナちゃんに惚れてるのに?


まあ、ヒナちゃんの鈍さはチンパンジー並だ。

いや、そんなこと言ったらチンパンジーが怒るかな。


お兄ちゃんが西田さんのことを好きだったのは本当だろうけど、

ヒナちゃんと「仕方なく」付き合ったのかどうかは大いに疑問が残る。


「そっかー。それでお兄ちゃん、私がヒナちゃんに西田さんの連絡先を聞くって言ったら、焦ったんだ」

「うん。・・・ねえ」

「ん?」


ヒナちゃんが一拍置いて、言う。


「私が西田さんに連絡取ってみようか?」

「え?」

「私も高校の時の携帯しか知らないけど、愛実ちゃん・・・西田さんと仲が良い子となら連絡取れるから、

聞いてみる。で、私が西田さんに連絡してみるわ。西田さんも、いくら三浦君の妹とは言え、

見ず知らずの人からいきなり『会いたいです』って言われてもびっくりするだろうし」

「あ、それもそうか」


森田から色々聞いたから、勝手に西田さんのこと知ってるつもりになってたけど、

西田さんは私のことなんか全然知らないんだもんね。


私がヒナちゃんに「じゃあ、お願いするね」と言うと、

ヒナちゃんは「代わりにお願いがあるんだけど」と言い出した。


「私も一緒に、西田さんに会いに行きたいの」

「もちろんいいよ!むしろ、こっちがお願いしたいくらい!」

「ありがとう。じゃあ、西田さんと日程決めたら連絡するね。

舞ちゃんは都合いい日とか悪い日、ある?」

「ない。万年暇人だから」

「ふふ。あ、三浦君には内緒にしててね。じゃあ」

「うん。ありがと!よろしくね!バイバイ!」


ラッキー!

ヒナちゃんも一緒なら百人力・・・かどうかはわからないけど、

1人より遥かに心強い!



私はいい気になった勢いで、ここのところ避けていた番号に電話してみることにした。


「あ、サル?」

「どうした、チンパンジー」


いつも通りのサルサルした声が聞こえる。


「聞いて!今度、西田穂波さんに会いに行くことになった!」

「え?あの三浦並に変な女?」

「そうそう、って、おい」

「あはは」


笑い声・・・

よかった、元気みたいだ。

心配して損した。


「あとね、お兄ちゃんの同級生達、お盆に会うらしくって、その時お金集めてくれるって」

「そっか。んじゃ、実際の支払いはその後になるな」

「うん。ねえ、いつプレゼントするの?」

「9月12日が和歌さんの24歳の誕生日で、その日の午前中に入籍するんだって。

日曜で学校も休みだからな。その後にしよう」

「楽しみー!」

「うん。・・・なあ、三浦」


森田の声から笑いが消えた。


私も思わず緊張する。

もしかして、まだキティちゃんのこと気にしてるのかな?

本当にもういいのに。


よし、先を制してやろう。


「何?デートのお誘いならお断りよ」

「はあ?」


一気にお互いの緊張が解ける。


「そーか。せっかく誘ってやろうと思ったのに」


え?


「宿題」

「うわー!一緒にやらせていただきます!」

「どこまでやった?」

「全然」

「・・・マジで?」

「マジで」

「・・・」


おおお!これまたラッキーだ!!!



森田のため息もなんのその、ますますいい気になった私は、

電話を切った後、更なる名案を思いついた。


「やっぱ、予習ってのは大事よね。うんうん、私って偉いじゃん」

と、宿題を全くしてないことを棚に上げ、1人でブツブツ言いながらリビングにおいてある本棚へ。


一番下の段に、お兄ちゃんと私の生まれた時からのアルバムがずらっと並んでいる。

それと一緒に、卒業アルバムも。


お兄ちゃんの高校の卒業アルバムを取り出す。


西田穂波さんに会うからには、やっぱ顔ぐらい知っておかないとねー、

と言いつつ、実は昔の先生や和歌さんを見たいだけだったりもする。



少し色褪せた分厚いアルバム。

独特の香りがする。


カバーをそっと取って、早速3年5組のページを探す。



「うわ!本城先生、全然変わってない!」


左上に一番大きく写っているのは本城先生の笑顔。

この時は確か24歳だから、今より6歳も若いはずなのに、

本当に変わってない。

髪が今より少し短いくらいだ。


うーん。こうやって写真で見ると、ほんと、モデルみたい。

教師にしておくのはもったいない。



先生の写真の下に、3年5組全員の顔写真が載っている。


ぱっと目についたのは、やっぱりお兄ちゃん。

他の男子生徒と比べて断然かっこいいもん。


次に見つけたのはヒナちゃん。

ぷぷ。

ヒナちゃんも変わってない。


そして・・・


「あ!和歌さん!」


女子生徒の中で、明らかに1人だけ雰囲気が違う。

化粧もしてないのに綺麗で大人っぽくって、和歌さんの写真だけ浮き上がって見えるようだ。


でも、先生やヒナちゃんと違って、今より遥かに幼い。

今は本当に「大人」って感じだけど、この頃はまだ「大人っぽい」だ。


へー・・・

こんなんだったんだ。

先生は、この和歌さんを好きになったんだ。

うんうん、分かるよ、先生。

こんな人が教室にいたら、目を引くよね。




私はこの後、「あ、この人かわいい!」とか「あ!この人、お兄ちゃんの友達だ!」とか、

1人で盛り上がり、結局本来の目的を果たす前にお兄ちゃんに、「何やってる!!!」と、

アルバムを取り上げられてしまったのだった・・・





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